第2038話 アイギスとデートは夜のダンス!
第2038話 アイギスとデートは夜のダンス!
「聞いたよアイギス姉さま! 今日ゼフィルス先輩と2人きりのデートなんだってね!」
「ひゃ!? アルテ、ノックもせずにいきなり入ってこないでください。びっくりしたではないですか!」
ここはアイギスの寮部屋。
そこでアイギスは、今日のためにばっちり注文して拵えた逸品である浴衣に着替え中だった。そこへ前触れなく妹が直撃してきたのだから軽く処されても文句は言えない。
「あ、着替え中だったのアイギス姉さま。ってちょっと待って、それこうじゃない?」
「え? ですがこれが……あれ?」
アイギスは着付けが初めてではない。ないが……どうやら緊張していたのか少し間違えたらしかった。危ない。
「やっぱりこうだよ。もう~アイギス姉さまったら危ないんだから。ちょっと着付けやらせて。帯も引っ張る人が必要でしょ」
「そうですね。お願いしますアルテ」
「その代わりゼフィルス先輩とのデートのこと教えてね~」
「…………少しだけですよ?」
「やったー! あ、櫛頂戴、髪やるよ」
「お願いします」
1人でばっちり浴衣も着れると思っていたが意外にも難航したのでアルテに整えてもらうアイギス。去年も一昨年もちゃんとしたお店で着付けしてもらったのだが、今年は残念ながら予約がいっぱいで出来なかったのだ。
学生が年々増えてきている弊害でもある。
アルテはウキウキだ。人前では必ずつけていた敬語も姉との2人時は取っ払って姉妹水入らずの会話に花を咲かせる。
「もうアイギス姉さまったら、今のゼフィルス先輩に2人きりデートを持ち込むなんて、私たち後輩から見たら羨望の的だよ~」
「それは同学年だからこその特権ですね。私は2年も前からゼフィルスさんとは2人きりで夏祭りを回ってきましたから」
「私もあと1年早く生まれてればな~」
今のゼフィルスは人気の的。
たとえギルドメンバーだとしても、普通は複数人でゼフィルスと一緒に回ることになる。
2人きりでゼフィルスを独占できる者はたったの5、6人に絞られているのだ。
そしてアイギスは、そのうち1人に入っている。妹のアルテが姉の偉大さに思わずひれ伏しそうになったほどの大成果だった。
だが、それだけでは足りない。
どうやら最近、真の最強装備とか色々とんでもないことがあってゼフィルスと急接近中のアイギスではあるが、乗り越えなくてはならない大物がまだ何人もいるのだ。
なんとか印象付けたい。いや、印象付けてあげたい。
アルテは姉が後悔だけはしないよう、全力で着付けを手伝った。
アルテはその辺結構器用なので、アイギスよりも着付けは得意だ。
ぎゅっと帯を締めると、髪を整え、簪を始めとした装飾品で着飾っていく。
「できたー! うん、ばっちり! 我ながら会心の出来だよ! どうアイギス姉さま!」
「綺麗です……! これは、去年と一昨年お願いしたところと同等クラスですよ?」
「それほどでもあるよ~」
「……姉としては頼もしい限りです」
アイギスが姿見に立って自分の姿を注視しながらいろいろなポーズをとっていた。
少し化粧もした浴衣姿、ばっちり決めた自分がそこに映っている。
昨年の自分に勝るとも劣らないと思う姿に、アイギスはこれならと気合が入った。今年は真の最強装備のあれこれで忙しくて頭から飛んでしまい、すっかり予約する時期を逃してしまって、夏祭りのデートの着付けにやや不安のあったアイギスだが、アルテのおかげでばっちり着込めたのだ。これは後でお礼をしなければと心に決める。さっきのノックの件はもちろん不問だ。
「それでアイギス姉さま、時間は大丈夫?」
「はい。余裕をもっていましたから大丈夫で――あれ?」
アルテに言われて時計を確認すると、現在午後6:50。
待ち合わせまであと10分だった。あれ? おかしいな。午後4時頃から支度を始めていたのに、いつの間に3時間も経ってたの?
着付け、コーディネートしてくれるお店ならばそこまで時間は掛からないが、さすがに化粧も含めてアルテがやるには時間が掛かってしまったようだ。
気が付けば待ち合わせ時間が目の前。とても大変。
「あ! アルテ。のんびりしている場合ではありませんでした。私はすぐに出発します。お礼はまた後で」
「ちょ、アイギス姉さま、急ぐと危ないです! せめて階段だけは付き添いますから!」
準備はできている。後は出発するだけ。
アイギスがあわただしく飛び出そうとしたのでアルテが慌てて追いかけて途中までエスコート。なんとか約束の時間に到着することに成功したのだった。
すでにゼフィルスは待っていたようで。特徴的な〈幸猫様〉のお面を被った、青系の浴衣を着ているゼフィルスに目が留まる。
「お、お待たせいたしましたゼフィルスさん」
「アイギス……」
アイギスを一度見て少しの間固まったゼフィルスが、お面を横につけなおして改めて見つめる。明らかに見とれているのが分かった。
「綺麗だ」
「ふわ! あ、ありがとうございます!」
思わずといった感じに飛び出たゼフィルスのセリフにアイギスは一気に真っ赤になりつつも反射的にお礼を返した。
内心アルテの株が爆上がり中だ。これはお礼も奮発しなければならないだろう。
「アルテよくやりました」とアイギスは心の中で絶賛した。
「アイギスらしい色で、夜でも目が覚めるほど輝いて見えるぜ」
アイギスに似合うのはやはり赤。去年や一昨年もそうだったが、今年もこのカラーで攻めて正解だった。
ゼフィルスは完全に赤はアイギスの色と認識している様子。これにもアイギスは心の中でグッと成果を握り締めた。
「ゼフィルスさんも青がとても似合っています。いつもの装備の色合いだからか、青はゼフィルスさんの色という気がしますね」
「ありがとな。俺も青は気に入ってるんだ」
赤と青、とてもいい色ではなかろうか?
横に並んでも大変映える。
「ゼフィルスさん、手をつないでもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。むしろ俺からお願いしたいくらいだよ。お手を取ってもよろしいでしょうかアイギス?」
「は、はい! もちろんです」
そう言って手を差し伸ばしてくれるゼフィルスに内心ときめきながらアイギスはその手を取った。そのまま横に並び、夏祭りの会場へ向かう。
道中は注目の的だった。
ゼフィルスは言わずもがな、そしてアイギスは真の最強装備の一件で一躍時の人になった人物だ。それが夏祭りに浴衣姿で2人。しかも手をつないで仲睦まじい姿でデートをしているのだからそりゃ見ちゃう人も多いだろう。
中には「おい、勇者ファンの数名が倒れたぞ!」「メディーーック!?」「蘇生茶ならあるぞ!」と騒がれていたところもあったようだが、基本的に2人の世界は平和だった。
「アイギスはなにかしたいことはあるのか?」
「いえ。ゼフィルスさんとただ一緒に回りたいです。こうしているだけでも十分ですよ」
「そうなのか? なんか目星をつけている場所なんかがあれば一緒に行くぞ? このままだと、前の散歩とあまり変わらないし」
ゼフィルスの言う前とは、真の最強装備のお披露目目的でしばらくアイギスとゼフィルスで散歩していた時のことだ。
あの時もアイギスがばっちりしっかり着込んでお披露目散歩したわけで、今回も着ているものは浴衣という違いはあれど、散歩だけだと前とそこまで変わらないとゼフィルスは言いたかったのだが、アイギス的にはこれだけでも満足だった。
「ゼフィルスさんと2人きりという部分が重要なんです。前の散歩のときはお披露目が目的の仕事でしたが、これはプライベートですから、全然違いますよ」
「そうか? そうだな。アイギスとこうやって落ち着いた感じに散歩しながら夏祭りを回るのもいいものだな」
「そう言ってもらえて嬉しいです。あ、でもゼフィルスさんが回りたいところがあればそちらに行きますよ?」
「いや、俺が興味のあったところはあらかた行ったからそこまで回りたい場所はないよ。しいて言えば、夜のダンス会場くらいかな?」
「でしたらそこに行きましょう。私も実は興味があったんです」
決まりだ。
そこは巨大 櫓 ( やぐら ) の立つ〈戦闘2号館〉。夜からは盛大にライトアップされ、校舎屋上に大きな櫓が建って校庭の一部が夜のダンス会場になっているのだ。
音楽が流れ、そこで思い思いのダンスしている人たちがいる。
「わぁ! ゼフィルスさん、せっかくですから踊ってみましょう!」
「マジで? 俺そんなに踊れないぞ? クルクルするのは得意だけどな!」
「ふふ、でしたら私についてきてください。ちゃんとリードしますから」
「なにおう!? そういうことなら俺も負けてられないな」
どうやらここに来たのは成功だったようで、アイギスとゼフィルスはお互いに手を取り優雅に踊る。少しゆっくりと、相手に合わせるようにしながらステップを踏むだけの簡単なダンス。次第にリズムは整っていき、相手に合わせてだんだん上達していった。
「あ、なんかしっくり来た感じがする」
「私もです。LV100だからでしょうか?」
「可能性はあるな。俺もここまで早く上達するとは自分でもびっくりした。あと意外にダンスって面白いな」
「私もです。ゼフィルスさんとダンスなんて、なんだか満ち足りた感じがしてます」
LVカンストによる身体強化の影響か。なんとなくできるくらいだったのに、すぐに相手に合わせられるほどできるようになって2人でびっくりする。同時に楽しくなった。できなかったことができるようになることほど楽しいことはない。
ゼフィルスとアイギスはそれからずっと踊っていた。
踊れるようになって楽しすぎたのだ。
アイギスも、ずっと正面からゼフィルスと見つめ合う形でのダンスに時間を忘れて楽しむのだった。