第2026話 抜けられない足止め階層。隣接しちゃダメよ!
第2026話 抜けられない足止め階層。隣接しちゃダメよ!
「えー、今日こそは〈万界ダン〉の80層を目指したいと思います!」
「無理じゃない?」
「そこを何とか……!」
俺の決意を込めた宣言に、きょとんと首を若干傾げたラナがぶった切ってきた。
いや、俺もそんな気がしてるけどさ。
なにせ、70層台前半はエクストラダンジョンエリアだ。
ここまで順調に1日10層というペースで攻略していた俺たちが、なんと71層のみで1日を取られるというとんでもない事態になっているのだからラナがこう言うのも分かる。
エクストラダンジョンは遊び場。その遊び心満載の階層に、俺たちはなすすべはないのだ。
ラナが〈食ダン〉の追想で手に入れた、〈深泉のアップルジュース〉の最上級バージョンである〈 神泉 ( しんせん ) のアップルジュース〉を一口飲んで「ん~美味しいわ~」と和んでるんだよ。
俺もフラッとそっちに行きそうになるのにグッと足に力を込めて立ち止まる。
「夏休みももう終わりが見えてきた! 何とか夏休み中には〈万界ダン〉を攻略したいところなんだ!」
「それは分かってはいるのだけど……」
「わ、わたくしたちもなるべく頑張りますわ!」
シエラとリーナが自信なさそうな雰囲気を……! それ無理だと思ってるってことだよね!?
やはりエクストラダンジョンの魔力は強すぎる!
「ちなみに今日は何日だセレスタン?」
「はい。本日は8月25日でございます」
「そう、今日は8月25日なんだ……!」
〈海ダン〉に行ったのが7月25日。
そこから新メンバーであるグラジオラたちを加入させて2週間かけて上級中位ダンジョンに連れて行った。
さらにマリー先輩に頼まれてレイドボス素材を集め、真の最強装備作製に取り掛かり、学園長のところでお披露目。
またインタビューやらなにやらを受けてできる限り回答し、ようやく〈万界ダン〉の攻略にこぎつけたのはもう8月も後半に入った17日のことだった。
そこから1週間でなんとか70層まで攻略して順調だったのに、まさか71層のみで貴重な1日を費やしてしまうとは予想外……! ゲームではスルーできたが、リアルではスルーできなかったんだ……!
「大丈夫よゼフィルス、夏祭りまではまだ5日もあるわ! 十分攻略できるわよ!」
「本当かなぁ」
学園の夏祭りは8月末の30日と31日に行なわれる。
〈万界ダン〉の攻略リミットは、8月29日! 今日を入れてあと5日!
確かに残りは19層で5日あれば攻略なんて楽勝だ――と普通は思うだろう。しかし、70層台前半はさっきも言ったようにエクストラダンジョンだ! シエラやリーナの態度からしても油断はできない。
「とにかく行くしかないわ!」
「ああ、そうだった。確かに行くしかない。―――なるべくエクストラダンジョンの魔力に誘惑されないよう、みんな、気を引き締めていくぞ!」
「「「「…………」」」」
「みんな返事はー!?」
いかん、毎年エクストラダンジョンで遊びすぎたかも!
もう完全にエクストラダンジョンは遊び場だとみんな認識しているっぽい。
いつもなら「「「おおー!」」」と返してくれる掛け声が、全く聞こえなかったんだ。
そして72層へ入ダン。
ここは予想通り――〈海ダン〉の追想だったのだ!
「「「海だー!」」」
「「「浜辺だー!」」」
「ああ!? 早速みんながエクストラダンジョンの魔力に引っかかった!?」
秒だったよ。
もうこれ以上ないほどの即敗北だったんだ。
俺が手塩にかけて育ててきた〈エデン〉が崩壊しちゃう!?(正しくみんなゼフィルス済み)
「ゼフィルス様、『こんなこともあろうかと』!」
「おお、セレスタン! 何か秘策があるのか!?」
ここでセレスタンお得意の「こんなこともあろうかと」が炸裂!
これが出たときのセレスタンはいつも俺の予想をはるかに上回る勢いで助けてくれるのだ!
そしてセレスタンが胸ポケットからドンっと取り出したのは、熟したスイカだった。
「〈食ダン〉の追想でスイカを入手しておきました」
「……いや、そうじゃないんじゃないかなセレスタン!?」
まさかのセレスタンがボケに回った!? 俺は一瞬目が点になったのを自覚したんだよ。
渡されたスイカは瑞々しいまでに艶めいていた。最上級の立派なスイカだ。
71層でスイカを採集し、72層でスイカ割りを楽しむ。
なんだろう、このエクストラダンジョンのコンボ攻撃! 俺たちを足止めすることに大成功しちゃってんじゃん!
「ゼフィルス、良いものを持ってるじゃない! ちょっとそれ頂戴!」
「ああ!?」
セレスタンから渡されたスイカがラナの手にひょいっと渡ってしまう。
ラナの表情を見て、さっきの『大丈夫よゼフィルス、夏祭りまではまだ5日もあるわ! 十分攻略できるわよ!』のセリフが頭をよぎる。
ほ、本当に大丈夫?? そう思ったとき。
「シャーーーーーーーク!」
「ゼフィルス、シャークだ! どでかいシャークが出たぞ!!」
「「「「きゃー!」」」」
〈海ダン〉名物のシャーク襲来。
しかも最上級のシャークは身が引き締まり、なんと赤いボディをした12メートル級の巨大足つきホホジロザメだったのだ。で、でかい!
「海に帰れ!! 『アポカリプス』ーーー!」
あ、メルトがまたもユニークスキルを! しかし。
「シャーーーーー!!」
「な、なにぃ!! 耐えただと!?」
予想外発生。
本物の〈海ダン〉のシャークなら間違いなくオーバーキルで倒せたはずだが、ここは最上級ダンジョン、しかも72層という深層だ。
さらにここのシャークは大型モンスターに分類されている。HPは通常モンスターよりも高いのだ。なんとメルトのユニークスキルを直撃しといて耐えやがった!
「『看破』です! これは――〈城食いレッド・レッグホージロシャーク〉です!」
「城食いレッド!?」
「なんか強そうですの!?」
倒す前になんとかエステルが看破に成功したので安心(?)。
「シャーーーーー!」
「いいから帰れ!! 『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」
「シャーーー!?」
しかし「こいつ、ただ者じゃなさそうだぞ!?」という雰囲気を出しながら上陸したシャークだったが、追撃のメルトのアポカリプス6連に撃ち抜かれ、今度こそ光に還ってしまったのだった。海に帰ってないやん。
まあ、なんにせよ勝利だ。これで平和が戻ったな、そう思ったら。
「シャーーー!」
「また来たーーー!?」
「おかわりシャークだーーーー!?」
「シャーーーチ!」
「いや違う、これはシャークじゃない! シャーチだ!」
「シャーチ!?」
シャーチまで来ちゃった!
しかも女性陣、〈海ダン〉でシャーチはこれが初見!
どこかで聞いたような「これはシャークじゃない、シャーチだ!」ネタをもう1回披露してしまったぜ。
良いリアクションで乗ってくれたサチ、エミ、ユウカには感謝。
「『看破』! これは――〈海の赤いボス・レッグ 陸 ( りく ) シャーチ〉です!」
「赤いボス!」
「ボスですの!?」
「いえ、ボスではなく大型モンスターのようですね」
「どっちなのよそれ!?」
「つまりボスだと名乗っているちょっと強いだけのモンスターだ!」
「偽物ね!」
エステルの『看破』にカグヤ、サーシャ、ついでにラナからもツッコミが入る。
なかなかにツッコミどころが満載なモンスターだ。
ボスの〈シャーチ〉は70層で出たもんな。
「貴様もシャークと同じ道だ! 喰らえ――『コキュートス・ゼロ・ディザスター』!」
お、メルト、本気モードか!? 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉からドロップした〈 氷魔 ( ひょうま ) と 常闇 ( とこやみ ) の 霊獄杖 ( れいごくつえ ) 〉の効果『氷属性攻撃魔法威力+50』をフルに使った攻撃をくりだしたな。『アポカリプス』は無属性魔法なので、威力上昇が乗らないのだ。
そして直撃した〈海の赤いボス・レッグ 陸 ( りく ) シャーチ〉は、なんと〈氷結〉状態になってしまったのだった。
「おーっほっほっほ! わたくしたちもやらせていただきますわ! ――クラリス~!」
「待ってくださいって言ってるでしょお嬢様!」
なぜかやっぱり2班が担当。
メルトが凍らせ、ノーアとクラリスが三枚に――は別におろしてないが、ぶった切って光にした。ドロップは〈シャーチボスの大皮〉だった。ドロップまでボス名乗ってる……!
ちなみにもうお察しかもしれないが、これは水着素材だ。
本来の〈海ダン〉は中級。そのドロップも当然中級産。
それじゃあ水着でダンジョンを攻略させる夢のアクションができないじゃん! そんなお声にお応えし、開発陣はしっかりと最上級ダンジョンでも戦える水着装備を用意していたのだ!
水着素材でダンジョン攻略って、ロマンあるよね。
なお、リアルでは水着を着せて最上級ダンジョンで戦わせたら大変なことになると思われる。こう、社会的に。――くっ! これは封印か……! 封印するしかないというのか! 売り出したら学生がみんな水着装備に染まりそうだから、やっぱり封印だな。うん。
ちなみに俺たちはその後、攻略しに来たはずなのに、どこか 救済場所 ( セーフティエリア ) として使える入り江探しに没頭することになった。
まあ、結果見つけられなかったんだけどな。知ってた。
とはいえそれで諦めが付くわけもなく、しっかりとお昼のバーベキューはやったよ。楽しかったなぁ。(←エクストラ済み)
やっぱりさ、〈食ダン〉と〈海ダン〉が隣接してるのっていけないと思うんだ。
ちょっと食材探しに〈食ダン〉に行って現地調達して海でバーベキューって、めちゃくちゃ楽しいじゃん!
しかも海で海鮮系も採れるんだよ? タイチが盛大にフィッシャーしててさ。さらに景観も最高で言うことなし!
結局その日も俺たちは〈食ダン〉と〈海ダン〉を行き来しながら過ごしてしまったんだ。
夜にはもちろん〈 幽霊船 ( ゴーストシップ ) 〉の最上級、〈アルティメットマザーシップ〉の攻略にも挑んださ。
故に夜まで待たなくちゃいけなかったんだ。仕方なかったんだ! お宝いっぱいだったんだ! スケルトンもわんさかいて、ホラーもいっぱいだったんだ!
エリサが「きゃーご主人様こわーい!」って片腕に抱き着いてきたと思ったら反対の腕にシエラが軽くいじらしく手をつないできてさ。もう最高だったんだ!
なお、エリサはいつの間にかフィナになってた。シエラに集中していて気が付かなかったことは秘密にしておこうと思うんだよ。
こんな感じで〈アルティメットマザーシップ〉は、とても楽しかったんだ。抗えなかったぜ。
そして8月26日。
この日到着したのは、73層。――〈秘境ダン〉の追想だった。
お、おお、温泉がいっぱいじゃー!!