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第1620話 罪深き最後の大罪、【強欲】〈新緑の里〉下す

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第1620話 罪深き最後の大罪、【強欲】〈新緑の里〉下す

――【強欲】。

それは奪う者。

うちのラクリッテもそうなのだが、「狸人」は奪う系をよく使う。

ラクリッテの『ドロー』系も、攻撃を自分に引き寄せるスキルだ。

「狸人」というのが元々自分に引き寄せる気質があるカテゴリーなのである。

『ミラージュ大狸様』のように自分に引き寄せてそのままボンッと吹っ飛んで消えることもある。

過度な欲望は身を滅ぼすのだ。大狸様~!

そして専用装備は〈無限欲望盾〉、つまりは盾持ち。

もうお分かりいただけると思うのだが、【強欲】はタンクだ。

そして引き寄せるのはヘイト、だけに留まらず、攻撃、バフ、さらにはタゲも奪う。

シエラのユニークスキル、『完全魅了盾』に通じるスキルを持っていると言えばそのとんでもなさが分かるだろう。

味方にタゲが移ると、そのタゲすら奪ってしまうという強欲な 職業 ( ジョブ ) なのだ。

加えて奪うのはもちろんそれだけではない。

例えば一時的にテイムモンスターまで奪ってしまったりもできる、『強奪』系も使ってくるというのだから罪深い。テイマーやサモナー系の天敵だ。

もちろんスキルや魔法自体を奪ったりもする。

【嫉妬】の場合は、『それ私もやるー』でアクティブスキルをコピーすることが可能だったが、【強欲】の場合は発動中の魔法などの操作を奪ったりも可能だ。

その場合、当たり前だが攻撃は自分に返ってくる。魔法発動直後なので硬直で動けなかったり、魔法が発動出来なかったりしてやられることもあるのだ。恐ろしい。

回復魔法を発動すればそれを奪い、タンクなのに回復もできてしまう。罪深っ!

加えてドレイン系も持っている。『強欲の手』に捕まれば発動中のスキルも魔法もバフもHPもMPもガンガン奪われてしまうので要注意。

だがこれだけに終わらず【強欲】にはさらにとんでもないスキルが搭載されている。

それがモンスターのドロップを増やすスキルや、宝箱の数を増やしてしまう強欲スキルだ。

超欲しいんだけど!

ゲフンゲフン! この 職業 ( ジョブ ) 罪深すぎやしませんかね?

さすがは【大罪】の一角、【傲慢】や【嫉妬】に並ぶ7種の「獣人」系最強職の1つである。

正直〈無限欲望盾〉がドロップしていたら、俺が【強欲】を欲しかったくらいだ。

そしてその戦闘方法はというと、

「これは……!」

「たった1人で、戦線を支えていますね。あのエルフたちの攻撃が、全て引き寄せられています」

試合が始まり、少し経って対人戦。

そこではみんなにとっては信じられない光景が繰り広げられていた。

エステルとシェリアがやや驚愕の面持ちで言う。

エルフ部隊12人による一斉攻撃を、なんと【強欲】の子が1人で全部防ぎきったのである。その光景、まさにシエラ級。

それだけに留まらず、その後も全ての攻撃をその身で受けきる【強欲】の子。

そう、たった1人で戦線の防御を支えていたのである!

え? 〈天プラ〉タンクのヘルクはって? なんかいないね。

「なるほどね。〈天下一パイレーツ〉が〈新緑の里〉に挑み、〈エデン〉に宣戦布告するくらい勝利を疑っていなかったのは、こういうことだったのね。てっきりいつもの負けパターンかと思っていたわ」

それを見たシエラが【強欲】の子、モニカを大きく評価していた。

おそらく、タンクだからこそ分かるフィーリングのようなものがあるのだろう。

だけどサターンたちの評価が低すぎる件の方が気になる俺。いや、分かりみが深いけど!

「どういうことなのシエラ? ちょっと説明して?」

「いいわ。【強欲】は、多分遠距離攻撃に強いのよ。そしてエルフは遠距離攻撃主体、あの【強欲】がいる限り、〈新緑の里〉は大きく不利だわ」

「え? あのラナ、俺に聞いて?」

説明役取られた!?

「仕方ないわね。そ、それじゃあ聞いてあげるわよ。ゼフィルス、解説して?」

「! もちろんだとも!」

でもすぐに俺に振ってくれた! そんな素直なラナが俺は大好きだ!

「こほん、それじゃあ解説するぞ。まず【強欲】には強力な『ドロー』系スキルがいくつも搭載されているのと、加えて遠距離攻撃のダメージを大きくカットするスキルや、攻撃されると逆に回復する『ドレインシールド』系スキルを多く持っているんだ」

「遠距離攻撃のダメージを大きくカットですって!」

俺の解説に、ラナがようやく事の深刻さが分かったように驚愕する。

そう、それがあれだけ遠距離攻撃でボコボコにされているにもかかわらず、【強欲】が無事な理由だ。

ラナは遠距離攻撃主体。その攻撃のダメージを大きくカットするなんて言われたらもうとんでもないことだ。

―――〈カット〉系。

それは『無効』とほぼ同義。

〈火属性ダメージ40%カット〉と書かれていれば、火属性の攻撃を受けたとき、その40%のダメージを『無効』にしてしまうのが〈カット〉である。

これは『無効』系なため、もちろん『耐性』系とは別の 能力値 ( カテゴリー ) だ。つまり『貫通』ではダメージは増えない。『無効』を無力化するには『封印』が必要だ。

〈火属性ダメージ40%カット〉の装備を『封印』すれば、『 無効 ( カット ) 』を無力化できる、となる。

そして【強欲】は、なんと『遠距離攻撃ダメージ◯%カット』という効果を持つとんでもないスキルを持っているのである。

おかげで全然ダメージを負わない。

「加えて【強欲】の側に居るヒーラーも、かなり優秀だな。ありゃ【賊職】系ヒーラーの【偽聖女】に違いない」

「【偽聖女】!?」

本物の聖女が憤る。

そう、【賊職】系、【偽者】の上級職、高の中には【偽聖女】なる優秀なヒーラーがあるのだ。

さすがに本物の【聖女】系には劣るものの、高の中というヒーラーの希少性からも分かるように、非常に強力な 職業 ( ジョブ ) である。

【強欲】はドレインだけではさすがに限界があるものの、ダメージを受けてもすぐに【偽聖女】が癒すので、マジ【強欲】の子は超余裕で攻撃を防ぎまくっていた。

こりゃあ強いぞ。

「私も質問よろしいでしょうか?」

「もちろんだシェリア。どんどん聞いてくれ」

「ありがとうございます。不思議なのですが、なぜエルフの攻撃は全て【強欲】の子に引き寄せられているのでしょう。特に【弓士】系のエルフには、『ドロー』系などで攻撃の弾道が影響されないスキルを持っている子もいるはずですが、全ての攻撃が【強欲】に引き寄せられています」

「良い質問だ。その答えはあの【大罪】職の専用装備と【強欲】のスキルのコンボにある」

「【大罪】職の専用装備。あの盾ですね?」

「ああ。アレと【強欲】のスキルを組み合わせると、『必中』ならぬ『必中受け』になるんだ」

「必中受け?」

必中とは、つまり必ず当たるという意味。

どこに撃とうが、どれだけ遅かろうが速かろうが、なぜか必ず命中する。

そして『必中受け』とは、必ず受けることができるという意味だ。

絶対に仲間に通さず、全ては自分の盾が 貰い受ける ( ・・・・・ ) 。

あれが【強欲】の奪う者の真骨頂。誰にも渡さないという欲望が生んだ、『ドロー』系を超える『必中 受け ( ドロー ) 』である。

遠距離攻撃限定だが、その攻撃は全て【強欲】の盾に飲み込まれてしまうのだ。

この『必中受け』と『遠距離攻撃ダメージ◯%カット』によって、【強欲】は集団戦遠距離部門では無類の強さを発揮するのである。

そう分かりやすく説明した。

おかげでエルフの遠距離攻撃は全て【強欲】の子が受け持ち、サターンたちは攻撃を好き放題撃ちまくっている。

あまりに【強欲】タンクが優秀過ぎてヘルクが忘れられてるほどだ。

ヘルクっ!(無情)

「それでさっきシエラが言った〈天下一パイレーツ〉がなぜ〈新緑の里〉に挑んだのか、という話に戻るわけだ」

「あ! エルフの攻撃手段は遠距離攻撃しかないから!」

「その通りだ。実際には精霊による接近戦も可能だが、大精霊の数も少ないし、ほぼ接近中に討ち取られているな」

そう。「エルフ」とは遠距離攻撃が主体のカテゴリーだ。

【強欲】が仲間に居るのなら、エルフしかいない〈新緑の里〉をランク戦の相手に選ぶのも分かる。

他には〈ミーティア〉も選択肢に入るだろうが、確実なところを選んだのだろうな。そして。

「あ! 結界割れました! エルフ崩れます!」

「ローゼルが!」

「マ、マジかー!? 〈天下一パイレーツ〉が〈新緑の里〉を食い破っただとー!?」

ついに〈新緑の里〉のタンクが貼っていた結界が割られ、〈天下一パイレーツ〉がその隙に突貫し、〈新緑の里〉の部隊が崩れてしまったのだ。

撤退する〈新緑の里〉の部隊を食い破り、なんと〈天下一パイレーツ〉が本拠地に王手を掛ける。本拠地からの攻撃も、全ては【強欲】に防がれてしまう。

誰がこの展開を予想しただろう?

俺もてっきり、いくら【強欲】が居るからってサターンたちでは無理じゃない?

みたいなことを心のどこかで、いや、こころの中心くらいの位置で考えてた。

しかし、結果はなんと、〈天下一パイレーツ〉の勝ち。

本拠地から様々な抵抗を見せた〈新緑の里〉だったが、【強欲】タンクが全てを受け持って。そして。

「まさか、〈新緑の里〉が……こんな圧倒されて……」

〈新緑の里〉の本拠地が落ちたのだ。巨城が全て〈天下一パイレーツ〉に渡る。

それから数十分後、試合終了のブザーが鳴り響き、〈天下一パイレーツ〉がAランクギルドの仲間入りを果たしたのだ。

い、意外すぎる展開ーー!!

だが、やったなサターン!!

俺は信じてたぞーーーー!!