第1304話 〈幸猫様〉の新しいボディガードが必要だ!
第1304話 〈幸猫様〉の新しいボディガードが必要だ!
―――公式上、世界史上初の試み。
上級中位ダンジョンを解放するため、安全を確保すべく調査団が結成されランク1ダンジョンである〈謎ダン〉へ50人の精鋭が調査に向かった。
そして調査団は9日で――なぜか 攻略を終えて ( ・・・・・・ ) 帰ってきた。
そんな摩訶不思議。よく理解できない大成果は一気に、時間の壁を越えて瞬く間に世界に広がった。
世界は大混乱か大反響か、大歓声か、もうよく分からない絶叫に包まれた。
――これを〈 上級中位 ( ジョーチュー ) の時代〉と命名する。
「なんかすごいことが書かれてるよゼフィルス君!?」
そんなことが書かれた校内ニュースを見てハンナが目を白黒させて俺を見る。
現在、ダンジョン週間が明けた翌日の朝。
昨日〈謎ダン〉を攻略して帰ってきた存在。
それはなにを隠そう、俺のことである。(隠してない)
「いやぁ、昨日は楽しかったなぁ」
「ゼフィルス君! 校内ニュースにデカデカと書いてあるよ!? 『調査団、なぜか攻略を終えて帰ってきた。調査しすぎ!?』って! その中心に『攻略したのはゼフィルス率いるギルド〈エデン〉のメンバーたち』だって載ってるんだよ!?」
「ああ~、そういえば昨日ユミキ先輩から校内ニュースに載せていいか聞かれたような?」
昨日は浮かれすぎて盛り上がってしまった。シエラとタバサ先生が常に隣に居て、なんか幸せだった記憶が凄い。
俺がなんかうっかり言いそうになるとシエラストップが掛かっていた気がするが、校内ニュースが流れているということはシエラが許可を出したということだ。
なにも問題ない。
だって今日も朝からハンナが美味しい朝食を用意してくれるんだもん。問題なんて無い、全ては些細なことなのだ。
「美味しい! ハンナの朝ご飯はいつも美味しい!」
「もー。お粗末様。なんだかいつものことみたいな気がしてきたし、私も食べるね」
2人でハンナ手作り朝食をいただく。
もう美味しくてたまりません。俺の日常はなにも変化無しだ!
ということでいつも通りにハンナと2人で寮を出る。
「『直感』に問題無し。ほらハンナ、行こうぜ」
「うん!」
一応『直感』を意識してみるが反応無し。
つまり、危険は皆無ということだ。ハンナといつも通りの通学です。
通学路ではやはりというか、すんごく視線を集めた。
「あれが、いつの間にか攻略の常習者」
「最強勇者ゼフィルスと生産隊長のハンナ様が2人きり!!」
「う、羨ましい! ハンナ様が羨ましいわ!」
「俺は勇者の方が羨ましい……!」
「うーむ。なんかすごくお似合い」
「だが勇者のギルドには王女殿下がいらっしゃるだろ? いいのか?」
「バカ、滅多なことを言うんじゃねぇ! もし事実だったら王女殿下とハンナ様が修羅場になるんだぞ!?」
「や、やべぇ……俺が今見ているのって、とんでもない時限爆弾なのでは?」
「私が勇者君をもらえば全部解決ね!」
「おい! いつの間にかセルマがいるぞ!」
「このタイミングで突撃する気か!?」
「誰か捕まえろ! 時限爆弾が爆発したらとんでもないことになりかねないぞ!」
「ちょっとあなたたちなにするのよ!?」
俺は胸を張って堂々と歩く。
羨望の視線が心地良いぜ。
なんか一部がすごく賑わってるな。どうしたんだろうか?
「あ」
「どうしたハンナ?」
「ううん。えっとクラスメイトが見えた気がしたんだけど……うん、気のせいだったみたい」
「そっか」
俺もセルマさんらしき人が集団に追いかけられている光景が見えた気がしたんだけど、ハンナに合わせて気のせいということにしておいた。
今日も学園は平和だなぁ。
そんなことを思ったからなのかもしれない。
事件は放課後、ギルドハウスで起きた。
「お待たせしました〈幸猫様〉〈仔猫様〉! ダンジョン週間中も超『幸運』をありがとうございます! 特大のごちそうをお供えさせていただきます――って〈幸猫様〉がいない!?」
〈幸猫様〉!? なんてことだ!
神棚に〈幸猫様〉がいなかったのである。〈仔猫様〉もだ!
俺の脳裏に大変とんでもないことが過ぎる。
〈幸猫様〉情報を公開して学園の知ることとなり、それなりの月日が流れた。
しかし〈幸猫様〉は未だにあまりドロップしていないとダンジョン週間中にタバサ先生から聞いたのだ。ドロップした数は、僅か2体だそうだ。うちの〈幸猫様〉を入れて3体だ。まだまだ希少な存在。
そして昨日は大規模な打ち上げを開きたくさんの人たちを招待した。
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の紹介もたくさんしてしまった気がする。
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を欲しがらない人なんていないだろう。
まさか、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉が、攫われた!?
そう思ったが〈幸猫様〉と〈仔猫様〉はすぐに見つかった。
ラナの膝の上で。
「いたーーーー!! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉いたーーーー!!」
「あ、ゼフィルス遅かったじゃない。待ちくたびれちゃったわよ」
「待ちくたびれちゃったわよ、じゃねぇー!! その膝の上の〈幸猫様〉と〈仔猫様〉、すぐに返してもらおうか」
なんてことはなかった。いつも通りだった。
そして激しい攻防(?)の末、俺は〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を――取り返せなかった……。む、無念だ。
なんか最近慣れてきてラナならいいかと思っている自分がいることに戦慄を隠せない。これはマズい。
俺はそっとお供え物を誰もいない神棚に載せながら考える。
ついさっき考えていたことだ。
「 ボディーガード ( セキュリティー ) の強化が、必要なのかもしれない」
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉が危険。
今回はラナの膝の上にいたから良かったものの、今後は刺客が現れないとも限らない。ゲーム〈ダン活〉では刺客なんていなかったが、リアルだと分からないからな。
まあ、目下一番の刺客はラナなのだが、それはともかくだ。
〈幸猫様〉も有名になられた。
今まで〈エデン〉しかその力の秘密を知らなかったが、どんどん知る人も増えてきている。
まだ一般公開はしていないが、いずれは他の学生たちも知ることになるだろう。
そうすれば、〈幸猫様〉はみんなが欲しがるはずだ。
何が何でも欲しいという人物だって出てこないともかぎらない!
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の護衛もそれに伴い強化しなければならないだろう!
今までは〈モチちゃん〉が神棚の隣で身代わりになってくれていた。
まあ、あまり効果は無かったんだが。
だから今度は効果のある身代わりを用意したいところだ。いや、身代わりじゃなくてボディーガードだな。うん。
さてどうしたものだろう?
「ボディをガード、か」
なぜか脳裏に過ぎったのは〈謎ダン〉の20層ボス〈金剛マッチョーズ〉。
いかんいかん。とんでもないことを考えてしまった。
あの金剛像に守られた神棚におわす〈幸猫様〉を想像してみる。圧が強い。
しかし。
「レシピが、なぜか、ある」
そう、俺たちは〈謎ダン〉20層で〈守護像のレシピ〉をゲットしていた。
上級中位 ( ジョーチュー ) の〈金箱〉産、現在の最強クラスのボディガードのレシピを!
作れるっちゃ作れる。どうしよう……。
確かに、物理的に守ってくれるボディガードが欲しかったところだ。
守護像ならば普段は動かず、そしていざというときは守ってくれるだろう。
あれ? 性能だけなら悪くないんだけど?
でも見た目がなぁ。
癒やし空間にマッチョはいらん。
「いや待てよ? 見た目は変えられるんだっけ」
レシピを見てみると〈守護像のレシピ〉と書いてある。
金剛像ではなく守護像、だ。
内容はゴーレム、もしくはホムンクルスの作製レシピだった。
ゴーレムの場合はマッチョになるようだが、ホムンクルスであれば見た目にかなり融通が利く。となると、ホムンクルス一択だな。
そして上級モンスターとも言われているホムンクルスを作れるのは【闇の魔女】だけだ。
脳裏に先程追いかけっこをしていたセルマさんの姿が過ぎった。