第2013話 カイエンと学園長大慌て!その情報爆弾待って
第2013話 カイエンと学園長大慌て!その情報爆弾待って
「が、学園長ー!(失礼します学園長。カイエンです)」
「ぬおお!? ど、どうしたのだカイエン君、そんなに慌てて!?」
「カイエンさんがそこまで慌てているなんて珍しいですね」
「……これは失礼いたしました学園長(やっべ! 表と裏間違えた!)」
ここは学園長室。
その日、そこは少しだけ様子が異なっていた。
あの冷静沈着なカイエンが何やら血相変えて学園長室に入ってきたのだ。
見慣れない光景に学園長もビビる。
しかし、一瞬後にはカイエンも冷静を取り戻していた。
「こほん。実は〈エデン〉が先ほど〈万界ダン〉から帰還しまして、無事30.5層のレイドボスを攻略したそうです(セーフ? セーフっぽい? よかったセーフだ。あぶねぇ。俺が積み上げてきたクールでできる男像が崩れるところだったよ!)」
「……そ、そうか。うむ。順調そうじゃのう……でじゃ、カイエン君があんなに慌てていたということは、それだけではないんじゃろう?」
学園長、本当は恐ろしくて聞きたくないが、聞かずにはいられない。
あのカイエンをあそこまで取り乱させたとか〈エデン〉は今度は何をしたのか?
非常に知りたくないが気になるところだ。
「実はその30.5層のレイドボスが厄介な相手だったのです(俺も最初聞いた時はビビったよ。これはすぐにでも学園長に動いてもらわないといけない案件だ! ふう、上司に投げられるってすごく幸せ!)」
「う、む。続けなさい」
一瞬、まさかあの〈エデン〉に何かあったのでは? と学園長の脳裏に過るも、先ほどカイエンから無事レイドボスを撃破し帰還したと報告があったばかりだ。
やっぱり〈エデン〉は無事に帰ってきているらしい。
ではそのレイドボスとはいったい何だったのか? それがカイエンの口から放たれる。
「……実は〈エデン〉が遭遇したレイドボスは――〈ヘカトンケイル〉だったそうなのです」
「…………な、なんじゃと?」
学園長、一瞬理解を 拒 ( こば ) ――ではなく理解できなくて聞き返す。
「最上級ダンジョンのランク4、〈万界ダン〉30.5層のレイドボスは――〈ヘカトンケイル〉だったそうです!(あの5000人で倒すレベルの凶悪最強のレイドボスを、〈エデン〉がたった50人でぶっ飛ばしてきたんだってさ!!)」
「お、おう? お、お、お、おう!?」
学園長は混乱している。混乱のあまりアシカになってしまったかもしれない。なんか「お、おう」しか言わなくなってしまったのだ。ここで拍手でもすればアシカの仲間にも入れてしまうかもしれない。
カイエンの追撃――ではなく報告は続く。
「しかもアリーナとは違い、最上級ダンジョンですから、当然ドロップがあったそうで」
「ド、ドロップじゃと!?」
ガタリと学園長が思わず立ち上がる。80歳とは思えない、なかなかに俊敏なガタつきだった。お見事。
〈ヘカトンケイル〉のドロップと言えば、学園でも昔は相当物議を醸しだしたデリケートな問題。
なにせ、学園が管理するアリーナで、唯一倒せるレイドボスとして登場するのだ。
しかし、アリーナのモンスターはドロップを落とさない。
どうにかしてドロップを落とさせる仕様にできないかと、一時期大量の研究員が導入され調査・研究がなされたのだ。
もしも〈ヘカトンケイル〉がドロップをするのなら、学園の地位、そして世界中がもっと経済的に活性化していただろうというのはこの国のお偉いさんであれば誰もが考えたことだった。
なにせ、レイドボスを召喚盤無しで召喚できるアリーナがあるのは、この世に迷宮学園・本校だけなのだ。それも倒せるとあっては夢を描くのは当然のこと。
だが、その研究や調査はむなしくも失敗。
結論として、アリーナのモンスターはどうあがいてもドロップはしないと判明してしまったのだった。
すぐ側であれほどのボスを呼び出すことができるのに全くドロップが手に入らない。ああ口惜しや。そう思っているお偉いさんは多い。
そんな中、〈ヘカトンケイル〉のドロップが出まわったらどうなるだろう?
「ついにアリーナでドロップさせる方法が見つかったのだな!」と盛大に勘違いされ大変な騒ぎになることは想像に難くない。同時に騒ぎに忙殺される学園長の姿も見える見える。
あかん!
「し、至急〈エデン〉に使者を送るのじゃ! 〈ヘカトンケイル〉の素材を世に出してはならん! せめて準備が整うまで待ってもらうのじゃ! それはアリーナで採れた素材ではない!」
「は、はい! 承知しました!(マジで大変なことになる前に手を打たないとやばい感じ!? 今回は学園長が気絶すらしないですっごい指示だしてる!)」
〈ヘカトンケイル〉を50人で倒したことなんてもはや些細なこと。むしろいつものこと。
問題は勘違いしたお偉いさんたちが一斉に学園に問い合わせをしてくることだ。なんとしても情報が爆発して各所に飛んで行ってしまう前にこっちで管理する体制を整えておかなければならない。
もし〈エデン〉が〈ヘカトンケイル〉の素材を世に流してしまっていたら、学園長は今度こそ意識を彼方に飛ばして戻っては来ないだろう。
「あ、それともう2つ報告があります。1つ目はゼフィルスさん曰く、〈万界ダン〉は追想型ダンジョンなため、60.5層や90.5層でも、同じくアリーナで出現するレイドボスが登場する可能性があると(1体で終わるわけがなさそうな予感!? 学園祭に登場するレイドボスは3体だもん! 数がピッタリ合っちゃってる感じなんだ! そんなバカなとは言い切れないっぽいよ!)」
「な、なんじゃと……!? そ、それについても周知をしておくのじゃ! 〈学園の鳥〉や研究所にもすぐに連絡を! それとゼフィルス君たちにはくれぐれも、くれぐれも〈万界ダン〉のレイドボス素材を世に流すのを待ってほしいと丁寧に伝えるのじゃ!」
学園長の脳裏に、学園祭で3年周期で呼び出すレイドボス、全身が骨のリッチ系、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉と、未だに1度の勝利も経験したことのない最強にして無敵のレイドボス、あの凶悪な 悪魔 ( デーモン ) の王 ( ロード ) の姿が過ぎる。
〈ヘカトンケイル〉の研究はあくまで倒せるボスだからだ。
そして〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は倒すことがとても難しいボス、最後の1体なんて倒せないボスとされていた。そんな素材がもし世に出たら?
どういうことなんだと間違いなく問い合わせが殺到する。
しかも〈エデン〉だ。なんか〈エデン〉だと最後の倒せないボスも50人で張っ倒して帰還するかもしれない。大量のお土産を持って。
「そ、それとゼフィルスさんからもう1つ――〈ヘカトンケイル〉の召喚盤もドロップしたとか」
「…………かひゅん」
「学園長! お気を確かにー!」
「(学園長逝ったーーーーーーー!?)」
そこまでカイエンが言った時ついに許容量を突破し学園長は意識を飛ばしてしまい、コレットの嬉しそ――ではなく嘆きの声が学園長室に響いたのだった。
◇
「ゼフィルス様、今よろしいでしょうか?」
「お、どうしたんだセレスタン?」
ギルドハウスに帰還して女子を風呂へと送り届けた後、俺たちも温泉でさっぱりしたところでセレスタンがかしこまるようにして俺に報告してくる。
「カイエン様から連絡です。〈ヘカトンケイル〉の素材が世に出回ると大変な混乱が予想されるので、世に出すのはどうか待ってほしい、と」
「やっぱりか」
〈ヘカトンケイル〉を倒した直後から貴族系のメンバーからいろいろと助言されたからなぁ。
最上級ダンジョンから帰還したところですぐにカイエン先輩にメッセージを送っておいたのだ。結果ギルドメンバーと同じ反応だったので〈ヘカトンケイル〉の素材は売るの待った方がよさそう。
なら、身内で使うとしようか。
「それと、60.5層と90.5層のレイドボス素材の方も、予想通りだった場合は売らないでほしいとのことです」
「まあ、仕方ないな。それじゃあアルルたちにでも渡すか。それでギルドメンバーの反応は?」
「概ね好感触です。やはり5000人規模で倒すような存在をたった50人、しかも大きな被害等もほとんどなく倒せてしまったことは非常に大きかったようです」
「よしよし」
元々〈ヘカトンケイル〉は、ゲームでも1年生の時に戦う存在だ。
レイドボスの中でも弱点が多く、下級職が多い時でも頑張れば勝てるという存在だった。故に〈ヘカトンケイル〉戦のこの勝利は当然。
それでメンバーの士気が高くなってくれたら俺も助かる。なにせ、90.5層とかこの世界では未だに倒したことがないボスとか言われているらしいし、レイドボスのボス部屋に入った途端どうせ負けると心が折れないとも限らない。
士気の高さと今回の〈ヘカトンケイル〉戦の実績はかなり重要だった。
「明日からも1日10層ペースで駆け上がり約1週間で攻略を目標とする! 90.5層の全敗中のボスも、俺たちが初めて倒してやるぜ!」
そうニヤリとしながら俺はグッと拳を握ったのだった。
ふはは!