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「美咲さんのウインクと、さくらさんのアイコンタクトで気絶した午後」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「美咲さんのウインクと、さくらさんのアイコンタクトで気絶した午後」

朝、あなたはいつものように出社した。

パソコンを起動し、今日の業務予定を確認する。

「よし……今日は落ち着いて仕事をしよう。さくらさんのことを考えすぎない。自然体、自然体……」

そう小さく呟いたところで、隣の席にさくらさんがやってきた。

「おはようございます。今日もよろしくお願いしますね」

「お、おはようございます!」

(近い! 朝から声がかわいい! いや、落ち着け僕!)

さくらさんはにこっと微笑むと、自分の席に座った。

あなたは何事もなかったかのように画面へ視線を戻す。

今日こそ平穏な一日を過ごす。

そう、決意したのだった。

……少なくとも、午前中までは。

第一章 美咲さんの質問と、不意打ちのウインク

「すみません、ちょっと教えていただいてもいいですか?」

声をかけてきたのは、中途入社の美咲さんだった。

「もちろんです。どこが分からないですか?」

あなたは椅子を少し動かし、美咲さんのパソコン画面を確認する。

「ここの資料なんですけど、数字のまとめ方がまだよく分からなくて……」

「なるほど。ここは先に項目ごとに分けて、それから合計を出すと分かりやすいですよ」

「わあ……! そういうことだったんですね!」

あなたは手順を一つずつ説明した。

美咲さんは真剣な表情でメモを取り、ときどき「なるほど!」と頷いている。

「それで、最後にこの数字を確認すれば完成です」

「できました! ありがとうございます!」

「いえいえ。分からないことがあったら、いつでも聞いてください」

あなたが顔を上げた、その瞬間だった。

美咲さんと目が合った。

そして――。

パチッ!

美咲さんが、あなたに向かってウインクした。

「……え?」

一瞬、時間が止まった。

美咲さんはいたずらっぽく微笑んでいる。

「ふふっ。いつも丁寧に教えてくださるので、お礼です!」

「お、お礼……?」

「はい! それじゃあ、教えていただいたところを復習してきますね!」

美咲さんは軽やかな足取りで自分の席へ戻っていった。

残されたあなたは、しばらく動けなかった。

(今……ウインクした?)

(僕に?)

(いや、待て待て待て。お礼のウインクって何!?)

顔が熱い。

心臓が妙に忙しい。

ドクン、ドクン、ドクン。

あなたは両手で顔を覆った。

(落ち着け……美咲さんは仲良くしてくれているだけだ! そうだ、きっとそうだ!)

「……何をしているんですか?」

「うわあっ!?」

突然、後ろから声がした。

振り返ると、さくらさんが立っていた。

「だ、大丈夫です! ちょっと目が疲れただけです!」

「そうですか?」

さくらさんはあなたの顔をじっと見つめた。

「……ずいぶん赤いですね」

「き、気のせいです!」

「ふふっ。そういうことにしておきましょうか」

さくらさんは微笑み、自分の席へ戻っていった。

(危なかった……!)

あなたは胸を押さえた。

(美咲さんのウインクで動揺して、さくらさんにまで心配された……)

しかし、あなたはまだ知らなかった。

本当の試練は、午後に待ち受けていることを。

第二章 昼休み、庭での反省会

昼休み。

あなたは会社の庭にあるベンチに座っていた。

心地よい風が吹いている。

「……午前中、いろいろあったな」

あなたは手帳を開き、今日の振り返りを始めた。

『美咲さんに資料の作り方を教えた。理解してもらえてよかった』

『ただし、最後のウインクは予想外だった』

ペンが止まる。

「……かわいかったな」

ぽつりと呟いた。

「いやいやいや! 今のは違う! 笑顔が素敵だったという意味で!」

誰もいない庭で、あなたは一人で慌てる。

そして、ふと隣のベンチを見る。

誰もいない。

「……よし」

あなたは深呼吸した。

「午後は普通に仕事をする。美咲さんのウインクを思い出さない。さくらさんの顔を見ても慌てない」

完璧な計画だった。

ところが。

「何を思い出さないようにしているんですか?」

「うわあああっ!?」

またしても背後から声がした。

振り返ると、さくらさんが飲み物を持って立っていた。

「さ、さくらさん!? いつからそこに!?」

「今来たところです。ずいぶん楽しそうに反省会をしていらっしゃいましたね」

「き、聞こえていましたか!?」

「全部ではありませんよ?」

さくらさんは小さく笑い、あなたの隣に座った。

(隣!?)

(待って! どうして隣!? ベンチ、まだ空いているのに!?)

さくらさんは飲み物を一口飲んでから、あなたの手帳をちらりと見た。

「今日も振り返りをしているんですね。真面目でいらっしゃいます」

「い、いえ! 習慣ですから!」

「素敵な習慣だと思いますよ」

にこっ。

(あっ……)

胸がドクンと鳴った。

(さくらさん、今の笑顔……反則では?)

あなたは急いで手帳を閉じた。

「そ、それでは、午後も頑張ります!」

「あら。もう戻ってしまうんですか?」

「は、はい!」

「……残念です」

「えっ?」

「いえ、何でもありません」

さくらさんは少しだけ視線をそらした。

その横顔を見て、あなたは思った。

(今、残念って言った?)

(僕ともう少し話したかった……とか?)

(いやいやいや! 期待するな! 落ち着け!)

あなたは立ち上がり、逃げるようにオフィスへ戻った。

その背中を見送りながら、さくらさんは小さく呟いた。

「……本当に、かわいらしい反応をなさいますね」

その声は、あなたには届かなかった。

第三章 午後、始まるアイコンタクト攻撃

午後の業務が始まった。

あなたは資料をまとめ、メールを確認し、会議用の書類を準備していた。

順調だった。

美咲さんが近くを通りかかっても、もう動揺しない。

「先ほどはありがとうございました!」

「いえ、どういたしまして!」

笑顔で返せた。

(よし! 回復した!)

あなたは自分の成長を感じた。

そのときだった。

ふと、隣から視線を感じた。

……さくらさんだ。

あなたが顔を向けると、さくらさんと目が合った。

さくらさんは、にこっ。

あなたは慌てて画面に視線を戻した。

(い、今のは挨拶! ただの挨拶!)

数分後。

また視線を感じた。

ちらっ。

さくらさんがこちらを見ている。

目が合う。

にこっ。

(また!?)

あなたは書類に視線を落とした。

(仕事! 仕事に集中だ!)

さらに数分後。

今度は、さくらさんが頬杖をつきながらこちらを見ていた。

あなたが気づいた瞬間、さくらさんは少し首を傾げる。

そして、優しく微笑んだ。

(うっ……!)

ドクンッ!

あなたの心臓が大きく跳ねた。

(どうしてそんなに見てくるんですか!?)

(僕、何かしました!?)

(いや、何かしたとしたら好きになってしまったことくらいですけど!?)

もちろん、口には出せない。

あなたは必死にキーボードを打った。

カタカタカタカタカタッ!

「……ずいぶん入力がお速いですね」

「は、はい! 集中しています!」

「そうですか」

さくらさんは微笑んだ。

「では、こちらを見ていただけますか?」

「はい!」

あなたは反射的に顔を上げた。

そして。

目が合った。

さくらさんは、まるでタイミングを見計らっていたかのように、ぱちりと瞬きをした。

そのまま、あなたにだけ分かるくらいの小さな笑顔を向ける。

「……いつも頑張っていますね」

「…………」

(あ。)

(あ、これ……。)

(無理だ。)

ドクン。

ドクン、ドクン。

心臓が大暴走を始めた。

あなたは口を開こうとした。

「さ、さくら……」

「はい?」

「さくら……さん……」

「どうしました?」

「その……えっと……」

さくらさんは心配そうに顔を近づけた。

「本当に大丈夫ですか?」

その優しさが、最後の一撃だった。

「…………」

あなたの目から、すっと力が抜けた。

「……あれ?」

椅子の背もたれに、ゆっくりともたれかかる。

「えっ!? ちょ、ちょっと!?」

さくらさんが慌てて立ち上がった。

あなたはそのまま、意識を手放した。

さくらさんのアイコンタクトに耐えられず、気絶したのである。

第四章 目を覚ましたら、さくらさんがいた

「……ん……」

数分後。

あなたは医務室のベッドで目を覚ました。

「……ここは?」

「医務室ですよ」

聞き慣れた声。

顔を横に向ける。

そこには、椅子に座ったさくらさんがいた。

「さ、さくらさん!?」

「よかった……!」

さくらさんは、心から安心したように息をついた。

「急に気を失われたので、本当に心配しました。念のため、医務担当の方にも確認していただきましたよ」

「す、すみません……」

「謝らなくてもいいんです。体調が悪かったのでしょうか?」

「い、いえ……たぶん……」

(あなたのせいです!)

(あなたの笑顔とアイコンタクトのせいです!)

(でも、そんなこと言えるわけないでしょう!?)

あなたは心の中で叫んだ。

さくらさんは少し考えたあと、あなたの顔を覗き込んだ。

「……もしかして」

「は、はい?」

「私と目が合うたびに、慌てていらっしゃいましたよね?」

「…………」

「それで、最後に私が声をかけたら……」

「…………」

「気絶してしまいました」

「うっ……!」

完全に見抜かれている。

あなたは布団を鼻まで引き上げた。

「ち、違います……!」

「違うんですか?」

「ち、違わない……いや、違います!」

「ふふっ」

さくらさんはとうとう笑ってしまった。

「どちらなんですか?」

「……分かりません……」

あなたは布団に顔を埋めた。

(終わった……)

(僕の会社生活、終わった……)

(明日からどんな顔をして隣に座ればいいんだ……)

しかし、さくらさんの次の言葉は、予想外のものだった。

「……でも」

「……?」

「私、少し嬉しかったんですよ」

あなたは、ぴたりと動きを止めた。

「え……?」

さくらさんは頬をほんのり赤くしながら、視線を落とした。

「私が声をかけると、いつも一生懸命に返事をしてくださいますし……。今日も、何度もこちらを見てくださいましたから」

(えっ。)

(それは、さくらさんが見てくるから……!)

「……つい、もう一度見たくなってしまったんです」

「…………」

「ですから、少しだけ……見すぎてしまったかもしれませんね」

さくらさんは恥ずかしそうに笑った。

「ごめんなさい」

あなたは完全に固まった。

(待って。)

(今、何て?)

(もう一度見たくなった……?)

(それって……どういう意味ですか!?)

胸が、またドクンと鳴った。

さくらさんはあなたの反応を見て、くすっと笑った。

「……あら?」

「は、はい!?」

「また顔が赤くなりましたよ?」

「こ、これは……!」

「ふふっ。今度は気絶しないでくださいね?」

「が、頑張ります……!」

「はい。期待しています」

さくらさんは優しく微笑んだ。

そして、あなたが安心した、その瞬間。

さくらさんは少しだけ顔を傾け、あなたの目を見つめた。

「……ところで」

「は、はい……?」

「午後のお仕事が終わったら、一緒に帰りませんか?」

ドクンッ!!

「…………」

あなたの意識が、再び遠のきかけた。

「ちょ、ちょっと! まだ気絶しないでください!」

さくらさんが慌ててあなたの肩を支える。

「さくらさん……」

「はい?」

「……僕、今日、帰れるんでしょうか……」

さくらさんは数秒きょとんとしたあと、とうとう声を上げて笑った。

「ふふっ……! 大丈夫ですよ。ちゃんと一緒に帰りましょうね」

「…………」

(だめだ。)

(今日の僕、もうだめだ。)

けれど。

さくらさんの笑顔を見ていると、不思議と嫌ではなかった。

むしろ、もう少しだけ、この時間が続けばいいと思ってしまった。

――もちろん、そんな本音は絶対に知られてはいけない。

あなたは布団を握りしめ、心の中で固く誓った。

(明日こそ、平常心を保つ……!)

その隣で、さくらさんはあなたに気づかれないように、そっと自分の胸元に手を当てた。

(……私も、少しドキドキしてしまいました)

そして、あなたが顔を上げると。

さくらさんは、いつもの優しい笑顔であなたを見つめていた。

「……明日も、よろしくお願いしますね?」

「は、はいっ!」

ドクンッ!!

「……あ。」

「えっ、ちょっと!?」

医務室に、さくらさんの慌てた声が響いた。

どうやらあなたの平常心が戻るには、もう少し時間がかかりそうだった。

――そして翌朝。

オフィスには、あなたの机の上に置かれた一枚のメモがあった。

『昨日は心配しました。今日は無理をしないでくださいね。

追伸:今日も、少しだけお話しできたら嬉しいです。

さくら』

あなたはメモを読み終えた。

そして、隣の席に座るさくらさんを見た。

さくらさんも、あなたを見た。

にこっ。

「…………」

あなたは机に突っ伏した。

「おはようございます。……あら? もうですか?」

さくらさんの楽しそうな声が、朝のオフィスに響いた。

美咲さんはその様子を見て、首を傾げた。

「……あれ? もしかして、さくらさんのウインクにも弱いんですか?」

「み、美咲さん!?」

さくらさんが思わず振り向く。

美咲さんは、にっこり笑って――。

パチッ!

またウインクした。

「今日もよろしくお願いしますね!」

「…………」

あなたは顔を上げたまま、静かに天井を見つめた。

(誰か……僕に平常心をください……!)

オフィスには、さくらさんと美咲さんの笑い声が響き渡った。

そして、さくらさんは小さな声で呟いた。

「……明日は、もう少しだけ見つめてみましょうか」

その言葉を聞いてしまったあなたは――。

「えっ!?」

本日二度目の気絶寸前となったのだった。