成績表の5位と、隣に座るさくらさん
成績表の5位と、隣に座るさくらさん
朝、あなたが会社に出社すると、オフィスの入り口付近に大きな成績表が貼り出されていた。
社員たちが集まり、あちこちから声が聞こえてくる。
「おおっ、今回の1位もさくらさんか!」
「すごい……! また1位だよ!」
「さすが、さくらさん!」
あなたも気になって、成績表をちらっと見た。
そして、自分の名前を探す。
「あった……」
そこには、確かにあなたの名前があった。
第5位。
以前より順位が上がっている。
「……5位か」
思わず、小さくつぶやいた。
もちろん、嬉しくないわけではない。
自分の仕事をこなしながら、困っている社員を手伝い、資料の作成を助け、相談にも乗ってきた。
その積み重ねが評価されたのだろう。
けれど。
「……素直に喜べないな」
あなたは少しだけ複雑な顔をした。
なぜなら、成績表の上位にいる人物が気になったからだ。
1位。
さくら。
「……やっぱり、さくらさんはすごいな」
教育係としての仕事も完璧。
自分の業務も完璧。
困っている社員への対応も丁寧。
それなのに、いつも落ち着いている。
あなたは成績表を見ながら、つい考えてしまった。
(僕が5位になれたのは嬉しい。でも、さくらさんは1位か……)
(いつか、少しでも追いつけるのかな)
そのとき。
「おはようございます」
背後から、聞き慣れた優しい声がした。
「……っ!?」
あなたの肩が、ぴくっと跳ねる。
振り返ると、そこには書類を抱えたさくらさんが立っていた。
「おはようございます。成績表をご覧になっていたのですか?」
「お、おはようございます! はい、ちょっと……!」
「ふふ。今回、5位ですね。おめでとうございます」
「えっ……あ、ありがとうございます」
さくらさんは、柔らかく微笑んだ。
「以前より順位が上がっていますね。日頃から、周りの方をよく助けていらっしゃいますし、その努力が評価されたのだと思います」
「そ、そんな……。僕はただ、困っている人がいたら手伝っているだけです」
「その『ただ』が、なかなかできないものですよ」
さくらさんはそう言って、あなたを見つめた。
「私は、そういうところを尊敬しています」
ドクンッ。
(…………え?)
(尊敬……?)
(さくらさんが、僕を……?)
あなたの頭の中が、一瞬で真っ白になった。
「そ、それじゃ、僕は仕事に行ってきます!」
「はい。頑張ってくださいね」
あなたは逃げるように自分の席へ向かった。
(あぶない……!)
(朝から心臓に悪すぎる……!)
一方、さくらさんはあなたの背中を見送りながら、少しだけ頬を緩めていた。
「……本当に、頑張り屋さんですね」
その小さな声は、あなたには聞こえなかった。
いや。
聞こえなくてよかったのかもしれない。
もし聞こえていたら、あなたの心臓は朝の時点で限界を迎えていたのだから。
第2話 自分の仕事が終わらないのに、相談が止まらない!
午前9時。
あなたは自分のデスクで、今日の業務に取りかかっていた。
「よし……まずはこの資料をまとめて、それから午後の会議の準備……」
順調だった。
少なくとも、最初の10分間は。
「すみません! ちょっと相談してもいいですか?」
「はい、どうしました?」
先輩社員が、困った顔で資料を持ってきた。
「この報告書なんだけど、数字の整合性が取れなくて……。一緒に確認してもらえる?」
「もちろんです。見せてください」
あなたは自分の作業をいったん止め、資料を確認した。
「この数字、先月のデータが混ざっているかもしれません。元の一覧と照らし合わせてみましょう」
「おお、なるほど! 助かったよ!」
先輩は笑顔で戻っていった。
(よし、解決……!)
あなたは自分の仕事に戻る。
すると。
「すみません、ちょっといいですか?」
今度は女性社員だった。
「このプレゼン資料、説明の順番がうまくまとまらなくて……」
「なるほど。結論を先に出して、そのあとに理由を並べると分かりやすくなると思います」
「本当だ! すごく分かりやすくなりました!」
「よかったです」
女性社員は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます! また相談してもいいですか?」
「はい、もちろんです」
(……よし。今度こそ自分の仕事を……)
「すみませーん!」
「はい!?」
別の女性社員が、少し慌てた様子でやってきた。
「会議室の予約が重複してしまって……。どうしたらいいでしょう?」
「ええと、まず両方の会議の参加人数と時間を確認しましょう。片方を別の部屋に移せるかもしれません」
「なるほど! 確認してみます!」
彼女も笑顔で去っていった。
そして、その直後。
「ちょっと相談いいかな?」
「このメール、どう返信したらいいでしょう?」
「ここの計算、合っているか見てもらえますか?」
「後輩への教え方で悩んでいて……」
「この資料、今日中にまとめないといけなくて……!」
「…………」
あなたは、キーボードに手を置いたまま固まった。
(待って)
(僕の仕事……)
(まだ最初の資料しか終わってないんだけど……!?)
それでも、困っている人を放っておけない。
一人ずつ話を聞き、必要なところを手伝い、解決の糸口を一緒に探していく。
気がつけば、午前中が終わろうとしていた。
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
「午後もよろしくお願いします!」
「……はい、頑張ります」
あなたは笑顔で見送った。
そして、誰もいなくなった瞬間。
机に両手をついた。
「……僕の午前中、どこに行ったんだろう」
頭の中には、資料、数字、会議室、メール、後輩の指導方法がぐるぐる回っていた。
そこへ、さくらさんがやってきた。
「大丈夫ですか?」
「……さくらさん」
「ずいぶんお疲れのようですが」
「いえ、大丈夫です。ちょっと相談が多かっただけなので……」
「そうですか」
さくらさんは、あなたの机に積まれた書類を見た。
そして、少しだけ眉を下げた。
「……ご自分のお仕事は、どのくらい進んでいますか?」
「えっと……」
あなたは正直に答えた。
「……まだ、三分の一くらいです」
「三分の一!?」
珍しく、さくらさんの声が少し大きくなった。
周囲の社員がちらっと振り返る。
さくらさんは咳払いをして、いつもの丁寧な口調に戻った。
「……失礼しました。ですが、それではご自身の業務に支障が出てしまいます」
「はい……」
「人を助けるのは素晴らしいことです。でも、あなた自身のお仕事も大切ですよ」
さくらさんは書類を一部手に取った。
「この資料、私も確認します。分担しましょう」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです。あなたばかりに負担をかけるわけにはいきませんから」
「さくらさん……ありがとうございます!」
あなたがぱっと顔を上げると、さくらさんは微笑んだ。
「ただし、次からは私にも相談してくださいね?」
「はい!」
(……優しい)
(本当に、さくらさんは優しいな……)
あなたは、胸の奥が温かくなるのを感じた。
そして、次の瞬間。
さくらさんがあなたの隣に立って資料を確認し始めた。
距離が近い。
声が近い。
いつもより、ずっと近い。
ドクン。
(…………)
ドクン、ドクン。
(仕事に集中しろ、僕!)
(今は資料! 資料だから!)
あなたは必死に画面を見つめた。
その様子に、さくらさんは気づいていないようだった。
「ここの文章ですが、もう少し簡潔にすると伝わりやすいですね」
「は、はい!」
「それから、この数字は……」
「はいっ!」
「……あの、聞こえていますか?」
「聞こえています!!」
「ふふ。そんなに大きな声で返事をしなくても大丈夫ですよ」
「す、すみません……!」
さくらさんは小さく笑った。
あなたは、心の中で叫んだ。
(さくらさんの笑顔、かわいい……!)
(いや、違う! 仕事! 仕事に集中!)
こうして、あなたの頭の中は午後になる前から大混乱だった。
第3話 午後、ついに頭がパンクする
午後1時。
あなたは昼食を終え、再びデスクに戻った。
「よし……午後こそ、自分の仕事を終わらせる!」
気合いは十分だった。
しかし。
「すみません、午前中の件なんですが……」
「はい!」
「先ほどの資料について、もう一つ確認したいことがあって……」
「分かりました!」
対応が終わると、今度は別の先輩がやってきた。
「悪い、ちょっとだけいいかな?」
「はい!」
その後も、相談は続いた。
あなたは自分の業務を進めながら、先輩たちの質問に答え、女性社員たちの資料を確認し、後輩に作業の進め方を説明した。
誰かが困っていれば、つい声をかけてしまう。
「大丈夫ですか?」
「ここ、僕も一緒に確認しますよ」
「焦らなくて大丈夫です。順番にやっていきましょう」
そのたびに、社員たちは安心したように笑った。
「あなたに相談すると、落ち着くんですよね」
「そうそう。説明が分かりやすいし」
「成績表が5位になったのも納得だなあ」
そんな言葉をもらうたび、あなたは照れくさそうに笑った。
けれど。
午後3時。
あなたの頭は、ついに限界を迎えた。
「……ええと、次は……」
画面を見つめる。
「この資料を保存して……いや、その前に先輩のメールを返信して……あれ? 女性社員のプレゼンは確認したっけ……?」
手元のメモを見る。
そこには、びっしりと予定が書き込まれていた。
「…………」
あなたはゆっくりと椅子にもたれた。
「頭が……パンクしそう……」
ちょうど通りかかったさくらさんが、その様子を見つけた。
「大丈夫ですか!?」
「……さくらさん」
「顔色が少し疲れているように見えます。無理をしていませんか?」
「大丈夫です。ちょっとだけ、頭の中が整理できなくなっただけで……」
「それを大丈夫とは言いません」
さくらさんは、あなたのメモを見て目を丸くした。
「……こんなに引き受けていたのですか?」
「困っている人が多かったので……」
「あなたは本当に……」
さくらさんは何か言いかけて、ふっと息を吐いた。
それから、あなたの前に一枚の紙を置いた。
「では、今から一緒に整理しましょう」
「え?」
「今日中に必要なもの、明日でもよいもの、ほかの方に確認をお願いできるもの。三つに分けます」
「でも、さくらさんのお仕事も……」
「私の仕事は私で管理していますから、ご心配なく」
さくらさんは、にこっと笑った。
「それに、あなたが倒れるまで頑張ることを、私は望んでいません」
ドクン。
あなたは言葉を失った。
(……ずるい)
(そんなことを、そんな優しい顔で言われたら……)
「……ありがとうございます」
なんとか、それだけを口にした。
二人で優先順位を整理すると、思ったよりも多くの仕事が翌日以降に回せることが分かった。
さらに、さくらさんが周囲の社員に声をかけてくれたことで、あなたに集中していた相談も分散された。
「これで、だいぶ楽になりましたね」
「はい……! 本当に助かりました」
「よかったです」
さくらさんは、あなたのメモを見て頷いた。
「ただし、次からは自分の仕事を優先しても大丈夫ですからね。助けを求められたら、すぐに全部引き受けなくてもいいんですよ」
「……はい。気をつけます」
(さくらさんに心配をかけてしまった……)
あなたは少し反省した。
けれど、同時に思った。
(心配してくれるの、嬉しいな……)
その気持ちだけは、どうしても消せなかった。
第4話 突然の席替え。そして、隣には……
午後5時。
ようやく業務が落ち着き始めたころ、総務の社員がオフィスの前に立った。
「皆さん、少しお知らせがあります!」
社員たちが顔を上げる。
「本日から、業務効率化のために席替えを行います!」
「ええっ!?」
「今日からですか!?」
「はい! 新しい座席表を掲示しましたので、各自確認してください!」
あなたも席を立ち、座席表を見に行った。
(席替えか……)
(今の席、結構気に入ってたんだけどな)
そう思いながら、新しい座席表を確認する。
自分の名前を探して。
「あった」
あなたの名前は、窓際に近い列にあった。
そして、そのすぐ隣。
「…………」
あなたは二度見した。
三度見した。
何度見ても、名前は変わらない。
あなたの隣の席――さくら。
「…………え?」
頭の中が停止した。
(待って)
(隣?)
(さくらさんが?)
(僕の隣の席に?)
そこへ、本人がやってきた。
「新しい座席、確認されましたか?」
「さ、さくらさん……!」
「はい。どうかしましたか?」
「い、いえ! 何でもありません!」
「そうですか。私はあなたのお隣になったみたいですね」
「…………はい」
さくらさんは座席表を見て、微笑んだ。
「これからは、もっと仕事の相談がしやすくなりますね」
「そ、そうですね……!」
(相談しやすくなる)
(それはそうだ)
(仕事の相談はしやすくなる)
(でも……!)
(僕の心臓が、まったく相談に乗ってくれないんですが!?)
さくらさんは、そんなあなたの心の叫びを知る由もなく、楽しそうに続けた。
「分からないことがあれば、すぐに声をかけてくださいね」
「は、はい!」
「私からも、確認したいことがあればお声がけします」
「はいっ!」
「……ふふ。今日はずいぶん元気ですね」
「そ、そうですか!?」
「ええ。少し安心しました」
さくらさんは優しく笑った。
あなたは顔をそらした。
(やめて……)
(その笑顔、隣で見続けることになるの……?)
(明日から、僕は本当に仕事ができるのか……?)
その日、あなたは人生で初めて、席替えを心から恐れた。
第5話 残業時間、オフィスに二人きり
午後7時。
社員たちは次々と帰宅し、オフィスは静かになっていた。
あなたは自分の仕事を終わらせるため、パソコンに向かっていた。
隣では、さくらさんも書類を確認している。
カタカタカタ……。
キーボードの音。
紙をめくる音。
時折聞こえる、さくらさんの小さな息遣い。
それだけのはずなのに。
(……近い)
あなたは画面を見つめながら思った。
(隣に、さくらさんがいる……)
いつもなら、少し離れた場所から声をかけるだけだった。
仕事の相談をするときも、資料を渡すときも、ちゃんと距離があった。
しかし、今は違う。
顔を少し横に向けるだけで、さくらさんがいる。
視線を上げれば、真剣な横顔が見える。
そして、彼女が話しかけてくる。
「こちらの資料ですが、明日の会議までに確認していただけますか?」
「は、はい!」
「ありがとうございます。助かります」
「い、いえ……!」
さくらさんが微笑む。
ドクンッ!
(うわあああああ……!)
(だめだ、心臓が……!)
あなたはキーボードを打つ手に力を入れた。
カタカタカタカタカタ!
「……あの」
「はいっ!?」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」
「す、すみません!」
「ふふ。何だか、今日はずっと緊張されていませんか?」
「えっ!?」
さくらさんが、少し首を傾げる。
「朝もそうでしたし、午後も……。何か心配事でもあるのでしょうか?」
(あります!)
(隣がさくらさんという、ものすごく重大な心配事が!!)
もちろん、口には出せない。
あなたは必死に平静を装った。
「い、いえ! 仕事に集中しているだけです!」
「そうですか?」
「はい!」
「……なら、よいのですが」
さくらさんは、少しだけあなたを見つめてから、再び画面に向き直った。
「何かあったら、いつでも相談してくださいね」
「…………はい」
声が、優しかった。
あなたは思わず、胸元に手を当てそうになった。
(……好きだな)
(やっぱり、僕はさくらさんが好きだ)
隣に座っているだけで、こんなにも嬉しい。
仕事を頑張る姿を見るだけで、こんなにも心が温かくなる。
でも。
(この気持ちは、知られてはいけない)
(さくらさんは僕の教育係で、今は隣の席の同僚でもある)
(だから……いつも通りにしないと)
そう決意した、その瞬間だった。
「……あの、少しよろしいですか?」
「は、はい!」
さくらさんが、椅子を少しだけあなたのほうへ向けた。
「今日、たくさんの方を助けていらっしゃいましたね」
「え?」
「先輩方も、女性社員の皆さんも、あなたに感謝していました」
「……そうなんですか」
「はい。でも、私は少し心配でした」
さくらさんは、真剣な表情で言った。
「あなたは、人のために頑張りすぎてしまうところがありますから」
「…………」
「誰かを助けることは、とても素敵なことです。でも、あなた自身が困ったときには、私にも頼ってください」
その言葉に、あなたの胸が大きく鳴った。
ドクンッ。
さくらさんは、少し照れたように微笑んだ。
「……隣の席になったのですから、今までよりも頼っていただけると嬉しいです」
ドクンッ!!
(…………っ!!)
(今……)
(嬉しいって……言った……?)
あなたは、まともに返事ができなくなった。
「……あ、ありがとうございます」
「はい」
さくらさんは、いつもの穏やかな笑顔に戻った。
「それでは、あと少し頑張りましょうか」
「……はい!」
二人は再び仕事に戻った。
静かなオフィス。
隣り合うデスク。
同じ方向を向いて、同じ時間を過ごす二人。
あなたは、必死に画面を見つめながら思った。
(……今日、絶対に眠れない)
(明日から毎日、隣がさくらさんなんだぞ……?)
(仕事の相談もできる。すぐに助けてもらえる。それは嬉しい)
(でも……)
あなたは、ちらっと横を見た。
真剣に書類を確認しているさくらさん。
その横顔を見た瞬間、また心臓が跳ねた。
ドクンッ。
あなたは慌てて画面に視線を戻した。
(……心臓が持たない)
そのとき。
「……ふふっ」
隣から、小さな笑い声が聞こえた。
「……さくらさん?」
「いえ、何でもありません」
さくらさんは書類で口元を隠していた。
けれど、その頬はほんの少しだけ赤かった。
実は彼女も、あなたが何度もちらちらとこちらを見て、視線が合いそうになるたびに慌てて画面へ戻ることに気づいていたのだ。
(……そんなに緊張しなくてもいいのに)
さくらさんは心の中でつぶやいた。
(私だって……隣になれて、嬉しいんですから)
もちろん、その本音をあなたが知ることはない。
少なくとも、今は。
エピローグ 明日から、どうすればいいんですか!?
午後8時。
ようやく二人の仕事が終わった。
「お疲れさまでした」
さくらさんが立ち上がる。
「お疲れさまでした!」
あなたも慌てて立ち上がった。
すると、さくらさんが少しだけいたずらっぽく微笑んだ。
「明日も、隣でよろしくお願いしますね」
「…………っ!」
ドクンッ!!
「よ、よろしくお願いします……!」
「ふふ。では、また明日」
さくらさんは手を振り、オフィスを出ていった。
残されたあなたは、しばらくその場から動けなかった。
「…………」
そして、誰もいなくなったオフィスで、そっと机に突っ伏した。
「……明日から、どうすればいいんですか……」
成績表は5位。
仕事は山積み。
相談は次々にやってくる。
そして、隣には大好きなさくらさん。
あなたは顔を上げ、誰もいないことを確認してから、小さくつぶやいた。
「……今日も、さくらさんかわいかったな」
言った直後、顔が熱くなった。
「……あああああ! 忘れろ、僕!!」
静かなオフィスに、あなたの小さな叫びが響いた。
その一方。
帰宅途中のさくらさんは、スマートフォンを手にしながら、今日のことを思い返していた。
「……明日も隣、ですね」
思わず、頬が緩む。
「……楽しみです」
そして、彼女もまた、小さくつぶやいた。
「……明日は、もう少しお話しできるといいですね」
こうして、あなたにとって心臓に悪すぎる新しい日々が始まろうとしていた。