第2035話 夏祭りデート1日目!最初のデートはラナから!
第2035話 夏祭りデート1日目!最初のデートはラナから!
「さあ、俺の秘策のご登場だ!」
ハンナと別れ、出発した俺は、そう呟きながらとあるものを顔に着けた。
俺を見る人たちを見て、問題ないことを確認する。
貴族舎の周りには1年生から3年生まで、それはそれはもう多くの男女が出待ちをしていたんだ。
「今日こそは良い男を捕まえて、一緒に夏祭りに繰り出すのよー!」
「「「おおー!」」」
「はい! 私は勇者君がいいです!」
「ちょっとそこのあなた。今よろしいですか?」
「ひうえ!? よろしこないですぅ!?」
「あの子ったら、無茶しちゃって……」
なんか1名捕まって連行されていったんだけど?
あれは〈秩序風紀委員会〉のメンバー、なのか? ちょっと雰囲気が違うような気がしたけれど。警備ご苦労様です!
「やっぱ〈エデン〉の女子メンバーとかお近づきになっちゃダメかな?」
「やめとけ、命が惜しければな」
「最近は〈エデン〉の知名度が上がりすぎてとんでもないことになってるからな。〈エデン〉ファンを怒らせると社会を敵に回しかねないぞ」
「ひぃ! 社会的命が危ない!?」
「おとなしく他にいい子を見つけるんだ。幸い、ここには男を捕まえて一緒に夏祭りに行きたい系女子しかいない。チャンスだぞ」
「ごくり。よし、俺が先に行ってみるぜ―――あの、もしよかったら俺たちと夏祭りに行きませんか?」
「勇者君と行きたいから無理!」
「がふっ!?」
「ニッシーーーー!? 大丈夫か!? ニッシーーーー!?」
「俺、折れた」
「メンタル弱ぇーーー!?」
「こんとーーーーーーーん!」
カオスだ。
そんな朝の貴族舎入口を、俺は堂々と出ていく。
ふっふっふ、俺の秘策に間違い無し。誰も俺が勇者であると気づいていないな。
単にアクシデントに注目が集まっているだけな気がしなくもないが、バレなければ問題は無い。
そろそろネタ晴らしをしよう。
今の俺は、とあるお面を被っていた。なんのお面かって?
ふっふっふ、これはな、なんと―――〈幸猫様〉のお面なんだ!
いつかのお祭りだかイベントの時に限定品を購入して部屋に飾っておいたのだが、マリー先輩から「夏祭りいくなら顔隠さなあかんで? 特に1人で行動するときな」と助言をもらったので、こうして装着することにしたのだ。
確かに、あの入口をノーガードで通ろうとすればただでは済むまい。
だが大丈夫だ。俺には〈幸猫様〉が付いてる!
故に俺は堂々と浴衣に〈幸猫様〉のお面で顔を隠した姿で入口を通るのだ。
「なあ今の」
「しっ! 黙っておけ!」
「あんな感じに堂々としておけば逆に気づかれないのか……」
同性の何人かにはどうやら気づかれてしまったようだが、女子は相変わらず気づいていないようで安心。
ばれないうちに難関を突破し、俺は待ち合わせ場所へと向かったのだ。
そして無事到着。待ち人はまだの模様。俺は面をつけたまま堂々と待つのだ。
堂々としていれば意外に気づかれない。人がだいぶ増えてきたのも逆にいいな。木を隠すのなら森の中、人を隠すのなら人の中だ。
「ふっふっふ。〈幸猫様〉のご尊顔を知っているのは主に〈エデン〉メンバーだ。未だに一般には知られていないこの仮面を見れば、〈エデン〉メンバーなら一発で見破ることだろう。完璧な作戦です〈幸猫様〉!」
一部の界隈で有名な仮面をつけていれば、それが逆に目印になる。
顔を隠しているのに仲間には仲間だと分かるお面、〈幸猫様〉最強すぎないか?
改めて〈幸猫様〉の偉大さにジーンと来ていると、ついに待ち人が到着する。
「あ! 見つけたわ!」
「お、その声は!」
振り向けばそこに居たのは――〈幸猫様〉のお面を被った、白い浴衣姿の女子!
お互いお面で顔を隠していたのに一発でそれが誰だかわかったね。
間違いない。ラナだ。チラッとお面を横にずらす。
すると、ラナもお面をつけなおして、顔の横に取り付けた。
合流すればもうつける必要はないからね。
「その、待たせたわねゼフィルス」
「大丈夫だ。俺も今来たばかりだからな」
「そ、そう?」
定番のやり取りにラナがもじもじしています!
大変可愛い。
改めてラナの姿を見る。
ラナの銀髪によく映える白をベースとした浴衣姿。
まるで星の川のように青い意匠が側面から足まで描かれており、銀河の中で光り輝く一等星を思わせる美しいデザインの浴衣だった。帯は青と白の 市松模様 ( いちまつもよう ) 。作った方はかなりの腕と見た。浴衣を着たラナが、普段の何倍も輝いて見えたんだ。端的に言ってすごく似合っている。
「まるで夜空に輝く一等星のようだ。綺麗だぞ、ラナ」
「ふぁ!? そ、そう? その嬉しいわ? とっても悩みぬいてデザインを決めたから」
今日のラナがもじもじが大変可愛らしい!
俺の言葉に顔を真っ赤にすると、視線をさまよわせてから少しポーズをとった。
浴衣を見せるようなポーズだ。
うん。素晴らしい。大変素晴らしいです!
「ゼフィルスもとっても似合ってるわ。その、かっこいいわよ」
「サンキュー!」
褒められるのも良いものだ。
さて、いつもなら大体この辺でラナがオーバーヒートっぽくなって従者を連れてくるのだが……?
「ど、どうしたのゼフィルス?」
「いや、今日はエステルたちは? 去年も一昨年も居ただろ?」
「今日は私1人よ」
「なぬ!?」
聞き間違いだろうか?
今この王女、護衛無しで混雑する夏祭りの会場に来たと言った気がするぞ?
「え? 本当に?」
「エステルたちにとっても最後の夏祭りだもの。去年も一昨年も私に付き合わせちゃったし、今年はゼフィルスと一緒の間くらい好きに見させてあげることにしたの」
「マジか」
俺、責任重大です。
まあ、もちろん今の俺をどうにかできる人物なんてそうそういないけどな! ラナも然りである。
だからだろうか? エステルたち護衛組がマジ見当たらない。でもどこかで監視くらいしてるとは思うんだけど。
「なによゼフィルス、そんなにエステルたちと一緒がよかったの?」
「いや、ラナが心配なんだよ」
「別に心配なんてしなくても、私LV100よ?」
「それでもラナが心配なんだ」
「そ、そう?」
「ああ。何かあったら必ずラナは俺が守ろう」
「ふわぁ!?」
不満顔から一転、心配顔を経由してラナの顔が真っ赤に染まった。
この百面相もラナの魅力の1つだ。照れるラナが可愛い。
とここで校内放送が流れ始める。
夏祭りを開始しますという、いつものやつだ。見ればすでに時刻は10時だった。
一気に人が流れ出すな。
「ラナ、手を」
「い、いいわ! 苦しゅうない……あ、ちょっと胸が苦しいかも……」
未だに真っ赤な顔のラナがちょっとドヤ顔で俺の手を取ったはいいが、なぜか少し俯いてしまったのだ。大丈夫かな?
「くっ、大丈夫よ。この程度で負けてはいられないわ! なにせ、今日は1時間しかゼフィルスを独占できないんだもの! 遊びつくさないといけないのよ!」
そう。実は今年はさらに人が多くなったため、1時間交代となっているのだ。
ラナが奮い立ったように決意が見える。
「お、おう。復活おめ。それじゃあ行くか」
「うん!」
「あまり距離を取ると人波にぶつかるから、もっと近くに寄ってくれ」
「ふぁ!?」
夏祭り開始と同時に一気に校庭に入っていく参加者たち。
人波がすごくてラナが攫われそうなので、普通の手つなぎ状態から手を放し、左側に居るラナの腰に左手を回し、ラナの右手は俺の右手が捕まえる。かなりの密着ポーズになってしまったが、こうでもしないと危険で危なそうなほど人波がすごかったのだ。
俺たちは早々に校舎の裏の体育館へと回る。
「ここなら多少マシだな。まだオープンしたばかりでここまでくる人が少ない」
「……」
「ラナ」
「にゃ、にゃに?」
「口調が猫になってるぞ?」
「 にゃ ( な ) ってないわ」
にゃ ( な ) ってるやん。
「こほん、なんだか早速役得というか、人波から守ってもらっちゃって有言実行というか。色々と頭がショートしちゃったのよ」
「ふむふむふむ?」
ラナが何か弁明しているが、俺には2割も理解できなかったんだ。
でも確かに、ラナを守ると言った早々守ることになったなぁ。人波ヤバス!
「あ! 射的よ! ゼフィルス、ちょっとやってみましょう!」
ラナがごまかすように出し物に指を向けて言う。
「いいが、もうちょっと込み合うところからにしようぜ。今が空いているチャンスだろ?」
「確かにそうだわ! あ、ボール投げのアトラクションだって! あれはどう?」
「でか! 設備本格的すぎない!? よし、これにするか!」
まるで〈海ダン〉に行った時のマリー先輩たち力作ウォータースライダーのようなアトラクションがなぜかあった。いや、あそこまですごいものじゃないけど。
小さな観覧車風の的、小鳥の巣箱のような的、犬小屋みたいな小さな家のようなものが何かしらの動力によって動いているアトラクションだった。
的には穴が開いているので、そこにボールを投げ込むと得点。動き続ける的にどれだけボールを入れて得点を稼げるのかを競うところらしい。
早速俺もラナもボール投げを楽しんだ。
ラナってこう見えても命中率が良いので素早さ勝負。俺との得点は僅差だったんだ。
「俺が999P、ラナが999Pで同点!?」
「なあ! あと1点だったのに!」
結果はまさかの同点。
まあ、実は俺が少し手加減したからなのだが。俺のAGIの方が高いからね。
でもラナが楽しんでくれてよかったよ。バレてはなさそうだ。
その後もいくつかのアトラクションというか、遊び系の出し物を回る。
最初は照れたり、なんだかいつもの元気が無かったラナだったが、時間が経つごとに調子が出てきて最後は一緒にはしゃいだよ。
しかし楽しい時間は瞬く間に過ぎていくもので。
「あ、もう11時前……」
「今回はここまでか」
「うう、もうちょっと遊びたかったわ」
「俺もだ」
時計を見れば、もう交代の時間。
「ねえゼフィルス。最後に手をつないで向かいましょう?」
「もちろんだ。というか手をつながないと多分はぐれるぞ」
「そ、そうじゃなくて、ここに来た時にしたダンスみたいなやつよ」
「あれか」
いや、あれは人混みがヤバすぎたが故の緊急措置で、落ち着いた今はあまりしなくてもいいような。
「ダメ?」
「ダメなはずないだろ。つなぐか」
「う、うん……」
今日のラナはいじらしい。また最初のラナに戻ってしまった。
結局ラナの右手を右手で取り、左手はラナの腰を抱くような密着のポーズで待ち合わせ場所に向かうことになった。ラナの背中が密着してくるような感じ。
そんな感じで目的地に向かえば、ちょっとニヤニヤ笑いのパメラと、無表情のシズ、そしてにっこりとしたエステルが待っていた。視線は、ばっちりと俺たちの手や腰に向けられている。これは後で根掘り葉掘りされるやつだ。
「ゼフィルスさん、お疲れ様デース!」
「ラナ様はこちらでお預かりいたします」
「ゼフィルス殿、ラナ様、楽しめましたか?」
そのエステルからの問いに俺とラナは顔を見合わせて、頷いた。
「「とっても」」