第2082話 〈276組〉はクラス対抗戦で最高の奇跡を起こす
第2082話 〈276組〉はクラス対抗戦で最高の奇跡を起こす
〈222組〉と〈276組〉は期待されていた。
なにせ〈200組台〉で準決勝まで残っているのだから。
他の〈200組台〉の学生たちからは知っている人からも、知らない人からも応援をもらった。
〈200組台〉の希望だと。
もし生き残ることがあれば、学年対抗戦の決勝戦へコマを進めることができる。
決勝戦最終日の出場クラスともなれば企業さんの覚えもめでたく、低位職という正直今後の人生がかなり大変そうな〈276組〉なんかすさまじく燃えていた。
ここで勝ち上がれば、低位職なんか関係なく、頭脳的なあれやこれやを期待されてどこか大きな企業なんかにスカウトされるはず!
「でへへ」
「うわ、タミアが妄想でよだれ垂らしとる!」
「誰か拭いてやれって」
「他人任せで草」
そんな大きな夢を掴む寸前の〈276組〉では、リーダーの女子タミアがよだれを垂らして明るい未来を妄想していた。
だが結局よだれは誰も拭きとることなく、カウントダウンがゼロになる。
タミアがよだれを垂らしたまま試合開始となった。
「! みんなあれを召喚よ!」
「おっしゃー!」
「俺たちの成果を、今見せたらー!」
気合がすごい。
よだれの跡がまだ残っているタミアからの指示で〈276組〉のコンソールに嵌められた召喚盤からモンスターが召喚される。さらに。
「行くわよ! 『コスト上限アゲアゲ』! 『その必要コストを安くして』!」
「いくぞーー! 〈金剛マッチョ〉召喚!! ×16体!!」
「マッチョいっぱいキターーーーーー!?!?!?」
覚えているだろうか。この〈金剛マッチョ〉を。
こいつはなんと 上級中位 ( ・・・・ ) ダンジョンのランク1、20層守護型ボス。
〈金剛マッチョ(西)〉と〈金剛マッチョ(東)〉に分かれ、2つの階層門をそれぞれ守っていた、門番ボスだ。
顔は怖い。しかし筋肉はすごかった。
筋肉で威圧できるくらいの筋肉量だ。ムキっと筋肉を唸らせればそれだけで警戒されて相手の動きが止まるだろう。
さらに2体以上組み合わせると、片方が攻撃を受けた時、もう片方が全力のアスリート走りで助けに行くのが〈金剛マッチョ〉の頼りになるところ。
相互が助け合うため、援軍要請にてここまで頼りになるボスはなかなかいない。
しかも 上級中位 ( ジョーチュー ) 級だ。相当な強さを誇る。
なぜこんな貴重な……貴重? こほん――貴重な物を〈276組〉が持っているかと言えば、オークションで多額の金額で勝ち取ったからだ。そう、これはレンタル品ではない、自前の召喚盤。
なぜこんな貴重なものがシングルオークションでもない、普通のオークションにあったのかはわからない。きっと、どこかの有名なギルドが使わないからと適当に流したのだろう。
そのコストは――驚異の280。
ただの守護型ボスがここまでコストが高いのは、単純に〈金剛マッチョ〉が 上級中位 ( ジョーチュー ) 級だからだ。
上級下位 ( ジョーカー ) と 上級中位 ( ジョーチュー ) の難易度には、単純にこれだけの差がある。
それを〈276組〉は16体も召喚した。コストは締めて4480。
〈276組〉の持ちコストは8850だったので、残り約半分だ。
だがここでタミアの本領発揮が起きる。それがフラーミナも覚えている、コストの上限を上げるスキルと、召喚コスト自体を下げるスキルだ。タミアもこれを持っていたのだ。しかもSPを10ずつ振っているガチ振り状態で。
両方とも最大で2割増、2割減するスキルだったので、コストは8850から10620へ。
〈金剛マッチョ〉のコストは224へ。16体召喚しても3584で、残りコストは7000以上も残っている。
そこに最初レンタルできる最上級ダンジョンランク1のレイドボスから〈フェアリークイーン〉を採用して1500、2割減して1200払って召喚。
残り5800強だ。
召喚盤を探し出しても、あと3枚召喚できる。
これが〈276組〉の強み。
膨大なコストをさらに膨大にさせてしまう、タミアが在籍しているのだ。
まさかクラス対抗戦や〈拠点落とし〉でしか活躍しないようなスキルを両方ともLV10まで上げきる学生がいるなんて、そんな学生はフラーミナに続いて学園でも2人しかいない。だが、タミアには見えている。これこそが最良の選択なのだと。
「やっぱり就職に必要なのはクラス対抗戦での成績なのよ! つまりクラス対抗戦で上手くいけば就職できるの! なら、このクラス対抗戦にステータスを全振りすればいいのよ! 私はそのために上級職【ライトテイマー】になったわ!」
「さっすがリーダー!」
「タミアの考え、めちゃくちゃだけどすごく理にかなってる!」
「そしてその考えを実行に移せるのはリーダーしかいないぜ!」
「でへへ。でしょ?」
「あ、タミアさっきから気になっとったんやけど、よだれ垂れとるよ?」
「え? うそ!? さっきっていつから!? ちょっともっと早く教えてよ! これ、モニターで全観客席に映ってるのよ!?」
そう、タミアは上級職になってクラス対抗戦にSPを全振りしているのだ。
それが〈276組〉が準決勝戦まで勝ち残ってこれた理由でもある。
クラス対抗戦でいい成績を残せば低位職でも就職できる。むしろ、ここで活躍できなければ就職は厳しいものになる。ならば、SPをクラス対抗戦に全振りくらいするべきだ、というのがタミアの主張である。
なお、よだれはようやく拭き取られた模様。マイナス採点にならないことを祈る。
「まあいいわ! この新ルールの新しい風は私に吹いてる! 私は間違ってなかったの! さあ、じゃんじゃんレイドボスの召喚盤を集めて! そして決勝戦に行くのよ!」
「「「おおー!」」」
鼓舞が良き。
〈276組〉にしておくのはもったいない鼓舞だった。
だが、ここで慌てて拠点に戻ってきたメンバーから緊急連絡が届く。
「リーダー!」
「どうしたの!? 召喚盤は!?」
「召喚盤は2つ手に入りました! ですが、一緒に〈1組〉まで来てしまいました!」
「ほわあああああああああ!?!?!?」
外にマッチョたちと召喚盤集めに向かっていたメンバーたちが、どうやら〈1組〉と遭遇して、慌てて帰ってきたら付いてきちゃったらしい。←今ここ。
「召喚盤をコンソールに入れて、すぐに召喚!」
「厳選は!?」
コンソールに嵌められる召喚盤は、1試合に5つまで。一度嵌めたらその試合中はチェンジはできない。故に〈フェアリークイーン〉〈金剛マッチョ〉の他の3種は集めた召喚盤の中から厳選すると、当初予定していた。
32も召喚盤がフィールドに落ちているのだ。9クラスで分け合えば3つ以上手に入る計算だった。
だが、もたもたしている暇はない。〈1組〉は落とすと決めたらマジで落とす。
今まで落とされなかったクラスは無い。
手に入れた召喚盤は、速攻で使われることになった。まだ解析もしてないが、そんなことをしている場合ではない。当たりのレイドボスが当たることを祈る。
そして1つ目の召喚盤の結果は――なんと〈ヘルズノート・バベルガリッチの召喚盤〉だったのだ!
さらにもう1つは――なんと〈ア・クマオウの召喚盤〉だった。見事な当たり!
「キターーーーーーーーー!!」
来てる、今〈276組〉の時代が来てる!
それぞれコストは2400と2500。
2割減して1920と2000。合計3920で、残りは1900強。
この土壇場で、超が付くほどの大当たりを引いたのだ。〈276組〉は。
「早速出撃よ! 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉! 〈 悪魔王 ( ア・クマオウ ) 〉!!」
「こいつは! コストを増やすメンバーが居るぞ! 想定以上の、すさまじい戦力だ!」
ここでゼフィルスが目を見張った。
なにせこの膨大なコストは、単身クラスが〈1組〉と釣り合うくらいの戦力を持てることを前提に組まれている。
〈276組〉は8850コスト分のモンスターを召喚すれば、〈1組〉と釣り合うとなっていたわけだ。
だが蓋を開けてみれば、コストを増減できるメンバーがいたことで、そのコストは大増量。
元のコストで言えば、〈金剛マッチョ〉×16体=4480、〈フェアリークイーン〉1500、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉2400、〈 悪魔王 ( ア・クマオウ ) 〉2500で――計10880……!
〈1組〉との戦力差が逆転している計算となるのだ。さらに。
「リーダー! 召喚盤を1つ手に入れてきました!」
別 ( 東 ) の班がさらに1つを手に入れて戻ってくることに成功。
「よくやったわ! ――お願い、コスト2000以上の強いやつでお願いします!」
タミア祈る!
〈276組〉の残りコストは1900だ。2割減があるのだから〈ヘカトンケイル〉が来ても召喚可能。なら、なるべく高いコストのボスが来てくれることを願う。
「『その必要コストを安くして』!」
「召喚――できました! レイドボスは――コスト2350〈ヘカトンケイル〉です!」
「奇跡!?」
奇跡が起きた。
最後の最後で味方が手に入れて駆け込んできた召喚盤は、なんとあの〈ヘカトンケイル〉の召喚盤だったのである。そのコストは2350。2割減して1880!
まさに理想的な召喚盤が来ちゃったのだ。
マジで追い風が〈276組〉に吹いてる。タミアに吹いている風は、まさに追い風だったのだと確信した。
これで戦力は計13230!
さらにあの学園祭レイドボスを全部召喚するという、このクラス対抗戦で初めての奇跡を打ち出してきたのだ。
いける! これはいける!
そう思ったタミアだった。しかし。
「やっべぇ! なんか召喚モンスターが神ってるんだけど、というか完成しちゃってるんだけど!?」
「ゼフィルス、どうするのだ?」
〈1組〉は相手がレイドボスを揃える前に〈200組台〉を速攻落とす作戦だったのに、なんか〈276組〉の完成度がパナイ事態になってしまったのだ。
さすがのゼフィルスもこんなにクオリティの高いアシストモンスターをこんな短時間で揃えてくるとか超びっくりしていた。
〈1組〉メンバーは10人。これだけでは圧倒的な〈276組〉の戦力を相手にさすがの〈1組〉も厳しい。
「よし、ここはいったん退いて、大戦力を連れてこよう!」
「いったん退くのか!」
ゼフィルスの言葉にメルトが驚愕する。
ゼフィルスは現場がしっかり見えている。いくら自分たちが強い、最強という自負があろうとも、負ける時は負けるのだ。
〈城取り〉などでそれを幾度も経験していたゼフィルスは絶対に驕ったりしない。
まさかの〈1組〉撤退に騒然となるか!? と思いきや、さらに話は変な方向に動いた。
「エリサ、撤退するから相手を眠らせ足止め頼む!」
「了解よ! ユニークスキルをダブルであげちゃうわ! 『ナイトメア・大睡吸』! 『エンドレスエンド』! ―――あれ?」
「ん?」
「ありゃ?」
「へ?」
【睡魔女王】のエリサが足止めに状態異常をばらまくためにユニークスキルを二連発した。
するとなぜか、レイドボスが全員消えてしまったのだ。
術者が全員〈即死〉して〈敗者のお部屋〉に転移されてしまったからである。
「…………え?」
射程外で生き残ってしまったタミアは、目の前の現象が信じられないような顔で首をかしげた。
「あ、指示変更だ! さっきの指示を破棄、総攻撃にかかれー!」
「「「おおー!」」」
先に我に返ったのは〈1組〉だった。ゼフィルスが指示を変更する。そして。
「あ、あ、あ! ちょっとどういうことなのーーーーー!?」
そして〈276組〉は敗退した。