第967話 デカマス山での戦い。初手〈イブキ〉の槍砲。
第967話 デカマス山での戦い。初手〈イブキ〉の槍砲。
時間は少し巻戻り、ここはピラミッド山の中央にあるデカマス山。
この〈ピラミッド〉フィールドで最も広い、5×5マスという驚異のマス。
そこに〈エデン〉のCチームであるメルト、ミサト、エステル、ルル、シェリアが進入しようとしていた。
―――〈イブキ〉に乗って。
「な、なんじゃありゃあああああ!?」
ぬん、とデカマス山の北側から現れたそれを見て男子が思わず叫んだ。
「へ?」
「なにあれ?」
「船? でも、なんで船がここに?」
「ね、ねえ気のせいかしら、少し浮いてない?」
「わ、私もそれ思った……」
そこで戦っていた者たちは思わず手を止めてしまう。
ピラミッド山の中央部は今、西にあるBランク非公式ランキング第六位〈ハンマーバトルロイヤル〉、南東にある第八位〈集え・テイマーサモナー〉、南にある第十四位〈ダンジョンライフル〉、東にある第一位〈サクセスブレーン〉のメンバーたちがいて争っていたのだ。
しかし、突然あんなものが出てきたら手を止めてしまうだろう。
そして最初に我に返り大声を上げたのは〈ハンマーバトルロイヤル〉所属の熊人女子、アディだった。
「アホバカマヌケー! 北には〈エデン〉がある! 散開するのだ!」
「「「〈エデン〉!?!?」」」
その言葉にメンバーが、ついでに周りの3ギルドもビックリ仰天するのと、〈イブキ〉からスラスト砲が発射されたのはほぼ同時だった。
「な、なんだぁ!?」
「なんか撃ってきたあああ!?」
「きゃああああ!?」
「え、〈エデン〉がまたなんか持ち出してきたぞーー!?!?」
「わ、私のカベムス君が!?」
「ハッピちゃーん!?」
「ちゅどーん」とスラスト砲が着弾し、土煙を巻き上げ、阿鼻叫喚が発生する。
そのせいでテイムモンスターがいくつか光に還った。
そう、〈エデン〉はまた何か持ち込んできたのだ。
どう見ても、なんなのか分からない船がいきなり何かを砲撃してきた。しかも、
「う、動くぞアレ!?」
「そりゃ船だから動くでしょ!?」
「アホバカマヌケー! んなことはいいから逃げるんじゃー!」
「はい! 目くらまししまっしゅ!? ――『粉塵クラッシュ』!」
反応の良かった〈ハンマーバトルロイヤル〉はすぐに撤退に入った。
その場で巨大ハンマーで地面をクラッシュ。巻き上がった砂埃を目隠しにして西へとダッシュする。
「良い動きです。あれはそのままの方がいいですね。撃っても当たらなさそうです」
「なら、次はあそこを狙うと良い。あれは〈サクセスブレーン〉だ」
エステルとメルトの意見が一致し、〈ハンマーバトルロイヤル〉はそのままに、まずは手強い〈サクセスブレーン〉を狙うことにする。
「五段階目ツリーでいきます――『トライ・スラストカノン』!」
スキルの発動直後、〈イブキ〉から出ていた二門の砲から槍が発射される。右から2発、左から1発。
「狙いは俺たちか!」
「防御だ! 行けるな!?」
「『クロスクワトロウォール』!」
「『頑強シールド』!」
すぐに〈サクセスブレーン〉は二つの防御魔法と防御スキルを発動した。
四つの壁で防ぐ堅い防御に防御破壊効果に耐性を持つシールド防御。
かなり優秀な防御系能力に、さすがに防げると思っていたが、五段階目ツリーはそれを破壊した。
「ようし、これなら―――ってなんだと!?」
「きゃああああ!?」
「防御が蹴散らされた!?」
まず1発目で四つの壁を破壊。2発目で頑強盾を破壊、3発目が盾士女子に直撃し、吹っ飛ばされてしまう。幸い高い防御力を持っていたタンクだったため一撃退場はしなかったものの、実に三割のHPを一撃で持っていかれた様子は、アタッカーなら一撃で終わりということを示唆しているようだった。全弾直撃を受ければタンクでも危うい。
「撤退だ! すぐに撤退し、ギルマスに指示を仰ぐ!」
「「「「おう!」」」」
〈サクセスブレーン〉もすぐに撤退を選んだ。
〈ハンマーバトルロイヤル〉と同じように、こちらは煙幕系のアイテムを使って東へと向かう。
「目くらまし、こちらはかき消します――『スラストゲイルサイクロン』!」
「わー、エステルお姉ちゃんすごいのです!」
『スラストゲイルサイクロン』はアイギスが覚えている『スラストゲイル』の上位ツリー。
元々相手の攻撃を暴風で散らしながら攻撃する中距離攻撃だったが、それがスラスト砲になると、まったく効果が変わる。
発射された一発の槍は猛烈な速度で煙幕に突っ込み地面へ突き刺さると周囲に暴風を発生させ、煙幕をかき消してしまったのだ。
「うおおお、なんだとぉぉぉ!?」
「うっそーー!?」
「まだまだ行きますよ――『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』!」
姿が顕わになってしまった〈サクセスブレーン〉へ追撃にスラスト砲を撃ち続けるエステル。
だがそこへ衝撃が飛来する。
「うっ! 狙撃ですか!」
〈イブキ〉に攻撃が命中したのだ。
すぐにエステルがそれを看破し、ルルが狙撃が来た方向に指さす。
「ああー! たくさん銃を持っている人たちがいるのです!」
「〈ダンジョンライフル〉だな。ミサト、俺たちで露払いする。行くぞ」
「あ、待ってよメルト様ー! エステルさんに『ハイヒール』!」
〈戦車〉の上では基本〈スキル〉・〈魔法〉は使えない。使えるのは回復くらいだ。
メルトはすぐにこれはエステルだけでは対処は無理だと判断すると飛び降り、魔法を使う。
「『コールドスリープ』! ……ダメか、なら――『グラビティ・アトラクション』!」
すぐに〈睡眠〉状態にする魔法を使うが効果無し。
第二射のスキルエフェクトが輝いたためとりあえず攻撃は吸い込むことにする。
七つの銃弾が指向性のブラックホールへと吸い込まれていき、『グラビティ・アトラクション』が相殺されてしまった。
「すぐに第三射が来る。ここは――」
「お困りのメルト様に私が到着!」
「ミサト、頼むぞ」
「やっちゃうよ! 『正方浮遊結界』! 『リフレクション』!」
ミサトが『正方浮遊結界』を発動すると現れたのは18枚もの鏡の板。
これはこのままではただの自在に動く脆い板みたいなものだが、これにさらに『リフレクション』を追加することで、攻撃を反射する鏡へと昇華させるのだ。
「っ 撃 ( て ) ぇぇぇぇ!!」
そこにスキルエフェクトが瞬く、いくつものマズルフラッシュが光り、銃撃がエステルの〈イブキ〉に襲いかかるが、それを守るように壁となった鏡がそれを跳ね返したのだ。
「跳ね返っちゃえ!」
「なに!? 防御!」
「「「『へビィボウガンシールド』!」」」
跳ね返った銃弾たちが〈ダンジョンライフル〉を襲うが、すぐに防御に切り替えて難を逃れる。
「ありゃりゃ、今ので5枚も割られちゃってるよ」
ミサトが見れば18枚のうち5枚の鏡は損壊して消え、10枚近くはヒビが入っていた。
さすがに数人からの一斉射撃を受ければボロボロになってしまう。しかし、
「ま、直しちゃうんだけどね。『リジェネプロテクバリア』!」
鏡に干渉できる魔法がある。〈結界〉〈回復〉カテゴリーだ。そのうち唯一継続回復を持つ『リジェネプロテクバリア』を発動すると、徐々にヒビが直っていく。
鏡の 反射能力 ( 『リフレクション』 ) 効果は消え、今は単純な防御バリア状態、つまり自在盾となっていた。
「では反撃だ。『ヘイストサークル』! 『マジックブースト』! 『アポカリプス』!」
「エステルさんこっちは任せてねー!」
「頼りにしています『ロングスラスト』!」
〈ダンジョンライフル〉の攻撃を躱しつつ、エステルがさらに〈サクセスブレーン〉へと砲撃。撤退しようとしている東側の入口付近を牽制する。
「くっ、本気でこの人数とやり合う気か!」
「当たるなよ! かなり強い攻撃が混じってる! 上級職は前へ出て防御するのだ!」
「テイマーサモナーのメンバーは!?」
「連れてきたぞ。だが最初の攻撃で何体かのモンスターが消えたそうだ」
「ちょっとブレーンの、本当に〈エデン〉とやり合う気なの!? 撤退しましょうよ!」
「あの砲撃やだ。私の〈セカンドゴーレム〉、カベムス君が一撃で粉砕されたー」
「うえーん、ハッピちゃんが逝っちゃったよー」
「この通りで」
「ぐぬぬ」
〈サクセスブレーン〉の部隊リーダー、ギゼルがぐぬぬと唸る。
初手でエステルが撃った〈五ツリ〉『ホーリースラストバースト』が見事に〈集え・テイマーサモナー〉に直撃し、数体の召喚体とテイムモンスターが光に還ってしまっていた。
中には主力級のモンスターもいて、戦えはするものの戦力の大幅なダウンが発生していたのだった。
「どうするギゼル!」
「牽制しながら撤退は変わらん。正直あれは未知すぎる。あの砲撃は絶対に避けろ。固まるな!」
「イエッサー!」
「『トライ・スラストカノン』!」
「! 来るぞ! 散開だ!」
「全力で避けろーー!!」
エステルの砲撃に〈サクセスブレーン〉はちりぢりになると、八つある出口からそれぞれバラバラに散開して逃げに徹しようとする。
「何人かは討ち取ります。行きますよシェリア、ルル」
「はい。いつでもいいですよ」
「あい! ルルも逃がさないのです!」
「『ドライブ全開』!」
砲撃しながらメルトとミサトが付いてこれる速度で移動していた〈イブキ〉が速度を上げて単独で向かう。
きっぱり東を諦め、南東や南の出入り口から逃げようとする〈サクセスブレーン〉と〈集え・テイマーサモナー〉、エステルは進路を南東に向け砲撃しながら突撃した。
「狙いはこっちか!」
「ギゼル、付いてこられたらどのみち!」
「分かっている。こうなればここで迎え撃つぞ! ギルマスに連絡は!?」
「すでに送信しています」
「よし、構えろ!」
ここで〈エデン〉と〈サクセスブレーン〉の最初の戦いが起こる。