第1002話 〈霧ダン〉爆走! 注目をスルーして30層へ!
第1002話 〈霧ダン〉爆走! 注目をスルーして30層へ!
「〈霧ダン〉、ここに来たのは2回目だな」
「ん。今日は霧が無いね?」
「冬休み期間は学園が毎日〈霧払い玉〉で霧を払ってくれるからな」
前回〈霧ダン〉にちょっとだけ入って素材採取をしたことがある。
カルアはその時と今との違いにキョロキョロしていた。
それもそのはずで、今は綺麗に霧が取っ払われている。
フィールドの奥の方はまだ霧が残っているが、あそこは迷いの霧、あそこの奥へ行けばいつの間にか戻ってきてしまう不思議な場所。フィールドの境界線だ。
大地は草原。
上級ダンジョンでは珍しい、凹凸の乏しい芝生の大地が広がっており、所々遺跡の名残のようなものが残っている。岩も点在していて崖もあり、こんな大地を霧の中〈馬車〉で走行すればどうなるか分からないという作りこそしているものの、霧さえ晴れてしまえばどうということは無い比較的優しい地形だ。
「少し移動しましょうゼフィルス。注目を浴びているわ」
「だな、向こうにちょっと開けた場所がある。一旦そっちに行ってみよう」
シエラの言葉に同意して移動を開始。
学園が上級ダンジョン入門口として開放しているため、現在学生たちの上級入門口として使われている〈霧ダン〉は今日もなかなか混雑していた。
割と人を見かける。そして注目されてざわざわされていた。
こそっと耳を傾けてみる。
「あ、あれは間違いないわ、〈エデン〉よ!!」
「お、おい。なんで〈エデン〉がこんなところに居るんだ!?」
「まさか、俺たちと同じ狙いじゃ?」
「エリアボス狙いだと!? ただでさえ激しい取り合いなのに〈エデン〉に参戦されたら全部持っていかれるぞ!?」
「ま、待て。もしかしたら攻略狙いかもしれないだろ? もしくは素材集めとか」
「攻略狙いだとすると、また〈キングアブソリュート〉が攻略したあとすぐに〈エデン〉の攻略発表が出される気がしてならない」
「上級ダンジョンを学園祭の2週間後に攻略したあれな。〈キングアブソリュート〉が5ヶ月以上の月日を費やし攻略した上級ダンジョンを〈エデン〉がいつの間にか攻略していた件は記憶に新しい」
「どっちみちヤバいことには変わりないが!?」
「いや、俺たちが狙っているエリアボスを取らないのなら良いんじゃないかもう。〈エデン〉止まらないだろ?」
「……そうだな」
どうやら彼らはエリアボス狙いらしい。
上級のお宝目的だな。〈金箱〉のドロップ率が高いからな。
良いことだ。もちろん俺たちは邪魔しないぞ。〈イブキ〉でかっ飛ばして行く予定だからな。
しばらく離れて人目が付かないところまで行くと、アイギスにお願いして例の物を出してもらう。
「では、行きます。〈イブキ〉召喚!」
「それまで引き継がれている!?」
アイギスが〈 空間収納鞄 ( アイテムバッグ ) 〉に手を入れると、盛大な宣言と共に〈イブキ〉を召喚、じゃなくて取りだした。エステルがたまにやっている遊び心だ。
「これが作法だとお聞きしましたが。あれ? でも作法とは言ってなかったような気もします? これをやるとゼフィルスさんが喜ばれると」
アイギスも、言われたから同じことをしただけらしい。
その時に俺が喜ぶとも吹き込まれていたようだ。うん、面白かったアイギスバージョン。俺はいいねとグーしておいた。
ついでにアイギスはアイテム〈モンスターカモン〉を使ってギルドハウスにいたゼニスを呼び出す。
「クワァ!」
「ゼニス。今日はこの〈イブキ〉に乗ってドライブですよ」
「クワァ!」
今日はほぼ移動だけで消費される可能性が高いが、旅は道連れとも言う。
ゼニスには癒し相手となってもらおう。
全員が〈イブキ〉に乗り込むとアイギスが操縦する。
操縦に関しては練習でだいぶ慣れた様子だ。
出だしはスムーズ。スピードはそれほど速くは無いが、初めてのダンジョンに加えて長距離運転だ。安全に行こう。
甲板ではみんなが思い思いに外を眺めていた。
みんな〈イブキ〉に乗った経験があるので驚くものは居ない。いや、ゼニスだけだな。
そのゼニスも喜びながらアイギスの周りを飛行してはしゃいでいる。
俺は道案内なのでアイギスの隣に位置し、指示を出す。
「お、見えてきたな。あそこにあるのが階層門だ。人が多いな。右から回り込んでくれ」
「はい」
あっという間に2層への階層門を発見。
その周りには休んでいる人たちが多く居てこちらをポカンとしながら見つめていたがスルー。
そのまま階層門に入っていった。
出たところでも同じような光景。人が多いな。あれは、ギルド〈氷の城塞〉かな? あ、〈集え・テイマーサモナー〉もいるな。
ふむ、新Aランクギルドも上級ダンジョンに入ダンしているようで嬉しい限りだ。
2層の入口付近で休憩しているということは、ここが今の所の到達階層なのだろう。がんばってほしいな。
ぶつからないようゆっくり動き、 救済場所 ( セーフティエリア ) から脱出したら速度を上げる。
障害物はさほど多くないので進行に問題は無さそうだ。
問題があるとすればモンスターだな。
「キュウアアアア! 「ゴツン」――ギュハァ!?」
飛び掛かってきた雷型の角が生えた恐竜モンスターが光に消えた。
「? 今何か当たりました?」
「クワァ?」
「モンスターが当たったみたいだな。そのまま進んでくれ。周りにも少し気を配ってな」
「はい」
〈イブキ〉は浮いて飛ぶクルーザーのような形をしているため下からの攻撃に弱い側面がある。
まあ、轢いてしまえばいいのだがな。
とはいえ轢けるのは飛び出してきたモンスターだけだ。中には遠距離から攻撃を仕掛けてくるモンスターもいる。
「ヂュヂュヂューー!!」
「きゃあ!」
二足歩行で杖を持ったネズミとモグラの中間のような姿のモンスター〈ネズグラサン〉から電撃の魔法攻撃を食らった。
〈イブキ〉に命中した攻撃はアイギスがダメージを受ける。
ちなみに今の可愛い声はアイギスでは無い。甲板の誰かだ。HPバリアがあるとはいえ電撃が来たらビックリするもんな。
「轢きますか?」
「無視すればいい。よし、1時の方角へ離脱。オバドラ発動だ」
「はい――『オーバードライブ』!」
まあ、攻撃されたので轢くのはゲームではあるあるだが、それをしているとなかなか進まないので無視が一番だ。
「『オーラヒール』!」
「ありがとうございますゼフィルスさん」
「おう。ここのモンスターは雷系が多いから気をつけて行こう。さっきみたいに攻撃されたら基本的に加速で躱す感じで頼む」
「わかりました」
それから3回階層門を潜って第5層。
普通なら守護型フィールドボスが守る階層門のところまで来たわけだが、ここに居るはずのボスは不在だった。
「あら、倒されてるわね」
「ん。珍しい」
「さすが人気のダンジョンだな。転移陣の登録だけして先に進もうか」
〈霧ダン〉は今かなりブームの来ているダンジョンだ。守護型ボスは朝にはリポップしたはずだが、すでに誰かが撃破していた。こんなことはあまり経験が無いのでちょっと驚く。
守護型ボスがいなければ転移陣は起動出来る。これは倒した人じゃなくても問題無いので一度転移陣で1層に戻って登録完了。すぐに戻ってまた〈イブキ〉で出発した。
それからしばらく〈イブキ〉の爆走が続く。
「ここって何層までボスが撃破されているのかしら?」
20層のフィールドボス不在の階層門を見てシエラが言った。
「〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉は別のダンジョンに行って〈霧ダン〉は学生に全面開放しているからな。正直ちょっと分からない。だけど、激化しているとは聞くなぁ」
学生もボスの取り合いに必死だ。
確か今は30層くらいまでの霧が払われ、ボスが狩られていると聞く。
「学園が〈霧払い玉〉を使っているのは30層までだし、そのくらいじゃないか?」
「中層に入ることができるギルドが増えているのね」
「良いことだなぁ」
「はぁ。あなたは相変わらずね。他のギルドが力を付けることを良いことというのはあなたくらいじゃないかしら?」
上級ダンジョンは全60階層。上層が20層まで、中層が21層から40層まで、41層からは下層扱いで、この層が変わった時にモンスターの強さもググンと上がる。
〈キングアブソリュート〉も最初は中層のモンスターに手間取っていたと聞いた。
さらに31層からはかなり難易度が高くなるため学園はまだ30層までしか開放していなかったりする。
20層を超えた俺たちはそのまま21層、中層へと足を踏み入れたが。
「ヂュワアアア―――! 「ゴツンッ」――プギャラアア!?」
「まだ相手になりません」
「クワァ!」
再び襲いかかってきたモンスターが〈イブキ〉に轢かれて光に還った。
アイギスはレベル的にまだ低く12しかない。
しかしSTRが高いのと〈イブキ〉の攻撃力とで無双中だ。
キリッとしたアイギスとドヤるゼニスが微笑ましすぎる!
そうして30層まで到着したところ、そこにはボスが居た。
守護型ボスだ。
「やっとボスモンスターが居たね!」
「腕が鳴るのです!」
トモヨとルルが逸早く〈イブキ〉から飛び降りて戦闘態勢を取る。
いや、2陣はサポート――。
「今日はみんなでやるのです!」
「そうだな!」
――ルルの言葉に予定変更!
ウォーミングアップがてら10人でやりますか!
〈霧ダン〉30層守護型ボスは――〈スノポン〉。
見た目は雪ウサギならぬ雪ダヌキだ!
雷は使って来ません。