第2071話 3年生最弱にして最強クラス〈3年280組〉の~。
第2071話 3年生最弱にして最強クラス〈3年280組〉の~。
試合前、ここは〈280組〉の控室。
「へへへ、借りてしまった。借りてしまったぞ! みんな、見てくれ、これが俺たちの希望の星! レイドボスの召喚盤だーーー!!」
「「「「おおおおお!」」」」
〈280組〉リーダーである男子ハザンが持ち上げている円盤状の石板は紛れもなく、レイドボスの召喚盤だった。
「ちょ、リーダー震えてる震えてる!」
「ぷるぷるしてんじゃん! 落とすなよ!? マジで落とすなよ!? 絶対弁償できないんだからな!?」
「だだだだだ、大丈夫だ任せとけ! 俺のこの身に代えても守って見せる! ぜぜぜ、絶対に……!」
〈280組〉はとても貴重なものを借りられて震えていた。
そりゃ震えるわ。
レイドボスの召喚盤、それは文字通りレイドボスを召喚できる召喚盤。
これだけでダンジョンがどれだけ攻略できるようになるのか。
お値段がとんでもないことになるのは間違いない。言うなれば伝説の聖剣にも等しいレベル。
これを使って、俺は強いんだぜヒャッハーできる人は少ないだろう。なにせ、借り物だ。返す時にもし不具合でも出ようものなら……ヒィィ!?
ハザンはさっきからぷるぷる震えながら召喚盤を抱きしめていた。
この身に何があってもこの召喚盤だけは守る所存だ。奪われるなんてとんでもない!!
「そろそろ時間です。みなさん、いってらっしゃい。頑張ってくるのですよ?」
「「「「はい!」」」」
先生に言われてごくりと喉を一度鳴らしていざ出発。
「ああ!? リーダー足が震えてるよ!?」
「支え班! ハザンを支えるんだ!」
「むしろ担架で運べ!」
なぜか〈280組〉のリーダーは、担架で入場することになった。
◇
「おい、なんで〈280組〉のリーダーは担架で運ばれてるんだ?」
「さあ。なんか召喚盤を大事に抱えてるが……もしかしてあれがレイドボスの召喚盤か?」
「絶対に壊しちゃいけないみたいな気迫を感じるなぁ」
「〈 空間収納鞄 ( アイテムバッグ ) 〉にでも入れておけばいいのに……」
「うお!?」
「びっくりした!?」
「〈280組〉の連中、今全員が一斉に驚き顔で振り向いてたからな。俺たちも驚いたぞ!」
「あ、大事に抱えていた召喚盤を〈 空間収納鞄 ( アイテムバッグ ) 〉に入れてる」
「もしかして、収納することを忘れてたんじゃね?」
「いや、そんなことないだろ。ないよな?」
「だけど〈280組〉の慌てぶりを見るとマジだった気も……」
〈280組〉、緊張のあまり召喚盤を収納するのを忘れた模様。
なお、ハザンは無事に担架から降りられた様子だ。
「さあ、そろそろ定刻だよ! みんな集まったね! ではこれよりクラス対抗戦の始まりを宣言するよ!!!!」
――――わあああああああああああ!!
壇上のラダベナ先生がそうマイクを通してアリーナ中に宣言すると、負けないくらいの大歓声が返ってきた。
「それでは第一試合だ! ここにいる出場者諸君! 気張りなよ!」
――――おおおおおおおおお!!
〈1組〉がいる試合とは思えない気迫に満ちた声が会場に響く。
新ルールで〈1組〉に勝てる可能性があるのだ。みんなやったるぜ、という気持ちだった。
その後はいつも通り、一度控え室に転移し、ムカイ先生がフィールドを整え、自分たちの拠点に再び転移される。これから5分後に、試合開始だ。
◇
「リーダー! なんかむちゃくちゃ恥ずかしかったんだけど!」
「なんで召喚盤を〈 空間収納鞄 ( アイテムバッグ ) 〉に入れることを忘れてたのさ!」
「みんなも忘れてただろう!?」
こちら〈280組〉。
みんな顔真っ赤である。なんか、無駄な覚悟をしていたのだからそりゃそうだろう。みんな、緊張していたのだ。
そこで拠点内に転移するとコンソール発見。
「よし、取り出すぞ!」
「ハザン、慎重に、慎重にな!」
「うおわーー!?」
「リーダー 転 ( こ ) けたーー!?」
「召喚盤は大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ。まだ出す前だった」
「マ、マジで心臓に悪い……しっかりしてくれよ」
「誰もリーダーの身を心配していない件……」
「よし、リテイクだ。今度こそ成功させる!」
全員がいつでも、たとえ落としてもすぐさまリカバリーできるよう気を張り巡らせ、ハザンが召喚盤を取り出した。
ごくり。
誰かの喉が鳴る。あ、ハザンも鳴ってる模様。
そのままハザンはなんとか全身を震わせながら召喚盤を取り出し、無事コンソールにセットした。
「「「「「は~~~~」」」」」
思わずみんなで息を吐く。
まだ試合が始まってもいないのに、ものすごく精神が削られた気分だった。
「こ、これでレイドボスを召喚できるんだね」
「ああ。コンソールの空きは5ヵ所、そのうち1つはレイドボスの召喚盤でふさがることになるから、これで空きはあと4ヵ所だな」
「レイドボスは1枚の召喚盤から1体しか召喚できないんだよね?」
「だな。レイドボス以外の召喚盤は1つセットすれば20体まで召喚できるが、レイドボスだけは1枚の召喚盤につき1体が上限だ。つまり5枚召喚盤をセットできれば最大で5体までレイドボスが出せる」
「夢があるぜ」
「そして俺たちには希望がある! 確かに俺たちは最下位クラスであるが、代わりに得た大きなものがある!」
ここでリーダーのハザンがみんなに向き直る。
その様子は、自信と歓喜に満ちていた。最下位クラスとも呼ばれる〈280組〉のリーダーにしては、自信が満ちすぎていた。それにはもちろん理由がある。
ハザンたち〈280組〉は気が付いてしまったのだ。
「俺たちに配られたコストは8900点! これはどのクラスより、どんなクラスよりも高い!」
「「「「おおー!」」」」
「つまり〈アシストモンスター〉同士でぶつかれば、俺たちが勝つのだ! チャンスが巡ってきたぞ!!」
「「「「「わあああああああ!!」」」」」
そう、〈280組〉のコストは最も多い8900点。
つまり、コスト勝負すれば〈280組〉が勝つのだ。
これが〈280組〉の自信の源。素晴らしい鼓舞でクラスメイトたちの士気が爆上がりする。
「作戦通りいくぞ! レイドボスを召喚したら、それに乗り込んで出る! そして、落ちているレイドボスの召喚盤を確保しまくるんだ!」
「他のクラスも最初はレイドボスの召喚盤探しになるだろうから、防衛はそこまで考えなくてよし、だったな!」
「おう。そして、レイドボスを最初から従えている俺たち〈280組〉は、かなり有利だ!」
「絶対にこの残りの4つのコンソールにレイドボスの召喚盤をはめてやるぜ!」
〈280組〉の作戦は至ってシンプルだ。
ハンディで大きく加算されている8900点というコストを十全に使い、レイドボスを召喚しまくって天下を取る!
自分たちではレベル的にも能力的にもまず勝ち目はないので、レイドボスに頼り切って勝つ、という結論にしか至れなかったとも言うが、そこは考えてはいけない。
コンソールは5つまでの召喚盤をセット可能。
召喚できるアシストモンスターは、最大で合計20体までというルールに変更は無し。
基本は1つの召喚盤から何体ものモンスターを召喚できる。
うち、レイドボスのみ制限が掛かっており、レイドボスは1つの召喚盤から1体までしか召喚できないルールだ。
なお、一度セットした召喚盤はその試合が終わるまで変更不可。
故に〈280組〉は、すべてのコンソールをレイドボスの召喚盤にしよう、という作戦を立てていた。
というか、レイドボスが5体召喚できるくらいじゃないと〈1組〉とかと勝負できないだろうと考えている。なにせ、〈280組〉の持ち点は8900点、これを全て使って初めて〈1組〉と対等に渡り合える、ということなのだから。
「カウントダウンだ! 5、4、3、2、1――試合開始!!」
「レイドボス召喚!」
「「「「「―――ワオオオオオオオオオオン!!」」」」」
「キタ! キタキタキタキターーーー! 〈バトルウルフ(最終形態)〉だ!」
「でっけーーーー!!!!」
〈280組〉が選んだのは――コスト1600〈バトルウルフ(最終形態)〉。
速度もパワーもイかしている。〈ウルフ〉系の最終進化形態だ。
大きさは本来のレイドボスと同じ30メートル級。
リーダー ( ・・・・ ) のハザンが 自身を ( ・・・ ) 術者として登録すると、すぐにその背中になんとか上り、10人を背に乗せて〈バトルウルフ(最終形態)〉が立ち上がる。
リーダーハザンは〈280組〉で最も強いLV54だ。
その 職業 ( ジョブ ) は【重戦士】。
下級低位職ではあるものの、VITには定評がある。魔法攻撃されるとすぐ溶けるのが欠点だが、物理なら耐えてみせる!
LVが高い方がやられにくいのだからリーダーが術者になっても問題は無い。
ハザンの表情は、自信満々だ。
「それでは行くぞ〈280組〉! 颯爽とレイドボスの召喚盤を見つけ、他に学生がいれば倒すのだ! 運が良ければレイドボスの召喚盤を持ってるカモしれないぞ!」
「「「「「ウオオオオオオオン!」」」」」
――――うおおおおおおお!
ハザンの言葉に盛り上がる出撃組。
そしてヘカトン小山から飛び出した。
〈280組〉の拠点のあるヘカトン小山はヘカトン山の東側。
他のヘカトン小山は、大きな池を挟んで対岸にあるか、もしくは山脈の向こう側にあり、接触するにはちょっと隔てるものが多い環境。
故にまずは、自分のヘカトン小山の近くから入念に探すことにした。
しかし、3分〈バトルウルフ(最終形態)〉の脚で走っても見つからない。
ハザンは焦る。
「まずい。フィールドに7つあるという召喚盤が、1つも見つからないぞ!」
「あ! リーダー見て!」
「なぬ! あれは!?」
北側のヘカトン山の近くまで来た時のことだ。
ついに遠目で別のクラスを発見したのである。
いや、なんかこっちに来てる! 数4人!
ヘカトン山の東側は〈280組〉の陣地、そこへ侵入者が入ってきたのだ。
しかも、3種のレイドボスを連れてはいない。つまり〈219組〉ではない。
「どうしますリーダー!?」
「相手はたったの4人だ! レイドボスには敵わない! 仕掛けてみるぞ!」
「そうこなくっちゃな!」
「ハザン、ここで逃げたらリーダー交代だったぜ!」
召喚されたレイドボス。
もちろん召喚された時にボス補正は抜けているので、HPバーは1本だし、能力値もボス時代より大幅に落ちている。
だが、それでもレイドの名に偽りなし。
何十人もの学生が組んで戦わなければ戦いにもならない、それがレイドボスだ。
故に、4人なんて少ない数、絶好の相手――そう思っていた。
しかし、どうやら逃げるべきだったようだ。なにせ。
「「「「「ウオオオオオオオン!?」」」」」
「ぬ!? おいどうした〈バトルウルフ〉よ!?」
「なんか、〈バトルウルフ〉怯えてね? え? 気のせい?」
「いや前見て! 正面来てる!」
「先陣は任せてくれ――『 一刀斬 ( いっとうざん ) ・ 月光閃華 ( げっこうせんか ) 』!」
「迎え撃て〈バトルウルフ〉よ!」
「「「「「ウオオオオオン!?」」」」」
正面から単身で飛び出してきた袴っぽい装備を着た女子が、一瞬で〈バトルウルフ(最終形態)〉の攻撃に合わせ、カウンターを取ってきたからだ。まるで何戦も戦った経験者のように。
「「「うわわわわわーーー!?」」」
仰け反った〈バトルウルフ(最終形態)〉によって上に乗っていたハザンたちがパニくる。そこへ。
「『執事に不可能はありません』! 『 闘神拳 ( とうしんけん ) 』!」
「「「「「バウ!?」」」」」
いつの間に懐に潜り込んでいたのか、執事の超強力なボディブローが炸裂。
すさまじい衝撃に5つの顔を持つ〈バトルウルフ(最終形態)〉も目を白黒させた。 そして。
「上に乗ってる中に術者がいるデースね! 全員まとめて喰らうデース――『大忍法・太陽落とし』!」
「ちょ、上!」
「わわわ!? 〈バトルウルフ〉回避ーーーー!!」
「「「「「バウー!?」」」」」
空から落ちてくる太陽のような火球に〈バトルウルフ(最終形態)〉必死の回避。だが、それは悪手だった。レイドボスに指示が出せるのは――術者だけなのだから。
「あなたが術者ですね。では、さようならです――『フェイタル・サード・シューダン』!」
「へ? あ!? ぎゃ!? ふんぎゃろべーーーー!?」
狂った三発の銃弾。
全弾命中した時高い確率で相手を〈即死〉させる〈六ツリ〉スキルの狙撃がメイドが持つ銃から発射される。
狙いは正確で、〈バトルウルフ〉の上に跨って、いやむしろしがみついていた〈280組〉リーダーハザンは全弾直撃してしまい、そのまま〈敗者のお部屋〉に直行してしまったのだった。まさに一瞬の出来事。
「へ?」
「リ、リーダー!?」
「リーダー逝ったーーーー!?!?!?」
「うっそだろ? ハザーーーーーーーーーーン!!!!!!」
「「「「「クゥーン……」」」」」
そして術者がやられたため、〈バトルウルフ(最終形態)〉も「クゥーン」して光に還ってしまったのだった。
残ったのは、〈1組〉メンバーリカ、セレスタン、パメラ、シズに囲まれた状態の、9人の〈280組〉メンバーだった。
なお、その後12秒で全員が〈敗者のお部屋〉に送られた。