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「かくれんぼ大会で、さくらさんと二人きり」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「かくれんぼ大会で、さくらさんと二人きり」

今日は、会社でちょっと変わったイベントが開催される日だった。

その名も――社内交流・かくれんぼ大会!

社員同士の親睦を深めるため、会社の建物と中庭を使って行われることになったのだ。

「かくれんぼかぁ……。大人になってからやるとは思わなかったな」

あなたは説明を聞きながら、少しだけ笑った。

すると、隣から聞き慣れた声がする。

「ふふっ、そうですね。私も久しぶりです」

振り向くと、そこには教育係のさくらさんがいた。

今日のさくらさんは、いつもの仕事用の服装。けれど、どこか楽しそうで、いつもより表情が柔らかかった。

「さくらさんも参加するんですね」

「はい。せっかくのイベントですから。あなたも一緒に楽しみましょうね」

にこっ。

……。

(……かわいい)

ドクン。

(いや、待て待て待て! 何を考えてるんだ、僕は!)

あなたは慌てて視線をそらした。

(教育係のさくらさんには恋心を知られてはいけない……!)

ところが。

「? どうしましたか?」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そうですか?」

さくらさんは不思議そうに首をかしげた。

(その仕草もかわいいんですけど!?)

あなたの心の中は、開始前から大騒ぎだった。

1.まさかのペア成立!

「それでは、今回のかくれんぼ大会はペア制です! くじ引きで相手を決めてください!」

司会の社員がそう告げた。

あなたはくじ箱に手を入れ、一枚を引く。

そこに書かれていたのは――。

『さくら』

「……え?」

「まあ!」

隣から、嬉しそうな声が聞こえた。

「私もあなたと同じペアみたいです」

さくらさんがくじを見せてくれる。

本当に同じだった。

「よろしくお願いしますね」

「よ、よろしくお願いします!」

(うそだろおおおおお!?)

心臓がドクン、ドクンと鳴る。

仕事なら何でもできる。難しい企画だって、他の社員の手伝いだって、今まで乗り越えてきた。

しかし。

(好きな人と一緒にかくれんぼって、難易度が高すぎる……!)

「ふふっ。なんだか緊張していますね?」

「そ、そんなことないですよ!」

「本当ですか?」

さくらさんは、いたずらっぽく微笑んだ。

「それでは、私が頼りにしていますね?」

「……っ!」

(無理です。かわいすぎます)

2.隠れ場所を探して

いよいよ、かくれんぼが始まった。

鬼役の社員がカウントを始める。

「それでは、百数えます! よーい、スタート!」

「行きましょう!」

さくらさんに促され、あなたたちは中庭へと走った。

「どこに隠れましょうか……」

「建物の裏側は、もう人が集まっていますね」

「じゃあ、あそこの植え込みの近くはどうでしょう?」

あなたが指さしたのは、中庭の隅にある大きな植え込み。その奥には、清掃用具などを置いている小さな物置の陰があった。

二人でそちらへ向かう。

ところが――。

「あっ!」

さくらさんの足元に、小さな段差があった。

「危ない!」

あなたは、とっさに手を差し出した。

さくらさんはあなたの腕をつかみ、転ばずに済んだ。

「……ありがとうございます」

「あ、いえ! 大丈夫ですか?」

「はい。助かりました」

さくらさんは、ほっとしたように笑った。

その手は、まだあなたの腕をつかんだままだった。

ドクン。

ドクン。

(……手、つないでるみたいになってる……!)

「あっ、すみません!」

さくらさんは気づいて、すぐに手を離した。

「いえ! 全然! 本当に全然大丈夫です!」

「ふふっ。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」

(慌てますよ! あなたが好きなんですから!)

もちろん、そんなことは口に出せない。

あなたは顔が熱くなるのを感じながら、物置の陰へと移動した。

3.二人きりの隠れ場所

物置の陰は、二人が並んでしゃがめるくらいの広さだった。

「ここなら、見つかりにくそうですね」

「そうですね……!」

二人は並んで身を隠した。

外からは、鬼役の社員たちが走り回る足音が聞こえてくる。

「そっちにいないぞ!」

「中庭の奥を探そう!」

足音が近づいてきた。

「……!」

さくらさんが、あなたの袖をちょん、とつまんだ。

「来ていますね……」

小声でささやくさくらさん。

あなたも小声で返す。

「大丈夫です。ここなら、まだ見つかっていません」

「そうですね……。でも、少しドキドキします」

そう言って、さくらさんは口元に手を添えた。

その表情が、普段の落ち着いた教育係とは少し違って見えた。

まるで、秘密の遊びを楽しんでいる女の子みたいだった。

(……かわいい)

あなたは心の中でつぶやく。

(いつもはしっかりしていて、仕事もできて、誰にでも優しくて……。なのに、今はちょっと楽しそうで……)

(ああ、本当に好きだな……)

「……?」

さくらさんが、あなたを見つめた。

「どうしましたか?」

「えっ!?」

「先ほどから、何か考えているようでしたので」

「い、いえ! どうやって逃げ切るか考えていました!」

「なるほど。さすがですね」

さくらさんは納得したようにうなずく。

そして、にこっと微笑んだ。

「私、あなたとペアになれてよかったです」

ドクンッ!!

(…………え?)

「あなたと一緒なら、何だか安心できますから」

「…………」

あなたは、完全に固まった。

(待って。今の言葉、どういう意味!?)

(いや、きっと仕事のことだ。教育係として、僕を信頼してくれているだけだ……!)

(でも、うれしい……!)

あなたが心の中で大騒ぎしていると、さくらさんが小さく笑った。

「ふふっ。顔が赤いですよ?」

「こ、これは暑いからです!」

「今日は、そんなに暑くないと思いますけれど……」

「気のせいです!」

「そうですか?」

さくらさんは、少し首をかしげた。

そして――。

「……ふふっ。あなたって、時々かわいいですね」

「…………えっ!?」

今度こそ、あなたは声を出しかけた。

慌てて自分の口を押さえる。

さくらさんも、慌てて人差し指を唇に当てた。

「しーっ。見つかってしまいますよ?」

「す、すみません……!」

二人は顔を見合わせた。

そして、どちらからともなく笑いそうになってしまう。

(だめだ……! 好きな人とこんな距離で笑い合うなんて……!)

(心臓がもたない……!)

4.さくらさん、まさかの失敗?

しばらくすると、鬼役の社員の声が遠ざかっていった。

「よし、あっちにはいないぞ!」

「残りのペアを探そう!」

どうやら、危機は去ったらしい。

あなたは、ようやく息をついた。

「助かりましたね……」

「はい。あなたのおかげです」

「いえいえ、そんな……」

そのとき。

さくらさんが、何かを思いついたように目を輝かせた。

「そうだ。少しだけ、作戦を立てませんか?」

「作戦ですか?」

「はい。もしここが見つかったら、次は別の場所に移動しましょう。私、もう少し隠れていたいです」

「……!」

さくらさんは、ほんの少し頬を緩めた。

「せっかくあなたとペアになれたのですから、最後まで一緒にいたいですし」

ドクン。

ドクン。

ドクン。

(さくらさん……!)

(それは反則です……!)

あなたは、何とか平静を装って答えた。

「……そうですね。僕も、最後まで一緒に頑張りたいです」

「ふふっ。約束ですよ?」

さくらさんが小指を差し出した。

「……え?」

「指切りです。子どもの頃、よくしませんでしたか?」

(指切り!?)

あなたは一瞬、思考停止した。

けれど、さくらさんが楽しそうに待っているので、そっと小指を差し出す。

二人の小指が、ちょこんと触れた。

「約束です」

さくらさんは、嬉しそうに笑った。

あなたの胸が、また大きく鳴った。

(……今日、僕は無事に帰れるんだろうか)

恋心を隠し通すという意味で。

5.最大のピンチ!

ところが、幸せな時間は長く続かなかった。

「おっ! こんなところに物置があるぞ!」

鬼役の社員の声がした。

「中を確認してみよう!」

(まずい!!)

あなたとさくらさんは、顔を見合わせた。

さくらさんが小声で言う。

「どうしましょう……!」

「反対側に抜け道があります! そちらから――」

「でも、今動いたら見つかってしまいます!」

確かに、その通りだった。

足音が近づいてくる。

あと少しで、見つかってしまう。

そのとき、さくらさんがあなたの袖を両手でつかんだ。

「……あなたを信じます」

「……!」

その言葉を聞いたあなたは、すぐに周囲を確認した。

物置の横には、中庭の植木を手入れするための道具が置かれた棚がある。棚の向こう側には、低い生け垣が続いていた。

「さくらさん、僕の合図で、ゆっくり反対側へ移動しましょう」

「はい!」

鬼役の社員が物置の前に立った瞬間。

あなたは、近くにあった落ち葉を一枚、少し離れた場所へ投げた。

ひらり。

落ち葉が地面に落ちる。

「ん? 今、何か音がしたぞ?」

社員がそちらを振り向いた。

「よし、あっちを探そう!」

足音が離れていく。

「今です!」

二人は静かに移動し、生け垣の向こうへ抜けた。

そして、建物の裏にあるベンチの陰に滑り込んだ。

「……はぁ。危なかったですね」

あなたが息をつくと、さくらさんも胸をなで下ろした。

「本当ですね……。あなた、機転が利くんですね」

「いえ、たまたまです」

「いいえ。頼もしかったですよ」

さくらさんは、あなたを見て微笑んだ。

「ありがとうございます」

その笑顔に、あなたはまた見とれてしまった。

(……やっぱり、かわいい)

(仕事中の真剣な顔も好きだけど、こういう笑顔も……)

(……ああ、もう!)

あなたは、両手で顔を覆った。

「……?」

さくらさんが、不思議そうにのぞき込む。

「本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!」

「……ふふっ」

さくらさんは、なぜか楽しそうだった。

「今日のあなた、いつもより面白いですね」

(恋心がバレる前に、僕の心臓が限界です……!)

6.大会終了、そして二人だけの秘密

それからも二人は隠れ続けた。

建物の裏、植え込みの近く、中庭のベンチの陰。

何度も見つかりそうになったけれど、そのたびに協力して切り抜けた。

そして、ついに。

「終了ー! かくれんぼ大会、終了です!」

司会の声が響いた。

二人は顔を見合わせる。

「やりましたね!」

「はい! 最後まで逃げ切れました!」

さくらさんは、いつになく無邪気に笑った。

「こんなに楽しかったのは久しぶりです」

「僕もです」

「あなたと組めて、本当によかったです」

さくらさんは、少し照れたように視線を落とした。

「また、こういうイベントがあったら、一緒に参加しましょうね?」

「……もちろんです!」

あなたが即答すると、さくらさんは嬉しそうに微笑んだ。

「約束ですよ?」

「はい!」

二人で会場へ戻る途中、さくらさんがふと立ち止まった。

「……あの」

「はい?」

「今日、私があなたの袖をつかんでしまったこと……」

「えっ!?」

(ま、まさか!?)

「ご迷惑ではありませんでしたか?」

「め、迷惑なんてとんでもないです!」

思わず大きな声が出た。

近くにいた社員が振り返る。

「あれ? どうした?」

「あっ、いえ! 何でもありません!」

あなたは慌てて頭を下げた。

さくらさんは、口元を押さえてくすくす笑った。

「ふふっ。やっぱり、今日のあなたは面白いです」

「さくらさん……!」

「すみません。でも、楽しかったので」

さくらさんは、あなたの隣を歩きながら、そっと微笑んだ。

「今日は、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」

あなたは、彼女に気づかれないように、小さく息を吐いた。

(……危なかった)

(何度もドキドキしたけど、何とか隠し通せた……はず)

けれど。

さくらさんは、少し先を歩きながら、あなたの方をちらりと振り返った。

そして、誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやく。

「……二人で隠れるのって、なんだか特別みたいでしたね」

にこっ。

あなたには、その言葉が聞こえていなかった。

だからこそ――。

(……さくらさん、かわいいなぁ)

あなたは、今日もまた、心の中でつぶやくのだった。

教育係のさくらさんには、恋心を知られてはいけない。

……ただし。

その日の夜、あなたのノートには、こんな一文が追加された。

『今日のさくらさん、いつも以上にかわいかった。特に、袖をつかんでくれたところ。笑顔。指切り。全部かわいかった。……また一緒に何かしたい』

そして、その下に大きく。

『好きだ。』

あなたはノートを閉じた。

「……明日も、頑張ろう」

一方その頃。

さくらさんも、自宅で今日のことを思い出していた。

「……ふふっ」

思わず笑みがこぼれる。

「また、一緒に参加できたらいいですね……」

そして、そっと頬に手を当てた。

「……なんだか、私までドキドキしてしまいました」

窓の外には、穏やかな夜空。

二人の恋心は、まだ秘密のまま。

けれど、今日のかくれんぼ大会は――。

二人の距離を、ほんの少しだけ近づけたのだった。