第1619話 あっという間にランク戦。〈新緑の里〉防衛戦
第1619話 あっという間にランク戦。〈新緑の里〉防衛戦
学園長にとある行事の開催をお願いして数日後。
俺たち〈エデン〉の〈巣多ダン〉攻略は、かなり進んでいた。
例のネックなエリアボス戦は、〈乗り物〉がなくても誰でも安全に攻略戦術を楽しめる――じゃなくてエリアボスが倒せる戦法として、〈モンスターケムリン〉が考案されたりもした。
〈モンスターケムリン〉は普段エリアボス戦をする場合、他のモンスターが近寄ってこないように炊く煙玉のことである。〈秘境ダン〉で大量に手に入れたモンスターが寄ってこない温泉素材を使って、これまたハンナたちが大量に生産している。
これをばらまくことでエリアボスを孤立化させることに成功。
そう、〈モンスターケムリン〉を使えば取り巻きのモンスターも寄ってこられなくなるのだ。これはエリアボス戦を邪魔されずに行なえる専用アイテムだからな。
まあ孤立化させ続けるには常に煙を炊いておく必要があるので結構な出費になるかもしれない、しかし 報告書 ( 攻略本 ) に載せるには最適な方法だった。
逃げ惑うモンスターたちと取り残されたエリアボスがちょっと面白い。
また 報告書 ( 攻略本 ) の完成度が高くなってしまったぜ。
学園長に渡す日が、とても楽しみだ!
もちろんのんびり攻略してもいられない。
〈天下一パイレーツ〉の動向は最優先で調べてもらっている。
それによると、なんと1月の17日土曜日には〈新緑の里〉へAランク戦を仕掛けることが決まったのである。
ふふふふふ。
ランク戦の日が迫ってくる毎に俺の笑顔が深まっていくのを感じるぜ。
だけどサターンたちならやらかしそうで不安。
あれだけイキり散らしておいて負けるとか、普通にサターンたちならあり得そうなんだもん。あいつらは伊達に〈あげて美味しい天プラ〉さんと呼ばれていないのだ。
勝てよサターンたち! ここで負けたらガチ目の強化訓練に処してやるからな!
「「「「!?!?!? なんか今寒気が!?」」」」
俺の気合いの念に、サターンたちが悪寒で震えていたことなど、俺は知るよしもないのだった。
そして試合当日。
「ついにサターンたちの試合がやってきたぞ! これであいつらが勝ったら次は〈エデン〉がギルドバトルが楽しめる――じゃなくて昔のよしみで応援してあげよう!」
「むしろ負けたら許さないわ! そう、この王女が勝たないと許さないと言っているのよ! 分かっているわねサターンたち!」
「とんでもない期待を背負わされているですの!?」
「むしろ負けちゃったらどうなっちゃうのか見てみたいすらあるんだけど!?」
俺やラナが気炎を吐く勢いで応援(?)をすれば、サーシャとカグヤがいつも通り目を丸くする。
いやいやカグヤよ。もし〈天下一パイレーツ〉が負けたらみんな不幸になるんだ。
そんな展開を望んではいけないよ?
今日の俺たちはギルドメンバー全員で第二アリーナへと観戦に来ていた。
もちろん〈天下一パイレーツ〉を応援(?)するためと、サターンたちのあの自信の正体を突き止めるためだ。
「さーて、あのサターンたちがどれだけ強くなったのか、見せてもらおうかね」
「Dランクギルドから成長し、Aランク戦を挑めるまでになったのです。かなりの戦力になっているのは間違いないと思いますが」
「なんだか、あの頃のことが頭から離れないのよね」
俺が笑みを深くする横で、エステルとシエラがちょっと困ったような顔をしている。
どうもサターンたちが強くなったという事実(?)が信じられない様子だ。
どうしよう、気持ちがすごくわかる気がする。気のせいかな?
「それで、相手の〈新緑の里〉なのですが、戦力的にはどうなのですかシェリア?」
エステルが幼馴染みでエルフのシェリアに聞く。
「そうですね。ギルドマスターがローゼルになり、留学生を取り込んだことでAランクギルドの座に返り咲きましたが、正直Aランクギルドとしては力不足な感が否めない様子ですね。ギルドメンバーの人数もさることながら、未だに上級中位ダンジョンに入ダン出来ていないところから見ても、力不足なのは明らかでしょう。また、留学生が多い影響でしょう、他のギルドよりも上級職の数が少ないと聞きます」
幼女が近くに居ないシェリアは、とても知的なエルフな様相をしていた。
いつものシェリアとはとても思えない。
本当にシェリアかな? だが、昔のシェリアはこんな感じだったかもしれない。
よく分からなくなってきちゃった。
ちなみにシェリアの言う通り、〈新緑の里〉はAランクギルドの中でも最も出遅れているギルドで、未だに上級下位ダンジョンから抜け出せておらず、さらに留学生が非常に多いということで来年度のAランクギルド存続は不可能と予想されているギルドでもある。
おそらく留学生たちが年度末で帰還すれば、ギルドはたちまちBランク、もしかしたらCランクに転落する可能性すらあるとのことだ。
ちなみに本当の最弱は、現在〈 転職 ( ジョブチェンジ ) 〉&育成中の〈筋肉は最強だ〉ことマッスラーズギルドらしいのだが。なぜかここはどこからもランク戦を仕掛けられたりしないらしい。不思議!
「他のAランクギルドは〈筋肉は最強だ〉を除いて全部上級中位ダンジョンに潜っているからな。それにBランクギルドの一部も上級中位ダンジョンに進出してきている。むしろ〈新緑の里〉が狙われるのは必然だったわけだ」
「はい。ですが〈新緑の里〉も力不足ではありますが、弱いギルドではありません。成り上がりのBランクギルドが度々ランク戦を仕掛けてきますが、全て防衛に成功しています」
そりゃあカテゴリー「エルフ」オンリーのギルドである。
確かに偏ってはいるものの、ノーカテゴリーじゃ力の差が覆せないのも仕方がない。
というか〈新緑の里〉が上級下位ダンジョンを突破出来ないのってパーティ構成に問題があるからなんだよ。もっと硬い盾受けタンク入れろし! 結界系魔法タンクじゃ割れたら厳しいんだって!
ただ、〈新緑の里〉は元々エルフが所属するのに適した環境を提供することを目的として作られたギルド、エルフ以外を入れてエルフが所属できなくなってしまえば本末転倒だ。
よって、その辺はこだわってギルドに空きを作っているらしい。Aランクギルドになったのも、上限人数の枠が40人になることが目的だったらしいしな。
「ですが、Bランクギルドになること自体は問題無いのです。上限人数が減っても、留学生の優遇措置のおかげで脱退者は出ませんし。なので私としてもパパッとやっつけちゃってもらいたいですね」
「あ、そこはエルフが勝ってほしいとかじゃないんだ?」
「はい。ルルが久しぶりに防衛戦をやりたいとはしゃいでいますので」
あ、顔が緩んだ。いつものシェリアだ。
シェリアにとってはルルさえ望めばエルフが負けてもOKらしい。
『ルル>>>>>>(越えられない壁)>>エルフ』みたいな感じに見えるのは気のせいかな?
「それで、肝心の〈天下一パイレーツ〉のデータはあるのかしら?」
「それでしたら、僕が用意いたしました」
「ありがとう」
「さ、さすがはセレスタンなんだぜ」
シエラの言葉にスッと資料を渡してくる万能執事。
それを当然のように受け取るシエラもさすがは伯爵令嬢。
「……セレスタン、これは本当なのかしら?」
「はい、確かな情報です」
「どうしたんだシエラ、何が書いてあったんだ?」
シエラが思わず再確認を取るなんてよほどのことだ。いったい何が書いてあったというのか。
シエラは資料に改めて目を通し、1度を目を閉じてからキリッとした表情に直し俺に資料を渡しながらこう言った。
「……〈天下一パイレーツ〉の上級職の増え方が尋常じゃないわ。私たちのペース並、いえ、それ以上の速度で増えていっているみたいよ」
「なにぃ!?」
俺は資料を受け取って見てみる。
すると、勝ち始めた夏休み辺りから、上級職の数がもの凄い勢いで増えていっているのがデータで分かった。最新のデータではこのAランク戦、〈25人戦〉に出場しているメンバー、全てが上級職と記されている。
ギルドバトルに出場するメンバー全員が上級職、そんなのBランクギルドには存在しないとも書かれていた。この〈天下一パイレーツ〉を除いて。
「これが、自信の根拠かしら?」
「そうですね。見る限り、ただの増長とも思えませんね」
〈天下一パイレーツ〉の戦歴を見たシエラとエステルが少しだけ見直したようなセリフを口にする。良かったなサターン。相当頑張ったと見えるぜ。
「でも成り上がりですね。〈新緑の里〉であれば、打ち勝つことはそう難しいことではないかと思いますが……」
しかし、シェリアの言葉に固まる俺とラナ。
〈天下一パイレーツ〉が負ける? 否、〈新緑の里〉が勝つ、だと?
「ゼフィルス、〈金箱〉産なんてどうかしら?」
「八百長はダメですよラナ様?」
ラナが不穏な提案をし始めて慌ててエステルがメッてした。グッド。
まあ冗談だ。ラナも本気ではない。多分。
しかし、〈天下一パイレーツ〉に援助が必要だったかもしれない。
例えば、上級上位ダンジョンの〈金箱〉装備とか。
そんなことを考えてちょっと後悔していると、試合時間となる。
出てきたメンバーに周囲の観客席がざわざわする。
「あ、〈天下一パイレーツ〉だ!」
「リーダーのモニカ様が相変わらずお美しい」
「モニカ様?」
周りの声に反応すると、スッとセレスタンが真横に来る。
「あちら、〈天下一パイレーツ〉の先頭にいる方ですよ。例の1年生ギルドマスターとのことです」
「あれが」
それは狸人女子。
ラクリッテと同じくらいの身長なのに全く雰囲気の異なる強気な瞳、ブラウン系なのだが、一部白い部分が混じっている長い髪と尻尾。
腕を組んだその姿は、ゼルレカやカンナ先輩にも似た姉御肌な雰囲気を醸し出している。
そして背中に背負われているのは見間違いようもない。〈無限欲望盾〉だ。
ということは、あの子が1年生の【大罪】職。
―――【強欲】に就く子だな。