第1044話 宿に帰ったら夜は定番のカードゲーム!
第1044話 宿に帰ったら夜は定番のカードゲーム!
宿に帰るにはショートカット転移陣を使った方が早い。
ということで16層の〈 滑山 ( すべりやま ) の秘湯〉から敢えて20層まで進んだ俺たちは、そこのフィールドボスを撃破し、ショートカット転移陣で戻ることにした。
20層のボスは〈冷凍軍艦バットン〉という〈氷属性〉のコウモリの軍だ。
10層の兎と同じく軍隊系のボスで時間経過で氷コウモリが集まって来るのだが、空から攻撃してくるというのが厄介極まりない。
超音波の状態異常攻撃を始め、氷の息を出してくる小型の大量コウモリに囲まれれば、兎の時と同様、簡単に戦闘不能になってしまう。
これも攻略法は同じ、範囲攻撃で小型のコウモリをなぎ払って数を減らし、その後にボスを叩き潰す。
ただ 上級下位 ( ジョーカー ) 級の守護型ボスなので雪兎の時とは比べものにならないほど強く、空の敵ということで難易度が跳ね上がっている。
さらに氷コウモリの攻撃は雪兎の3倍くらいダメージを食らうのもヤバい。
氷コウモリ20匹に群がられたらタンクでも危険だ。1匹ずつ丁寧に処理するべし。
「ルキア、全力支援で頼むぜ!」
「うん! 行くよー『移動タイムブースト』! 『移動スケールダウン』! 『ノロノロタイム』!」
「氷コウモリの動きが遅くなったぞ! 全員範囲攻撃だ! リーナ!」
「はい! 『全軍一斉攻撃ですわ』!」
相手が軍なら、こっちだって軍だ。
ここで活躍したのがルキアの【 先駆 ( せんく ) の 時兎 ( ときうさぎ ) 】。
味方全体へバフを掛ける『タイムブースト』系である『移動タイムブースト』や『攻撃タイムブースト』で回転数を上げ、敵全体へデバフを掛ける『スケールダウン』系である『移動スケールダウン』『攻撃スケールダウン』で動きを悪くする。
ちなみに『攻撃タイムブースト』と『攻撃スケールダウン』は〈スキル〉〈魔法〉を使わない攻撃時の速度に影響する魔法だ。つまりは通常攻撃が早くなったり鈍くなったりする技だな。氷コウモリやボスはスキルばっかりではなく通常攻撃も結構混ぜて攻撃してくるのでこれがかなり重宝する。
多対多の対決では動きが早いものが有利だ。
その影響でコウモリの攻撃に余裕を持って対応できた。
相手が攻撃する前に――範囲攻撃で潰す!
「ルキアもだいぶ新しい 職業 ( ジョブ ) に慣れてきたな」
「うん! これすごいよ! すごい使いやすい!」
「そうだろうそうだろう。人気職だったからな」
昨日〈 上級転職 ( ランクアップ ) 〉したばかりのルキアであったが、ボス戦に参加させてみて良かった。どうやら手応えを掴んだらしい。いいね。
「落ちなさい――『天落』!」
「ギィ!?」
「ナイスよフィナ! 縫い付けるわ! 『大聖光の十宝剣』!」
「ギィィィィィ!?」
ここで空中から接近したフィナが、飛んでいる敵を地面に落とす『天落』スキルで〈バットン〉を叩き落とし、そこへラナが宝剣をぶっさして地面に縫い付けると、そこからはボッコボコだった。
必死に氷の吐息と超音波を繰り出して抵抗する〈バットン〉だったが、シエラが〈バットン〉の顔面に小盾を押しつけるというとんでもない方法で封じてしまい、抵抗もさほどさせてもらえずに光に還ったのにはちょっと同情した。
さらば〈バットン〉!
そしてドロップしたのは〈金箱〉だった。
これはラナとハンナが仲良く開けることに決まる。
先ほど〈湖温の秘湯〉でラナたちに知らせず〈金箱〉〈銀箱〉〈木箱〉をオープンするというお楽しみをしたことがバレたので、その埋め合わせだ。
再びラナが牛さんになることはこれで防げた。セーフ。
そして〈金箱〉の中身だが。
「これは、卵?」
「食用の卵みたいに見えますね」
「ん? あ~、それは〈温泉卵のツクリテ〉だな。中に入っている卵じゃなくてその箱自体がアイテムだ」
「これが!?」
「ちなみに効果は文字通り温泉卵がドロップする。ここになんでもいいから食材を入れてパックを閉じると――温泉卵になるんだ」
「「卵を入れるんじゃないの!?」」
うむ、良いツッコミだぞラナ、ハンナ。思わずハモっちまうダブルツッコミが良き。
ラナとハンナが開けた〈金箱〉には、50個くらいの卵が入る卵パックが入っていた。ちなみに木製。
試しにラナが開けてみるとそこには50個のニワトリの卵が鎮座していて、これは全部温泉卵である。そのまま食べられるぞ。
この〈秘境ダン〉でしか手に入らないアイテムだ。
さらにすごいのが〈温泉卵のツクリテ〉の卵パックに何か食材を入れておくと、自動で温泉卵を作ってくれる点だ。「食材どこ行っちゃったの?」「というか卵を入れなくても良いんだ!?」と散々ツッコミを入れられたネタアイテムだ。
要は食材と温泉卵の等価交換アイテムとでも思っておけば良い。価値さえ釣り合えばどんな食材でも温泉卵に変えられるぞ。
そしてこの温泉卵だが、もちろんただの温泉卵ではない。
「食べてみるか?」
「いいの!」
「お待ちくださいラナ様、まずは私が味も含めて確かめさせていただきます。『戦場物資』!」
俺の提案に素早く反応するラナだったが、シズが速攻で待ったを掛けて、『戦場物資』の中から皿を取り出し、温泉卵をパカリ。
ほんの少し醤油を垂らしてチュルンと食した。
「これは、バフが付いていますね。ステータス全体が3%アップ? あ、それと少しですがMPが回復していますね」
「そう。これはバフの付く温泉卵なんだよ。【調理師】系が作らなくてもバフが付く料理アイテムってことで、これがかなり有用なんだ」
ゲーム〈ダン活〉時代。あまり物の食材を適当に詰めれば料理アイテムが出来上がったのでよく使っていた。
元手がほとんど掛からないので、高い料理アイテムが安価に作れるのが利点。
ただ、本職の【調理師】には全く歯が立たないのはご愛敬。
あと、ちょっとMPを回復するのも悪くない点だ。
早速みんなで食べてみる。
「ん~。なかなか美味しいじゃない!」
「うん! 美味しいねこれ!」
「醤油を垂らさなくてもそのままでもいけるな」
ラナとハンナが絶賛。俺も食べて見たが、濃厚で少し甘く、贅沢な食感がした。
さすがは料理アイテム。
高級卵ってこんな感じの味なのかとちょっと感動した。
これはありがたくギルドに持ち帰らせてもらおう。卵の販売を始めるのは大いに有りだ。楽しみになってきたなぁ。
そのまま1層に転移した俺たちはそのままダンジョンの出口をスルーして宿まで向かい、部屋に戻って一息入れる。
時間を見ればもう19時近かった。ちょっと遊びすぎたな。
下手に一口サイズの温泉卵を食べたせいでお腹がペコペコになってしまった。
すぐに夕食へと向かう。
そこは大きな食堂だった。
さすがは学生向け宿。学生っぽい作りだ。
一般宿の方はビュッフェ方式らしいが、学生宿の方は普通に食堂の時と変わらない。
どうやらここは学園の食堂の一種らしい。
つまりはエクストラダンジョンにあるってだけの、普通の学生食堂だった。
学園の食堂はメニューが豊富な上に味も美味いので残念に思わないのがすごい所。
ギルドメンバーで集まってワイワイ食事を楽しんで、続いて宿の温泉に改めて入り部屋に戻ると、時間はいつの間にか21時になっていた。
宿の温泉はまだ全てを堪能出来たわけではない。
というか湯には今日浸かりまくったので俺とメルトは早々に上がってきてしまったのだ。
ちなみにレグラム、セレスタン、サトル、ラウはもう少しゆっくりしてから戻ってくるらしい。
俺たちも部屋でゆっくり休むとするかとメルトと相談していると、そこへ来客が現れた。
「お、お邪魔しまーす」
「ハンナ?」
「メル君、遊びに来たよ~!」
「げ、ミサト!」
「げっ、とはどういうことかな?」
これはまさか、修学旅行で異性の部屋へ遊びに行く伝説のあれか!
俺はゆっくり休むことを忘れた。
「それでミサトたちはなにをしにきたんだ?」
「もちろん旅行先ですることなんて決まってるんだよ! これじゃん!」
じゃじゃん! とテロップが付きそうな勢いでミサトが出したのは。定番のトランプやウーノなどのテーブルゲームだった。
「今日は寝かさないよ!」
ミサトがトランプを掲げながらかっこいいセリフを吐く。
ちなみにここは学生宿。
消灯時間は決められている。夜更かしは厳禁だ。
まあ、野暮なことは言いっこなしだな!
しかし、旅行先でトランプか~。
なんか学生って感じがして、すっごくいいな!
「よし、消灯時間までだが、全力で相手してやるぜ。まずはなにからやるんだ?」
「まずはダウトから! 数枚出す時は異性に愛の告白をすることという条件付きで!」
「却下」
「じゃあ王様ゲーム!」
「それトランプじゃねぇ!」
ということで定番の大富豪大貧民から始めることになった。
そしてプレイしていると集まる集まる。どんどん部屋に人が集まってくる。
「あー! やっぱりここにいたわね! 私も混ぜて!」
「いいぞいいぞ~。じゃあこの場はリセットしてもう一度最初から――」
「あ! ゼフィルス君が逃げたんだよ!」
「もちろん敗者が勝者に 貢 ( みつ ) ぐのは引き継ぎだよー!」
「そんな~」
ラナが乱入してきたのでこの機会にリセットを望むが、残念。
一度大貧民になるとなかなか抜け出せないから困るぜ。せめてローカルルールは有りにしない? せめて 8 ( や ) 切りだけでも……。
「私はこれでウーノ上がりよ」
「げっ! 7枚出しとかなにをどうやったら出来るんデスか!?」
「あ、あと1枚でしたが、一瞬でシエラ殿に1位を持って行かれてしまいましたね」
「ルルの番なのです! これで青色を宣言しちゃうのです!」
「すまないなルル、青赤の6だ」
「にゅ!? リカにあっという間に赤に変えられちゃったのです!?」
向こうもウーノで盛り上がっていた。
ルル、色替えは隣の人が出せなかった色を言うんだ。それ妨害カードだぞ。
「メリーナ先輩。これ、トランプを〈エデン〉のメンバーさんの絵で作ったら売れそうじゃないですか?」
「!! ナイスアイディアよ! トランプにするんだったら、別のグッズでも行けそうね――」
「ふぁ~、ここはしゅごいところでしゅねアルストリアさん」
「そうですわね。ハンナさんは本当にすごく自然に溶け込んでいますけど、私にはまだ難しいですわ。このメンバーは緊張してしまいますもの」
「あ、じゃあシレイアちゃんとアルストリアちゃん。私たちと遊ぼうよ~」
「私たちなら気後れしなくていいでしょ~?」
「トランプで遊びながら親睦を深めよう」
マリアやメリーナ先輩が不穏なことを口にしているけど流すとして、錬金術師組は仲良し3人娘とトランプで遊ぶようだ。
ハンナ、ここで俺とトランプしている場合じゃないぞ? いや、アルストリアさんがハンナにグーしてる。後押ししているのか? ということはここにハンナを送り込んだのはアルストリアさんたちのほうか。
「ふわぁ。レグラム様、私眠くなってきましたわ」
「じゃあ部屋に戻ろうな。ここで寝ようとするなオリヒメ」
「てへ」
あそこは相変わらず仲が良い。
途中で風呂から戻ってきたレグラムたちも参加していて、さすがに部屋が狭くなってきた。
そういえばさっきからサトルだけいないな。どこに行ったんだろう?
「さあ、もう一度勝負よ! この私が頂点にふさわしいって教えてあげるわ」
大富豪のローカルルールが解禁された。
貧民に落っこちたラナと、大貧民から抜け出せない俺の下剋上が今幕を開ける。
大富豪のメルトと富豪のミサトの賢者コンビが遠い!
ちなみにハンナは平民だ。とても平和。
そんな感じで慌ただしくも盛り上がった旅行1日目は終わっていったのだった。