第1106話 挨拶回り。3年生の卒業と脱退。
第1106話 挨拶回り。3年生の卒業と脱退。
インサー先輩は少ししてなんとか復活した。
どうやら今年も〈百鬼夜行〉とのギルドバトルはできない様子だが、強く生きてほしい。
そんなことを考えながら辺りを見渡していると、人が多すぎて知り合いを探すどころではなくなってくる。
戦闘課の学生って1万人以上いるからな。
ごった返してわけわかんなくなっている。いつの間にか〈エデン〉のメンバーも見えなくなっていた。
「インサー先輩、ちょっと移動しないか? ちょっと人多過ぎだ」
「ああ、賛成だ。ん? あれは、〈千剣フラカル〉のメンバーか?」
「なに? どこだインサー先輩?」
「向こうだ。よし、行くぞ。俺も来年度のギルドバトルの交渉に行かねばならない」
「目的変わってないか?」
卒業お祝いの言葉を贈りに行くはずが、交渉しに行く気になっているインサー先輩。
ま、いっか。多分なるようになるだろう。
「お、やはり〈千剣フラカル〉のメンバーで固まってるな」
「カノン先輩にキリちゃん先輩もいる! おーい」
「ん? あ! ゼフィルス君じゃん! 来てくれたんだ!」
「よくこの人の多さで見つけられたなゼフィルス君。ふむ、ちゃんと話すのは二月ぶりくらいか?」
「合同攻略を達成したのが1月上旬だったから、丁度そのくらいだな。カノン先輩、キリちゃん先輩、ご卒業おめでとうございます」
「俺からも言葉を贈らせてほしい。卒業おめでとうございます」
「ありがとうねゼフィルス君。インサー君」
「ありがとう。しかし、卒業と言っても私たちは学園に教師として残るからな。あまり卒業するという実感はないのだが」
そう、キリちゃん先輩の言うとおり。カノン先輩とキリちゃん先輩は卒業後、この〈迷宮学園・本校〉で働くことが決まっている。
俺の〈育成論〉の授業にも来ていたから久しぶりという感覚でも無い。
ただこうしてちゃんと話すのは合同攻略以来だった。毎回〈育成論〉は質問が大量に寄せられるおかげで忙しかったからな。
「そういえば〈千剣フラカル〉の新しいギルドマスターは決まったのか?」
「うん。キリちゃんの妹ちゃんがマスターだよ」
「ああ、噂をすれば戻ってきたぞ」
「ただいま戻りました。この人波で挨拶から戻るのも一苦労です」
「リンちゃんご苦労様~」
噂をすればなんとやら。〈千剣フラカル〉はSランクギルドに昇格したこともあって、新ギルドマスターの選定にとても時間を掛けたらしい。
実力主義がこの世界のモットーではあるが、かなり細かく選定し、誰からも文句が出ないくらいしっかりと様々な観点から見定めて決めたために、かなり遅くなってしまったとのことだった。
だが、結局はキリちゃん先輩の妹にしてリカのお姉さん。リンカ先輩に決まったとのことだ。担任のフィリス先生の妹でもある。
「あ、ゼフィルスさん。お久しぶりです」
「こちらこそリンカ先輩。今後関わることも多いかもしれないけど〈エデン〉とも仲良くしてくれると嬉しい」
「もちろんです。それと、私のことはリン先輩と呼んでください。リカと間違えそうになりますから」
「なら、リン先輩で」
和風美人、というより可愛い系。キリちゃん先輩の妹にしてリカのお姉さんにしては背が小さく、華奢なイメージを抱くが、カノン先輩と見比べるとそんなに体型が変わらないのでギルドマスターとしても大丈夫だろう。
ギルドバトルではキリちゃん先輩と共に先陣を切って駆け、敵を崩す光景を何回か見たこともある。見た目に反して実力は折り紙付きだ。
とここで今まで大人しかったインサー先輩がリン先輩に声を掛ける。
「リンカ氏――」
「却下します」
「まだ何も言っていないが!?」
しかし、何も言わないうちに却下されていた。早っ!
「言わなくても何を言おうとしたか分かります。どうせギルドバトルの申し込みでしょう。〈千剣フラカル〉の次代を任された身では軽はずみなことはできませんので、ご容赦ください」
「ぐぅ」
インサー先輩から「ぐぅ」の音が出た。
完全に見透かされていた模様。インサー先輩の普段の行ないが分かるかのようだ。
「ならば、検討だけでも」
「……いいでしょう。メンバーとは相談しますが、良い返事は期待しないでくださいね?」
「インサー先輩は〈千剣フラカル〉に何をしたんだ?」
「あはは。まあ、インサー君というか〈ギルバドヨッシャー〉が原因だね。私たちの代はSランク戦で何度もポッキリ折られたものだよ」
「インサーの先代がまた化け物みたいな人でな。私も何度か辛酸を舐めた」
「ユーリ先輩とタイマン張ったキリちゃん先輩をか!?」
なんと驚きだ。
カノン先輩もキリちゃん先輩も苦笑していた。どれほどの実力者だったんだろうか。
「懐かしいね。攻めていたはずなのに、いつの間にか守りになってたり」
「先陣を切ったら分断されて後方をやられたこともあったな。先頭に居るつもりがいつの間にか隊の最後尾に居た、なんてこともあった」
〈ギルバドヨッシャー〉は戦術に重きを置いたギルドだ。
それは先代も同じだったらしいので、個人の能力より軍としての戦術に特化していたのだろう。
「でもリンちゃん、〈ギルバドヨッシャー〉とのギルドバトルはためになることも多いから、勉強するのも有りだと私は思うよ~?」
「なるほど、カノン先輩の言うことももっともですね」
「おお、おおおお! 感謝するぞカノン氏」
「まあ、私はもうごめんだけどね」
「ぐふっ!?」
「台無しだぞカノン……」
インサー先輩が持ち上げられて落とされていた。
全てはリン先輩だよりだ。
しかし、カノン先輩に言われたことを 反芻 ( はんすう ) する様子から、悪い手応えじゃ無さそうだぞインサー先輩。
「それじゃあね~」
「ああ、また学園で~」
カノン先輩たちに手を振って別れると、俺たちは〈キングアブソリュート〉へと向かった。
リン先輩が挨拶していたというのが〈キングアブソリュート〉だったようだ。
「えっとリン先輩の情報によればこの辺に」
「まさか、あの人混みの中心地じゃないか?」
「……あり得るな。リン先輩のあの疲弊も頷けるぜ」
教えてもらった地点は、人がだんご状になっていた。
確かめに行くには勇気が要るな。
「? そこにいるのはゼフィルスさんとインサーさんではありませんか?」
「あ、ソトナ先輩!」
と思ったら救世主登場。
声を掛けてくれたのは〈キングアブソリュート〉のサブマスター、ソトナ先輩だった。
「ソトナ先輩、ご卒業おめでとうございます」
「ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます。それでここに居たのはもしかしてユーリ殿下に挨拶ですか」
そう言ってソトナ先輩はだんご状になった人混みに目を向ける。
「あ~、やっぱりあれはユーリ先輩か」
「今バルガスたちが護衛を務めていますが、今日はもう無理そうですね。後日席を用意しましょうか?」
「あ、それは良い。是非お願いしますソトナ先輩」
ソトナ先輩の提案は渡りに船だったので思わず飛びついた。
「では、また後で連絡しますね。その時はどうかラナ殿下にもお越しいただけるとありがたいです」
「もちろんです。ちゃんと伝えておきますよ」
そう約束してその場を離れる。ソトナ先輩の近くにも挨拶したそうな人がとても集まって来ていたからな。
インサー先輩とも途中で別れ、途中で出会う知り合いの3年生に挨拶しながら〈エデン〉のメンバーの元へと戻ることにした。
〈ホワイトセイバー〉のギルドマスター、ダイアス先輩とも話す機会が得られた。
タバサ先輩の〈白の玉座〉やアイギスの【竜騎姫】について、深く感謝されたよ。
もう知っているのかダイアス先輩!?
でもそんなことおくびにも出さず「なんてことないさ」と流しておいた。俺にとっては当り前のことをしただけなのだから。
そして下部 組織 ( ギルド ) になった〈テンプルセイバー〉の様子も聞いたのだが。
ギルドマスターのレナンドル先輩を始めとする主要メンバーは、しっかり〈テンプルセイバー〉でやり遂げたらしい。〈秩序風紀委員会〉のメシリア隊長と一緒に心身を鍛え直し、今では別人のようになっていると聞いたときは驚いたよ。
実は今タバサ先輩にこれまでのことを謝りに行っているとも話してくれた。
本当にあの状態から改心したのか。ダイアス先輩たちすげぇな。
「〈テンプルセイバー〉と〈ホワイトセイバー〉は今年で解散する。今の2年生なら受け入れ先もあるだろう」
去年やらかしてDランクまで落っこちた〈テンプルセイバー〉の話は、もう知らない学生はいないくらいになっている。来年の新入生加入の見込みはないだろう。
ダイアス先輩たちも卒業してしまうので、〈テンプルセイバー〉と〈ホワイトセイバー〉は解散することにしたようだ。
「ダイアス先輩、お疲れ様」
「こちらこそ、うちのギルドが〈エデン〉に迷惑掛けた。今度はより良い出会いをしよう」
「おう。ダイアス先輩、改めて卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
ニッと笑うダイアス先輩の表情は、以前に会った硬い時とは別人のようだった。
きっと、懸案事項だったものが上手くいったおかげだろう。あの表情を見れば分かる。
ダイアス先輩たちと別れ、さっき話に出た〈秩序風紀委員会〉のメシリア先輩とアオ先輩、ライザ分隊長にも挨拶した。
メシリア先輩はサターンを代表とした男子たちが嫉妬に狂ったときお世話になったのだ。
アオ先輩とは合同攻略以来だ。ライザ分隊長は学園祭の時の警邏隊長だった。
〈秩序風紀委員会〉は衛兵隊の下部 組織 ( ギルド ) 。
みんなそのまま繰り上がり、衛兵隊の仕事に就くらしい。
〈秩序風紀委員会〉に参加していれば衛兵隊に就いた時の出世によく響く。
最初から隊長職とかな。メシリア隊長はそのまま隊長職からの採用とのことだ。すごい話である。
続いてカイリのお姉さん、ユミキ先輩。
「ユミキ先輩もご卒業おめでとうございます」
「ありがとうゼフィルス君、嬉しいわ」
「ユミキ先輩は学園に残る組だっけ?」
「そうよ。私は校内ニュースに所属しているジャーナリストね。学生の時から所属していたけれど。正式採用されたのよ」
知ってる。俺の方にまで噂が届いていたからな。ユミキ先輩は教師ではなくジャーナリストとして学園に残ることになったのだ。
噂によれば、ユミキ先輩を巡って壮絶なスカウト合戦が拳で行なわれたらしい。
次々と倒れ、山と重なる屍たち――それを無視して校内ニュースと正式契約を結ぶユミキ先輩。
一時期は阿鼻叫喚のカオス状態になったらしいと聞く。
そしてユミキ先輩がまずしたのが屍になった人たちへの突撃インタビューだというのだからさすがだ。やめてあげて! もうその人たちのHPはゼロよ!(物理)
「これからもよろしくね、 勇者 ( ゼフィルス ) 君?」
「お手柔らかにお願いします」