第2037話 夏祭りの1日。楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆく
第2037話 夏祭りの1日。楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆく
食べ歩きながら会話と食事を楽しんでいたらあっという間に時は過ぎていき、もう交代の時間。
「名残惜しいですわ……。とてもとても時間が少ないですわ」
「確かにな……」
遊ぶ時間が1時間は少ない。でも、約束が多いのだから仕方ないのだ……。
「悪いなリーナ」
「仕方ありませんわ。みなさん同じ条件――いえ、独り占めできているのですからわたくしは恵まれているほうですもの、これ以上の贅沢は言えませんわ。……とはいえ、できるなら夏祭りが2週間くらい続いてくれたらよかったのですが」
「俺2週間ぶっ続けでお祭りを楽しむの?」
でも確かに、リーナと2人きりで半日遊び通したりするにはそれくらいの日数が必要なのかもしれない。お腹パンパンで動けなくなりそうだけども。
「それじゃあリーナ。気を付けてな」
「はい。カタリナさんたちと合流するつもりですから大丈夫ですわ。ゼフィルスさんこそお気をつけてくださいまし。今この学園は 獰猛 ( どうもう ) な――こほん、勇者さんと遊んでみたい子が多くいらっしゃいますから」
「今獰猛な子って言いかけなかった?」
一応きょろきょろとしてみるが、リーナの言うような子はいない気がする。ここが階段の踊り場というのもあるかもしれないけどな。
「ま、大丈夫だろう。俺にはこの〈幸猫様〉のお面が付いてるからな。今のところ、これを付けていて話しかけられたことはないんだぜ?」
「それは――い、いえ、なんでもありませんわ」
「? おっと時間がヤバい。それじゃあリーナ、俺は行く。じゃあな」
「はい。ゼフィルスさんもお気をつけて」
「おう!」
そう、片手を上げてバイバイし、俺は〈幸猫様〉のお面をつけてリーナと別れた。
「あ! 勇者君が1人になったよ!」
「チャンスだわ! あ、あの勇者く――」
「あなたたち、ちょっとよろしいですか?」
「ひぃ!?」
「うそ!? 今居なかったわよ! どこに居たのよあなた!」
「話は静かなところでお聞きします」
「「ひゃあああああああ!?」」
「…………ゼフィルスさん周りの警備は完璧ですわね。ですが、ゼフィルスさん、あれに気付いてないんですの?」
◇
リーナと別れると、続いて向かったのは〈戦闘2号館〉の裏、練習場施設。
その1つから、なかなかの歓声が上がったのが聞こえてきた。
「すげぇ12連勝だ!」
「これが、LV100の力ですかい!?」
「付いていかせてくだせぇ、兄貴!」
「俺はお前たちの兄貴ではない。ついてくるな」
「「「「キャー! ラウ様ーー!」」」」
そこで見覚えのありすぎる男子、【獣王】のラウが多くの「獣人」男子に囲まれている光景が目に入ってきた。「獣人」女子もいるな。
ここは練習場。本来なら的を相手にスキルなどの試し撃ちやトレーニングをする場所だが、今は簡易的なリングのような施設になっていて――ラウへの挑戦権をめぐって獣人男子たちが争い、獣人女子が黄色い声で歓声を贈っていたんだ。
「なんだこりゃ?」
「ゼフィルス、来たか」
「その声と身長は――メルトか」
「……ああ」
話しかけてきた男子は〈幸猫様〉のお面をしていた。それはうちのギルドメンバーの証明。
身長と声からしてメルトのようだな。あれ? メルトはどうして俺だってわかったんだろう? いや、きっと〈幸猫様〉のお面が導いたに違いないな。
「たははは~。メルト様ったら身長が分かりやすいって~――うきゅ!?」
「やかましいぞミサト!」
ああ、お面をしていないミサトがニヤニヤしながらやってきてウサ耳クローを喰らってしまった。
ミサトは最近よくこれを喰らってる。喰らう頻度が地味に上がっているんだ。なんでだろうね? メルトに絡みに行くことが増えたからかな?
「ゼフィルスよ、無事到着したか」
「レグラムか。それに一緒に居るのはオリヒメさん?」
「はい。時間ぴったりでしたわね。リーナさんとの逢瀬は楽しめましたか?」
「逢瀬……。まあたくさん食べ歩いたぞ。1時間という時間制限の中では、かなりの店を踏破したはずだ」
「まあ。その辺詳しく聞かせてくださいまし」
「落ち着くがいいオリヒメ。その件は夏祭りが終わってからでもいいだろう?」
「あら私ったら」
2人とも〈幸猫様〉のお面をつけているが、すぐに誰か分かった。
話しかけてきたのはレグラムとその婚約者のオリヒメさんだ。
「13連勝目ーー!! さあ、次にラウ君に挑むのは誰かなー!」
あそこに居る黒髪うさ耳はルキアだな。お面被ってないからすぐわかったぜ。
「それで、ラウとルキアは何をしてるんだ?」
「後輩の獣人から頼まれたらしくてな。LV100の【獣王】を体感させてくれと、それであの通りだ」
「ルキアが司会をしてるのは面白がっているのと、ラウを1人にしないためにあそこに残っている感じだな」
「なるほど~。だが、あの人だかり、抜け出せなくないか?」
「ああ、そのことなんだが、ラウはここに残るそうだ。ゼフィルスにはすまないと言ってたぞ」
そう、実は12時から一緒に回る約束をしていたのは、メルト、ミサト、レグラム、オリヒメさん、ラウ、ルキアの6人だった。
だが、ラウとルキアがあの通りなので、俺たち5人で回ることになる予感。
「それなら仕方ないな。【獣王】に就く者は特に忙しいらしいから」
ガルゼ先輩も獣人から絶大な人気がありよく稽古していた。
ラウも【獣王】に就く者として、獣人たちを導くことにしたようだ。
ここでは夏祭りじゃない、別の祭りが開催されることになった模様だな。
……まあ、そういうこともあるだろう。
「というかラウ、女子からもすっげぇモテてんじゃん! 大人気じゃん!」
「たは! むしろモテないはずないよね! 【獣王】だもん!」
「確かに!」
うさ耳クローから復活したミサトの言う通り。考えてみればラウがモテないはず無かった。主に獣人女子から絶大な人気を得ているな。
なお、ミサトはラウがモテると言いつつその視線はメルトにロックオン中の様子だ。
そっとしておこう。
「それじゃあどこに行く?」
「ぶらぶらしましょう! こういうお祭りではカップルは主な目的もなく、雰囲気を楽しむものなんですよ」
「勉強になりますオリヒメさん! ですが俺のパートナーが不在なのですがいったいどうしたら!?」
「ゼフィルスさんは私たちのイチャイチャを参考にしていただければ幸いですわ」
「オリヒメ、俺は人前でイチャイチャなんてしないぞ?」
さすがはオリヒメさん。強い。
お相手がいたらむしろ他の人のイチャイチャを見るなんてできないだろう。フリーの今がチャンスというわけだ。
観察させてもらいます!
レグラムも、しないしないと言いつつ、きっとオリヒメさんには勝てないのだろう。見なくても分かるぜ。
そうして〈幸猫様〉のお面を横にずらして目的もなくぶらぶら散策する。お昼時なので、時々何かをつまみながら散策。これがなかなか悪くない。
オリヒメさんは自然とレグラムにくっつき、あーんをねだったり、ひそかにつないだ手を指で絡ませあったりと、大変参考になる動作を繰り出してきた。
俺は心の中にメモを取る。
「むむむ、オリヒメちゃんさすが。なるほど~こういう感じかな? ――メルト様~」
「回避」
「なにゅ!? もうー! メルト様逃げないでよー!」
「やかましい! いきなり何をしようとしている!?」
オリヒメさんを観察しているのはミサトも同じ。早速実践しようとメルトに手を伸ばすも、回避されてしまった模様。そこからは追いかけっこだ。メルトは照れてるだけだなありゃ。本気で逃げてない。素直になればいいのに。
「オリヒメさん、俺ちょっといちゃいちゃの楽しみ方が分かったかもしれない」
「でしょ? いちゃいちゃと恋愛は楽しいのですわ」
俺はまた1つ楽しいことを見つけてしまったのだった。
そんなこんなでメルトやレグラムと遊ぶ時間も午後1時で解散。
その後も多くのメンバーと夏祭りを楽しんでいったよ。
「ゼフィルスお兄様、発見なのですー!」
「ゼフィルスお兄ちゃん。あ~そ~ぼ~?」
「い~い~ぞ~!」
1時からはルル、アリス、キキョウ、シェリア、ソア、ミツルと一緒に射的や輪投げなどを遊び倒し、2時からは。
「おーっほっほっほ! ゼフィルスさん見つけましたわー!」
「今日はユルシィさんもご一緒したいとのことなのですがよろしいですか?」
「よろしくです~」
「もちろんだ!」
ノーア、クラリス、ユルシィの3人と〈戦闘5号館〉の校舎を見て回ったんだ。
ちなみにユルシィとは元【ナース】、現在【メディカルキャラバン】に就いていて、ノーアと同じクラスの親友ポジション女子である。のんびり口調と素朴な三つ編みが大変似合っている子だ。
3時からはナキキ、ミジュ、シュミネ。
4時からはフェンラ、クラ、マルティ。
5時からはチナノ、マユ、メナ。
という、元〈エデン店〉従業員メンバー組と一緒に回った。
みんな浴衣が可愛かったんだぁ。
「みんな喜んでいましたよ、ゼフィルス先輩とのデート!」
「女子組は3人ずつに対して俺1人だったんだが、あれがデートで本当にいいのか?」
「ゼフィルス先輩を独り占めにできるのはとあるトップの方々だけですの! 仕方ないんですの……!」
6時からはカグヤ、サーシャ。
なぜかサーシャが「私にもっと力があれば」みたいな悔やみ方をしているが、十分〈エデン〉に貢献してもらっていると思うぞ。もちろんツッコミで。
そうして時刻は午後7時。
だいぶ日が沈んできてここからは夜だ。夏祭りは夜が本番とも言える。
「お、お待たせいたしましたゼフィルスさん」
「アイギス……」
そして1日目の午後7時の部に待ち合わせ場所にやってきたのは、アイギスだ。