第1193話 ノーアの希望とアリスたちの希望。
第1193話 ノーアの希望とアリスたちの希望。
「こほん。では単刀直入に申しまして、ゼフィルス様に学園長がお願いいたしました【姫軍師】の助言を、少し待ってほしいんですの」
「お?」
ゼルレカとの久しぶりの出会いに今さっきまでテンション上がりまくっていたノーアだったが、個室で俺と向かい合う形で着席すると咳払いで空気をリセットしつつ真剣な雰囲気を出し、俺を様呼びにして真摯にお願いしてきた。
しかも意外なことに、その要件は「ちょっと待って」だった。
「それはもちろん構わないぞ。何か理由があるのか?」
前々から学園長からお願いされていたことだが、待つのは全然問題ないと頷いた。
「そうなのです。また、つかぬことをお聞きしますが、ゼフィルス様は【姫軍師】以外の発現条件も存じていらっしゃいますか? 例えば、「公爵」のもう1つの姫の名が付く 職業 ( ジョブ ) などの」
ほう? 俺に発現条件が分かるかだと? もちろん分かるとも! 全部分かるとも!
そう言いたかったがリーナの視線がジッとこちらを見つめていたので俺は静かに、そしてクールに答えた。
「もしできると言ったら?」
「でしたらお願いしますわ! 私はそちらに就きたいんですの!」
「あれ? …………確か孫娘が【姫軍師】になることを願っているみたいなことを言われた気がするんだが?」
「あ、それはお爺さまの 切望 ( せつぼう ) ですからお気になさらなくて大丈夫ですわ」
「切望を気にしなくていいの!?」
あれ? 切望って心から強く望んでるとか、そういう意味じゃなかったっけ?
いや、まあ孫娘に【姫軍師】へ就いてほしいと強く望むのは普通のことなのかもしれないけど。
しかしなるほど、ノーア本人はそっちの 職業 ( ジョブ ) に就きたいのか!
「今はまだお爺さまを説得できていませんの、ですが絶対に頷かせてみせますわ! その時はどうかゼフィルス様に私が望む 職業 ( ジョブ ) に就けてほしいのです! ここでゼフィルス様が「できる」と言っていただければお爺さまを説得できますの!」
「こらこらノーア、前のめりすぎですわ」
「お嬢様、落ち着いてください」
と、そこでノーアの両肩にリーナとクラリスの手が乗せられる。
気が付けばテーブルに手を突いたノーアがぐいっと前のめりになっていた。かなり顔が近い。
「あら? おほほ。失礼いたしましたわ」
そう言って席に戻るノーア。どうやらリーナよりも気の強いお嬢様のようだ。
「ねぇねぇキキョウ、今の見たー? すっごく大きい」
「う、うん。テーブルについちゃうんじゃないかと思いました」
「13歳の頃には既にデカかったからなあの姫さんは……あの頃よりもむっちゃ育ってやがる」
何やら違うソファで順番待ちをしているアリス、キキョウ、ゼルレカがノーアを見てこしょこしょ話していたが、遠くてよく聞き取れなかった。
「ま、そうだな。できるかできないかで言えば、できる」
「本当ですの!」
「ああ。任せろ!」
俺は自分に親指を向けニカリと笑顔のキメ顔を作って決めてやった。
決まったぜ。
俺に任せれば百発百中。今までも全てを相手の希望する 職業 ( ジョブ ) に就けてきたのだ、できると言ってもなんの問題もない!
さらに任せろとも言っておく。ノーアの 職業 ( ジョブ ) があれなら、是非〈エデン〉に来てほしい人材だ。逃す手はないぜ! 職業 ( ジョブ ) の助言までバッチリ俺に任せとけと、そう宣言しておいた。そして〈エデン〉に来てもらおう!
「ありがとうございますゼフィルス様! はぁ、感激です! では早速お爺さまの説得にいかなくてはいけませんわ」
「おう。説得できたらいつでも来な! 待ってるからな」
「はい!」
そこでグッとノーアと固い握手をする。
【姫軍師】じゃなくて本当にいいのか。ノーアがいいのならもちろん俺も構わない。
リーナもいるしな。2人目の【姫軍師】はうーん微妙、というところなのでもしノーアが【姫軍師】を選んでいたら〈エデン〉に誘うことは無かっただろう。しかし、もう1つの〈姫職〉ならば話は変わる。
故に俺としては何も問題無い。
次にクラリスの表情を見ればすまし顔のポーズだった。
止めもしないということは、クラリス的にもノーアの意思を尊重していると思われる。故に、俺に任せてしまっても問題ないわけだ。
「ではゼフィルス様。今日はこの辺でお暇させていただきますわ」
「おう。気をつけてな!」
「はい! ――ゼルレカさんもまた。学園では同じクラスになれるといいですわね」
「そ、そうだな。あたいも楽しみだ」
こうして、もう居ても立っても居られないといったノーアが最後にゼルレカに手を振って帰って行った。
きっとこのまま学園長の下に突撃するつもりだろう。なんかそんな空気を感じた。楽しみだなぁ。
リーナにギルドハウスの出入り口まで送ってもらい、3人が部屋から退出すると、今まで別のソファにいたゼルレカが項垂れるように力を抜いた。
「ふぁぁ、マジここに座っているだけで疲れた」
「大丈夫ゼルレカ?」
「ああ、アリスは天使だな」
なんだか癒しを求める表情をしてアリスを撫でている強気なゼルレカの新たな一面を面白そうに眺めていると、それに気が付いたゼルレカが顔を赤くしてキッと見てきた。
「わ、悪かったなあたいが弱気で」
「何も言ってないぞ?」
「顔が言ってんだよ!」
恥ずかしい姿を見られたかのような反応に少し笑みが深まってしまったようだ。
ゼルレカがギャンギャン吠える。照れ隠しだな。
「うう~、変なところ見られた。あのゼフィルスさんに、兄貴と対等かそれ以上の存在のゼフィルスさんにー」
「ゼルレカは俺のことをどう思ってるんだ?」
「あの、逆にゼフィルス先輩はご自身の影響力をもうちょっと知った方が良いと思います」
頭を抱え、今度はアリスによしよしされるというさっきとは真逆の光景のゼルレカを見てキキョウへ聞いてみると、なぜかキキョウにジト目で見られた。
おお!? キキョウちゃん、ジト目使えるの!?
「こう見えてゼルレカは繊細なので、偉い人に失態を見られるとこうなってしまうんです」
「べ、別にあたいは繊細じゃねぇよ!?」
なるほど。そういえばゼルレカは猫人。猫人の特性には強い主人に従うというものがある。
強さに敏感で、強い人に対して敬意を持つのが猫人だ。
俺はかなり強い人認定されているっぽいな。
キキョウから1年生視点で俺をどう見ているのかについても聞けてとても有意義だと思うと共に、ちょっと照れる。
ふっふっふ、あんまり褒めると先輩風吹かせちゃうぜ?
「ふう。今戻りましたわ」
「お、リーナご苦労様。なんか大変そうだな?」
「ええ、ノーアとは一時期一緒に住んでいたことがありましたの。クラリスともそのころから知り合いですわ」
なんと!
いや、なんとなく知り合いみたいだったから昔なんかあったのかなとは思ったが、一緒に住んでいたとは。
「ノーアはファグナー家のご息女ですから、見聞を広めるため国中を見て回る必要がありましたの。このファグナー家の領地は王都に近いので、国からしたら心臓部ですから」
ほぅ。ファグナーとは学園長の家名である。
俺もこの世界に来て初めて知ったが、この世界には3つの公爵家が有り、南にあるリーナのサウンレイク公爵家と、北にあるノーライズ公爵家、中央にあるファグナー公爵家が治めているらしい。
その中でも中央のファグナー公爵家が一番責任が強く、ファグナー家の子どもは国中を知るために旅をしなければならないそうだ。
リアル版可愛い子には旅をさせろ!? 凄まじい家風だな。
リーナの話によれば3年ほど各地を転々として巡り、リーナの家には半年ほど滞在していたらしい。
「最初に会った頃は私の後に付いてくる大人しそうな子だったのですけど、本来の気質なのか、勝負ごとになると負けん気を発揮するようで、結構エネルギッシュな子ですわよ」
「ああ~。確かに姫さんはそういうタイプだ。最初は本性を隠すんだ。あまり隠せてねぇところも変わってないな」
リーナの言葉にゼルレカが頷く。
どうやらノーアは旅の途中、ゼルレカの住んでいた里にも泊まったことがあるらしい。
なるほど。そういう繋がりだったか。
思いがけぬ繋がりに相槌を打ってると近くに幼女が来た。
「ねぇお兄ちゃん。難しい話、終わった?」
「もちろん終わったぞ。ごめんな待たせて」
「ううん。あのね、アリスたちも、お兄ちゃんにお願いがあってきたの」
そう幼女、じゃなくてアリスが可愛く言う。
あかん。そんな頼まれかたしたら「はい」か「オーケー」か「喜んで」か「なんでも叶えてあげよう」しか言えないよ!
「なんでも叶えてあげよう」
「ゼフィルスさん、こら」
リーナに怒られてしまった。リーナがそんな風に叱るのは珍しくて内心ちょっとニヤけてしまうのは秘密。
俺はそんな内心を隠してキリッとした真剣な表情でアリスの言葉を待った。
「あのね、アリスたちもね、希望する 職業 ( ジョブ ) に就きたいの。お願い手伝って?」
「はい! オーケー! 喜んで!」
俺は即決した。