第1644話 本拠地の守備は万全? 万全ってなんだっけ?
第1644話 本拠地の守備は万全? 万全ってなんだっけ?
一方こちらは白本拠地。
ここでは〈エデン〉のいつもの戦法、本拠地の要塞化がほぼ完成していた。
「よーしあらかた出来たかな? それじゃあ強化しちゃうね! 『神域の壁』!」
「「「おおー!」」」
シャロンがこれで完成と言わんばかりに六段階目ツリーを発動する。
『神域の壁』は〈城壁〉などを神域の壁に強化するスキル。それがシャロンが『防壁召喚』で生み出した壁に対して使われていた。
名前から凄まじいと分かるが、なんとこの壁、破壊されない限り上空からも入れない壁なのである。
まさにここからは神域。入るべからず。つまりは進入禁止スキルだ。
まず『防壁召喚』で本拠地を囲い、続いて『神域の壁』で強化して通行を妨げる。
また、例外として味方が出入り出来る『城門召喚』も4箇所に設置され、それぞれの門にはとあるモンスター君たちが今か今かと出番を待ちわびていた。
なお、モンスター君たちの出番があるかは定かでは無い。
「リーナさーん、軍団ゴーレムも中でいいんですか?」
「はい。今はまだ中に入れておいてくださいまし、ですがいつでも出撃できる準備を調えていて欲しいですわ」
「了解でーす」
「ああ、生産職のハンナ君があんなに積極的に戦力として働かされてるよ」
「ニーコちゃんも負けてられないね!」
「いやいやシャロン君、ぼくではとてもとても。ハンナ君には敵わないよ。そろそろぼくのポジションも交代で良いんじゃないかね?」
「監視は十分重要な役割だよー」
「いや、誰も来ないじゃないか」
物見台の上ではニーコが唸りながら〈前線〉の方へ顔を向けていた。
物見台の役割はもちろん相手の確認だ。もちろん、ギルドバトルでは上から一方的な射撃をするためだ。
『神域の壁』は外からの攻撃は防御するが、中からの攻撃は通してしまうのである。
なんという理不尽な進入不可。でもここは要塞だもん。城攻めの最中に一方的に攻撃されるのは仕方ないんだよ。
加えてシェリア、フラーミナ、アルテ、シヅキの召喚メンバーズ、それにアイギスとゼニスが控え。
リーナの側にはラナが〈白の玉座〉に座って出番を待ちわびていた。
白本拠地の守備は万全だ。万全? ちょっと万全を通り越しているかもしれない。
現在の白本拠地の要塞は、ちょっと一言では言い表すことができないくらい凶悪な状態になっていた。
「む?」
「お、どうしたのニーコちゃん?」
「数人南側に向かったようだよ。3人くらいかな?」
ここでニーコが単眼鏡を使いそれを捉える。
モニカが居るのは〈ブオール〉に分断された北側。南側はルルたちロリレンジャーを初めとしたメンバーが大暴れしており、そこから逃れるためか、数人が離脱、否、そのまま白本拠地に回り込んで来そうな雰囲気を出していた。
「あ~。それなら大丈夫だね。リーナちゃんがすでに手を打ってるし」
「至る所に相手が抜けてきてもいいように伏兵が配置されているからね。さすがはリーナ君だ。3人組が行くところは、まさにドンピシャだよ。あそこにはラウ君たちが伏せられているはずだ。逃げられないだろう」
まさにライオンが涎を垂らして待ち伏せしているところに逃げてしまった草食動物の図だろうか?
今代の【獣王】は「狼人」だが。
ニーコの言葉を聞いてご愁傷様と心の中で呟くシャロン。
リーナの得意戦法、伏兵配置。
おかげで白本拠地は、まだまだ人は来なさそうである。
「あ、リーナちゃんももう掴んでるみたい。ラウ君たちに指示出し中だよ」
「やっぱりぼくの役割いらなくない?」
◇ ◇ ◇
「くっ! あっちはもうダメだ。こうなったら南側から回り込んで白本拠地へ――」
「そうはいかん」
「んな!」
こちらはフィールド中央のやや南側。(図Y―32)
〈前線〉が乱戦に持ち込まれ各個撃破でメンバーがやられ始めると、数人の〈天下一パイレーツ〉は独自の判断で一度南下し、白本拠地を狙うために回り込もうとしていた。
白本拠地を狙われれば多少動きが鈍るのは自明の理。
もちろんそんなことはリーナがすでに読んでおり、南側には6人の〈エデン〉の部隊の伏兵が配置されていた。
メンバーはラウ、ルキア、パメラ、ミジュ、セレスタン、ノエルである。
対して〈天下一パイレーツ〉の方はたったの3人だった。
先頭にいたのは上級職、高の中【四天王】男子。
その後ろに居るのは【偽者】の上級職、高の下である【ドッペルゲンガー】男子と、【暗殺者】の上級職、高の下である【ジャックエンドアサシン】男子である。
たった3人で〈エデン〉の白本拠地に行こうとしていたメンバーズだ。かなりの精鋭のはずだった。
「な! 〈エデンの獣王〉!?」
「遅い――『 獣王無尽 ( じゅうおうむじん ) 』!」
「あ」
いらっしゃーい、そしてごちそうさま!
【四天王】男子、ラウたちのところへ向かってしまったのが運の尽き。
同じ王の名の付く 職業 ( ジョブ ) だが、格は完全に【獣王】の方が上だ。
ラウの縦横無尽に駆け回る3次元の超高速連続攻撃になすすべ無く、【四天王】男子のHPがゼロになる――と思いきや。
【四天王】男子がその場で「ばふん」と煙を出して消えてしまう。
「油断は禁物だぞ!」
「た、助かったぞ!」
それを成したのは【ドッペルゲンガー】男子だ。
『身代わりドッペル』で【四天王】男子とアバターを交換したのだ。ラクリッテの『ポンポコスワップ』に近いスキルである。
「切り裂く! 『ジャックセントザックザック』!」
すぐに切り替えた【ジャックエンドアサシン】男子がナイフを両手にラウに斬り込んだが。なかなか優秀だ。だが、〈エデン〉はもっと優秀だった。
「『タイムストップ』!」
「え?」
「『ワン・クリティカル・ノッキング』! ――ミジュさん」
「おけ」
ピタッと空中に一瞬停止してしまう【ジャックエンドアサシン】男子。
時を止めるかのような所業、まさに『タイムストップ』の名にふさわしい。ルキアの魔法だ。
そしてそれを逃す執事ではなく、クリティカル判定を叩き出しダウン判定をしやすくなるノッキングを直撃させる執事。全部〈六ツリ〉スキルである。そして、
「出てきてビッグなクマン――『ビッグクマン・ギガデストロイフィスト』!」
「うそやん」
トドメのミジュである。
超巨大なクマ。
〈五ツリ〉では腕しか出なかったクマン、その親玉ビッグクマンが全身を顕現させ、やっぱりパンチを放つ。
超強力な攻撃に一瞬でHPを刈り取られて【ジャックエンドアサシン】男子がまず最初の退場者になってしまうのだった。
もちろんこれで終わらない。
「んな!? この! 『我こそは四天王』!」
「この感じはバフだね! なら――『正義の歌』に染まっちゃえー♪」
「あ、力が抜ける!?」
【四天王】男子はユニークスキルのバフを使用。
だがバフであったのが残念。バフのスペシャリスト、ノエルの〈六ツリ〉であるバフ剥がしによって無くなってしまったのだ。正義はノエルにあり。
自分たちのバフの方が相手より多いとき、相手のバフを打ち消してしまうのだ。
「パメラさん、奥の彼を」
「了解デース! 『大忍法・闇の訪れ』!」
「『アインスドッペルゲンガー』! って目が!? 視界が真っ暗に!?」
「ドッペルが!?」
ここでパメラの〈六ツリ〉、相手が『暗闇無効』を持っていない限り確実に〈暗闇〉にしてしまう闇で【ドッペルゲンガー】男子を包み込む。視界は真っ暗だ。これでは指示が出せない。せっかく出した戦うドッペルも命令がなければ木偶の坊。
そしてこの瞬間、ラウの強力なスキルが発動した。
「『 神 ( しん ) ・ 獣 ( じゅう ) ・ 願 ( がん ) ・ 獣王獅子戦牙 ( じゅうおうししせんが ) 』!」
「ガアアアアアアオオオオオオオオ!!」
「はべし!?」
ラウの背後から現れたのは、ビッグクマンに負けないくらい巨大な2足の獅子。
両手がライオンの頭になっており、パンチ=ライオンヘッドだ。ガブリといく。
顕現した瞬間、獅子は右腕で【四天王】男子をガブリといき確保、そこへ左手で、まるで右拳を叩くようにクラッシュした。
「ああああああああああああ!?」
【四天王】男子、ダブルライオンヘッドに挟まれ良いところなしで退場。
闇の 靄 ( もや ) から脱出したばかりの【ドッペルゲンガー】男子、獅子に退場させられた【四天王】を見て度肝を抜かれた。
「な、なんじゃこりゃああああああああ!?!? ど、『ドッペルデコイ』! のおおおおおお!?」
「『クマンパンチ・ストレート』!」
「『獣王 烈震 ( れっしん ) 咆哮牙 ( ほうこうが ) 』!」
まるで争うかのようにクマンパンチと獅子パンチをしてきた2人になんとかドッペルを身代わりにしようとするも、紙のように吹き飛んで――そのまま【ドッペルゲンガー】男子も退場してしまうのだった。
「ふう。相変わらず、凄まじい威力だったな。獅子というところが難点だが」
「そんなことないデース! とても良いと思うのデスよ!」
「そうだよね~。なにより強い! かっこいい! 私も良いと思うよ~!」
戦闘終了。ラウがライオンヘッドのスキルに多少不満を吐露するが、パメラとルキアはグッと拳を握りしめて良きをアピール。2人にはかなりかっこよく映ったようだ。実際かっこよかった。
ラウもそう言われて考えを改め直すようにうむと頷く。
「みなさまお疲れ様です。この調子でいきましょう」
「だね! 南側に来る人たち、みんなやっつけちゃうよ!」
セレスタンやノエルの役目は南側の防衛。
ここから本拠地へ行かせないための壁の役目だ。
もっとも、やって来た相手をみすみす逃す気は無い。
全力でお出迎えし、退場願う予定だ。
しかし、あの獅子とクマンは周囲からよく見えた。
結局この後南側に来る〈天下一パイレーツ〉のメンバーはいなかったのだった。