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「幼児化してしまった僕と、優しすぎる教育係」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「幼児化してしまった僕と、優しすぎる教育係」

朝、いつも通り出社したあなた。

「おはようございます、さくらさん」

「おはようございます。今日もよろしくお願いしますね」

隣の席に座るさくらさんは、いつものように優しく微笑んだ。

あなたはその笑顔を見た瞬間、心の中でつぶやく。

(今日もかわいい……。いや、待て。仕事だ。仕事に集中しろ、僕!)

パソコンを起動し、書類を開こうとした、その瞬間だった。

「……あれ?」

視界がぐらりと揺れる。

「えっ、ちょっ……!」

ぽんっ!

不思議な音とともに、あなたの体が小さくなってしまった。

スーツはぶかぶか。椅子から床に足が届かない。キーボードはまるで巨大な壁のよう。

そして、頭の中まで幼い子どものようになってしまった。

「……ふぇ?」

あなたは大きな目をぱちぱちさせた。

隣で資料を読んでいたさくらさんが、ゆっくり顔を上げる。

「…………え?」

数秒間の沈黙。

「えええええっ!? あなた!? どうしたんですか!?」

さくらさんの普段は落ち着いた声が、オフィス中に響いた。

社員たちが一斉に振り向く。

「な、何があったんですか!?」

「えっ、専務……じゃなくて、誰、この子!?」

「服を見て! あなたさんのスーツじゃない!?」

その騒ぎの中心で、幼児化したあなたは椅子の上にちょこんと座っていた。

そして、さくらさんを見上げる。

「……おねえしゃん、だあれ?」

「…………っ!」

さくらさんの顔が、みるみる赤くなった。

(お、おねえしゃん……!?)

(待ってください。いつものあなたが、こんなに小さくなって……しかも、こんなにかわいいなんて……!)

さくらさんは両手で口元を押さえた。

「……だ、大丈夫です。私ですよ。さくらです」

「さくらしゃん?」

「は、はい……!」

「さくらしゃん、かわいい!」

「~~~~っ!!」

さくらさん、撃沈。

近くにいた美咲さんが、そっと肩を叩く。

「さくらさん、顔が真っ赤ですよ?」

「な、何でもありません! これは、その……驚いただけです!」

(かわいい……! 今の言葉、録音しておきたいくらいです……!)

もちろん、そんな本音は口に出せなかった。

なぜなら、あなたはいつも恋心を隠そうとしている。

そして、さくらさんもまた、あなたへの恋心を必死に隠しているのだから。

第一幕 さくらさん、専属のお世話係になる

「とにかく、今日は医務室で休みましょう。皆さん、仕事をお願いしますね」

「はい!」

さくらさんはあなたを抱き上げようとしたが、ふと手を止めた。

「……あの、抱っこしても大丈夫ですか?」

「だっこ?」

「ええ。歩くのは大変でしょうから」

あなたは両手を伸ばした。

「さくらしゃん、だっこ!」

「……っ、はい!」

さくらさんは慎重にあなたを抱き上げた。

あなたは安心したように、彼女の肩にこてんと頭を預ける。

「……あったかい」

「……そうですか?」

「うん!」

さくらさんの胸が、ドクンッと大きく鳴った。

(だ、だめです……! これはお仕事です! 私は教育係! 落ち着いて、さくら!)

しかし、あなたは彼女の顔を見つめて、にっこり笑った。

「さくらしゃん、すき!」

「…………え?」

周囲の社員たちが、一斉に固まった。

美咲さんが口元を押さえる。

「……今、好きって……」

「き、聞き間違いです!」

さくらさんは慌てて否定した。

「この子はまだ小さいんですから! きっと、親切にしてくれる人が好きという意味です!」

(……そうですよね? そういう意味ですよね?)

けれど、さくらさんの頬は赤いままだった。

あなたは彼女の胸元に顔をうずめて、満足そうにつぶやく。

「さくらしゃん、いいにおい……すぅ……」

「……っ!?」

(落ち着いてください、私……!)

さくらさんは天井を見上げた。

(今日一日、私の心臓はもつのでしょうか……)

第二幕 お仕事より、お絵かき!

医務室で休んでいる間、あなたはすっかり元気になった。

さくらさんがテーブルにクレヨンと紙を置いてくれる。

「退屈でしょうから、お絵かきでもしましょうか」

「おえかき!」

「何を描きますか?」

あなたは真剣な顔でクレヨンを握り、紙いっぱいに何かを描き始めた。

ぐるぐる。

ぐにゃぐにゃ。

そして、完成!

「できた!」

「まあ、見せてください」

さくらさんが紙を受け取る。

そこには、丸い顔の人物が二人並んで描かれていた。

一人は小さなあなた。

もう一人は、長い髪の女性。

その二人の間には、大きなハートが描かれている。

「……これは?」

「ぼくと、さくらしゃん!」

「…………」

「さくらしゃんと、いっしょ!」

さくらさんは絵を見つめたまま、動かなくなった。

(わ、私と……一緒に……?)

(この絵、捨てられません……! 絶対に大切にします……!)

「さくらしゃん?」

「は、はい! とても上手ですよ!」

「ほんと?」

「本当です。大切にしますね」

「えへへ!」

あなたは嬉しそうに笑った。

その瞬間、さくらさんは心の中で決意した。

(この絵は額に入れて飾りたいです……。いえ、さすがにそれは怪しまれますね……!)

医務室の外では、美咲さんがこっそり耳を澄ませていた。

「……さくらさん、完全にメロメロですね」

第三幕 お昼ごはんと、禁断のひと言

お昼になると、さくらさんはあなたのために小さなお弁当を用意してくれた。

「食べられそうですか?」

「たべる!」

「では、ゆっくり食べましょうね」

あなたはおにぎりを両手で持ち、もぐもぐと食べ始めた。

「おいしい!」

「よかったです」

「さくらしゃんも、あーん!」

あなたは小さくちぎったおにぎりを、さくらさんに差し出した。

「……私にですか?」

「うん! あーん!」

さくらさんは周囲をちらりと見た。

誰もいない。

「……では、いただきます」

ぱくっ。

「おいしいです。ありがとうございます」

「えへへ! さくらしゃん、いいこ!」

「…………いいこ?」

さくらさんの表情が止まる。

(い、いいこ……!?)

あなたは満面の笑みで、さくらさんの頭をぽんぽんとなでた。

「よしよし!」

「……っ!?」

今度こそ、さくらさんは真っ赤になった。

「あなた……! そ、それは……!」

しかし、あなたはすでに別のおにぎりに夢中だった。

「おいちー!」

「…………」

さくらさんは片手で顔を覆った。

(いつもは私があなたを褒める側なのに……!)

(どうして今日は、私のほうが振り回されているのでしょう……!)

そのとき、医務室のドアが開いた。

「失礼しまーす。お二人、お昼は……」

美咲さんが入ってきた。

そして、頭を押さえて赤くなっているさくらさんと、彼女の隣でおにぎりを食べるあなたを見た。

「……お邪魔しました」

「美咲さん!? 違いますからね!?」

「何も言ってませんよ?」

「その笑顔で分かります!」

美咲さんは楽しそうに笑いながら、ドアを閉めた。

第四幕 お昼寝と、さくらさんの本音

午後一時。

お腹がいっぱいになったあなたは、さくらさんの隣でうとうとし始めた。

「……ねむい?」

「ねむくないもん……」

「ふふっ。そうですか」

「……さくらしゃん、いなくならない?」

さくらさんの笑顔が、ふっと優しくなった。

「いなくなりませんよ。ここにいます」

「ほんと?」

「はい。約束です」

あなたは安心したように、彼女の袖をぎゅっと握った。

「……じゃあ、ねる」

「ええ。おやすみなさい」

さくらさんはあなたに毛布をかけ、そっと隣に座った。

しばらくして、あなたはすやすやと眠り始める。

さくらさんはその寝顔を見つめながら、小さな声でつぶやいた。

「……いつも、こんなふうに素直だったらいいのに」

もちろん、今のあなたには聞こえていない。

「普段のあなたは、私のことをどう思っているのか、なかなか教えてくれませんから……」

彼女は眠っているあなたの手を見つめた。

「……私ばかり、好きになってしまっているみたいで」

そして、少しだけ寂しそうに笑う。

「……ずるいですよ。こんなに大切に思っているのに」

そのとき。

「……さくらしゃん……」

「……はい?」

「……すき……」

さくらさんの心臓が、ドクンッと跳ねた。

「…………」

(寝言……ですよね?)

「……ずっと、いっしょ……」

さくらさんは両手で顔を覆った。

「……もう……本当に、ずるいです……」

その声は、いつもよりずっと甘かった。

第五幕 元に戻った僕と、最悪の目覚め

午後三時。

あなたが目を覚ますと、見慣れた医務室の天井があった。

「……あれ?」

手を見る。

いつもの手だ。

服も元に戻っている。

「……え? 僕、何を……?」

隣では、さくらさんが椅子に座ったまま、ほっとした顔をしていた。

「……よかった。元に戻ったんですね」

「さくらさん!? 僕、どうして医務室に……?」

「それは……」

さくらさんは少し迷ったあと、説明してくれた。

朝、突然幼児化してしまったこと。

子どものようになってしまったこと。

一日中、彼女が面倒を見てくれたこと。

そして――。

「……僕、何か変なことを言いませんでしたか?」

あなたは恐る恐る尋ねた。

さくらさんは目をそらす。

「……いえ。特に変なことは」

(嘘です。いっぱいありました……!)

「本当ですか?」

「……はい」

「よかった……」

あなたは胸をなで下ろした。

(危なかった……。さくらさんに変なことを言っていたら、恥ずかしくて会社に来られなくなるところだった……)

しかし。

さくらさんは、ふとあなたの袖をつまんだ。

「……あの」

「はい?」

「今日のこと、覚えていなくても……一つだけ、聞いてもいいですか?」

「な、何でしょう?」

さくらさんは、ほんの少しだけ頬を赤くした。

「……私と一緒にいるのは、嫌ではありませんか?」

「え?」

「いえ……その。今日、あなたはずっと私のそばにいてくれましたから」

(……本当は、私のことを好きだと言ってくれたのですが……)

あなたは彼女を見つめた。

そして、思わず本音が口からこぼれた。

「……嫌なわけ、ないじゃないですか」

「…………」

「僕は……さくらさんと一緒にいられるのが、一番嬉しいですから」

言ってから、気づいた。

(あっ)

(言った!? 今、僕、何を言った!?)

「ち、違っ……! いや、違わないですけど! その、仕事の話で……!」

「……ふふっ」

さくらさんが笑った。

「そうですか。私もですよ」

「…………え?」

「あなたと一緒にいられるのは、私も嬉しいです」

ドクンッ。

あなたの心臓が跳ねた。

(待って。今の言い方、何!? どういう意味!?)

さくらさんはいつもの優しい笑顔に戻り、立ち上がった。

「さあ、そろそろ仕事に戻りましょう。皆さんも心配していますから」

「は、はい……!」

医務室を出ようとした、そのとき。

さくらさんが小さく振り返った。

「……あ、それと」

「はい?」

「今日描いてくれた絵、大切にしますね」

「…………え?」

「では、行きましょう」

さくらさんは少し赤い顔で、先に歩いていった。

あなたはその場に立ち尽くした。

(絵……?)

(僕、さくらさんと一緒にいる絵を描いたの!?)

そして、廊下の向こうから美咲さんの声が響いた。

「さくらさーん! 例の絵、みんなにも見せてくださいねー!」

「美咲さん!? どうして知っているんですか!?」

「さくらさんが嬉しそうに持っていたからです!」

「~~~~っ!!」

あなたは頭を抱えた。

(もうだめだ……! 今日の記憶、全部消したい……!)

しかし、隣に戻ってきたさくらさんは、そっとあなたの袖をつまんだ。

「……あの。明日も、隣の席で一緒にお仕事しましょうね?」

「……はい」

(……かわいい)

思わず心の中でつぶやいた瞬間。

「……ふふっ。ありがとうございます」

「…………えっ?」

(まさか、今のも聞こえてた!?)

さくらさんは、いたずらっぽくウインクした。

「さあ、仕事ですよ。専務さん?」

「…………はい」

その日、あなたは幼児化した記憶以上に、さくらさんの笑顔が頭から離れなくなった。

そしてさくらさんは、誰にも見られないように、あの小さな絵を大切にしまっていた。

絵の裏側には、彼女の小さな文字でこう書かれていた。

『いつか、大人のあなたにも、同じ言葉を言ってほしいです』

――恋心を隠しているのは、どうやらあなた一人ではないらしい。