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「新しい仲間と、少しだけ複雑なさくらさん」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「新しい仲間と、少しだけ複雑なさくらさん」

――午前9時。いつものオフィスに、新しい仲間がやってきた。

「皆さん、おはようございます。本日から中途入社いたしました、白石(しらいし)美咲と申します。よろしくお願いいたします!」

明るい声がオフィスに響いた。

美咲さんは、少し緊張した様子で頭を下げた。

「それでは、白石さんの業務については……」

上司が社員たちを見渡したあと、あなたの名前を呼んだ。

「君、今日は白石さんに仕事を教えてあげてくれるか?」

「はい、分かりました!」

あなたはいつものように笑顔で返事をした。

その様子を、少し離れた席から見ていたのは――教育係のさくらさんだった。

「……ふふ。頼りにされていますね」

「さくらさんに教えていただいたことが役に立っているんですよ」

あなたがそう答えると、さくらさんは一瞬だけ目を丸くした。

「そ、そうですか。でしたら、教育係として嬉しいです」

そう言いながら、さくらさんは小さく微笑んだ。

あなたの胸がドクンと鳴る。

(ああ、今日もかわいい……じゃなくて! 仕事、仕事!)

あなたは慌てて美咲さんのほうへ向かった。

1.丁寧すぎる新人教育係?

「では白石さん、まずは社内システムの使い方から説明しますね」

「はい! よろしくお願いします」

あなたは自分の席の隣に美咲さんを案内し、パソコンの画面を見せた。

「最初に、この画面で今日の予定を確認します。次に、こちらで資料を管理します。分からないことがあったら、遠慮なく聞いてくださいね」

「ありがとうございます。実は私、前の会社では違うシステムを使っていたので、少し不安だったんです」

「そうなんですね。でも、基本的な考え方は似ていますよ。焦らず、一つずつ覚えていきましょう」

あなたは操作を実演しながら、手順をノートにまとめてあげた。

さらに、よくある間違いや、困ったときの対処法まで書き加える。

美咲さんはノートを見つめて、感心したように声を上げた。

「えっ、ここまで書いてくださったんですか?」

「はい。自分も最初は分からないことだらけでしたから」

「……すごい。こんなに丁寧に教えてもらえると思いませんでした」

美咲さんの表情から、少しずつ緊張が消えていく。

「ありがとうございます! 私、頑張ります!」

「はい。一緒に頑張りましょう!」

二人は自然と笑顔になった。

その様子を見ていた先輩社員が、通りかかりながら言った。

「おっ、もう仲良くなったのか?」

「はい! すごく分かりやすく教えてくださるんです!」

「ははは。君は昔から面倒見がいいからなあ」

「い、いえ、そんなことは……」

あなたが照れて頭をかくと、美咲さんも楽しそうに笑った。

――そのとき。

少し離れたところで書類を整理していたさくらさんの手が、ぴたりと止まった。

(……あんなに楽しそうに笑うんですね)

さくらさんは二人を見つめ、それから静かに書類へ視線を戻した。

(いえ、新入社員の方が早く職場に慣れるのは、とても良いことです。私だって、嬉しいはずなのに……)

なぜか、胸のあたりが少しだけ落ち着かなかった。

2.昼休み、新しい友達

昼休み。

あなたが社員食堂へ向かおうとしていると、美咲さんが小走りでやってきた。

「あの、先輩!」

「はい? どうしました?」

「もしよかったら、お昼、一緒に食べませんか?」

「もちろん、いいですよ!」

美咲さんの顔がぱっと明るくなる。

二人で社員食堂へ向かい、席を探していると、ちょうど空いているテーブルがあった。

「ここにしましょうか」

「はい!」

食事をしながら、二人は仕事の話だけでなく、趣味の話もするようになった。

「先輩って、休日は何をしているんですか?」

「そうですね……街を散歩したり、本を読んだり。あとは、気になったことをノートに書いたりしています」

「ノートですか?」

「はい。仕事のアイデアとか、忘れたくないこととか。気づくと、結構な量になっているんですよ」

「なんだか楽しそうですね! 私もそういうの、やってみようかな」

「おすすめですよ。意外なところで役に立つんです」

美咲さんは楽しそうに笑った。

「先輩と話していると、緊張がほぐれます。入社する前は、職場でうまくやっていけるか心配だったんです」

あなたは箸を置き、優しく答えた。

「最初は誰でも不安ですよ。でも、困ったときは一人で抱え込まないでください。僕でも、ほかの先輩でも、頼っていいんですから」

「……はい!」

美咲さんは嬉しそうにうなずいた。

「私、先輩と仲良くなれてよかったです!」

「えっ?」

「これからも、いろいろ教えてくださいね!」

「もちろんです!」

二人は笑い合った。

そして、あなたはまだ気づいていなかった。

食堂の入口から、さくらさんがこちらを見ていたことに。

(仲良くなられたんですね……)

さくらさんは微笑んだ。

けれど、その笑顔はほんの少しだけぎこちなかった。

(私だって、あの方と……もっと、気軽にお話ししたいのに)

そんな本音を胸の奥にしまい込み、さくらさんは別の席へと歩いていった。

3.午後の仕事で起きた小さな事件

午後の業務が始まってしばらくしたころ。

「せ、先輩……!」

美咲さんが困った顔であなたを呼んだ。

「どうしました?」

「申し訳ありません。資料を保存したつもりだったんですが、どこに保存したのか分からなくなってしまって……」

画面には、似たような名前のファイルがいくつも並んでいた。

「なるほど。大丈夫ですよ。まずは落ち着いて確認しましょう」

あなたは美咲さんの隣に座り、一緒にファイルを探した。

「最後に保存したのは、何時ごろですか?」

「たぶん、午後1時半くらいです」

「分かりました。それなら、この履歴を確認してみましょう」

二人で順番に確認していくと、数分後。

「あっ! ありました!」

美咲さんが嬉しそうに声を上げた。

「よかったですね!」

「本当にありがとうございます……! 私、入社初日に大失敗したかと思いました」

「失敗というほどのことではありませんよ。今回のことを覚えておけば、次からは大丈夫です」

あなたは簡単な確認手順をメモにして渡した。

美咲さんはそれを受け取ると、ほっとしたように笑った。

「先輩って、怒らないんですね」

「えっ? いや、困っている人を怒っても、解決しませんから」

「……先輩、優しいですね」

「そ、そうですか?」

「はい!」

その瞬間、近くを通りかかったさくらさんが足を止めた。

「お二人とも、何かありましたか?」

あなたは振り返った。

「あ、さくらさん。白石さんの資料が見つからなくなってしまったんですが、無事に解決しました!」

「そうでしたか。白石さん、大丈夫でしたか?」

「はい! 先輩が丁寧に教えてくださったので、助かりました!」

「……そうですか」

さくらさんはあなたを見た。

「あなたは、本当に面倒見がいいですね」

「いえ、そんな……さくらさんに教えていただいたことを、実践しているだけですよ」

「……っ」

さくらさんの頬が、ほんのり赤くなった。

「そ、そういうことを、さらっとおっしゃらないでください」

「え? 何か変なことを言いましたか?」

「いえ。何でもありません」

さくらさんは咳払いを一つした。

「白石さん。分からないことがあれば、私にも遠慮なく聞いてくださいね」

「はい! ありがとうございます、さくらさん!」

「ふふ。こちらこそ、よろしくお願いします」

三人の間に、穏やかな空気が流れた。

……ただし。

さくらさんの心の中では、ちょっとした問題が発生していた。

(私が教えたことを実践している……?)

(それって……私のことを、ちゃんと覚えてくださっているということですよね?)

(……嬉しいです)

(でも……白石さんとも、あんなに楽しそうにお話しされるんですね)

(……むぅ)

さくらさんは、自分でも気づかないうちに少しだけ頬を膨らませていた。

「さくらさん?」

「は、はいっ!?」

「大丈夫ですか? 少し顔が赤いような……」

「だ、大丈夫です! 業務に戻りましょう!」

さくらさんは、いつもより少し早足で歩いていった。

あなたは首をかしげる。

(……今日のさくらさん、なんだかかわいいな)

(いやいやいや! 仕事中に何を考えているんだ、僕は!)

あなたは顔を両手で軽く叩き、仕事に戻った。

その様子を見た美咲さんが、くすっと笑う。

「先輩って、時々面白いですね」

「えっ!? 見てました!?」

「はい!」

二人はまた笑った。

4.退勤前、新しい約束

夕方。

美咲さんは今日教わったことをノートにまとめ終え、あなたの席へやってきた。

「先輩、今日は本当にありがとうございました!」

「いえいえ。初日、お疲れさまでした」

「おかげで、明日からも頑張れそうです」

「それならよかったです。明日も分からないことがあったら聞いてくださいね」

「はい! ……あの、先輩」

「はい?」

美咲さんは少しだけ照れくさそうに笑った。

「明日も、もしよかったら一緒にお昼を食べませんか?」

「もちろんです!」

「やった!」

美咲さんは嬉しそうに両手を握った。

「私、この会社で最初にできた友達が先輩でよかったです!」

「と、友達……ですか」

「はい! 先輩は、もう私の会社の友達です!」

その言葉に、あなたも自然と笑顔になった。

「ありがとうございます。僕も、白石さんと仲良くなれて嬉しいです」

「えへへ。じゃあ、また明日!」

「はい。また明日!」

美咲さんは手を振り、自分の荷物をまとめて帰っていった。

あなたも仕事を終え、帰り支度を始める。

すると、背後から聞き慣れた声がした。

「……楽しそうでしたね」

「えっ?」

振り返ると、さくらさんが立っていた。

「あ、さくらさん。お疲れさまです!」

「お疲れさまです。白石さんとは、すっかり仲良くなられたようですね」

「はい! 仕事も一生懸命ですし、話していて楽しい方ですよ」

「……そうですか」

さくらさんは、少しだけ視線を落とした。

あなたはその変化に気づかない。

「白石さん、最初は緊張されていたみたいなんです。でも、お昼を一緒に食べたら、だいぶ打ち解けてくれました」

「……お昼も、ご一緒されたんですね」

「はい!」

「……そうですか」

さくらさんは微笑んだ。

そして、少し考えてから口を開いた。

「あの……」

「はい?」

「明日のお昼なのですが……」

「はい」

「もし、ご迷惑でなければ……私とも、ご一緒していただけませんか?」

「…………えっ?」

あなたの思考が、一瞬停止した。

(さくらさんと……お昼!?)

(えっ!? 二人で!? いや、白石さんも一緒かな!?)

(どうしよう、嬉しい! でも、顔に出すな! 絶対に出すな!)

あなたは必死に平静を装った。

「も、もちろんです! ぜひ!」

すると、さくらさんの顔がぱっと明るくなった。

「本当ですか?」

「はい!」

「……ふふ。ありがとうございます」

さくらさんは嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間。

ドクンッ。

あなたの心臓が、大きく跳ねた。

(あああああっ! かわいい!)

(明日、僕は普通にお昼を食べられるのか!?)

一方、さくらさんも心の中で小さくガッツポーズをしていた。

(やりました……!)

(明日は、あなたとお昼をご一緒できます……!)

(……でも、白石さんも誘ったほうがいいでしょうか?)

(いえ……できれば、少しだけでも二人きりで……)

そこまで考えて、さくらさんは慌てて首を振った。

(だ、駄目です! 私は教育係なのですから!)

(……でも、少しくらいなら……)

「さくらさん?」

「は、はい!?」

「何か考え事ですか?」

「い、いえ! 何でもありません!」

さくらさんは、いつもの丁寧な笑顔に戻った。

「それでは、また明日。お疲れさまでした」

「はい! お疲れさまです!」

あなたは会社を出て、夜空を見上げた。

(白石さんという新しい友達ができた)

(そして……明日は、さくらさんとお昼を食べる)

(……なんだか、いい一日だったな)

あなたは嬉しそうに帰路についた。

その後ろ姿を、窓から見送っていたさくらさんは、小さな声でつぶやいた。

「……明日も、あなたとお話しできますね」

そして、誰にも見られていないことを確認すると――

ほんの少しだけ、いたずらっぽく笑った。

「……明日は、少しだけ独占させてくださいね?」

もちろん、その言葉をあなたが聞いているはずもなかった。

――しかし翌日。白石さんも、さくらさんと一緒にお昼を食べるつもりでいた。

三人で食べる楽しい昼食になるのか。

それとも、さくらさんがひそかに考えていた「二人きりのお昼」が実現するのか。

あなたはまだ、何も知らない。

そして――恋心を隠す一日は、明日も続いていくのだった。