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「白銀の騎士さんですか?」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「白銀の騎士さんですか?」

第1章 午後1時、僕の戦いはすでに始まっていた。

午後1時過ぎ。

「……終わったぁぁぁ!」

僕はデスクに両手をつき、静かに、しかし心の中では盛大に叫んだ。

今日の業務は、すべて完了。

午前中から集中して仕事を進め、頼まれていた資料の整理も、同僚の手伝いも、確認作業も終わらせた。

普段なら、ここで少し休憩して、午後の業務に備えるところだ。

しかし、今日の僕は違った。

なぜなら――。

(今日なんだ……!)

僕は時計を見た。

午後1時8分。

(あと52分……!)

そう。僕が毎日のように遊んでいるオンラインゲームで、本日午後2時から特別イベントが開催されるのだ。

イベントの舞台は、普段は入れない古代の遺跡。

そこには、出現率が極めて低いレアモンスターが登場するという。

しかも、そのモンスターからドロップするアイテムは、現在の環境でも最強クラスと噂される武器。

その名も――《白銀の聖剣》。

攻撃力はもちろん、特殊効果まで非常に強力らしい。

僕はこれまで、何度も高難易度クエストに挑戦してきた。

仲間と作戦を立て、強敵の攻撃パターンを研究し、何度も失敗しながら攻略してきた。

そして、いつしか僕のゲーム内での名前は、プレイヤーたちの間で知られるようになっていた。

『白銀の騎士』

それが、僕のゲーム内での名前だった。

(絶対に手に入れたい……!)

もちろん、ドロップする保証はない。

それでも、挑戦できるだけで胸が躍る。

「……ふふっ」

思わず笑みがこぼれた。

そのとき。

「ずいぶんと機嫌がよさそうですね?」

「ひゃっ!?」

背後から聞き慣れた声がした。

振り返ると、そこには教育係のさくらさんが立っていた。

整った身だしなみ。穏やかな表情。そして、少しだけ不思議そうに僕を見つめる瞳。

「さ、さくらさん!?」

「はい。私ですけど……そんなに驚きましたか?」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そうですか?」

さくらさんは僕のデスクに置かれた書類を確認した。

「今日の担当業務、もう終わったんですね。ほかの社員の方のお手伝いもしたと聞きましたよ」

「はい。確認も済ませました」

「素晴らしいですね。以前よりずっと段取りがよくなっています」

にこり。

さくらさんが微笑んだ。

(うわあああああっ!)

心の中で叫んだ。

褒められた。

教育係のさくらさんに、成長を認めてもらえた。

それだけで、今日一日を乗り切れそうな気がした。

しかし、僕にはもう一つ、重大な予定がある。

午後2時。

レアモンスター。

白銀の聖剣。

(落ち着け、僕。まだイベントまで時間はある。少し庭で休憩しよう)

「さくらさん、少し休憩してきますね」

「ええ。ゆっくりしてきてください」

「ありがとうございます!」

僕はできるだけ平静を装いながら、会社の庭へ向かった。

……このときの僕は、まだ知らなかった。

まさか、あの人に自分の秘密を知られかけることになるなんて。

第2章 庭で始まる、もう一つの戦い

会社の庭は、午後の柔らかな日差しに包まれていた。

木々の葉が風に揺れ、遠くから社員たちの話し声が聞こえる。

僕はベンチに腰を下ろすと、スマートフォンを取り出した。

画面には、いつものゲームのタイトル画面。

「よし……」

時刻は午後1時17分。

イベント開始まで、あと43分。

僕は攻略情報を確認した。

レアモンスターの出現条件。

推奨装備。

パーティー編成。

そして、ドロップ率に関するプレイヤーたちの予想。

(なるほど……最初のエリアで一定数のモンスターを倒してから、遺跡の奥に進むのか)

僕は画面をスクロールしながら、真剣に考えた。

仕事中には見せないほどの集中力だった。

「……よし。これならいける」

思わず小さく拳を握る。

すると、ゲーム内のチャットに通知が届いた。

『黒猫の魔導士:白銀さん、今日のイベント参加できる?』

僕はすぐに返信した。

『白銀の騎士:もちろん。2時から待機してる』

『黒猫の魔導士:さすが! 今回のレア武器、白銀さんに似合いそうだよね』

(似合う……!)

たった一言で、さらに気分が高揚する。

僕は画面を見つめながら、にやけそうになる口元を押さえた。

「……ふふっ」

その瞬間だった。

「……白銀の騎士さん、ですか?」

「…………え?」

時間が止まった。

いや、本当に止まったわけではない。

風は吹いているし、木々も揺れている。

けれど、僕の思考だけが完全に停止した。

恐る恐る顔を上げる。

そこにいたのは――。

さくらさんだった。

「…………」

「…………」

僕はスマートフォンを握りしめたまま固まった。

さくらさんは僕の隣に立ち、画面をちらりと見ていた。

その表情には、驚きと好奇心が入り交じっている。

「やっぱり、オンラインゲームだったんですね」

「さ、さくらさん……どうしてここに……?」

「少し庭を歩こうと思ったんです。そうしたら、あなたがとても楽しそうにスマートフォンを見ていたので」

「そ、そうですか……」

(まずい。非常にまずい)

僕のゲーム内の名前は、白銀の騎士。

そして今、さくらさんは僕の画面を見て、その名前を口にした。

しかも、僕はチャットで堂々と『白銀の騎士』と名乗っていた。

(まさか……僕が白銀の騎士だって、ばれた……?)

いや、待て。

落ち着くんだ。

ゲーム内の名前を知っているだけで、現実の僕と結びつくとは限らない。

ここは自然に振る舞うべきだ。

「そ、それはですね……最近、友人が遊んでいるゲームでして!」

「友人が?」

「は、はい!」

「では、あなた自身は遊んでいないんですか?」

「…………」

しまった。

さくらさんの目が、すっと細くなった。

「今、画面に『白銀の騎士』と表示されていましたけど」

「…………」

「それに、あなたが『もちろん。2時から待機してる』と返信していたような……?」

「…………っ!」

完全に見られていた。

僕は思わずスマートフォンを胸元に引き寄せた。

「い、いや、これは、その……!」

さくらさんは、そんな僕を見て。

「ふふっ」

小さく笑った。

「そんなに慌てなくても、ゲームをすることは悪いことではありませんよ?」

「そ、そうですよね……!」

「きちんと仕事を終わらせてから楽しむ。むしろ、時間の使い方としては立派だと思います」

「……ありがとうございます」

少しだけ、肩の力が抜けた。

そうだ。

僕は仕事を終わらせた。

誰にも迷惑をかけていない。

ゲームを楽しんだっていいはずだ。

……ただし。

(さくらさんに、僕が白銀の騎士だと知られるのは、なんだか恥ずかしい……!)

ゲーム内の僕は、普段の僕とは少し違う。

仲間を守るために先頭に立ち、難しい攻略では作戦を提案し、困っている初心者がいれば手助けする。

時には、頼りになるリーダーとして振る舞うこともある。

そんな姿を、教育係のさくらさんに知られたら。

「……あなたは、どんなゲームをしているんですか?」

「えっ?」

さくらさんが隣のベンチに腰を下ろした。

「そんなに楽しそうにしているんですから、きっと面白いゲームなんでしょう?」

「え、ええと……協力して強敵を倒すゲームです」

「協力して?」

「はい。仲間と役割を分担して、敵の攻撃を見極めて、作戦を立てて……」

話しているうちに、自然と言葉が出てきた。

「一人では難しい敵でも、仲間と協力すれば倒せることがあるんです。誰かが失敗しても、別の誰かが助けて……そうやって少しずつ攻略していくんです」

「……素敵ですね」

さくらさんの声が、少し柔らかくなった。

「あなたらしいゲームだと思います」

「僕らしい……ですか?」

「はい。あなた、会社でもそうでしょう?」

「えっ?」

「困っている社員の方がいたら、自然に声をかける。自分の仕事だけではなく、周囲の状況も見ている。誰かが失敗しても、頭ごなしに責めるのではなく、一緒に解決しようとする」

さくらさんは、穏やかに微笑んだ。

「ゲームの中でも、きっと同じなんでしょうね」

「…………」

胸が、じんわりと温かくなった。

僕がゲームで大切にしていること。

それを、さくらさんは会社での僕の姿と重ねてくれたのだ。

(……ずるいですよ、さくらさん)

そんなふうに言われたら。

もっと頑張りたくなってしまう。

もっと認められたくなってしまう。

そして、もっと――。

(……いやいやいや!)

僕は心の中で首を振った。

今は恋心を育てている場合ではない。

午後2時のイベントが迫っているのだ。

第3章 教育係の鋭い推理

「ところで」

「は、はい!」

さくらさんが、ふと僕のスマートフォンを指さした。

「その『白銀の騎士』というのが、あなたの名前なんですか?」

「…………」

再び、時間が止まった。

(来た……!)

とうとう核心に迫られた。

僕は頭の中で必死に言い訳を考えた。

別の人だと言うべきか。

友人のアカウントだと言うべきか。

いや、そんな嘘をついても、先ほどのチャットを見られている以上、苦しくなるだけだ。

「……ええと」

「はい」

「ゲーム内の名前、ですね……」

「そうなんですね」

さくらさんは、なぜか少し楽しそうだった。

「では、あなたが白銀の騎士さんなんですね?」

「…………はい」

言ってしまった。

ついに認めてしまった。

僕は両手で顔を覆いたくなった。

「……そうでしたか」

「……はい」

「ふふっ」

また笑われた。

「な、何かおかしいですか!?」

「いえ。少し意外だったんです」

「意外……?」

「あなた、会社ではどちらかというと控えめでしょう? それなのに、ゲームでは騎士なんて、ずいぶん格好いい名前をつけたんですね」

「うっ……!」

そこを突かれるとは思わなかった。

「そ、それは……最初に始めたとき、なんとなく……!」

「なんとなく、ですか?」

「はい……」

さくらさんは、くすりと笑った。

「いいと思いますよ。自分の好きなものに、少し格好いい名前をつけるくらい」

「……ありがとうございます」

「それに」

さくらさんは少し身を乗り出し、僕のスマートフォンをのぞき込んだ。

「先ほどから気になっていたんですが、今日のイベントというのは、そんなに大切なんですか?」

「……はい!」

思わず、力強く答えてしまった。

「実は、今日だけ出現する可能性があるレアモンスターがいて……そのモンスターが落とす武器が、すごく強いんです!」

「まあ」

「攻撃力も高くて、特殊効果も優秀で……今まで使ってきた装備を大きく更新できるかもしれないんです!」

話せば話すほど、止まらなくなった。

さくらさんは、そんな僕を静かに見つめている。

「……なるほど」

「す、すみません! つい熱くなってしまって……」

「いいえ」

さくらさんは首を横に振った。

「あなたが好きなことについて話している姿、初めて見た気がします」

「…………」

「仕事の話をするときとは、また違った表情をするんですね」

心臓が跳ねた。

(やめてください……!)

そんなことを言われたら、顔が熱くなる。

「……楽しそうで、何よりです」

さくらさんは微笑んだ。

「ただし、イベントに夢中になって午後の仕事を忘れてしまわないように。今日は業務が終わっているようですけど、明日の準備もありますからね?」

「は、はい! もちろんです!」

「ふふっ。よろしい」

教育係らしい言葉。

けれど、その声はいつもより少し優しかった。

第4章 午後2時、白銀の騎士が出陣する

午後1時50分。

さくらさんは、そろそろ戻りますね、と立ち上がった。

「それでは、私は仕事に戻ります」

「はい。お疲れさまです!」

「イベント、頑張ってくださいね。白銀の騎士さん」

「…………っ!?」

その呼び方は反則だった。

僕は思わず顔を上げた。

さくらさんは、いたずらっぽく微笑んでいる。

「応援していますよ」

「……あ、ありがとうございます……!」

「それでは」

さくらさんは軽く手を振り、建物へ戻っていった。

僕はその後ろ姿を見送りながら、しばらく動けなかった。

(……白銀の騎士さん、か)

ゲームの仲間たちから呼ばれるのとは、まるで違う。

さくらさんに自分のゲーム内の名前を呼ばれるだけで、どうしてこんなに落ち着かないのだろう。

「……いや、違う。今はイベントだ!」

僕は頬を軽く叩く代わりに、深呼吸をした。

時刻は午後1時58分。

ゲームを起動し、パーティーメンバーの状況を確認する。

『黒猫の魔導士:白銀さん、準備OK!』

『紅蓮の弓使い:いつでも行けるぞ!』

『蒼天の守護者:作戦は昨日の確認どおりでいいな?』

『白銀の騎士:了解。全員、無理はしない。危なくなったら一度下がろう』

送信。

画面の向こうに、いつもの仲間たちが集まっていた。

午後2時。

イベント開始。

遺跡の扉が開き、僕たちは一斉に駆け出した。

「よし……行くぞ!」

誰にも聞こえない小さな声で、僕はつぶやいた。

仕事では社員たちと協力し、ゲームでは仲間たちと協力する。

そして、今日はどちらも充実している。

僕は仲間と連携し、次々と現れるモンスターを突破した。

途中、想定外の敵が現れて作戦を変更する場面もあった。

しかし、慌てることはなかった。

敵の動きを観察し、仲間の位置を確認し、全員が動きやすいように指示を出す。

「今だ!」

仲間の攻撃が一斉に命中した。

そして、ついに遺跡の最奥へ。

現れたのは、銀色の甲殻をまとった巨大なレアモンスターだった。

画面に、その名前が表示される。

《銀月の覇竜》

「……来た!」

僕は思わず前のめりになった。

長い戦闘の末、仲間たちと息を合わせ、最後の一撃を放つ。

覇竜が光に包まれ、消えていった。

そして――。

画面に、金色の通知が表示された。

《レアドロップ獲得!》

《白銀の聖剣》

「…………え?」

一瞬、理解が追いつかなかった。

もう一度、画面を確認する。

《白銀の聖剣》

間違いない。

ついに、手に入れたのだ。

「うおおおおおっ!!」

僕は庭のベンチで、思わず小さくガッツポーズをした。

『黒猫の魔導士:えええええ!? 出たの!?』

『紅蓮の弓使い:マジか!! おめでとう!!』

『蒼天の守護者:さすが白銀! 今日の主役だな!』

画面には、仲間たちからの祝福が次々と流れていく。

僕は満面の笑みで返信した。

『白銀の騎士:ありがとう! みんなのおかげだ!』

本当に、仲間のおかげだった。

一人ではきっと、ここまでたどり着けなかった。

僕は獲得したばかりの聖剣を装備し、ステータス画面を開いた。

(……強い。これは本当に強いぞ……!)

今日の僕は、最高に幸運だった。

そして、ふと思い出した。

『イベント、頑張ってくださいね。白銀の騎士さん』

さくらさんの声。

「…………」

僕はスマートフォンを見つめ、再び顔が熱くなるのを感じた。

(……さくらさんに、報告したいな)

いや、待て。

何を考えているんだ、僕は。

さくらさんは教育係だ。

僕のゲームの成果を報告する必要なんてない。

そもそも、なぜ報告したいと思ったのか。

……理由は、考えないことにした。

第5章 「その武器、手に入ったんですか?」

午後2時20分。

僕はゲームの結果に満足し、スマートフォンをしまおうとしていた。

すると。

「……あら?」

聞き覚えのある声。

「さくらさん!?」

振り返ると、さくらさんが庭の入口に立っていた。

「まだ庭にいたんですね」

「は、はい! ちょうど今、終わったところです!」

「そうですか」

さくらさんは僕の表情を見て、少し首を傾げた。

「……何か、いいことがあったんですか?」

「えっ?」

「先ほどより、ずいぶん嬉しそうな顔をしていますよ」

「そ、それは……!」

言うべきか。

言わないべきか。

僕が迷っていると、さくらさんは先ほどの会話を思い出したように微笑んだ。

「もしかして、例のレアモンスターを倒せたんですか?」

「…………!」

「そして、強い武器も手に入った、とか?」

「…………さくらさん、どうしてそこまで……」

「あなた、わかりやすいんですもの」

「うっ……!」

また言われた。

わかりやすい。

そんなに顔に出ているのだろうか。

さくらさんは楽しそうに笑った。

「おめでとうございます。白銀の騎士さん」

「……ありがとうございます」

僕は照れくささを感じながらも、素直に頭を下げた。

「仲間と協力して、なんとか手に入れられました」

「よかったですね」

さくらさんは、僕の言葉を静かに受け止めた。

「頑張ったことが、ちゃんと結果につながったんですね」

その言葉に、僕は少し驚いた。

単にゲームの武器を手に入れただけだ。

けれど、さくらさんは、僕がそこに至るまでの過程まで認めてくれているような気がした。

「……はい」

自然と、笑みがこぼれた。

「すごく嬉しいです」

「ふふっ。そうでしょうね」

さくらさんは、少しだけ目を細めた。

「今日のあなたは、朝からずっと楽しそうでしたから」

「……見られていたんですね」

「ええ。仕事を頑張っていたのも、庭でゲームを楽しんでいたのも」

「…………」

「仕事をきちんと終わらせて、自分の好きなことを楽しむ。そういう時間も大切にしてくださいね」

「……はい」

僕は、胸の奥が温かくなるのを感じた。

さくらさんは、いつも仕事のことを教えてくれる。

失敗したときには改善点を教えてくれるし、うまくできたときには褒めてくれる。

けれど、こうして仕事以外の僕の姿にも、優しく言葉をかけてくれる。

そのことが、何よりも嬉しかった。

「では、私は戻りますね」

「はい!」

さくらさんは数歩進んだところで、ふと思い出したように振り返った。

「そうそう」

「はい?」

「今度、そのゲームのお話を聞かせてください」

「…………え?」

「あなたがそこまで夢中になるゲームでしょう? 少し興味が湧いてきました」

僕の思考が再び停止した。

さくらさんが、僕のゲームに興味を持ってくれた。

僕が白銀の騎士として戦っている世界に、興味を持ってくれた。

「……い、いいんですか?」

「もちろんです」

さくらさんは微笑んだ。

「ただし、説明するときは仕事の時間ではなく、休憩時間にしてくださいね?」

「は、はい! もちろんです!」

「ふふっ。それでは、またあとで」

さくらさんは、今度こそ建物の中へ戻っていった。

僕はその場に座ったまま、しばらくスマートフォンを握りしめていた。

(……どうしよう)

嬉しい。

とにかく、嬉しい。

でも、困ったこともある。

さくらさんにゲームの話をするということは、白銀の騎士としての自分を、少しずつ知られていくということだ。

仲間を守るために戦うこと。

難しい敵を攻略するために作戦を考えること。

誰かが困っていたら、放っておけないこと。

それらは、もしかしたら会社での僕と、あまり変わらないのかもしれない。

そして、もう一つ。

(……さくらさんには、僕の恋心だけは知られてはいけない)

僕はスマートフォンの画面を消し、空を見上げた。

今日、僕は念願の武器を手に入れた。

仲間たちと力を合わせて、目標を達成した。

そして、教育係のさくらさんと、いつもより少しだけ近い距離で話すことができた。

それだけで、今日は十分すぎるほど特別な一日だった。

……ただ。

「白銀の騎士さん、ですか」

さくらさんの声を思い出した瞬間、僕の頬はまた熱くなった。

「……本当に、困ったな」

誰にも聞こえない声で、僕はつぶやいた。

ゲームでは白銀の騎士。

会社では、さくらさんに恋する一人の社員。

この二つの秘密を抱えたまま、僕の毎日は続いていく。

そして明日、さくらさんからゲームについて質問攻めにされることになるなんて――。

このときの僕は、まだ想像もしていなかった。