LNCrawler

「美咲さんに再び誤送信した僕と、さくらさんから届いた秘密のデートプラン」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「美咲さんに再び誤送信した僕と、さくらさんから届いた秘密のデートプラン」

第一話 もう二度と間違えないと誓ったのに

午前九時。

あなたは専務室で、いつものようにパソコンを操作していた。

先日、美咲さんの昇格について人事の美月さんと相談し、正社員への昇格を決めたばかりだ。

そして、もう一つ。

あなたは、さくらさんに送るつもりだったメールに、うっかり「恋人用」と書いてしまったという、とんでもない失敗を経験していた。

あなた「……もう二度と、あんな間違いはしない」

あなたは真剣な顔で、自分に言い聞かせた。

あなた「宛先を確認して、件名を確認して、本文を確認する。三回確認すれば大丈夫だ」

そう。今日こそは完璧に仕事をするのだ。

あなたは新しく昇格した美咲さんに、今後の業務についての連絡を送ることにした。

あなた「よし。美咲さん宛て。件名は『今後の業務について』……本文も問題なし」

送信ボタンを押す。

あなた「よし!」

その瞬間だった。

ピロンッ。

美咲さんから返信が届いた。

美咲『専務、お疲れさまです。メールを確認しました』

あなた「うん、問題ないな」

美咲『ところで専務……今回のメール、最後に妙な文章が付いているのですが』

あなた「…………え?」

あなたは凍りついた。

慌てて送信済みメールを開く。

そこには、業務連絡の最後に、こんな一文が付いていた。

『今度の休日、二人でゆっくり過ごせたら嬉しいです。あなたと一緒なら、どこへ行っても楽しいと思います』

あなた「…………」

あなた「な、なんでだあああああっ!?」

実は、あなたは前日の夜、休日の過ごし方を考えながらメモを書いていた。

仕事のメールの下書きと、個人的なメモ。

それを間違えて一つにまとめてしまっていたのである。

あなた「違うんです! 美咲さん! これは、その……!」

美咲『……専務』

あなた「は、はいっ!」

美咲『私、正社員になったばかりなのですが……もう専務と休日を一緒に過ごすお誘いを受けてしまうんですか?』

あなた「違います! そういう意味ではありません!」

美咲『ふふっ。冗談ですよ』

あなた「た、助かった……」

しかし、美咲さんの次の言葉に、あなたは再び固まった。

美咲『でも……もし本当にお誘いだったら、少し嬉しかったかもしれません』

あなた「…………え?」

美咲『それでは、仕事に戻りますね。失礼します』

通信が切れた。

あなたは椅子の背もたれに、ゆっくりともたれかかった。

あなた「……今日、もう帰りたい」

もちろん、まだ午前九時十五分である。

第二話 美咲さん、妙に優しい

午前十時。

あなたが廊下を歩いていると、美咲さんとばったり出会った。

美咲「あ、専務。お疲れさまです」

あなた「お、お疲れさまです……」

美咲「先ほどのメール、本当に気にしないでくださいね」

あなた「ありがとうございます……」

美咲「それに、専務が普段から社員のことをよく考えてくださっているのは知っていますから」

あなた「……美咲さん」

美咲「ただし!」

あなた「は、はいっ!?」

美咲さんは、いたずらっぽく笑った。

美咲「次にメールを送るときは、ちゃんと宛先を確認してくださいね?」

あなた「はい……本当に申し訳ありません……」

美咲「ふふっ。では、失礼します」

去っていく美咲さん。

あなたは、その背中を見送りながら小さく呟いた。

あなた「……美咲さん、最近、妙に優しくないか?」

以前から親切な人ではあった。

しかし、最近はあなたを見ると少し笑顔が増えた気がする。

あなた「いやいや、気のせいだ。昇格したばかりだから、きっと機嫌がいいんだ」

そう結論づけて、あなたは専務室へ戻った。

ところが。

廊下の曲がり角では、美咲さんが壁に手をつき、真っ赤な顔で立ち止まっていた。

美咲「……休日に、二人で……」

美咲「……だ、だめだめ! 仕事中なんだから!」

彼女は頬を両手で押さえた。

美咲「……でも、ちょっとだけ想像しちゃったじゃないですか……」

そして、誰も見ていないことを確認すると、そっと笑った。

第三話 教育係からのメール

昼休み。

あなたは専務室で昼食を済ませ、午後の予定を整理していた。

あなた「さて、午後は会議の資料を確認して……」

ピロンッ。

新着メールが届いた。

差出人は、さくらさん。

あなた「さくらさんから?」

あなたの心臓が、ドクンと跳ねた。

さくらさんは、あなたの教育係だった女性だ。

今では仕事上の大切なパートナーでもある。

そして、あなたが誰にも知られたくない気持ちを抱いている相手でもあった。

あなた「……まさか、さっきの誤送信が伝わったのか?」

恐る恐るメールを開く。

件名。

『休日の予定について』

あなた「……休日?」

本文を読み始めたあなたは、目を見開いた。

そこには、丁寧にまとめられた休日のプランが書かれていた。

* 午前十時、駅前で待ち合わせ。

* 静かなカフェでランチ。

* 午後は本屋と雑貨店を見て回る。

* 疲れたら公園のベンチで休憩。

* 最後に、夕暮れの庭園を散歩する。

さらに、その下にはこんな一文があった。

『あなたが普段、忙しく働いていらっしゃるので、たまにはゆっくり休んでいただけたらと思い、考えてみました』

あなた「…………」

あなた「………………えっ?」

最後まで読んだあなたは、顔が熱くなるのを感じた。

あなた「ま、待ってくれ……!」

あなた「これって……デートプランじゃないのか!?」

もちろん、メールには仕事の予定についての説明など、一切なかった。

あなたは何度も差出人を確認した。

間違いなく、さくらさんだ。

あなた「さくらさんが……僕と休日を過ごす計画を……?」

ドクン。

あなた「いやいやいや! 落ち着け! これはきっと、社員の休暇についての相談か何かだ!」

しかし、メールの最後に書かれた言葉が、あなたの思考を停止させた。

『もしご都合がよろしければ、ご一緒できたら嬉しいです』

あなた「…………」

あなた「……無理だ」

あなた「こんなの、平常心で仕事できるわけがない……!」

そのとき。

ピロンッ。

さくらさんから、もう一通メールが届いた。

『申し訳ありません。先ほどのメールは送信先を間違えてしまいました。どうか忘れてください』

あなた「…………」

あなた「……あっ」

どうやら、さくらさんも誤送信をしてしまったらしい。

あなた「……そ、そうだよな! 間違いだよな!」

あなたは胸を押さえた。

なぜか、少しだけ残念だった。

あなた「……いや、残念がるな! 僕は何を考えているんだ!」

第四話 さくらさん、顔が真っ赤です

午後一時。

あなたが廊下を歩いていると、向こうからさくらさんがやってきた。

さくら「お疲れさまです、専務」

あなた「お、お疲れさまです! さくらさん!」

さくら「……あの」

あなた「は、はいっ!」

さくらさんは、いつもより少しだけ視線を泳がせていた。

さくら「先ほどのメールなのですが……」

あなた「は、はい! 見ました!」

さくら「……っ!」

さくらさんの顔が、みるみる赤くなった。

さくら「そ、そうですか……」

あなた「ええと……素敵なプランだと思いました!」

さくら「す、素敵……?」

あなた「あっ!」

しまった。

思わず本音が出てしまった。

あなた「い、いえ! その、休日の計画として、とてもよく考えられているという意味です!」

さくら「……そう、ですか」

さくらさんは一度うつむき、それから小さく息を吐いた。

さくら「……実は、あれは私が個人的に考えていたものなんです」

あなた「こ、個人的に?」

さくら「はい。最近、専務は少し働きすぎですから。たまにはお休みの日に、ゆっくり過ごしていただけたらと思って……」

あなた「…………」

さくら「……ですが、送信先を間違えてしまいました。お恥ずかしい限りです」

あなた「い、いえ! 僕は嬉しかったです!」

さくら「…………え?」

あなた「…………あ」

まただ。

また、本音を口にしてしまった。

あなた「ち、違います! 気にかけていただけて、仕事のパートナーとして嬉しいという意味で!」

さくら「……仕事の、パートナーとして……」

さくらさんは、なぜか少しだけ残念そうな顔をした。

けれど、すぐにいつもの微笑みに戻る。

さくら「……ふふっ。そういうことにしておきますね」

あなた「えっ?」

さくら「それでは、午後のお仕事も頑張りましょう」

そう言って立ち去ろうとしたさくらさんだったが、数歩進んだところで、ぴたりと止まった。

さくら「……あの、専務」

あなた「はい?」

さくら「もし……もしもですよ?」

あなた「は、はい」

さくら「先ほどの予定が、間違いではなかったとしたら……ご一緒していただけましたか?」

あなた「…………」

あなたの頭が真っ白になった。

心臓がドクン、ドクンと音を立てる。

あなた「そ、それは……」

さくらさんは、あなたの返事を待っている。

あなた「……よ、喜んで!」

言ってしまった。

言ってしまったのである。

さくら「…………!」

今度は、さくらさんが固まった。

あなた「…………あ」

さくら「……そ、そうですか」

あなた「い、今のは、その……!」

さくら「……ふふっ」

さくらさんは口元を手で隠した。

さくら「……では、いつか……間違いではない予定として、お送りするかもしれませんね」

あなた「…………ええっ!?」

さくら「失礼いたします」

さくらさんは、足早に去っていった。

その耳が真っ赤だったことに、あなたは気づいてしまった。

あなた「…………」

あなた「……今日、心臓がもたない」

第五話 美咲さんとさくらさんの秘密会議

その日の夕方。

あなたが会議に出席している間、給湯室では美咲さんとさくらさんが顔を合わせていた。

美咲「……さくらさん」

さくら「……美咲さん」

二人は、しばらく見つめ合った。

美咲「もしかして……専務に、何かメールを送りました?」

さくら「…………」

美咲「……私、今日、専務から少し不思議なメールをいただきまして」

さくら「…………!」

美咲「休日に二人で過ごせたら嬉しい、と……」

さくら「……っ!」

美咲「さくらさんは?」

さくらさんは、顔を真っ赤にしながら、小さく答えた。

さくら「……休日の予定を、送ってしまいました」

美咲「…………」

さくら「……デートのような予定を」

美咲「…………!」

今度は美咲さんが固まった。

美咲「……さくらさんも、ですか?」

さくら「……はい」

美咲「…………」

さくら「…………」

二人は同時に顔を覆った。

美咲「……どうしましょう。私、専務のことを意識してしまいそうです……」

さくら「……私もです」

美咲「……専務って、どうしてあんなに無自覚なんでしょう」

さくら「……本当に、そうですね」

二人は深いため息をついた。

しかし、美咲さんはふと顔を上げた。

美咲「……でも、さくらさん」

さくら「はい?」

美咲「もし専務が、私たちの気持ちに気づいていないのだとしたら……」

さくら「…………」

美咲「……もう少しだけ、そばにいてもいいですよね?」

さくらさんは、少し驚いたあと、優しく微笑んだ。

さくら「……ええ。もちろんです」

二人は、互いに少し照れくさそうに笑った。

ただし。

美咲「……でも、次に専務から誤送信が来たら、今度こそ心の準備ができません」

さくら「……私も、次に送るときは絶対に宛先を確認します」

美咲「……本当に?」

さくら「…………三回は確認します」

美咲「ふふっ」

二人の笑い声が、給湯室に響いた。

最終話 専務室に届いた三通目

午後六時。

あなたは、今日の仕事を終えようとしていた。

あなた「……今日は本当に大変だった」

美咲さんへの誤送信。

さくらさんからのデートプラン。

そして、さくらさんに思わず「喜んで」と答えてしまったこと。

あなた「……明日からは、メールを送る前に五回確認しよう」

そのとき、パソコンが鳴った。

ピロンッ。

あなた「…………」

恐る恐る画面を見る。

差出人は、さくらさん。

件名は――

『先ほどの件について』

あなた「……また!?」

あなたは慎重にメールを開いた。

そこには、短い文章が書かれていた。

『先ほどの休日の予定ですが、もし本当にご一緒していただけるのでしたら、改めてお誘いしてもよろしいでしょうか?』

あなた「…………」

あなた「………………」

あなたは、しばらく画面を見つめた。

そして、ゆっくりと返信を書き始めた。

『もちろんです。僕も、さくらさんと一緒に過ごせたら嬉しいです』

送信ボタンの上で、指が止まる。

あなた「…………いや、待て」

あなた「これは……本当に送っていいのか?」

五秒。

十秒。

三十秒。

あなた「…………ええい!」

送信。

あなた「……送ってしまった」

直後。

ピロンッ。

返信が届いた。

『ありがとうございます。……楽しみにしていますね』

その文章の最後には、小さな笑顔の絵文字が添えられていた。

あなた「…………」

あなたは椅子に座ったまま、顔を両手で覆った。

あなた「……明日、どんな顔をして会えばいいんだ……」

一方、その頃。

自分のデスクでメールを確認したさくらさんは、画面を見つめていた。

さくら「…………」

さくら「……本当に、一緒に……」

彼女はそっと頬に手を当てた。

そして、誰も見ていないことを確認すると、ほんの少しだけ笑った。

さくら「……楽しみです、専務」

その直後、さくらさんのスマートフォンに美咲さんからメッセージが届いた。

美咲『さくらさん、明日、専務に会ったらどうしますか?』

さくらさんは少し考えてから、返信した。

さくら『……いつも通りに接するつもりです』

美咲『本当に?』

さくら『…………努力します』

美咲『ふふっ。私もです』

二人は、別々の場所で同時に小さく笑った。

そして翌朝。

あなたは専務室で、さくらさんと美咲さんに挨拶をした。

あなた「お、おはようございます!」

さくら「おはようございます、専務」

美咲「おはようございます、専務」

あなた「…………」

さくら「…………」

美咲「…………」

三人の間に、微妙な沈黙が流れた。

あなた(……何か、二人とも妙に優しくないか?)

さくら(……昨日のメール、嬉しかったです……)

美咲(……専務、今日もかわいいところがあるな……)

あなた「……あの、何かありました?」

さくら「い、いえ! 何もありませんよ?」

美咲「そ、そうです! 何もありません!」

あなた「……そ、そうですか」

あなたが安心してパソコンに向かった、その瞬間。

さくらさんと美咲さんは、そっと顔を見合わせた。

そして、二人とも小さく微笑んだ。

――あなたの恋心が知られる日は、まだ少し先。

けれど、あなたの知らないところで。

二人の女性の恋心は、誤送信をきっかけに、ほんの少しだけ前へ進んでいたのだった。

そしてあなたは今日も、メールの宛先を五回確認することになる。

……なお、その日の午後。

あなたは間違えて、社長に『さくらさんとの休日プラン』を送信しかけた。

あなた「危なあああああいっ!!」

専務室に響く叫び声を聞いて、廊下にいたさくらさんと美咲さんは、思わず顔を見合わせた。

二人「……ふふっ」

今日も会社は、平和だった。