第1043話 1日目の秘湯巡り終了。ここは本当に温泉か?
第1043話 1日目の秘湯巡り終了。ここは本当に温泉か?
「ふう。いい湯だったなぁ」
「気持ちよかったわね」
シエラの言葉に頷く。
〈 湖温 ( こおん ) の秘湯〉での入浴もそろそろ終わりだ。
気が付けばもういい時間。
あまりに大きい秘湯だったのとスキル『湯着』のおかげでのぼせる心配が無かったので、つい長湯してしまった。
昼食の時は〈イブキ〉のデッキに上がって食べたのだが、その後また温泉に戻ったからな。
今は、15時を過ぎた所だろうか。
さすがにみんな堪能しきった様子だ。
「ゼフィルス、これからどこへ行くの?」
「いや、そろそろ宿に戻るぞラナ。温泉はもう十分堪能しただろ?」
予想以上に長湯してしまったからな。実はもう何個かこの近くに候補があったのだが、今日のところは〈 湖温 ( こおん ) の秘湯〉だけでお腹いっぱいだろう。
「まだ15時じゃない。後2箇所くらい巡れるわ。もう宿に帰るなんて勿体ないわよ」
「そうだなぁ。だが、ここと同じくらい長湯はできないぞ?」
「それは仕方ないわよ。私も初めての秘湯ではしゃぎ過ぎちゃったわ」
おお! ラナがとても素直だ。
水着姿のラナが、女の子座りでペタンと座って手を前に合わせてお願いしてくる。
思わずオーケー! と言ってしまいたくなった。
しかし、ギルドマスターとして引き締めるところは引き締めなければならない。
「なら、こういう時は多数決だな」
「そういうことなら私に任せてよ。必ず可決を捥ぎ取ってくるよ!」
「お願いするわミサト」
「ミサト、不正と八百長はダメだぞ!?」
「そんなことしないよー」
話に入ってきたミサトがラナの指令を受けて敬礼し、そのままロゼッタ号へと向かって行った。
みんなまだ水着姿で〈学生手帳〉は持っていないからな。
しかし、そうなるとまだ着替えるわけにはいかないか。
「ゼフィルス様、お飲み物をお持ちいたしました。水分補給をしましょう」
「おお! サンキューセレスタン」
「ラナ様もどうぞ」
「ありがとう」
お盆にトロピカル的なジュースをいくつも載せたセレスタンがそれをくれたので受け取る。
何時間も湯船にいたのでキンキンに冷えたドリンクが美味い。味的に、これはただのスポーツドリンクか? それなのにかなり美味しく感じるということは結構喉が渇いていたんだろうな。
そうして水分補給をしていると、みんなが続々と〈イブキ〉に戻ってくる。
集合を掛けていたからな。
しかしデッキにいると、女子がツヤツヤホカホカしてタラップを登ってくる姿がどこか色っぽい。
「これ、〈イブキ〉自体を男用、女用で分けるべきだったかな?」
「そんな! ゼフィルスさんそんな勿体ないことしちゃダメですよ!」
「おお? サトルか。というかサトル居たのか」
「はい。今来ました! ゼフィルスさんがとんでもないことを言っていたので防ぎに来ました! ゼフィルスさん、男女別なんてそりゃダメですよ。不健全です。見てくださいあの女子を、目が洗われるようでしょ?」
「サトルは目に邪な汚れが発生してないか?」
「気のせいですって」
珍しくサトルと2人で話した。
サトルもセレスタンと同じで飲み物配りをしていたようだが、渡し終わって自分も補給中のようだ。
「いやあ、美味い! 温泉の後のスポーツドリンクも良いものですね」
「だな! 宿では湯上がりに牛乳も飲みたいぜ」
「わかりますわかります。湯上がりの女子を見ながら飲む牛乳は格別ですよね!」
「全然分かってないな!?」
サトルは湯上がり女子に夢中のようだ。
まあ、サトルにはいつも裏方を頼んで助かってる。
こういう時くらい大目に見てもいいだろう。限度を守れば、だが。
「ほどほどにな。あんまりじろじろ見ないようにしろよ」
「弁えてますって。というかゼフィルスさんの隣だから出来ることですよ。普通はできませんって」
「俺の隣なら出来るのか?」
「そりゃあもう、安心感が全然違いますから」
「いや、意味分かんないんだが?」
「ゼフィルスさんは是非ずっとそのままでいてください。ありがたやありがたや」
「拝む程か!」
よく分からないが、ありがたがられているのは分かった。
まあ、今日は旅行だ。少しくらい羽目を外してもいいだろう。
そうだ、俺もお礼を言っておかないとな。いつもサトルには世話になってるからお礼を言いたいと思ってたんだ。
「まあ、こちらこそありがとうなサトル。いつも助かってる」
「? あ~、全然ですよ。あれくらいの事務仕事、楽勝ですって」
「そりゃすごいな。だけど俺も見せてもらったが、よくあの量を毎度終わらせられるな」
「そこら辺 職業 ( ジョブ ) の力ですね。ハンナ様が大量にポーションを作れるみたいなもので、僕は大量処理能力にビルド振ってますから」
サトルの言葉に俺は神妙な顔をして考える。
最近ではサトルの能力が高くなりまくり、セレスタンもだいぶ手が空いてきたと言ってきていた。サトルはまだ〈助っ人〉で来てもらっているに過ぎないが、しっかり確保しておくべき人材だと思う。
「サトルが良ければ〈アークアルカディア〉の正式メンバーになるか?」
「え? いや~、お誘いは嬉しいですが。僕は〈助っ人〉のままでいいですよ。〈生徒会〉の仕事も兼任していますし。というか〈エデン〉の席を欲しがっている人たちはそれはもう多いんですから。僕みたいなのが座ったら逆に怖いですって」
「そんなにか?」
「それはもう。〈生徒会〉の後ろ盾があっても〈エデン〉には正式加入は遠慮したいです。嫉妬的な意味で。あの人たちにそんな理屈は通用しませんし(ボソ)」
「?」
「えっと。俺的には〈生徒会〉に加入して、さらに〈エデン〉の〈助っ人〉をしているだけで十分将来的に有用な 実績 ( キャリア ) が積めるので、これ以上は過剰な感じです?」
「あ~、なるほど。そういうことなら納得だな」
なぜ疑問形なのかはさておき、ここまで言われては強引に話を進めるわけにもいかないな。
「はは、でも〈エデン〉は好きですよ。セレスタンさんはすごい人ですし、ここでやっていければどんな職場に行ってもやっていけるって言われましたし。実際その通りだと思いますから」
「そんなに過酷なのか? 〈エデン〉の事務仕事って」
「なに言ってんですか。上級ボスを簡単に大量に狩って帰ってくる〈エデン〉の事務仕事が易しいとでも? そんなはずはありません」
「おう。そうだな」
なんとなく切実な訴えを感じた。
「でも全然自重なんてしなくて良いですよ。むしろこれからもドンと来いです」
「それは頼もしいな。これからもよろしく頼むぜ、サトル」
「任せてください。このサトル、〈助っ人〉だからといって手は抜きませんよ! 全力でこなしてみせますって!」
そこで拳同士をゴツンと合わせる。
うむ。サトルは得がたい人材だな。手放すには惜しい。今度〈上級転職チケット〉をゲットしたらサトルに渡すのもありだな。これからも〈エデン〉の事務仕事、頑張ってもらいたいぜ。
とそこで白いウサ耳をピョコピョコさせミサトが帰ってきた。
「おっ待たせー! みんなに聞いてきたよ。秘湯巡り再開希望が25人! 可決だね!」
「マジか。残りは?」
「ここのモンスターを狩ってみたいという狩猟希望とか、採集したいとか、雪合戦したいとかがあったかな?」
「ほう、雪合戦か……」
なるほど、ここじゃ秘湯の周り以外モンスターが居て危険だが。
1層ならほぼモンスターも居ないし、やってみてもいいだろう。
だが、とりあえずは秘湯巡り再開だな。
「よし分かった。じゃあ、多数決により、秘湯巡りを再開するぞ! ただし、時間はあまりないから1箇所につき1時間な~」
「「「「おおー!!」」」」
ということで〈イブキ〉を動かして次の秘湯へレッツゴー。
次は15層の〈 流輪 ( りゅわ ) の秘湯〉へ向かうことにした。
ここは言ってしまえば流れるプールならぬ流れる温泉という秘湯で。山に囲まれ山を囲うドーナッツ状の温泉だ。そして自然物にもかかわらず、普通真上に吹き出す温泉が真横に噴き出している影響で流れる温泉になっているという不思議秘湯である。
どんぶらこどんぶらこ。浮き輪でも出そうかな。出していいかな?
ここで1時間ほど目一杯 遊ぶ ( ・・ ) と次の温泉へと向かった。
本日最後の温泉は16層にある〈 滑山 ( すべりやま ) の秘湯〉と呼ばれている場所で、ウォータースライダーならぬ温泉スライダーのある秘湯。
山の上、山頂付近に湧く小さな温泉だが、その湧く量は膨大で、溢れて川ができているほど。山頂から山を伝って温泉が下に流れているのだ。つまりは温泉スライダー。天然(?)のクセにツルツル滑る不思議素材なので、とても滑りやすい。
温泉自体にスベスベになる効能があるらしく、HPバリアもあるので怪我なく滑ることができる秘湯だ。ちなみに下は滝壺みたいな温泉になっている。ここは本当に温泉なのだろうか? まあ楽しければなんでもいいよね。
山の上まで登るのが少しキツかったが、みんなこの天然温泉スライダーで楽しみまくっていた。
見かねたアイギスが〈イブキ〉で運搬役をしてくれたので助かったよ。
俺も楽しんでしまった。
ここもきっかり1時間。俺たちは秘湯を堪能した後、宿へ帰還するのだった。