会社見学に来た少女と、隠しきれない姉妹の秘密
会社見学に来た少女と、隠しきれない姉妹の秘密
――午前9時。株式会社・本社ビル。
あなたは専務室でパソコンを操作しながら、今日の予定を確認していた。
あなた「……よし。今日も仕事を頑張ろう」
今日の午前中は、近隣の高校から生徒たちが会社見学にやってくる予定だった。
会社の説明、各部署の見学、社員との交流会。
あなたも専務として、最後の交流会を担当することになっている。
あなた「高校生か……。僕にもそんな時期があったんだよな」
ふと、大学時代の出来事を思い出した。
あれは、大学生だった頃。
街で困っていた女の子を助けたことがあった。
泣きそうな顔をしていた彼女に声をかけ、一緒に問題を解決した。
そのときの女の子は、なぜかさくらさんによく似ていた。
あなた「……あの子、今どうしてるんだろうな」
そう呟いた瞬間。
コンコン。
あなた「はい、どうぞ」
ドアが開き、さくらさんが顔を出した。
さくら「おはようございます。専務、本日の会社見学の資料ですが、こちらにまとめておきました」
あなた「ありがとうございます、さくらさん。助かります」
さくら「ふふっ。専務は高校生の皆さんにも人気が出そうですね」
あなた「えっ? ど、どうしてですか?」
さくら「普段から社員の皆さんを助けていますし、説明も丁寧ですから」
あなた「いやいや、そんな大したことは……」
さくら「ご謙遜を。では、私は準備に戻りますね」
そう言って、さくらさんは微笑みながら部屋を出ていった。
あなた「……朝から笑顔がかわいい」
ぽつり。
あなた「……いや、何を言ってるんだ僕は!」
慌てて口を押さえる。
あなた「専務! 仕事! 今日は高校生の会社見学! 恋心は封印!」
自分に言い聞かせ、資料に視線を戻した。
しかし、そのとき。
廊下の向こうでは、さくらさんが足を止めていた。
さくら「……恋心、ですか」
小さく微笑む。
さくら「……本当に、聞こえてしまうんですよね」
どうやら、また聞かれていたらしい。
あなたは、まだ気づいていなかった。
1.高校生たちがやってきた
午前10時。
受付に、高校生たちが到着した。
先生「本日はお忙しい中、ありがとうございます」
あなた「いえ、こちらこそ。皆さん、ようこそお越しくださいました」
あなたは専務として、丁寧に挨拶した。
高校生たちは少し緊張した様子で、あなたの話を聞いている。
あなた「今日は会社の仕事を見ていただくだけでなく、気になることがあれば何でも質問してください。将来の仕事について考えるきっかけになれば嬉しいです」
生徒A「専務さんって、すごく優しそう……」
生徒B「本当に偉い人なのかな? 話しやすそうだけど」
あなた「ははは。そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
生徒たちの表情が、少しずつ和らいでいく。
そのときだった。
列の後ろにいた一人の少女が、あなたの顔をじっと見つめていた。
少女「……あれ?」
あなた「ん? どうかしましたか?」
少女は驚いたように目を見開いた。
少女「もしかして……あなた、あのときの……?」
あなた「えっ?」
少女「大学生のとき、街で私を助けてくれた人ですよね?」
あなたの動きが止まった。
あなた「……まさか」
少女「覚えていませんか? 私、あのとき困っていて……あなたが一緒に助けてくれたんです!」
彼女の顔をよく見る。
少し大人びてはいるが、あのときの面影があった。
あなた「……あっ! もしかして、あのときの女の子!?」
少女「はいっ!」
ぱあっと笑顔になる少女。
あなた「大きくなったね! いやあ、元気そうでよかった!」
少女「はい! あのときは本当にありがとうございました!」
深々と頭を下げる彼女を見て、あなたは自然と笑顔になった。
あなた「そんなに改まらなくても大丈夫ですよ。元気にしているなら、それが一番です」
少女「……やっぱり、優しいですね」
あなた「え?」
少女「あっ、いえ! 何でもありません!」
少女は顔を赤くして、慌てて列に戻った。
あなたは首を傾げた。
あなた「……あの子、こんなに素直でかわいらしい子だったんだな」
その様子を、少し離れた場所から見ていた女性がいた。
さくらさんである。
さくら「…………」
さくらさんは、少女の顔を見た。
そして、あなたの顔を見た。
さくら「……なるほど」
何かに気づいたような表情を浮かべた。
2.「お姉ちゃん!」という爆弾発言
会社見学は順調に進んだ。
営業部では仕事の説明を受け、開発部では製品の展示を見学。社員たちも高校生に優しく接していた。
あなたも各部署を回り、質問に答えていく。
少女「専務さんは、どうしてそんなに社員の皆さんに優しいんですか?」
あなた「うーん……困っている人がいたら、できるだけ力になりたいと思っているからかな」
少女「……昔から、そうだったんですね」
あなた「え?」
少女「いえ、何でもありません!」
少女は嬉しそうに笑った。
そして昼休み前。
あなたが高校生たちを案内していると、廊下の向こうからさくらさんがやってきた。
さくら「皆さん、会社見学はいかがですか?」
生徒たち「とても楽しいです!」
さくら「それはよかったです。分からないことがあれば、遠慮なく質問してくださいね」
すると、あの少女が突然、さくらさんに駆け寄った。
少女「お姉ちゃん!」
あなた「…………え?」
さくら「……あっ」
少女「お姉ちゃん、私、ここの会社すごく気に入ったよ!」
あなた「…………」
さくら「…………」
あなた「…………お姉ちゃん?」
少女「あっ!」
少女は自分の口を押さえた。
さくらさんは、ゆっくりと目を閉じた。
さくら「……あなた、学校では私たちの関係を内緒にしておくって約束しましたよね?」
少女「だ、だって! お姉ちゃんがいるなんて思わなかったんだもん!」
あなた「…………」
頭の中で、いくつもの情報がつながっていく。
あなた「……さくらさんの妹さん?」
さくら「……はい」
少女「えっと……そうです。私、さくらの妹です!」
あなた「…………」
あなた「…………えええええっ!?」
廊下にあなたの声が響き渡った。
近くにいた社員たちが一斉に振り向く。
あなた「す、すみません! ちょっと驚いてしまって!」
さくら「ふふっ……専務がそんなに驚かれるなんて、珍しいですね」
あなた「いや、だって……!」
さくら「妹がいることをお話ししていませんでしたからね」
あなた「そ、そうですけど……!」
少女は、さくらさんとあなたを交互に見た。
少女「……あれ? お姉ちゃん、この人と仲いいの?」
さくら「えっ?」
少女「だって、お姉ちゃん、今すごく嬉しそうに笑ってるよ?」
さくら「…………っ」
さくらさんの頬が、ほんのり赤くなった。
あなた「えっ?」
少女「いつも家では、会社の話をすることがあるんだけど……」
さくら「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
少女「『専務は本当に頑張り屋さんなんですよ』とか、『今日も助けてもらってしまいました』とか!」
あなた「…………」
さくら「~~~~っ!」
さくらさんは妹の口を両手でふさいだ。
さくら「こ、この子はもう……!」
少女「むぐぐっ!」
あなた「…………」
あなたは天井を見上げた。
あなた(待ってくれ。僕の知らないところで、さくらさんが僕の話をしていた……?)
あなた(しかも、妹さんに……?)
あなた(いや、落ち着け。仕事の話だ。きっと仕事の話だけだ!)
さくら「……専務?」
あなた「は、はいっ!」
さくら「……何を考えていらっしゃるんですか?」
あなた「な、何も考えていません!」
さくら「そうですか?」
にこっ。
あなた(その笑顔は反則ですって……!)
3.妹さんからの、思いがけない質問
昼休み。
会社見学の高校生たちは、社員食堂で昼食を取ることになった。
あなたは食堂の入口で、生徒たちが困らないように案内していた。
すると、さくらさんの妹が近づいてきた。
少女「専務さん、今、少しお時間いいですか?」
あなた「もちろん。どうしました?」
少女「あの……大学時代のことなんですけど」
あなた「うん」
少女「私、あのとき本当に困っていたんです。誰に相談したらいいか分からなくて……」
彼女は少しだけ視線を落とした。
少女「でも、あなたが声をかけてくれて、一緒に考えてくれたから、ちゃんと解決できたんです」
あなた「……そうだったんだ」
少女「それから、私も誰かが困っていたら、できるだけ助けようって思うようになりました」
あなたは優しく微笑んだ。
あなた「それは素敵なことだね。でも、無理はしなくていいんだよ。自分一人で抱え込まないことも大切だから」
少女「……はい!」
少女は満面の笑みを浮かべた。
そして、少し迷ってから尋ねた。
少女「専務さんは……お姉ちゃんのこと、どう思っていますか?」
あなた「…………ぶっ!?」
危うく飲みかけていたお茶を吹き出しそうになった。
あなた「な、ななな、何で急にそんな質問を!?」
少女「だって、お姉ちゃんのことを見ているとき、ちょっとだけ顔が違う気がするから」
あなた「き、気のせいだよ!」
少女「そうですか?」
あなた「そうです!」
少女「ふーん……」
少女は、にっこりと笑った。
少女「じゃあ、お姉ちゃんが他の男性と仲良くしていても、気にならないんですね?」
あなた「…………」
あなた(想像してしまった……!)
あなた(いや、仕事だ! 仕事上の付き合いなら当然だ!)
少女「……あれ?」
あなた「気になりません!」
少女「……本当に?」
あなた「ほ、本当です!」
少女「じゃあ、今度、お姉ちゃんに素敵な男性を紹介してもいいですか?」
あなた「…………えっ」
少女「私の学校の先生の知り合いに、優しい人がいるんです!」
あなた「…………」
あなた(待って。何だ、この質問。どう答えるのが正解なんだ……!?)
あなた「そ、それは……さくらさんご本人が決めることだから……」
少女「……なるほど」
少女は何かを確信したように頷いた。
少女「ありがとうございます、専務さん!」
そう言って、食堂へ戻っていった。
あなた「…………」
あなたはその場に立ち尽くした。
あなた「……昼休みなのに、心臓に悪い」
その背後から、聞き慣れた声がした。
さくら「……専務」
あなた「ひゃいっ!?」
さくら「今の話、聞こえていましたよ」
あなた「…………」
さくら「妹が失礼なことを言って、申し訳ありません」
あなた「い、いえ! 大丈夫です!」
さくら「……それで?」
あなた「……それで?」
さくらさんは、あなたの顔をじっと見つめた。
さくら「私が他の男性と仲良くしていても、気にならないんですよね?」
あなた「…………」
あなた(終わった)
さくら「……専務?」
あなた「……仕事に支障が出なければ、問題ないと思います」
さくら「……そうですか」
さくらさんは一瞬だけ寂しそうな顔をした。
しかし、すぐにいつもの微笑みに戻った。
さくら「分かりました。では、午後もよろしくお願いしますね」
あなた「……はい」
さくらさんが去っていく。
あなた「…………」
あなた(違うんです、さくらさん!)
あなた(本当は、気になります! ものすごく気になります!)
あなた(でも、そんなこと言えるわけないでしょう!?)
あなたは両手で顔を覆った。
4.さくらさんの妹が見抜いた、本当の気持ち
午後の会社見学も、無事に終了した。
高校生たちが帰りの挨拶をする中、さくらさんの妹があなたの前にやってきた。
少女「専務さん、今日はありがとうございました!」
あなた「こちらこそ。学校に戻ってからも、勉強頑張ってくださいね」
少女「はい!」
彼女は元気よく返事をした。
そして、周囲に先生や友達がいないことを確認すると、小さな声で言った。
少女「あの……専務さん」
あなた「うん?」
少女「お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」
あなた「……え?」
少女「お姉ちゃん、仕事ではしっかりしているけど、家ではたまに寂しそうな顔をするんです」
あなた「…………」
少女「だから……お姉ちゃんが笑っていられる場所が、ずっとあったらいいなって」
あなたは、すぐに答えられなかった。
さくらさんのことなら、誰よりも見てきたつもりだった。
仕事に真剣で、周囲に気を配り、困っている人を放っておけない人。
いつも笑顔で、頼もしくて。
でも、その笑顔の奥にある寂しさまで、あなたは知っていただろうか。
あなた「……そうだね」
あなたは静かに微笑んだ。
あなた「僕も、さくらさんには笑顔でいてほしいと思っているよ」
少女「…………!」
少女の目が輝いた。
少女「……やっぱり!」
あなた「え?」
少女「いえ! 何でもありません!」
少女は嬉しそうに頭を下げた。
少女「ありがとうございました! また会いましょう!」
彼女は友達のもとへ駆けていった。
あなた「……元気な子だな」
そう呟いたあなたの姿を、少し離れたところから見ていた人がいた。
さくらさんだった。
さくら「…………」
彼女は、妹が最後に何を言ったのかまでは聞き取れなかった。
けれど、あなたの表情は見えていた。
いつもの、誰かを安心させる優しい笑顔。
さくら「……本当に、ずるい人ですね」
頬を赤らめながら、小さく呟く。
さくら「そんな顔をされたら……もっと好きになってしまうじゃないですか」
5.帰り際、妹から届いた秘密のメッセージ
その日の夕方。
あなたは専務室で、今日の会社見学について報告書をまとめていた。
あなた「……今日は色々あったな」
大学時代に助けた少女との再会。
その少女が、まさかさくらさんの妹だったという事実。
そして、妹から投げかけられた数々の質問。
あなた「……まさか、こんな偶然があるなんて」
スマートフォンが震えた。
会社見学の際、連絡先を交換したわけではない。
誰からだろうと思い、画面を確認すると、さくらさんから社内メッセージが届いていた。
さくら『本日はお疲れさまでした。妹が色々と失礼なことを申し上げたようで、申し訳ありません』
あなた『いえいえ! とても楽しい一日でした。妹さんにもよろしくお伝えください』
さくら『……そうですか。楽しかったのなら、よかったです』
あなたはそこで会話を終えようとした。
しかし、次のメッセージが届いた。
さくら『ところで、専務』
あなた『はい?』
さくら『……私が他の男性と仲良くしていたら、本当に気にならないんですか?』
あなた「…………」
あなたは椅子の背もたれに沈み込んだ。
あなた「……妹さん、何をお姉さんに伝えたんですか……!」
画面を見つめる。
正直に答えたい。
でも、正直に答えたら、隠してきた恋心が知られてしまう。
あなたは悩みに悩み、文章を打ち込んだ。
あなた『さくらさんが幸せなら、それが一番だと思います』
送信。
数秒後。
さくら『…………』
さくら『そうですか』
短い返信だった。
あなた「…………」
あなた(……あれ? 何だろう。すごく間違えた気がする)
すると、もう一通。
さくら『では、私が誰かとお付き合いすることになっても、専務は応援してくださるんですね?』
あなた「…………」
あなた「…………うわああああああっ!」
専務室に、あなたの叫び声が響いた。
慌てて口を押さえる。
あなた「……だめだ。もう今日は何も考えられない……!」
その頃。
自宅では、さくらさんが妹と向かい合っていた。
妹「お姉ちゃん、今日どうだった?」
さくら「……どうって?」
妹「専務さん!」
さくら「…………」
妹「お姉ちゃん、顔が赤いよ?」
さくら「赤くありません」
妹「じゃあ、どうしてスマホを見ながら笑ってるの?」
さくら「…………っ!」
さくらさんは慌ててスマートフォンを伏せた。
妹「……ねえ、お姉ちゃん」
さくら「何ですか?」
妹「お姉ちゃんって、専務さんのこと好きなの?」
さくら「…………」
沈黙。
妹「……あ、図星?」
さくら「……もう、あなたという子は!」
妹「あはははっ!」
さくらさんは妹を注意しようとした。
けれど、ふと、あなたの顔が浮かんだ。
困ったように笑う顔。
社員を助けるときの真剣な顔。
そして、自分を見るときの、ほんの少しだけ照れたような顔。
さくら「…………」
さくらさんは、そっと微笑んだ。
さくら「……秘密です」
妹「えーっ! 教えてよー!」
さくら「秘密です」
妹「絶対好きじゃん!」
さくら「……もう!」
二人の笑い声が、部屋に響いた。
一方、あなたは専務室で、まだ頭を抱えていた。
あなた「……明日、どんな顔でさくらさんに会えばいいんだ……」
そして、あなたはまだ知らない。
さくらさんの妹が、姉の恋を応援するために、すでに次の作戦を考え始めていることを。
妹「……よし。次は、お姉ちゃんと専務さんを二人きりにする作戦だね!」
さくら「……何を企んでいるんですか?」
妹「な、何でもないよー!」
さくら「……本当に?」
妹「…………はい」
さくら「……目をそらさないでください」
妹「お姉ちゃん、怖いよー!」
さくら「誰のせいですか!」
こうして、さくらさんの妹を巻き込んだ、新たな恋の騒動が始まろうとしていた。
そして明日。
あなたは、さくらさんから思いもよらないお願いをされることになる。
――「専務。今度の休日、私と一緒に出かけていただけませんか?」
もちろん、あなたはまだ知らない。
そのお出かけが、妹の仕組んだ作戦の第一歩だったことを。
そして何より――。
さくらさん自身も、その日を誰より楽しみにしていることを。