第1011話 ユーリ先輩、〈イブキ〉に乗った感想は?
第1011話 ユーリ先輩、〈イブキ〉に乗った感想は?
「……ゼフィルス君。改めて聞きたいのだけど、これはいったいなんだい?」
「何って、見ての通りの上級馬車にして上級戦車――〈浮遊戦車イブキ〉の力です!」
「そうなのか……」
午後にパーティを再編成して〈霧ダン〉へ入ダンした28人は一度ショートカット転移陣で50層へ転移。各々が馬車を取りだしてすぐに出発した。
ただ一つ問題(?)が発生。ユーリ先輩やアマテス先輩が〈イブキ〉に乗ってみたいと言い出したのだ。ふっふっふ〈イブキ〉に乗ってみたいとはお目が高い。
もちろん許可を出した。
まあユーリ先輩は個人で自由に行動するのは許可されていないらしく、パーティメンバー全員で来た。
残りのメンバーはラムダの操る馬車に乗るそうだ。頑張れ。
こちらでもセレスタンの馬車の方にニーコとトモヨが乗り込んだ。
「いやいや王太子殿下と一緒に乗車とか面ど――いやとても恐れ多いからね」
「そ、そうそう!」
ニーコ今面倒って言いかけなかったか? あとトモヨもニーコの言葉に全肯定しちゃダメだと思うぞ? トモヨの場合はニーコよりも肝が太くないのだ。
そんなこんなで、先頭を〈イブキ〉が進み、それを追走する形でラムダとセレスタンの馬車が走ることになった。
〈イブキ〉が浮き上がったとき、走り出したときのユーリ先輩たちのリアクションはとても良かった。アマテス先輩とか超はしゃいでいたからな。
それだけでも乗ってもらった甲斐があるというものだ。うむうむ。
これでスラスト砲も見せられればもっと良いリアクションを見れたと思う。
まあ、今はエステルが居ないから使えないんだけどな。
「む、正面に敵影。攻撃、来ます!」
「ぶちかませ!」
「はい!」
「ビガアアア――「ゴツン」ビビュン!?」
正面に敵の群が現れ、電撃による攻撃をしてきたがアイギスは全て受け、そのまま進んでまるでボウリングのピンのように吹き飛ばした。
「はい、回復するわ」
「ありがとうございますタバサ先輩」
すぐにタバサ先輩がアイギスに回復魔法を使う。
「どうですかユーリ先輩。これが正しい馬車の運用法ですよ」
「……見事なものだ」
その様子をユーリ先輩は感心しながら見ていた。
横にいる【アークビショップ】のソトナ先輩がいつの間にか秘書的な黒縁メガネを掛けてメモを取っている。メガネ秘書白シスター? 新しい……。
ちょっと近寄ってみる。
「これが馬車の正しい運用法……。モンスターを相手にしないでただ突破する。ですが〈キングアブソリュート〉で使うのであれば人数的に問題がありますし……」
「大人数で〈馬車〉を使った移動をするのであれば【商人】系の上級職【キャラバン】を使うのも手ですね。【キャラバン】は乗車人数や空間拡張をパワーアップさせるスキルなんかもあります。サポート役にはもってこいですよ。『ゲスト』で連れてきてそのスキルだけ使わせるんです。運転は【騎士】系に担当させて」
「な、なるほど。【商人】系ですか。まさか【商人】の上級職にそんな 使い道 ( スキル ) があったなんて……」
ソトナ先輩があまりに熱心に考察しているのでついついお節介を焼いたりしながら〈イブキ〉は進む。
どうやら〈キングアブソリュート〉は今まで〈馬車〉をただの運搬や宿代わりとしか考えていなかったらしい。主に泊まるときに大活躍。まあ王族が乗っているからな。
加えて場所が〈霧ダン〉だったというのもあり、〈馬車〉でモンスターを轢きながら爆走するという戦法が使えず、今日までそれが続いて来てしまったようだ。
〈キングアブソリュート〉が〈霧ダン〉に入ダンし始めた頃は〈霧払い玉〉も〈転移水晶〉もなかったからな。迷わないようマッピングも必要だし、どんな危険があるかも分からない。爆走なんてそりゃ知っていてもできないよな。
「ねえねえアリちん見てよアレ! もう階層門見つけちゃったよ!?」
「斬るものが居ない……」
「もう、そんなの最下層まで行けばいるって! ――あ、シエラさーん、私も〈霧払い玉〉投げるの手伝うよー」
ムードメーカー的なアマテス先輩はあっちこっち走り回り、【ソードマスター】のアリナリナ先輩が少し残念そうにそれに付いて行く。
【 守硬戦斧士 ( しゅこうせんふし ) 】のバルガス先輩は先ほどからユーリ先輩の側を離れない。どうやら護衛役のようだ。
「階層門、突入します」
「クワァ!」
「……ゼフィルス君。少し前に聞いたのだけど、この子が竜かい?」
「ええ。ゼニスといいます。可愛いでしょう?」
「クワァ!」
「そうだね、はは……」
俺の腕にとまったゼニスが翼を広げて迫力のあるポーズを決める。
うむ、かっこいいぞゼニス。
だがユーリ先輩の笑顔は乾いていた。どうしたんだろう?
それからゼニスについて聞かれたので〈火山の入口ダンジョン〉で卵を発見した。生まれさせてみれば竜だった的な話をした。もちろんレアイベントや隠し通路のことは秘密である。
「うん。まあ上級ダンジョンも少しずつ攻略が進んでいるしそういうこともあるんだ、ということにしておこうかな」
「?」
「いや、こっちの話だよ。ゼフィルス君は気にしなくていい」
まあ、うん。〈ダン活〉では竜は特別だ。
リアル〈ダン活〉では本物の竜はどういう扱いなのかよく分からないが、気にしなくていいというのなら気にしないでおこう。
その代わりあとで結果だけ教えてもらおうと思う。
何やらユーリ先輩から色々問題を収めようという気配がするので任せても大丈夫だと思う。
〈イブキ〉はシエラが霧を払った方向へ向かっている。
安全重視だ。
ちなみに階層門の場所を俺は指示していない。
さすがにこの先の階層門の位置を知っていることを〈キングアブソリュート〉に知られると厄介なことになるとシエラに言われたからだ。え? 俺? 階層門の場所なんて知らないよと答えておいたよ。
うん。シエラ、それではまるで俺がこの先のことを知っているみたいじゃないか。
ははは。
まあ、適当に進んでも問題無いだろう。
霧が晴れているところは一度通った所だ。典型的な同じ所をグルグル回っているということもないため逆に迷う心配は少ない。
変な所へ行きそうになれば「こっちに何かありそうと『直感』が囁いている」と誘導する最終手段もある。
そうして時間は掛かったが徐々に階層門は見つかっていき、ついに55層の最奥へと到着した。
フィールドボスとご対面だ。
「これが、55層の守護者か」
「これは、剣でしょうか?」
「無機物のボスじゃな」
ユーリ先輩、ソトナ先輩、バルガス先輩が呟いたように、55層の守護型のボスは両刃の剣だ。
操る人物は居ない。ただ剣だけが浮いて階層門を守っている。
デカい剣だ。3メートルはあるだろう。そして雷を纏いビリビリ光っている。
名前は〈ラウンド・オブ・ソード〉。
剣の俺と正々堂々戦え的な名前だ。
なのに本来は霧の中で戦うのでかなりいやらしいボスになっちゃうんだけどな。
深い霧の中から剣だけで斬り込んできて「俺と正々堂々と戦え」? 無理だよ!
そんなボスだ。完全に命名ミスってる。
ユーリ先輩たちが臨戦態勢を取っているが、俺はそれを制した。
「ここは〈エデン〉に任せてください。〈エデン〉なら10人行動が可能ですから。応援に駆けつけた〈エデン〉の実力をまず見てください」
〈キングアブソリュート〉も基本的にボスを攻略するときは2パーティから4パーティで下していたらしい。
ただ、〈キングアブソリュート〉は今8人しかいないので、〈エデン〉が戦闘を買って出る。
「それでゼフィルス、本音は?」
「ボスは俺たちの獲物だ。〈金箱〉は誰にも渡さないぞ!」
「…………」
「いやいやシエラ、乗っただけで本音は少ししか混じってないぞ?」
「だいぶ本音が混じっていたと思うのだけど。特に〈金箱〉の辺り」
「……気のせいだ!」
そう、俺はユーリ先輩たちの手に負えないボスを代わりに狩るだけ。
何も問題はないのだよ。
「ではユーリ先輩。ボス戦中〈イブキ〉は仕舞ってしまいますので」
「うん。僕たちもしっかり見せてもらうよ。〈エデン〉の実力を」
ユーリ先輩の応援に片手を挙げて返し、アイギスとセレスタンが装備を換装して対ボス用にしたところでボス戦を開始した。
ユーリ先輩たちは多分俺たちの実力を目にしてみたかったんだろう。
〈キングアブソリュート〉の前で実力を披露するのは学園祭の〈ヘカトンケイル〉戦以来だ。
〈キングアブソリュート〉は最初は真剣だった。
ただ途中で首を捻り始め、最後の方は言葉も出ないような表情をしていた。
〈エデン〉の安定に安定を重ねたような安定したボス戦は、退場者どころかレッドゲージまで追い詰められたメンバーすら出さず、シエラのタンクに俺も加わって本気モードで攻めて、10分程度で55層のボスは撃破されてしまったのだった。