第1184話 〈獣王ガルタイガ〉の本気、動く覇姉と冷熱。
第1184話 〈獣王ガルタイガ〉の本気、動く覇姉と冷熱。
走りながらクエスタールが3体のウルフを看破する。
「出ました。あれは〈プロミネンスウルフ〉、〈アイスエイジウルフ〉、〈ライトニングセンスウルフ〉というそうです!」
「あれはどこのモンスターだい?」
「さあ? 何しろ〈エデン〉は訳が分からないギルドですから」
「…………」
つまり火のウルフ、氷のウルフ、雷のウルフだ。
前線はかなりダメージを負い、状態異常を発生させている者も多数だ。
そんなところに突っ込ませたら被害がとんでもないことになるのは目に見えている。
さっきからそれを為しているのは〈エデン〉の【大罪】の1人、【傲慢】のフラーミナ。
【大罪】系とかギルドマスターやサブマスターを張るレベルの 職業 ( ジョブ ) だ。
それが〈エデン〉では一般のヒラ。
マジでとんでもないギルドだよ。
いくら防衛モンスター込みとはいえ、たった1人相手に〈獣王ガルタイガ〉がこうも翻弄されるとはね。だが、ここで終わると思ってもらっちゃあ困るよ。
「〈獣王ガルタイガ〉ここに有りって分からせないとね。――『超進化』!」
「「「「『超進化』!」」」」
ユニークスキルを発動した瞬間、ここにいるあたいを含めた5人の姿が変化する。
『超進化』は下級職、【獣装者】のユニークスキルだ。
自分の能力値を上昇させるユニークスキルにしてはクールタイムが短く、使い勝手が良い。
問題は、自分がどんな姿に変化するか使うまで分からない点だろう。あたいの場合、かなり猫に近づいちまって四足歩行の方が違和感無いレベルまで変化しちまうのが欠点か。
なのであたいは服着たまま四足で攻めるのさ。見た目は黒豹。強そうだろ?
ちなみにメガネのサブマスは二足歩行の豹柄メガネ男子へと変化している。
あたいたちが『超進化』を覚えているのも全ては【獣王】を目指した結果さ。まあ、成れなかったけどね。そういうことはよくあるので気にしてない。
あたいが上級職に就ける時にはすでにガルゼ先輩がいたからね。
諦めもつくってもんさ。おっと話が脱線したね。
【獣王】に就けなかったあたいたちみたいななのがたどり着く上級職は大体5職。
その中でもあたいは【覇者】というトップクラスの 職業 ( ジョブ ) に就いている。
〈獣王ガルタイガ〉の中でも【覇者】に就いているのはあたいだけだ。だからこそここのギルドマスターを任されている。
他のメンバーも【ビーストマスター】だったり、【ハイクルニャイダー】だったり強力な 職業 ( ジョブ ) 持ちは多い。
サブマスはなんと驚くといい、先日【大罪】系の1つ、【憤怒】に就くことに成功したんだ。
だからこそサブマスの地位に就いたとも言える。
本当はまだLVが低いためにここでは出さない予定だったが、ここまで一方的にやられてしまっては仕方ない。
「行くよあんたたち――新生〈獣王ガルタイガ〉、参る!」
「「「「応!!」」」」
「ララ?」
「『覇者の歩み』!」
まず〈アリドレン〉に斬り込んだのはあたいだ。
マスを超えた瞬間からトップスピードで宙を駆け〈アリドレン〉へ突撃した。
「ララー!?」
そのままの勢いで城塞に押し込めて激突し、〈アリドレン〉を止めるとそこへメンバーが集まる。
「『ラース』! ううううおおおおおおおおおおおおお!」
【憤怒】のメガネが怒りに叫ぶ。いつもクールなのに、これを解放すると常に怒っている見た目に変化する。こいつが〈 冷熱 ( クールヒート ) のクエスタール〉と呼ばれている所以さね。これで火が付いたクエスタールは続いて【憤怒】ユニークスキルを発動する。
「『ラース・ド・ドラゴン』!」
そして豹人から4メートルほどのドラゴンへと変身。これも最初見たときはびっくりしたよ。
怒りは肉体に変化を及ぼし、さらなる超進化を可能にする。
二段階の超進化さ。
その姿は豹とドラゴンが混ざったような、独特な迷彩を持つドラゴン。
首に光るタリスマン〈 怒竜 ( いかりゅう ) 変身札〉とメガネが、あいつがクエスタールであると現してる。
クエスタールはそのまま城壁に押し込まれている〈アリドレン〉へと飛び掛かり、肩に噛みつきさらに抑え込みながら拳を連打し始めた。ドラゴンが格闘戦って、かなりシュールだね。
【憤怒】の能力は〈変化〉と〈強化〉。主に肉体を強化して戦う 職業 ( ジョブ ) だ。
あたいたちも〈アリドレン〉へ次々スキルで攻撃を仕掛けると、そこへ3体のウルフが駆けてくる。
はっ! 素直だね!
「おおおおおおおおお!!」
「「キャイン!?」」
しかし、巨大化したクエスタールの尻尾なぎ払いで2体が吹っ飛ばされ、残り1体。〈プロミネンスウルフ〉のみ。
「『スピリッツハウル』! ウオオオオオーー!」
「ウォォォォン!」
あたいが相手をして五段階目ツリー、覇者の咆哮を発射すると、ウルフも大きな火の光線を放ってきた。しかし、あたいの勝ち。
「ウォン!?」
火の光線は吹き飛び、あたいの咆哮が直撃すると、すぐにサブマスの尻尾でなぎ払われ、そこからガルタイガの攻撃を一気に受けてそのまま光に還っていた。いや、強いね【憤怒】。さすがは【大罪】職。
やっぱり【大罪】相手には【大罪】をぶつけないとダメさ。
そして、〈炎帝鳳凰〉の接近。迫る無数の尾羽。
こいつと〈アリドレン〉を連携させちゃあいけない。あたいが相手をする。
「『覇道は全て、全ては覇道』!」
【覇者】であるあたいからすれば、あたいの覇道に歩めぬ場所はない。つまりどこでも足場にできる。空中戦だって可能だ。しかし、さすがは伝説の凶悪モンスター。
「こ、りゃ、なかなか、避けるのに、骨が折れるねぇ!」
飛行型だからやりにくいったらありゃしない、それに加えて尾羽の攻撃が予想以上に速かった。いくらか掠っちまったよ。
「うおおおおおおおおおお!!」
「あの【傲慢】を狙いな!」
「ふふふん。そうは行かないよー『浮遊』!」
「な! 浮いた!?」
ようやくボスを抑え込み隙を突いてもう1人の【大罪】職、【傲慢】のフラーミナへ仕掛ける指示を出したら当人が宙に浮いちまった。
多分、あの左手に持つ杖の影響さ。くっ、魔法を撃ちだしてその反動で推進力を得ているみたいでなかなか当たんないねぇ。あれはあたいがやるしかない、予定変更だよ。
「落ちな〈炎帝鳳凰〉! 『覇道は我に有り』!」
これは突進スキル。空中だろうが水上だろうがどこへだって駆けることが可能、しかももの凄く速く、ぶつかった者は覇者の行く道を阻んだとして弾き飛ばされてしまう、吹き飛ばし系スキルだ。あたいはこれを〈炎帝鳳凰〉へとぶつけた。
「ギャアアアア!?」
「うおおおおおおおおお! 『ラースドラゴンクラッシャー』!」
「ナイスだよ!」
そこへ〈アリドレン〉をダウンさせたクエスタールが、振り向き〈炎帝鳳凰〉へ標的を換えて跳躍、そのまま地面へと叩き落とした。やるね! すぐにあたいたち〈獣王ガルタイガ〉のメンバーがそれに集まり、あたいも含めて総攻撃を仕掛けると、ようやく〈炎帝鳳凰〉を光に還すことに成功する。
ボスの撃破。
本来なら士気が爆発して歓声が響き渡るだろう快挙だ。
だが、それは後でいい。次にあのフラーミナをやらないといけないからね。
空中戦ではあたいに勝てないだろうさ。
眷属モンスターたちはあらかた他のメンバーが倒した。
〈アリドレン〉はクエスタールが抑えられる。あたいはフラーミナだ。
そう指示を出そうとしたときだった。気が付けば、あたいらに混じって見慣れぬ猫人がいた。あれは――〈見晴らしの 黒猫 ( カルア ) 〉!
「ぶい」
「!! あんたたち回避――!!」
「ん! ――『128スターフィニッシュ』!」
「くあああああ!?」
くっ、いつの間に混じっていたんだい!
LV30の主力の1人が斬られて退場していっちまったよ!
〈アリドレン〉もダウンから回復し、動き出してまた暴れ始めてる。
「黒猫を止めな! クエスタールは〈アリドレン〉を抑えるんだよ!」
「! 覇姉 ( ぱねぇ ) さん、城壁の上から援軍!」
「っ!! このタイミングかね!」
ここで戦力の追加。
ボスで疲弊させて兵力を送り込み狩り取る。
まったく嫌になるくらい冷静さね!
「大きい的ですね。『バードデスストライク』!」
「では、私も行きます。――『インパルススラストキャノン』!」
「うおおおおおおおお!?」
「ズドドドンッ!」と強力な衝撃発生。サブマスのHPバーが一気に半分も削られていた。
なんだって!? いくらLVがまだ低いとは言え相当な強化をしているのにこれかい!? 猫人は回復が苦手だ。ドラゴンに超進化したクエスタールは30ミリリットルのポーション瓶を 呷 ( あお ) ることもできない。つまりもう一撃今のを食らえば退場するということ。
城壁の上、あれは〈イブキ〉という名の戦車! 狙撃手が2人かい!
「援護――! 『覇者の歩み』!」
ここでクエスタールを失うわけには行かない。
宙を駆けることのできるあたいが止めるしかない!
「ダメなのです! そこにいてください! 『 斬空逃罰 ( ざんくうとうばつ ) 』!」
「がはっ!?」
何が起こったのか分からなかったが斬られたのは分かった。
しかも気が付けば〈無双の 幼聖 ( ようせい ) 〉と呼ばれる幼女、ルルが近くに居た。いったいいつの間にいたんだい!
「とう! 追撃なのです!」
「見せてあげます。精霊の神秘。見逃さないでくださいね――『大精霊様二大降臨』! 『古式精霊術』! 『大精霊降臨』! お願いします『イグニス』! 『テネブレア』!」
ノックバックとルルの追撃に対応していると、さらにエルフの大精霊が2体呼び出されていた。
「散開しな!」
「『イグニス・バースト』! 『テネブレア・ダウンダーク』!」
「うおおおおおお!?」
すぐに大精霊から距離を取らせる。しかし、相手の牽制もあって逃げ遅れたメンバーが多数。
能力値に大きなデバフが掛かり、さらには火の光線が放たれ、他のメンバーが宙を舞う。
そしてそこへ、さらなる強大な者がやって来た。
「お待たせしました。追加、連れてきましたよ!」
「クワァ!」
【竜騎姫】アイギス。そしてその騎乗竜のゼニス。さらに後ろからドシンっと防壁を降りてきたのは、あの〈学園出世大戦〉で猛威を振るった――〈クジャ〉。
一気に戦力をぶつけて押し潰す気だね!
「俺が時間を稼ぐ、その隙に態勢を立て直せ! ――『ラストラース』!」
ドラゴンへの変身から戻ったサブマスがそう叫ぶと最後の怒りを発動した。
『ラストラース』は【憤怒】の究極強化とも言われている四段階目ツリーで、HPが15%以下の時、2分の間まるで無敵のような堅固な防御力と、燃え尽きる瞬間に起こる爆発的なエネルギーの攻撃力を合わせ持ったスキルだ。2分を過ぎるとHPが1になるという特性上、勝つか負けるか、最後の決戦という場で使われることもままあり、ギルドバトルではかなり盛り上がる人気のスキルでもあった。
つまりサブマスは、ここで大暴れしてあたいたちが立て直す時間を稼ごうというのだ。
サブマスの覚悟、確かに受け取ったよ。
――そう思っていたんだが。
「もうHPも僅かね! これで決めてあげるわ――『反転ヒール』! 『ダークヘルヒール』!」
「……お?」
「は?」
あれは、〈眠り姫エリサ〉? その黒いヒールがサブマスに発動すると、回復するどころかHPが減り、そしてゼロになる。あまりに硬すぎてダメージを与えることすらままならない『ラストラース』が、破られたのだと理解したのはサブマスが転移陣で退場したときだった。
防御力無視の固定ダメージスキルかい!!
「はいはいみんな眠ってー! 『スリーピング・シンドローム』!」
「ぐっ!? Zzz……」
「な!」
バタリと近くに居たLV30のメンバーが眠った。
あたいはレジスト出来たけど。3人中2人は眠ってしまったようだ。
しかもいつの間にか、例の砂時計が発動されている。
あたいは速攻で〈ポーチ〉から〈体内状態ポーション〉を取り出してそいつにぶん投げる。
命中、これで〈睡眠〉の体内状態異常は解けるはず。
だけどその瞬間、あたいは力が抜ける感覚に襲われた。
こ、これは、〈呪い〉状態? いったいいつの間に――。
HPバーに目を向けると、〈呪い〉状態を示すアイコンが光っていた。いつ付与されたのか、【覇者】の強力な状態異常耐性をどうやって突破したのか、そんなことを考えているとエリサの声が聞こえる。
「ふふん! 私の新魔法『スリーピング・シンドローム』は凄いのよ。発動中は何回も〈睡眠〉状態判定を与えるの。1度はレジれても、2度目はアウトかもしれないわ。さらに眠った人を起こそうとすると〈古代の封印杖〉の『眠りを妨げる者には呪いを』が発動して強制的に〈呪い〉状態へ、そして『抗えない睡魔の罠』が発動すると、今度の〈睡眠〉判定からは逃れられなくなるのよ」
説明ありがとよ! 半分くらい分からない言葉が混じってたが、これが『睡眠耐性』を貫通する効果だとはわかった。
すぐに〈体外状態ポーション〉で〈呪い〉を解こうとするが、瞬間ぐらっと強い眠気が襲ってくる。HPバーを見ればそこには〈睡眠〉の状態異常アイコンが点滅していた。
ここまでかい。
だが、目的だった〈エデン〉の防衛力の主力を引きつけることはできただろうさ。
後はカイエン、頑張りな。