第2009話 追想ダンジョンと呼ばれた〈万界ダン〉30.5層
第2009話 追想ダンジョンと呼ばれた〈万界ダン〉30.5層
「ようやく到着したな!」
「30.5層の階層門、しっかり10と書いてありますわ!」
「よし、ここで休憩を挟むぞ! 料理アイテムが切れているものは補給を忘れないようにな!」
「「「はーい!」」」
30層の奥の 救済場所 ( セーフティエリア ) に到着すれば、まずは補給。
レイドボスを相手にするときは基本料理アイテムでバフをかけるのが定石だ。
とはいえ時刻は15時半。なんとも微妙な時間帯だ。ここでがっつり食べてレイドボスに挑むか、それともティー系で済ますか、悩ましい。
まあ、ティー系で済ますメンバーが大半だ。
がっつり食べると結構時間取られるしな。
「ん! おかわり!」
「カルア様、ゼフィルス様から早食いする場合はおかわりは渡さないようにと言付かっております」
「全然早食いじゃない。これは普通の範疇」
「1分もしないで食べきるのは基本的に早食いに分類されるかと」
「ん!」
まあ、中にはカレーを 飲み物 ( ティー ) だと勘違いしているメンバーもいるが、それは置いておこう。セレスタンなら任せておいて大丈夫だ。
10分ほどの休憩で補給が済んで準備万端。
みんな、準備にかかる時間が早い。
レイドボス戦を待ちわびている様子だな!
俺もこっそり自身のメイン武器である剣、〈 勇王竜剣 ( ブレイブロードラゴン ) 〉をとあるものとチェンジする。
「ゼフィルス、良いわ」
シエラの言葉に頷き、俺は宣言する。
「みんな準備はいいか! よくない者はすぐに言え! ――大丈夫そうだな? これから戦うのは、おそらくLV100までレベリングすることができるボスだ! 〈鉱ダン〉の最奥ボス〈ドラゴレム〉と同格、もしくはそれよりも上だと考えられる。だが、 何が ( ・・ ) 出てきたとしても俺たちならば勝てる! 行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
さあ、お披露目だ。
〈万界ダン〉の30.5層レイドボス。
こいつはある意味でかなり厄介な存在。
なにせ、ここは別名――追想ダンジョンと呼ばれたダンジョンなのだから。
俺たちが門から中に入ると、そこにあったのは――。
「ここ、もしかしてアリーナ?」
「間違いありません。観客席に人は居ませんが、大きさ的に第一アリーナです」
「今日この時間に第一アリーナは使用されていたはずよ。第一アリーナに転移された、ということではないはずだわ」
そう、門の中に広がっていたのは俺たちがよく知っている見慣れた風景、第一アリーナの会場だったのだ。
観客席は無人なのでさみしいが、この広く、胸が躍る空間は間違いない。
「第一アリーナでレイドボス? ――まさか!」
お、リーナは気づいたか。
瞬間、俺たちの正面の地面に巨大な魔法陣が描かれる。
この光景を、俺は見たことがあった。それは1年生の学園祭3日目。
実に5000人という超膨大な人数がこのレイドボスに立ち向かったのだ。
そのレイドボスが出現するときの演出に、これは瓜二つだった。
「全員、気を強く持て、来るぞ! こいつは――〈ヘカトンケイル〉だ!」
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!」
産声を上げて誕生するのは、身長40メートル級を誇る巨人、おそらくこの世界で最もメジャーなレイドボスであろう――〈ヘカトンケイル〉だった。
「〈ヘカトンケイル〉だと!?」
「学園祭の時のだよ!」
「これ倒せる敵なの!?」
「私たち、50人しかいませんよ!?」
ラウ、ノエル、ルキア、ラクリッテがそれぞれ叫ぶ。
この〈万界ダン〉の時に限って常識人枠になっていたラウはかなり衝撃を受けているな。
もしかしたら、ラウも2年前に〈ヘカトンケイル〉戦に参加していたのかもしれない。そして派手にやられたとか? 大丈夫だろうか?
そしてルキアとラクリッテのセリフは俺がまさに懸念していたことでもある。
なにせ、2年前はこいつを5000人もの人数で戦い、なんとか勝利を収めたのだ。
今の俺たちは――たったの50人しかいない。その人数は当時の100分の1だ。
そう、人数というわかりやすい戦力が100分の1の状態で挑めと言っているに等しいのだ。まともな思考の持ち主であれば、無理だ無茶だという考えが真っ先に浮かぶだろう。戦意喪失してもおかしくはない。――だが、
「全員落ち着け!!」
俺はすぐさま抜剣し、剣を真上に掲げ、注目を集めた。
「あの輝きは――」
「あの時のトドメを刺した時の光だよ……」
俺が真上に掲げた剣は――〈太陽 王剣 ( おうけん ) ・ガラティーン〉。
それが太陽のように輝いてみんなの注目を集めていた。
俺はこれを、アルルに作ってもらい真の最強装備にしてもらっていたんだ。
それを今こそ解禁する。
そして、 奇 ( く ) しくも2年前に〈ヘカトンケイル〉にトドメを刺した時に使っていた俺の剣は――〈 陽聖剣 ( ようせいけん ) ・ガラティン〉だったんだ。
あの時、第一アリーナに勝利の光を照らした太陽剣の輝きは、覚えている者も多かったようだ。ラウやルキアなど、浮足立ったメンバーが落ち着いていくのを感じた。
「もう2年前の俺たちではない! 俺たちは強くなった! LVはあの時よりも100近くも上がり、装備も調え、たとえあの時の俺たちが100人掛かりで攻めてこようとも打ち勝てるほど強くなっている! なら、50人でも〈ヘカトンケイル〉に負ける道理はない!」
「「「!」」」
先頭に出て宣言する。右手で〈ガラティーン〉を掲げ、背中で道を指し示す。
このために今朝は真の最強装備の換装&お披露目会をしたのだ。すべては負けない根拠をここに示すため。
そしてゆっくりと真上に向けていた剣を倒し、〈ヘカトンケイル〉の顔に剣先を向けて、俺は最後に宣告した。
「あれを倒す! 俺たちにはそれができる! 全員、俺についてこい! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「ヴオオオオオ!!」
先頭にいる俺へ狙いを定めた感じの〈ヘカトンケイル〉に、俺はそう言って一発の〈六ツリ〉をぶっ放した。
これが開戦の合図となったんだ。
「ヴオオオオオ!!」
「ゼフィルス! 『アブソープション・ワン・フォートレス』!」
「サンキューシエラ! 信じてたぜ!」
「もう! 無茶しすぎよ!」
〈ヘカトンケイル〉の第一形態は、まるで巨人の侵攻だ。
そして脅威なのはその100もの腕から放たれる伸びるパンチ。
たとえかなりの距離を稼いでいても普通に殴ってくる驚異的なパンチの連打が超厄介。あまりに大きく速く多いため、俺でも完全に回避し続けることは難しい。
そんな攻撃が俺に向けられたが、シエラが割り込んで弾いてくれたんだ。
「なんか思い出してきたわ! 『神の天誅』!」
「ラナ様、危ない!」
「え!? ひゃ!」
「『完全魅了盾』!」
「ヴオオオオオ!」
ラナが〈六ツリ〉で真上から攻撃すると、〈ヘカトンケイル〉のタゲがラナに移って伸びるパンチを発射。
エステルが素早く〈足特装型戦車〉である〈スカイスローン・ハイローラー〉をギュインと走らせてラナを回収、シエラが強制的にタゲを向けさせるユニークスキルでパンチを引き付け、防御していた。
エステルのこの〈足特装型戦車〉は〈聖界ダン〉30.5層、〈座天使・ソロネ〉からドロップしたレシピからタネテちゃんが作り上げた、短時間なら空中をも駆けることができる〈戦車〉装備だ。
実はこれも今朝みんなが来る前にエステルに渡し、最上級ダンジョンで朝練してもらっていた装備の1つになる。今こそお披露目だ!
「ナイスエステル! ――シエラ!」
「大丈夫よ。あの時の私とは違うわ。受けきって見せるわよ――『 守陣形 ( しゅじんけい ) 四聖盾 ( しせいたて ) 』!」
「タンクはシエラを援護してくれ!」
「「「はい!」」」
「みんな! この〈ヘカトンケイル〉は2年前と同じ攻略法で攻略はできない! いつものレイドボス戦通りでいくぞ!」
2年前の攻略法。それはなるべくタゲを自分たちに向けさせない、ヘイト管理重視の攻撃がメインだった。
なにせ当時の俺たちは一発でも攻撃を受けたら即戦闘不能だったのだ。
故に、他の人たちが攻撃しまくってヘイトを受け持ってくれるのをありがたがりながら〈ヘカトンケイル〉の隙を突いていたな。
だが、今回は狙われるのは100%俺たちの仲間だ。他の味方に任せることはできない。
シエラの〈六ツリ〉ですら全て1人で受けきるのは不可能だ。
故にタンクをサポートに向かわせて連続パンチを防御していく。
「ノエル、じゃんじゃんバフをかけてくれ!」
「盾は任せてくださいです~!」
「ラクリッテちゃん頑張って! 『エールベストパフォーマンス』! 『コングラチュレーション』! 『音速リズム』! 『オールナイト・カルテット』!」
「ヴオオオオオ!」
「〈ヘカトンケイル〉が自己バフしたぞ! モニカ、奪い取れるか!?」
「お任せやがれです! 『そのバフ貰い』!」
「ミサト、ゼルレカ! デバフを積んでくれ!」
「たは! 『オールドレイン・レジェンド』! 『 誘惑生吸 ( ゆうわくせいきゅう ) ・ライフミナドレイン』!」
「任せてくれ! 『モチベーション・ゼロ』! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
「ヴオオオオオ!!」
「回復いきます! 『アルティメットハートヒール』!」
「マシロ頼んだわ! 私はアタックに回るわよ! 『大聖光の無限宝剣』!」
レイドボス・大型〈ヘカトンケイル〉にデバフを中心にかけまくり、こっちはたっぷりバフ盛り盛り。
ダメージがかなり軽減され、こっちからの攻撃はかなりのダメージが入っていく。
「ラウ、もう震えは大丈夫か?」
「はっ! ふがいないところを見せた。もう問題は無い! 俺たちも加わるぞ! ――ルキア!」
「いくよラウ君――『クロノス』!」
「ヴオ!?」
「砕けろー! 『ゼルワン・カイザーバスター』!」
「ヴオオオオオオオオ!?」
さっきまで若干ビビっていたラウやルキアたちはもういない。
ルキアが止めた瞬間、ラウが真下から強烈なアッパーカットで〈六ツリ〉のバスターを叩き込んでいたからだ。強烈な攻撃にHPが一気に減る。
そうだ、もう〈ヘカトンケイル〉は――俺たち50人でも突破可能なのさ。