第1183話 〈獣王ガルタイガ〉、フラーミナの本領発揮!
第1183話 〈獣王ガルタイガ〉、フラーミナの本領発揮!
あたいは〈獣王ガルタイガ〉の新たなギルドマスター、サテンサ。どうかサテンさんと呼んでほしい。なのに、みんなはあたいのことをぱねぇと呼ぶ。なぜだろう?
おかげで二つ名が〈覇姉〉になっちまったんだが……?
「 覇姉 ( ぱねぇ ) さん、配置完了です」
「誰が 覇姉 ( ぱねぇ ) さんかい!」
そう報告しにやって来たのは卒業してしまったミミナ先輩の後任、現サブマスターに就いている猫人の男子。名をクエスタール。周りからは先輩とかサブマスなんて呼ばれている。
ちなみに昨年度までなんて呼ばれていたかは思い出せない。
「それよりもよかったのですか? これまでのデータを集める限り、今の自分たちですとあれを破壊しても後が続かないと思われますが?」
こいつ、普通に流してきやがったよ。だが、確かに今はそれどころじゃない。
だからあたしも腕を組みつつ答える。
「構わないよ。〈獣王ガルタイガ〉は傭兵ギルド。このSランク戦では勝つことが目的じゃない、依頼主を勝たせることが目的だからね。間違えちゃいけないよ? それに、こんな濃い経験のできるギルドバトルもそうない。あんなのを相手にするんだ、さぞ良い経験が積めるだろうさ」
そう、あたいら〈獣王ガルタイガ〉の目的は依頼主〈サクセスブレーン〉を勝たせること。
ついでにあたいらもこういう大規模なギルドバトルや強敵との戦闘の経験を積む。これはまたとないチャンスだ。とはいえこれは副次的な目的だけどね。
「そうですね。防壁を目の前にして完膚なきまでに潰走するという経験はなかなかに得がたい」
あたいの言葉にサブマスがメガネをクイッと持ち上げながら発言する。
メガネ猫人男子だ。割と熱い所が多い猫人の中では異質なクール系で頭が良い、なのに強い。
そんなクエスタールが冗談を口にするが、クール系が言うと冗談か本気だか分かりづらいよほんとに。
あ、思い出した。昨年度までクエスとかクエスちゃんって呼ばれてたんだっけ。
そんなどうでも良いことを思い出しつつ、あたいたちは〈獣王ガルタイガ〉の現状を振り返る。
〈獣王ガルタイガ〉は猫人のみで構成された精鋭ギルド。同じ猫人で様々な情報交換から強くなるための秘訣までお互い協力して共有しているので年々力を付けているギルドだ。
ただ、今年度ばかりは明らかに戦闘力がダウンしていた。理由はもちろんガルゼ先輩たちが卒業しちまったためだ。さらには、次期【獣王】の 職業 ( ジョブ ) に別のギルドのメンバーが就いてしまったことだろう。
ガルゼ先輩は他のメンバーの 追随 ( ついずい ) を許さない程の実力を持っていた。そんな人が卒業してしまったのだからギルドはどうしても弱体化してしまう。
とはいえガルゼ先輩はちゃんとそれを見越してあたいらの世代を鍛えてくれたからそこまで弱くはなってないけどね。
この前は久しぶりにランク戦を挑まれたけど、楽勝で切り抜けたよ。
だが、〈エデン〉だけはおそらく勝てない。あの〈エデン〉のメンバーたちと渡り合えるのはガルゼ先輩くらいだ。つまりは〈エデン〉のメンバー1人1人がギルドマスター級の力を持つということに他ならない。
そのガルゼ先輩が就いていた【獣王】を今は〈エデン〉が持っているのだからもう難しい答えですらないだろうね。
だが挑む。
あたいらは傭兵ギルド。負け 戦 ( いくさ ) だろうが依頼を受けたからにはしっかりこなす。
それがあたいたち傭兵ってもんだからね。
「そろそろ定刻です」
「行くよあんたたち! 本気で勝つつもりでやりな!」
「「「「応!」」」」
「「「分かったぜ 覇姉 ( ぱねぇ ) さん!」」」
「誰が 覇姉 ( ぱねぇ ) さんだい! ふざけてるとあたいが 葬 ( ほうむ ) るよ!」
まったくこいつらは、ガルゼ先輩の時のノリがまだまだ残ってる。
だからこうしっかり言っておかないと、負けたのは本気を出していなかったからだと言い訳する子もいるからね。全力でぶつかって負けてきな。ガルゼ先輩がギルドマスターだったときはほとんど負け無しだったからね。負けることを覚えるにはちょうど良いだろうさ。
あたいらのやるべきことは単純明快。陽動だ。
本命は〈サクセスブレーン〉が〈エデン〉を陥落させること。
とはいえ〈サクセスブレーン〉に花を持たせるために〈獣王ガルタイガ〉が手加減しようってことじゃない。
完全に本気、〈エデン〉を陥落させるつもりで攻撃し、〈エデン〉の戦力を全てこっちに回させる。
さすがに3方向からの同時攻撃だから全てをこっちに回すのは難しいだろうが、注目を引くことはできるだろう。
「まったく、あそこの ギルドマスター ( カイエン ) もまだ甘い。あたいならば〈獣王ガルタイガ〉を先にぶつけて注目を集めたところに、別の方向から〈カオスアビス〉と〈サクセスブレーン〉を突撃させるね。そうすれば〈獣王ガルタイガ〉と〈エデン〉はお互いつぶし合い、漁夫の利を得やすくなるだろうに」
「さすがです 覇姉 ( ぱねぇ ) さん!」
「「ぱねぇぜ!」」
「っ!」
うっ、しまった。途中から考えが漏れていたかい。クエスタールめ、その名で呼び始めたのがあんただとあたいは知っているんだからね!?
後で覚えておれよと心の中で思いつつも指示を送る。
「バカ言ってないで準備しな! そろそろ時間だよ!」
まずするのは単純に速さを活かした突撃。
不意打ちに近い速度で攻撃することで相手に慌てさせたり焦りを覚えさせミスを誘発する狙いだ。
また、あたいとクエスタール他、3人はここで待機。
〈エデン〉の遠征組が戻ってきたとき、予備兵力がいなければ何も出来ない。
そして外側から俯瞰して見る指揮官も必要だ。よってある程度の数と指揮官は後ろに残っていなくてはならない。
「定刻です!」
「突撃!!」
「「「「応ーー!!」」」」
始まれば長い言葉は不要、まずは一丸となって〈エデン〉拠点との距離を詰め、〈エデン〉の拠点の南東側から攻める。
あたいらは後方に詰め、少し手前で止まり、15人のメンバーが爆弾などを手に持ち接近すると何もないはずの上空からとんでもないものがこちらを覗いてきた。
「な!」
「なんだあれは!?」
多分モンスターだが断言できない。それは非常に不可解な光景で、まるで霧の中から顔を出しただけという感じに樹木系モンスターたちがこっちを覗いていたのだ。あれは――。
その瞬間、幻術が破られたかのように防壁が目の前に出現した。
「幻術の類いだ! 慌てるんじゃないよ!」
これは幻で城塞を隠していたのだろう。そして防壁の上からモンスターがこっちを覗いていたから顔だけが見えたようだ。すぐに発破を掛ける。
その瞬間、城壁の向こうからたくさんのモンスターが降りてきた。しかもその数と質がとんでもなかったんだ。
「な! モンスターの大軍だ!」
「〈クジャ〉じゃない!? この軍団は!?」
「あれもしかしてボスなの!?!?」
〈エデン〉はあたいらの想像を簡単に超えてきた。
ボスが2体とモンスターがわんさか。
見間違いじゃないよ? ちゃ~んと数えたさ。数え切れなかったけどね。
でもさ、あれってあたいの見間違いじゃなきゃ〈山ダン〉のレアボス〈樹精霊・アリドレン〉じゃないかい?
一度だけ運悪く引き当てちまったことがあるレアボス。
クエスタールの方を振り向けばとても顔色の悪いあいつが頷いていた。
どうやら同じ結論みたいだね。
上級ダンジョンのレアボス? アレがなんか防壁を乗り越えてきたんだよ。さらに眷属モンスターと思われるモンスターをわんさか連れてね。
さらには全身がメラメラと燃えているような火の鳥が飛んで来やがったんだ。
「観測!」
「出ました。あれは〈炎帝鳳凰〉です」
「……〈炎帝鳳凰〉だって?」
あの絵本なんかに登場する最強の火の鳥かい? 味方だと心強いが敵だとラスボスとか裏ボスなんて言われているやつだよ? え? 本物なのかい?
そこに居たのはまさに絵本に書かれた火の鳥。いや、本物はより強そうに見えた。
〈エデン〉はあんなのどこで手に入れたんだい!?
「ギュァァァァァァァ!!」
「散開しな!」
「く、近づけない!?」
「あの尾羽の蛇腹剣、見たことあるわ!?」
現場は混乱中のようだ。そりゃあんなのがいきなり出てきたら混乱するだろうさ。
それでも眷属モンスターを次々屠りながら少しずつ近づいていき、時には爆弾を城塞へと投げつける。しかしそれは眷属モンスターに阻まれ、尾羽の乱撃と木の枝による非常に手数の多い攻撃により、ついにうちのメンバーですら進めなくなっちまった。
〈エデン〉はうちら猫人のことをよく分かっているらしい。
猫人は足が速い。 職業 ( ジョブ ) でもAGI補正を得る職は多いが、素でも足が速い者がほとんどだ。だから猫人の集団を攻略するにはまず足を止める必要がある。
その点、〈エデン〉は眷属モンスターをワラワラ出してばらまき、手数の多い〈炎帝鳳凰〉と〈アリドレン〉を繰り出して完全に足から止めに来たんだ。
そして見事に進めなくなっちまった。
こりゃ攻略に時間が掛かりそうだと次の指示を出そうとしたところで、城壁の上に立つ犬人の少女がスキルを叫んだ。
「行くよ~~。〈狩猟解放杖〉! 『首領解放』! 『真の力を取り戻せ』! 『召喚盤よ本気を見せよ』!」
「あ?」
「〈樹精霊・アリドレン〉のHPバーが3つになりました! あの〈クジャ〉のときと同じ、【傲慢】のユニークスキルです!」
「ラララー!」
「全員下がりな!」
「逃がさないよー〈アリドレン〉『拘束の蔓』!」
「ちょ、嘘!? うわああああ!?」
「 蔦 ( つた ) が絡まって!? え? そこの〈炎帝鳳凰〉、何してるの!? きゃああああ!?」
「〈アリドレン〉がビームに加え蔦を使って足を止めてくる!? そこに〈炎帝鳳凰〉や眷属モンスターが攻撃に加わるですと!?」
「まだまだー『レアボスユニークスキル解放』だよー!」
「ラララー!!」
「待って、あれって、ユニークのエフェクト!」
「防衛モンスターがユニークスキルだと!? か、回避ーー!?」
「防御しろ!」
「ララララー!!」
「「「わああああああああ!?」」」
「全体状態異常攻撃……!!」
阿鼻叫喚とはこのことかい。なんということだい、上級のレアボス〈アリドレン〉と〈炎帝鳳凰〉のコラボレーション。
本当に〈エデン〉は猫人の相手を心得てるね! 下がらせる間もなくいきなり手札を切ってくるかい!
レアボスのユニークスキルの発動? 防衛モンスターがユニークスキルを発動するとか聞いたことがない。
レアボスのユニークスキルは自分の等級の1段上のスキルを発動することができる。
一瞬溜めを作ったかと思うと、アリドレンから無数に枝が伸びてマスの全域を覆ったんだ。
猫人は足で回避することに特化しすぎて防御力はそんなに高くはない。
つまり全体攻撃は非常に大きな弱点だ。
全体攻撃のユニークスキルは〈獣王ガルタイガ〉のメンバー数人に直撃。あたいの指示で無事マスを超えて下がれたのは6人だった。
他のみんなはスキルやらなんやらで防ごうとしたが、大体の者が食らったようだ。
直撃した者は全てが状態異常に掛かっているという極悪仕様だったよ。まったくとんでもない攻撃だね。それなのに。
「行っけーウーちゃん! ルーちゃん! フーちゃん! 追撃だー!」
3体の大型〈ウルフ〉モンスターが追加で城壁を降りてきた。
〈エデン〉は思い切りが良すぎるねぇ。
流れが完全に〈エデン〉に向いてる。この流れをぶった切ってこっちに持ってくるにはもっと強いインパクトが必要だ。
想定以上に早かったが、こうなれば仕方ない。
「クエスタール、あたいらも出るよ!」
「はい!」