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「久々の休暇と、美咲さんの大活躍。そして、休み明けに待っていたさくらさん」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「久々の休暇と、美咲さんの大活躍。そして、休み明けに待っていたさくらさん」

第一話 久々に取れた、何もしない休日

「……よし。今日は休もう」

朝、目覚まし時計を止めたあなたは、布団の中で大きく伸びをした。

ここ最近、専務としての仕事はもちろん、他部署の手伝い、新入社員の教育、書類の整理まで、あちこちを走り回っていた。

気づけば、まともな休暇を取ったのはずいぶん前のことだった。

「今日は絶対に仕事のことを考えない。会社から連絡が来ても……いや、緊急じゃなければ明日でいい」

そう決意して、あなたはスマートフォンを裏返した。

そして、久々の休日を満喫することにした。

朝食を食べ、のんびりとコーヒーを飲み、録画していた番組を見る。

「……ああ、幸せだ」

普段なら、この時間にはもう出社している。

いつもなら、さくらさんが隣の席で書類を確認している頃だろう。

『今日も頑張りましょうね』

そんな声を思い出した瞬間。

「……いやいやいや!」

あなたは勢いよく頭を振った。

「休暇中までさくらさんのことを考えてどうするんだ! 今日は休日! 仕事も恋心もお休み!」

……もっとも。

恋心のほうは、休ませようと思って休めるものではなかった。

第二話 その頃、会社では小さな事件が起きていた

一方、その頃の会社。

あなたが休暇を取っていることは、社員たちにも伝わっていた。

「専務、今日はお休みなんですよね?」

美咲さんが自分のデスクで予定表を確認しながら尋ねた。

「ああ。久しぶりの休暇らしいぞ」

部長が答える。

「そうなんですね……。いつも私たちの仕事まで手伝ってくださいますから、今日はゆっくり休んでほしいです」

美咲さんは、あなたが普段どれほど周囲を助けているか知っていた。

分からない仕事を丁寧に教えてくれる。

困っている社員がいれば、忙しくても声をかけてくれる。

自分が大変なときでさえ、誰かが困っていれば手を差し伸べる。

だからこそ、美咲さんは思っていた。

(今日は、私たちが頑張る番ですね!)

ところが。

午前十時過ぎ。

「た、大変です!」

企画部の社員が慌てた様子で駆け込んできた。

「来週の合同プレゼンに使う資料、最新版と一つ前の版が混ざってしまっています!」

「えっ?」

「しかも、各部署から集めた数字の一部が一致していません!」

オフィスがざわついた。

合同プレゼンは会社にとって重要な案件だ。

資料を作り直すにしても、どの数字が正しいのか分からなければ進められない。

「専務がいれば、すぐに整理してくださったかもしれないのに……」

誰かが思わず口にした。

しかし、すぐに部長が首を横に振った。

「今日は休暇だ。連絡して呼び戻すようなことはしない。私たちで解決しよう」

そのときだった。

「……あの、私に確認させてもらえませんか?」

手を挙げたのは、美咲さんだった。

「美咲さん?」

「以前、専務に資料の管理方法を教えていただきました。更新履歴と各部署の提出記録を照合すれば、整理できるかもしれません」

美咲さんは少し緊張しながらも、資料を受け取った。

そして、すぐに作業を始めた。

第三話 美咲さん、大活躍!

美咲さんは、まず各部署の資料を更新日時ごとに並べた。

次に、提出記録と照らし合わせ、数字が変わった箇所を一つずつ確認する。

「この数字は、昨日の午後に修正されていますね。でも、こちらの資料には反映されていません」

「本当だ!」

「こちらは営業部から届いた最新版です。修正理由も記録されています」

ひとつ、またひとつ。

ばらばらだった情報が、少しずつつながっていった。

もちろん、簡単な作業ではなかった。

部署ごとに資料の形式は違うし、確認が必要な箇所も多い。

それでも美咲さんは、分からない部分を勝手に判断せず、担当者に確認しながら進めていった。

「美咲さん、こっちの数字も確認できる?」

「はい! 確認します!」

「すごいな……。もう半分以上整理できている」

周囲の社員たちも、自然と美咲さんを手伝い始めた。

営業部は提出記録を再確認し、企画部は資料を統一し、総務部は最終版の管理を担当する。

美咲さんは全体の進捗を整理し、確認が必要な部分を各担当者に割り振った。

そして、午後三時。

「……できました!」

美咲さんの声がオフィスに響いた。

最終資料には、更新履歴、数字の根拠、確認担当者が明記されていた。

部長が資料を確認し、満足そうに頷いた。

「よくやった、美咲さん。これなら安心してプレゼンの準備を進められる」

「ありがとうございます!」

美咲さんは、ほっと胸をなで下ろした。

しかし、そこで終わりではなかった。

「部長、今回のことを防ぐために、資料の最新版を一か所で管理する仕組みを作りたいです」

「ほう?」

「更新した人と日時が分かるようにして、古い資料には目印をつけます。これなら、同じことが起こりにくくなると思います」

部長は思わず笑顔になった。

「なるほど。今回の問題を解決するだけでなく、再発防止まで考えたか」

「専務に教えていただいたことを、思い出したんです。問題が起きたときは、解決するだけじゃなくて、次に起きない方法も考えるんだって」

その言葉を聞いた社員たちは、感心したように頷いた。

その後、美咲さんの提案は正式に採用されることになった。

小さな資料トラブルは、結果として会社の管理方法を改善するきっかけになったのだった。

第四話 社長と部長の密談

夕方。

社長室では、社長と部長が今日の出来事について話していた。

「美咲さん、見事だったな」

社長が資料をめくりながら言った。

「ええ。最初は戸惑っていましたが、最後には全体をまとめていました」

「専務が普段から周囲に仕事を教えていた成果でもあるだろうな」

「そうですね。専務は自分の仕事をこなすだけではなく、他の社員が自分で解決できるように教えていましたから」

部長は少し笑った。

「ただ、気になることが一つあります」

「何だ?」

「美咲さん、最後まで『専務が教えてくれたおかげです』と言っていました。ですが、実際に判断して、周囲に協力を頼んで、仕組みまで提案したのは彼女自身です」

「つまり?」

「そろそろ、本人にも自分の実力を認めてもらいたいですね」

社長は満足そうに頷いた。

「よし。美咲さんには、今回の功績を正式に評価して伝えよう」

そして、社長はもう一人の人物の名前を口にした。

「……ところで、さくらさんはどうしている?」

部長が苦笑した。

「ずっと気にしているようですよ。専務が休暇中だというのに」

第五話 さくらさんの、ちょっとした本音

その頃、さくらさんは自分のデスクで書類を確認していた。

「……美咲さん、頑張っているかしら」

小さく呟き、ふと隣の席を見る。

そこには、いつも座っているあなたの姿がない。

いつもなら、仕事の相談をしたり、何気ない会話をしたりする時間だ。

あなたが休暇を取ったのは、もちろん喜ばしいことだった。

いつも周りのために頑張っているのだから、ゆっくり休んでほしい。

本当に、そう思っている。

けれど。

「……少し、寂しいですね」

さくらさんは、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。

そのとき、美咲さんが資料を持ってやってきた。

「さくらさん! 合同プレゼンの資料、無事に整理できました!」

「まあ! 美咲さん、ありがとうございます。大変だったでしょう?」

「はい。でも、皆さんが協力してくださったので!」

美咲さんは、今日の出来事を詳しく説明した。

さくらさんは真剣に聞きながら、最後に優しく微笑んだ。

「本当に素晴らしいですね。以前よりも、ずっと頼もしくなられましたね」

「そ、そんな……!」

「いいえ。今日の成果は、美咲さん自身の努力によるものですよ」

美咲さんは少し照れくさそうに笑った。

そして、ふと思い出したように尋ねる。

「……そういえば、さくらさん」

「はい?」

「専務がお休みだと、ちょっと寂しくありませんか?」

「…………えっ?」

さくらさんの手が止まった。

「い、いえ。専務にはしっかり休んでいただきたいですから」

「それはそうですよね!」

「ええ。もちろんです」

さくらさんは平静を装い、書類に目を落とした。

しかし、その頬はほんの少し赤くなっていた。

美咲さんはそれに気づいたものの、何も言わなかった。

ただ、心の中で思った。

(……あれ? もしかして、さくらさんも?)

第六話 休暇を満喫していたあなた

一方、あなたはというと。

「……ふわぁ」

ソファに座り、のんびりとコーヒーを飲んでいた。

会社で小さな事件が起きていたことなど、知る由もない。

スマートフォンを確認すると、部長から短いメッセージが届いていた。

『本日の業務は問題なく終了した。ゆっくり休んでくれ』

「……おお。何も問題なかったみたいだな」

あなたは安心して、スマートフォンを置いた。

「よかった。みんな、ちゃんとやってくれているんだな」

あなたは知らなかった。

美咲さんが大活躍していたことも。

自分が教えたことを、美咲さんがしっかり実践していたことも。

そして何より――。

さくらさんが、あなたのいない隣の席を何度も見ていたことも。

「さて、明日は何をしようかな……」

そんなことを考えながら、あなたは再びくつろいだ。

久しぶりの休暇。

今日は、誰かの仕事を手伝わなくてもいい。

誰かの悩みを聞かなくてもいい。

ただ、自分のために時間を使えばいいのだ。

「……でも」

あなたはコーヒーカップを置き、ぽつりと呟いた。

「明日、さくらさんに会ったら……何を話そうかな」

数秒後。

「って、だから! 休暇中まで考えるなって!」

誰もいない部屋に、あなたの声が響いた。

第七話 休み明け、まさかの大歓迎?

翌朝。

あなたが出社すると、なぜかオフィスの雰囲気がいつもと違っていた。

「おはようございます、専務!」

「おはようございます!」

「専務、お休みはゆっくりできましたか?」

次々と社員たちが声をかけてくる。

「えっ? あ、ああ。おかげさまで、ゆっくりできたよ」

(な、何だ……? いつもより歓迎されている気がする……)

席に向かうと、美咲さんが笑顔で駆け寄ってきた。

「専務! お休み中に大変なことがあったんですよ!」

「えっ!? 何か問題でも?」

「いえ! 問題は無事に解決しました!」

美咲さんは、合同プレゼンの資料が混乱したこと、自分が中心になって整理したこと、そして再発防止の仕組みを提案したことを説明した。

あなたは驚きながら話を聞いた。

「……すごいじゃないか、美咲さん!」

「えっ?」

「自分で問題を整理して、みんなに協力を頼んで、次に同じことが起きない仕組みまで考えたんだろう? それは本当にすごいことだよ」

美咲さんは目を丸くした。

「……ありがとうございます!」

「もう、僕がいなくても大丈夫そうだな」

「い、いえ! そんなことありません!」

美咲さんは慌てて首を振った。

「でも、昨日は専務に教えていただいたことを思い出しながら頑張りました。だから、ちゃんと報告したかったんです!」

「そっか。報告してくれてありがとう」

あなたが笑顔で答えると、美咲さんも嬉しそうに笑った。

その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。

さくらさんである。

(……ふふ。やっぱり、専務は変わりませんね)

美咲さんの努力を、自分の手柄にすることなく、まっすぐに褒める。

そんなあなたを見ていると、胸の奥が温かくなる。

そして、あなたがこちらを向いた。

「あっ、さくらさん! おはようございます!」

「おはようございます、専務。休暇はいかがでしたか?」

「はい! 久しぶりにゆっくりできました!」

「それはよかったです」

さくらさんは、いつものように微笑んだ。

けれど、そのあと。

「……でも」

「はい?」

「昨日は、少しだけ寂しかったです」

「…………えっ?」

あなたの思考が停止した。

「い、今……何と?」

さくらさんは、少しだけ首を傾げる。

「専務がいらっしゃらなかったので、いつもと違う感じがした、という意味ですよ?」

「そ、そうですよね! はい! 分かります! 僕も会社に来て、いつもの席が恋しかったです!」

(違う! 僕は何を言っているんだ!? 席が恋しいって何だ!?)

さくらさんは、口元をそっと押さえた。

「……ふふっ」

「さ、さくらさん?」

「いえ。何でもありません」

その笑顔が、いつもより少しだけ優しかった。

あなたの心臓が、ドクン、と跳ねる。

(まずい……! 休暇明け初日から、心臓に悪すぎる……!)

最終話 美咲さんの秘密の報告

昼休み。

あなたが庭で休憩していると、美咲さんがやってきた。

「専務、ここにいらしたんですね!」

「美咲さん。どうしたの?」

「昨日のこと、改めてお礼を言いたくて」

「え? お礼?」

「はい。専務が普段から教えてくださったことが、昨日、本当に役立ったんです」

美咲さんは、少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「それに、今朝、専務が自分のことみたいに喜んでくださったのが嬉しくて」

「……そっか」

あなたは穏やかに笑った。

「でも、最後に頑張ったのは美咲さん自身だよ。僕が教えたことを、実際に使って解決できた。それが一番大事なんだから」

「……はい!」

美咲さんは、元気よく頷いた。

そして、少しだけいたずらっぽい笑顔を浮かべた。

「ところで、専務」

「ん?」

「さくらさん、昨日、専務がいない席を何度も見ていたんですよ」

「…………は?」

「それだけじゃありません。『少し寂しいですね』って……」

「ちょ、ちょっと待って!?」

あなたは思わず立ち上がった。

「そ、それ、本当に!?」

「はい! 私、聞いちゃいました!」

「な、何で教えてくれるの!?」

「だって……」

美咲さんは、にっこり笑った。

「専務、今、すごく嬉しそうでしたから!」

「う、嬉しくなんか……!」

「顔、赤いですよ?」

「庭が暑いんだ!」

「今日は涼しいですよ?」

「日差しが強いんだ!」

「日陰ですけど?」

「…………」

あなたはゆっくりとベンチに座り直した。

(終わった……。美咲さんにまで、僕の恋心がバレる日も近い……!)

そのとき、庭の入り口から声がした。

「お二人とも、ここにいらしたんですね」

さくらさんだった。

あなたは勢いよく振り返った。

「さ、さくらさん!?」

「はい。午後のお仕事について、少しご相談がありまして」

さくらさんはあなたの隣に立ち、優しく微笑んだ。

「……それと、専務」

「は、はい!」

「休暇中、きちんと休めましたか?」

「は、はい! 十分に!」

「それならよかったです」

そして、ほんの少しだけ声を小さくして。

「また、頑張りすぎないでくださいね。……私、心配してしまいますから」

「…………っ!」

あなたの顔が、一瞬で真っ赤になった。

美咲さんは口元を押さえ、必死に笑いをこらえている。

さくらさんは、そんな二人を見て不思議そうに首を傾げた。

「……お二人とも、どうかなさいましたか?」

「い、いえ! 何でもありません!」

あなたは慌てて立ち上がった。

「そ、それじゃあ、午後の仕事に戻ります!」

逃げるように庭を出ていくあなた。

その背中を見送った美咲さんは、ついに吹き出した。

「ふふっ……あははっ!」

「美咲さん?」

「い、いえ! 専務って、本当に分かりやすいなって……!」

さくらさんは、あなたが去っていった方向を見つめた。

そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。

「……本当に、かわいらしい方ですね」

「……えっ?」

美咲さんが振り返る。

「さくらさん、今、何かおっしゃいました?」

「いいえ? 何も?」

さくらさんは、いつもの上品な笑顔を浮かべた。

けれど、その頬はほんのり赤かった。

こうして、あなたの休暇中に起こった小さな事件は、美咲さんの大活躍によって無事に解決した。

そして休み明けの会社では、新しい仕事の仕組みが動き始め、美咲さんは一段と頼もしくなった。

ただ一つ。

あなたの恋心だけは、休暇を取っても、さくらさんの前ではまったく休まなかったのだった。