第915話 実験〈山を越えるトラン・プリン〉でひとっ飛び
第915話 実験〈山を越えるトラン・プリン〉でひとっ飛び
上級乗り物〈イブキ〉のお披露目は大成功。
全員で代わりばんこに乗り、その辺を走り回って何体もの〈トラキ〉が光に還った。集めて、轢いて、ドロップもがっぽりだ。
今後〈エデン〉を支える乗り物にみんなご満悦だった。
まあ、〈イブキ〉に関しては今後も乗れるということで、せっかく上級ダンジョンに来たのだし採集と、戦闘も体験してもらう。
もちろんゲスト組は戦闘には不参加だ。採集組に回ってもらった。
大体のメンバーは初めて訪れた上級ダンジョンにおっかなびっくりという様子だが、中にははしゃぎまくっているメンバーもいる。
「ゼフィルス君、これも試しておいたほうがいいんじゃないかな?」
「ん? おう、これか! 確かに、使えなかったらことだしな! 使ってみようか!」
ハンナから提案を受けたのは、この〈山ダン〉の救済アイテム〈山を越えるトラン・プリン〉だ。
もう名前からしてすごいが、性能も、そして見た目もすごいんだ。
確かに一度実験しておかないとぶっつけ本番で使うのを躊躇するかもしれない。というか使えないかもという思いもある。
まさかリアルでは使い物にならないアイテム第一号になってしまうのか!? それはともかく。
俺はハンナの意見を了承し、メンバーに実験をする旨を伝えておいた。
「ちょっと俺たちはあの崖まで行ってハンナが作ってくれたアイテムの実験をしてくるから」
「えー何それゼフィルス君、楽しそうじゃん!」
「ゼフィルス、俺も行っていいか?」
そしたらミサトやメルトを筆頭に自分も見たいという要望が殺到して、結局全員で行くことになった。
「露払いは任せるがいい」
「お願いしますねレグラム様」
オリヒメさん、多分そのセリフは俺のだ。
レグラムを筆頭に他の〈エデン〉メンバーも続き、壁までの道のりのモンスターは狩られることになる。
俺は採集組を連れてのんびり採集しながら後を追った。
道中、何をする予定なのか、そのアイテムの説明をねだられたので説明しつつ 和気藹々 ( わきあいあい ) と進む。
「へー! つまり 上級下位 ( ジョーカー ) にはそれぞれに対応するアイテムがあるのね!」
「それを全部集めたのですか。さすが教官です」
エリサとフィナ双子姉妹のよいしょがとても気分いいです。
「ランク1以外は全部レシピだったから、ハンナが作れるものは全部作ってもらったんだ」
「ハンナはんも大概規格外やね~。ほんま〈エデン〉にとって縁の下の力持ちやん」
「えへへ~それほどでもですよ~」
ハンナにはすでに全ての救済アイテムのレシピを渡し、ランク2、ランク3とランク8~ランク10までの救済アイテムを数百個単位で作ってもらっていた。素材は〈嵐ダン〉で全部集まるので作り放題だ。
俺の言葉にアルルがまいったわ~と言わんばかりに首を振り、ハンナが照れる。
うむうむ。アルルも分かってるじゃないか。ハンナはギルドの縁の下の力持ちなんだ。
俺がそれに満足げに頷いていると、今度はフラーミナたちが話しかけてきた。
「ゼフィルス君、そういえばさっき聞いたんだけど、新しい【錬金術師】の上級職を増やすって本当なの?」
「その話、私も聞きましたわ。確かに今の状態はハンナさんにとても負担を掛けていますから生産職を増やすのは良いことだと思いますが」
「ギルドに入れるのですか? 〈上級転職チケット〉を使わないと上級の品は作れませんが」
フラーミナに続き、カタリナ、ロゼッタも話を聞きつけたらしい。
今朝の話だったのだが、もう話が広まっているのか。
「いや、ギルドの加入じゃなく専属で頼もうかと思ってる。ほら、〈エデン〉店の従業員のアルストリアさん、シレイアさんの2人な。もう半分以上〈エデン〉の〈助っ人〉のようなものだし、今回正式に専属をと思ってな」
「私たちの〈上級転職チケット〉は残ってるのかな? 私も早く上級職になりたいんだけど」
そう言って話に加わったのは二盾使いのトモヨだ。
〈アークアルカディア〉から昇格したメンバー中では仲良し3人娘の次にLVカンストしたのにも関わらず、現在もレグラムといちゃいちゃ中のオリヒメさんに先に上級職に就かれてちょい焦りが見えている。
〈上級転職チケット〉の話題はみんな敏感だ。下級職のメンバーが聞き耳を立てているのを感じ取った。
「〈上級転職チケット〉は冬休みでまたドカンと手に入れるつもりだ。前に言ったとおり年末のAランク〈拠点落とし〉戦までにまずは5人を上級職にするから安心してくれ。その後残りのLVカンストしたメンバーを随時上級職にしていって、専属の【錬金術師】分はそれが終わったらだな。〈エデン〉〈アークアルカディア〉が優先だ」
「そ、そうなんだ」
貴重な〈上級転職チケット〉をドカンとゲットする発言に若干圧倒されるトモヨたち。
俺たちが上級ダンジョンを周回するようになって、〈上級転職チケット〉のドロップは右肩上がり中だ。今はちょっと止まっているが、直にそれも解消されるだろう。
トモヨたちだって慌てなくてもそう遠くないうちに〈 上級転職 ( ランクアップ ) 〉してもらう予定だ。そう言って安心してもらう。
後、下級職でLVがカンストしていないのは新しいメンバーのラウとルキアだけなので、2人以外は〈上級転職チケット〉が手に入り次第、上級職へ〈 上級転職 ( ランクアップ ) 〉をと考えている。
このペースでチケットを稼ぎまくっていたら余りが出るはずなので、全員が上級職になり終わり次第、〈エデン〉に協力してくれるもしくは学園の能力底上げに協力してくれる人材に投資することも考えている。アルストリアさんやシレイアさんはその一環だ。
「そういえばゼフィルス君、〈アークアルカディア〉の枠が14枠もあるんだけど、面接とかする気はないの?」
そう聞いたのはハンナだ。アルストリアさんとシレイアさんを加入させない宣言に、おやっと思ったのかもしれないな。
「ああ。しばらくはこのままの予定だ。Aランクの〈拠点落とし〉も近いし、今はメンバーを増やすよりも育てるのに集中したい。加えて、Bランクからは万が一負けたときに脱退者が出る。その時に下部 組織 ( ギルド ) に入れない状態というのは避けたいからな。まずは負けないよう力を付ける」
忘れがちだが下部 組織 ( ギルド ) というのは救済処置だ。
これが生きてくるのがBランクからで、Bランクからはランク戦に敗北すると脱退者が出る。なのに下部 組織 ( ギルド ) がいっぱいで受け入れできませんなんて目も当てられないからな。
いつかの〈テンプルセイバー〉と〈ホワイトセイバー〉みたいになってしまう。
故にゲーム時代はBランクになったらまず負けないよう自力を上げることに集中するのがセオリーだった。
メンバーをスカウトするのはAランクに上がってからでも遅くは無い。
「な、なるほど~」
なぜか今の俺の説明を聞いたハンナを含むメンバーが苦笑していた。
うん、万が一なんてあるの? とでも言いたいのだろう。
まあ無いかもしれないが、備えあれば憂いなしだ。
というか、俺はもうすぐ行なわれる入学式で新入生をスカウトしたい。
また色々と 職業 ( ジョブ ) に就かせてからメンバーに加えたいのだ。
くくく、4月は忙しくなるぜ。
「なんだかゼフィルス君が悪い顔してる」
「そんなことないぞハンナ(キリッ)」
「キリッとしたのです! ルルはバッチリ見たのです!」
「見られてしまったか」
まあ、話はここまでにしておこう。
ようやく到着したからな。
「あ、着いた!」
「みんな、モンスターの露払いありがとうな~」
先に到着していたメンバーたちに手を振って合流する。
俺たちの後方で後ろの守りをしてくれていたアイギスたちにも手を上げて礼を言いつつ合流して、これで全員揃ったな。
「まずは説明だ。ここ〈山ダン〉では基本的に各階層にあるこの崖の上に次へ進む階層門がある。しかし、壁を登るのは難しい。そこでこの壁をひとっ跳び出来る画期的アイテム……が存在する。それがこれ、〈山を越えるトラン・プリン〉だ」
「「「「おお~」」」」
「「美味しそう!?」」
俺が〈 空間収納鞄 ( アイテムバッグ ) 〉から取り出したのは手乗りサイズの――カップに入ったプリン。それを逆さにしてプチっとカップの裏の爪を折ると、大きさが何十倍にも膨れ上がって地面にドカンと落っこちた。
地面にドンと置かれたものに歓声が聞こえてくる。若干名お腹の音も聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
「こうして見ると、でっかいなぁ」
なぜか巨大化したプリンを見て思う。
見た目は高さ80センチメートル、直径3メートルを超える大型ジャンボプリン。
トランポリンとして機能するジャンボプリンだった。
見た目は完全にプルプル震えているプリンなので、本当にこれに乗ってもいいのか、というかこれで本当に山の上までジャンプできるのかと、とても心配なアイテムだ。
一応ゲームではこれに乗ればピョーンと大ジャンプする。そしてちょうどいい具合に天辺に着地できるという意味不明のショートカットアイテムだった。RPGなんかではよくあるアイテムなんだが、リアルで見るとそのヤバさが際立つぜ。
ちなみにこれが巨大化するのはこの壁の近くだけだ。〈山ダン〉のこの崖付近以外だと巨大化せずただのプリンサイズになってしまい。踏むとクシャっとなるので注意が必要だ。
本当にどういう仕掛けなんだろうな? これが摩訶不思議な錬金術か……。
「さて、これ誰が最初に乗る?」
「ん! 立候補」
「カルアか!」
「む、カルアが乗るのなら私も一緒に行かせてもらおう」
手を上げたのはなんとカルアだった。続いてリカも手を上げる。
「いや、最初はカルアだけ頼もうか。身軽だしな」
「む、いや、そうだな。確かに」
「じゃあ、カルア、頼めるか?」
「ん。任せて」
というわけで最初の実験はカルアがしてくれることになった。
カルアなら身軽だし良い感じに着地も出来そうな気がする。
「リーナ。〈竜の箱庭〉スタンバイ」
「はい。――これでカルアさんの居場所はしっかり把握できますわ」
「じゃ、カルア。頼む」
「ん。行ってくりゅぅぅぅぅぅぅ――――」
「か、カルアーーーー!?」
「はえ~~」
「一瞬ですわ!?」
なんとカルア、準備もそこそこにプリンにピョンと跳び乗ったかと思うと、そのまま〈トラン・プリン〉の効果でポヨンと飛んでいってしまったのだ。
マジか。〈トラン・プリン〉って跳び乗っただけで効果があるのか。
「あ、無事に上に着いたみたいね」
「わ~、本当にあんな感じで上に送られるんだ~」
ラナとミサトが唖然と上を見つめながら言った。
カルアは見事に上に着いたようだ。
「カルアーー大丈夫だったかー!?」
「……ん」
そして頭だけひょこっと出す。
「どうやら、無事みたいだな。ほっ」
「こちらでもカルアさんは無事と確認しましたわ」
リカも一瞬ビビッていたが、カルアの無事にホッとしたようだ。
リーナの〈竜の箱庭〉にもカルアが無事な姿が映っている。
「それで、これってどうやって降りるの?」
「……そういえばそうか。飛び降りても、怪我はしないだろうけど」
「な! それはダメだぞゼフィルス、さすがに許可できない」
「いや、俺もさせるつもりは無いから安心してくれ」
ラナの言葉に返すとリカが縋るように俺の肩に手を置いてダメッと言ってきた。
一応ゲーム時代ならここはHPを犠牲に飛び降りれたのだが、さすがに俺もリアルでアイキャンフライせよとは言わない。
「んじゃ、パーティメンバーが跳んでいって、正規ルートから戻ってくるしかないか」
俺は〈トラン・プリン〉を見ながらそう言った。
正規ルートの洞窟。洞窟内は狭いしモンスターが出るので1人で戻ってくるのは推奨しない。
カルアのパーティメンバーである俺、ラナ、シエラ、エステルも跳んでいって洞窟から帰ってくるしか、とそこまで俺は考えたところで思いついた。
「ってあ、そうか。俺たちはもうあれがあるじゃん。エステル、〈イブキ〉出してくれ」
「え? 分かりました」
「エステルそれを壁に寄せてみてくれ」
みんなで移動だったので一度仕舞った〈イブキ〉をもう一度出してもらい、エステルがそれを壁へと動かすと、なんと壁を上り始めたのだ。船自体は地面と水平を保ちながら壁を上へ上へと進んでいく。
そう、浮遊型の乗り物は、壁にぶつかるとスィーと上に進むことが可能なのだ。
障害物を上に迂回である。ちなみに飛べるわけじゃない、進むだけだ。ここ重要。地面しか進めないわけでは無いのが〈イブキ〉の凄いところなのだ。
「わわ、これ〈イブキ〉で登れるの!?」
「と、〈トラン・プリン〉の意味無いじゃん!?」
ビックリするラナとミサト。
ミサトよ、それを言っちゃいかん。同意だけど。
そうなんだよな。〈イブキ〉あるからもう〈トラン・プリン〉使わないんだよなぁ。
そんなこんなで上ったカルアを回収することが出来、〈トラン・プリン〉はただの遊具になったとさ。
まあ、これは〈イブキ〉が量産出来次第、売ってしまおうと思う。