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「突然見える数字と、好感度0のさくらさん」

教育係のさくらには恋心を知られてはいけない。 — www.pixiv.net · All chapters

「突然見える数字と、好感度0のさくらさん」

朝、いつも通り会社に出社したあなた。

「おはようございます!」

社員たちに挨拶をしながら、自分のデスクへ向かおうとした、そのときだった。

ピコンッ。

「……え?」

突然、視界の中に数字が浮かび上がった。

部長の頭上には――1。

社長の頭上にも――1。

「な、なんだこれ……?」

目をこすっても消えない。

試しに、近くにいた先輩社員を見てみる。

先輩社員A――0。

先輩社員B――1。

別の先輩社員――0。

「えっ、数字が見える……? もしかして、これって……」

あなたは、ある考えにたどり着いた。

「……好感度?」

ゲームでよく見る、あの好感度システム。

もしかしたら、自分にも人の好感度が見えるようになってしまったのかもしれない。

「いやいやいや! そんな漫画みたいなことある!?」

そう言いながらも、あなたは気になって仕方がなかった。

そして――。

中途入社してきた美咲さんが、こちらへ歩いてきた。

「おはようございます! 専務、今日もよろしくお願いしますね!」

にこっと笑う美咲さん。

あなたは恐る恐る、その頭上を見る。

0。

「…………」

「専務? どうかしましたか?」

「い、いえ! なんでもありません!」

(そ、そうか……美咲さん、いつも笑顔で接してくれるから、少しは好かれていると思ってたんだけどな……)

美咲さんは不思議そうに首をかしげた。

「……?」

あなたは笑顔を取り繕いながら、心の中で静かに落ち込んだ。

(いや、数字が0だからって嫌われてるとは限らない……! そうだ、きっとそうだ!)

しかし、次の瞬間。

待ち望んでいた人がやってきた。

「おはようございます。専務。昨夜の資料、確認しておきましたよ」

さくらさんだった。

いつも優しく、丁寧に仕事を教えてくれる、あなたの教育係。

あなたにとって、誰よりも大切な人。

(さくらさん……!)

あなたの心臓が、ドクンッと跳ねた。

(さくらさんなら……! 毎日一緒に仕事をしているし、いろいろ助けてもらっているし……!)

期待を胸に、そっと視線を上げる。

そして――。

さくらさんの頭上に浮かぶ数字を見た。

0。

「………………え?」

時間が止まった。

「専務?」

「…………」

「専務? 聞こえていますか?」

「……はい」

「顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」

さくらさんは心配そうにあなたの顔をのぞき込んだ。

その優しさが、今のあなたには少しだけつらかった。

(0……?)

(さくらさん、0……?)

(毎日、こんなに優しくしてくれるのに……?)

(仕事も教えてくれて、困ったときには助けてくれて……。体調が悪いときだって、すぐに気づいてくれるのに……)

(それなのに、好感度0……?)

あなたは、心の中で膝から崩れ落ちた。

(そっか……全部、教育係としての仕事だったんだ……)

(いや、当たり前だろ! 仕事なんだから!)

(でも……ちょっとくらい……)

「専務?」

「は、はいっ!」

「本当に大丈夫ですか? いつもより元気がないように見えますけれど……」

「だ、大丈夫です! 僕は元気です!」

「そうですか……?」

さくらさんは少し考えたあと、そっと微笑んだ。

「何か困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね。私は、専務のお力になりたいですから」

ドクンッ。

(うわああああああああああっ!!)

あなたの心臓が激しく跳ねた。

(その言い方は反則だろ!?)

(そんなに優しくされたら、また好きになっちゃうだろ!!)

しかし、視界には容赦なく数字が浮かんでいる。

0。

(……いや、好きになってもらえてないんだよな……)

あなたは机に向かいながら、こっそりため息をついた。

午前10時――専務室にて

あなたはパソコンを開き、仕事を始めた。

しかし、集中できない。

(社長も1、部長も1……先輩たちも1か0……)

(美咲さんも0……そして、さくらさんも0……)

「……はぁ」

思わずため息が漏れた。

コンコン。

「失礼します。専務、こちらの書類についてご相談が――」

入ってきたのは美咲さんだった。

「専務? やっぱり今日は元気がないですね?」

「そ、そんなことないですよ」

「本当ですか? 私でよければ、お話を聞きますよ?」

美咲さんは心配そうに書類を置いた。

あなたは一瞬、事情を話そうか迷った。

けれど、さすがに「人の頭上に数字が見えて、それを好感度だと思って落ち込んでいます」とは言えない。

「……ちょっと、自信をなくしただけです」

「自信、ですか?」

「はい。自分では頑張っているつもりでも、周りからどう思われているのか、分からなくなることがあって……」

美咲さんは少し驚いたあと、優しく笑った。

「専務って、いつも私たちのことを助けてくださるじゃないですか」

「……え?」

「私が入社したばかりの頃も、プレゼンの練習に付き合ってくれましたよね。困っている社員がいたら、忙しくても声をかけてくれて……」

「そ、それは……」

「だから私は、専務のことをすごいと思っていますよ」

あなたは思わず美咲さんの頭上を見た。

0。

(……0なのに、そんなことを言ってくれるのか?)

(いや、待て。もしかして、これは好感度じゃないのか……?)

そんな疑問が浮かんだものの、あなたはすぐに首を横に振った。

(いやいや! でも、さくらさんも0だったし……)

美咲さんは、あなたの反応を見て小さく笑った。

「ふふっ。少し元気が戻りましたか?」

「……はい。ありがとうございます」

「よかったです!」

美咲さんは満面の笑みで専務室を出ていった。

あなたはしばらく、その扉を見つめていた。

(……数字って、なんなんだろう)

昼休み――庭のベンチ

あなたは昼食を済ませ、いつもの庭のベンチに座っていた。

空を見上げながら、今日の出来事を振り返る。

「……はぁ」

(好感度0、か……)

(もし本当に好感度だったら、さくらさんに嫌われているってことになるんだよな……)

(いや、そもそも嫌われるようなことをした覚えは……)

(……あれ?)

あなたはふと考えた。

(社長と部長が1っていうのも変だよな。僕、二人とは仕事の話ばかりだし……)

(それに、社員によって0と1しかないって、あまりにも極端じゃないか?)

「……うーん」

そのとき。

「専務?」

聞き慣れた声がした。

振り返ると、さくらさんが立っていた。

「ここにいらしたんですね。お隣、よろしいですか?」

「あ、はい! もちろんです!」

さくらさんはあなたの隣に腰を下ろした。

「午前中、少し元気がなかったので心配していたんです」

「す、すみません。ご心配をおかけして……」

「謝らなくていいんですよ」

さくらさんは、やわらかな声で続けた。

「専務はいつも周りの方を気遣って、ご自身のことを後回しにしてしまいますから。たまには、誰かに頼ってもいいんです」

「…………」

(……優しい)

(やっぱり、好きだなぁ……)

心の中でそう呟いた瞬間、あなたは慌てて口を閉じた。

(あっぶな……! 今、声に出してないよな!?)

さくらさんは、あなたの顔をじっと見ていた。

「……専務?」

「は、はいっ!」

「何か、私に言いたいことがあるんですか?」

「い、いえ! 何も!」

「……そうですか?」

さくらさんは少しだけ寂しそうに目を伏せた。

「私には、話していただけないんですね……」

「ち、違います! そういうわけじゃなくて!」

あなたは思わず身を乗り出した。

「さくらさんが悪いわけじゃないんです! 僕が勝手に落ち込んでいるだけで……!」

「……私が悪いわけではない?」

「はい!」

「では、私のことが嫌になったわけでも……?」

「そんなわけありません!!」

――言ってしまった。

庭に沈黙が落ちる。

「…………」

「…………」

(やってしまったああああああああ!!)

あなたは顔を真っ赤にした。

「い、いえ! その! 教育係としてです! 教育係として、さくらさんを信頼していますので!!」

さくらさんはしばらくあなたを見つめていた。

そして、ふっと微笑んだ。

「……よかったです」

「……え?」

「私、専務に避けられているのかと思っていましたから」

「えっ!?」

「朝から元気がありませんでしたし、私が話しかけても、どこか落ち込んでいらっしゃるようでしたので……」

さくらさんは胸元に手を添え、ほっとしたように息をついた。

「嫌われてしまったのかと、少しだけ不安だったんです」

ドクンッ!!

あなたの心臓が跳ねた。

(えっ……?)

(さくらさんが……僕に嫌われていないか、気にしていた……?)

思わず頭上を見てしまう。

0。

「…………」

(いや、やっぱり0なんだよな……)

あなたは再び肩を落としかけた。

すると、さくらさんがそっとあなたの顔をのぞき込んだ。

「専務。午後も一緒に頑張りましょうね」

「……はい!」

「ふふっ。いいお返事です」

さくらさんは優しく微笑んだ。

あなたは、その笑顔から目をそらした。

(……数字なんて、もう見たくない)

(だって、数字が0でも……こんなに嬉しいんだから)

その日の夕方――衝撃の事実

仕事を終えたあなたは、専務室で一人、今日の数字について考えていた。

「……そもそも、あの数字は本当に好感度なのか?」

気になって、社内のシステムに詳しい社員へ相談しようかと思った、そのとき。

ピコンッ。

視界の端に、小さな文字が浮かんだ。

【交際人数:0】

「………………は?」

あなたは固まった。

「……交際人数?」

もう一度、さくらさんのことを思い出す。

さくらさんの頭上にあった数字。

0。

「………………」

数秒後。

「そっちかああああああああああああ!!」

専務室に、あなたの叫び声が響き渡った。

「好感度じゃないのかよ!! 交際人数ってなんだよ!! しかも、全員0か1って、そういうことかよ!!」

つまり、社長も部長も、先輩社員たちも、美咲さんも、さくらさんも。

それぞれの交際人数が見えていただけだったのだ。

あなたは椅子の背もたれに倒れ込んだ。

「……僕、今日一日、勝手に落ち込んでいたのか……」

しかも、さくらさんに「嫌になったわけではない」と必死に説明してしまった。

「…………うわああああああ……」

顔を両手で覆う。

そのとき、コンコン、とドアが鳴った。

「専務? まだいらっしゃいますか?」

さくらさんの声だった。

「は、はい! います!」

ドアが開き、さくらさんが顔をのぞかせた。

「よかった。お帰りになったのかと思いました」

「すみません、ちょっと考え事を……」

「そうでしたか。では、ご一緒に帰りませんか?」

「……えっ?」

「今日は、少しお話ししながら帰りたいなと思いまして」

さくらさんは、いつもより少しだけ照れたように微笑んだ。

あなたの心臓が、ドクンッと跳ねる。

(……交際人数0でも、こんなに嬉しいことがあるんだな)

(いや、待て。交際人数が0ということは……)

(さくらさん、今は恋人がいないってことなのか……?)

そこまで考えて、あなたは慌てて首を振った。

(いやいやいや! 勝手に期待するな! 数字を見て勘違いしたばかりだろ!!)

「専務?」

「な、なんでもありません!」

さくらさんはくすっと笑った。

「本当に、今日は不思議な専務ですね」

「……そうですね」

「ふふっ。では、帰りましょうか」

「はい!」

二人で並んで歩き出す。

夕暮れの廊下で、さくらさんがそっとあなたのほうを見た。

「……専務」

「はい?」

「明日も、隣でお仕事をしてもよろしいですか?」

「……もちろんです!」

あなたは即答した。

さくらさんは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」

その頭上には、相変わらず数字が浮かんでいる。

0。

けれど、今のあなたはもう、その数字を見ても落ち込まなかった。

(好感度じゃない。交際人数だ)

(……でも、いつか)

(いつか、この数字が変わる日が来たらいいな)

あなたは、隣を歩くさくらさんをちらりと見た。

さくらさんも、ちょうどこちらを見ていた。

目が合う。

「……ふふっ」

「……っ!?」

さくらさんが可愛らしく笑った瞬間、あなたの顔は一気に赤くなった。

(やっぱり、恋心を知られてはいけない……!!)

一方、さくらさんはあなたの赤い顔を見ながら、心の中でそっと呟いていた。

(……専務。今日はいったい、何を考えていらしたのでしょう?)

(私のことを見て、何度も落ち込んだり、慌てたり……)

(……少しだけ、気になりますね)

そして二人は、何も知らないまま、並んで帰っていった。

――翌朝。

あなたは社員たちの頭上を見ないよう、必死に前だけを向いて歩くことになる。

ところが。

「おはようございます、専務」

さくらさんが隣に並び、にこっと微笑んだ。

ピコンッ。

あなたの視界に、また数字が浮かんだ。

「…………」

(見ない! 今日は絶対に見ない!!)

あなたは必死に前を向いた。

しかし、さくらさんが不思議そうに顔をのぞき込む。

「専務? どうして、そんなに顔を赤くしていらっしゃるんですか?」

「な、なんでもありません!!」

「……ふふっ。変な専務ですね」

その日も、あなたの恋心は、さくらさんに知られないまま――。

……本当に、知られないままでいられるのだろうか?