第2174話 世界を救え!ゼフィルスは秘術の公開を決意!
第2174話 世界を救え!ゼフィルスは秘術の公開を決意!
ユーリ先輩からのレベル上げの依頼。
むしろ懇願レベル。
これまでに無い規模のスタンピードが発生しようとしている。
もちろん俺はこの現象を知っていた。
これは――〈救世イベント〉だ。
〈救世イベント〉は主人公が【救世之勇者】を選択した時に起こる、エンディングに係わる非常に重要なイベントだ。
季節的には2月の後半に起こり、全世界を震撼させ大混乱を引き起こす事態に発展する。
学園でしっかりと育成し、【救世之勇者】となった主人公がとあるイベントをこなすとフラグが立ち、決戦に参加できるのだ。
やはり来たか、という思いが湧き起こる。
俺はこの【救世之勇者】を選択した2年前から、すでにこうなることが分かっていた。なんかそんな気がしたもん。
というか、【真の勇者】を選ぼうとしたらなんか誘導された感があったんだよ。
だからこそ、ユーリ先輩がこの話をしたことに、俺は驚かなかった。
「あまり驚いてないね」
「実は俺が【救世之勇者】を選択した時から、なんとなくこういう日が来るという予感があったんだ」
「え? そうなのかい?」
俺が【救世之勇者】というのはすでにラナを通してユーリ先輩は知っている。
だが、この予感の話をするのは今回が初めてだった。
「具体的には全くわかってなかったんだけどな。でも、今のユーリ先輩の話を聞いて腑に落ちた感じだ」
「……なるほど、【勇者】の 職業 ( ジョブ ) 補正かな? 【呪い返師】や【スターゲイザー】に就いた人は、普通の人には見えないものが見えたりもするらしいから」
ユーリ先輩は俺の言葉を疑うことなく受け入れてくれた。
【呪い返師】と言えばケルばあさん。あの人も特殊な人だからなぁ。
ちなみに【スターゲイザー】は【占い師】系の最上位職だ。そっちも居るんだ。
いや居たな。去年の夏祭りでアイギスと一緒に占ってもらったこと、あったわ。あの人か!
「それでゼフィルス君、できれば早めに返事を聞かせてほしい。これは他の何を差し置いても優先すべき問題なんだ」
姿勢を正したユーリ先輩が再び頼んでくる。
レベルを上げたいのは王位に就きたいから、というだけではない。LV100になっていないとそのスタンピードに抵抗できるか分からないからだろう。
それほどまでに大規模で、すさまじいスタンピードなのだ。
もちろん、俺の回答は決まっている。
「もちろんだ! ユーリ先輩、俺たち〈エデン〉に任せておけ! ユーリ先輩だけじゃない。他の方々にも是非レベル上げの協力を申し出たい!」
「それは」
「ユーリ先輩。これは非常事態です。俺の、【勇者】職の勘がそう言っています。今までに経験したことのない、すさまじいスタンピードが起こる。それこそ、六段階目ツリーを開放していないと戦力にならないほどのすさまじいモンスターたちの大群がダンジョンの外に解き放たれる。俺にはそれが分かります」
「! やはり、そうなのかい?」
「【勇者】の 職業 ( ジョブ ) に誓って!」
「……!」
ユーリ先輩は一度目を見開くと、再びキリッと表情を引き締めた。
自分の懸念が最悪の形で的中しそうということを確信したのだろう。
俺も真剣な表情と口調を心掛け、ユーリ先輩と向き合った。
「六段階目ツリーを開放している者は、この学園以外にはごく少数しかいない」
「しかもそのほとんどが、ガルゼ先輩たちなど学園の卒業生みたいですね」
「その通り。つまり、このままだと学生を動員しないといけない事態になりうるんだ」
そう、その最悪の懸念とは、スタンピードに多くの学生を導入しなければならない事態ということだ。
この世界の軍では、おそらく容易く蹴散らされてしまうだろう。ユーリ先輩の言葉から察するに、六段階目ツリーを開放した者はほとんど、いや皆無っぽいし。
つまり、今スタンピード対策に学生が組み込まれることが決定してしまったのだ。
「やはり、スタンピードが本格的に始まる前に抑えるのは難しいですか」
「北にあるノーライズ公爵家と軍が何度も調査団を向かわせているんだけどね。モンスターのポップ数に歯止めがかからなくなっているみたいで、もう奥にも行けない事態になっているそうだよ。解決策は不明だ」
〈ダン活〉のスタンピードはダンジョンのバグ。
ダンジョンは神の試練なので、普通なら人がちゃんと攻略できるように設定されている。
故に、モンスターの 出現 ( ポップ ) 数も上限が決まっているはずなのである。
だが、それが 壊れ ( バグッ ) たら? 無限にモンスターが 出現 ( ポップ ) しまくったらどうなる?
そう、ダンジョンから溢れてしまう。止め方も分からない。
なにせこれはダンジョンのバグなんだから。バグを直さないと止められない。
そして、基本的にこの世界ではダンジョンが休眠期に突入することで強制的にスタンピードが治まる形で決着する。
ダンジョンにもエネルギーはあるのだ。モンスターが溢れるほどエネルギーを使用すると、当然想定外のエネルギーを放出するということになるためエネルギー切れを起こす。
そのエネルギー切れで強制的に休眠期に突入してもらう、という話だな。
学園にも特殊なダンジョン、〈道場〉というものがある。
以前、俺たちが1年生の時の〈転職制度〉の時にも説明したが、モンスターをポップできる数には上限があり、故に学生に際限なく、同時にレベル上げを敢行することはできなかった。故に時期をずらし、順番に〈転職制度〉を受けた学生たちのレベルをLV40にしていった経緯があったが、これも端的に言えばエネルギー問題だ。
ダンジョンは龍脈からエネルギーを得ているので毎日モンスターを大量にポップさせることができるのだが、それを超え、ダンジョンを維持するエネルギーすら枯渇すると、安全装置が作動して強制的に休眠期に突入する。
そして一度休眠期に突入すると、再稼働するのに長い年月がかかるのだ。
故に学園は〈道場〉を管理し、モンスターのポップ数を制限している経緯がある。
あ、ちなみにモンスターのポップ数を操作する操作盤は、〈道場〉や〈アリーナ〉など、ごく一部にあるものなので普通のダンジョンには無いことをここに記載しておこう。
歴史の授業で学んだが、56年前に起こったスタンピードは、最後にはモンスターのポップ数の歯止めが完全に壊れてしまい、秒間何百何千というモンスターをポップしてしまったがために、そのダンジョンは休眠期に突入してしまったらしい。
しかし、一度ポップしてしまったモンスターたちはダンジョンのエネルギーが切れても消えない。
そしてダンジョンから溢れたモンスターたちは、新たな住処、つまりダンジョンを求めて大移動を開始する。ダンジョンは人と密接にかかわっている関係で街にあることが多いため、溢れたモンスターの一部は人の街へと襲い掛かるのだ。エネルギーを得るために。
56年前はそれでシエラの曾祖母さんが街に迫るスタンピードを抑え、その間にモンスターたちを駆逐したことで被害を抑えることに成功した。
「56年前はスタンピードを引き起こしたところが 中級下位 ( チュカ ) 級だったのも運が良かった。でも、今回は違う。スタンピードを引き起こそうとしているダンジョンは、最上級ダンジョンなんだ」
力強いユーリ先輩の言葉。
そう、今回の〈救世イベント〉は、まさに世界を救うイベント。
その相手は――外の最上級ダンジョンなんだ。
「ユーリ先輩。四の五の言っている場合ではないです。今回は特例として〈エンテレ〉を開放しましょう」
「やはり、それしかないね」
「はい。スタンピードに挑む対象者に絞り、〈エンテレ〉〈テレポ〉〈転移水晶〉、そして【ダンジョンインストラクター】による階層更新戦法を伝授します。まずはこれを軍へお伝えください。そして、俺も腹をくくりましょう。〈エデン〉が持っている最大の秘術を、お伝えします……!」
「!!」
このままでは世界は大混乱になる。
もうここに至って秘術の独占はしなくていいだろう。
俺の知識を総動員し、この世界の〈救世イベント〉を攻略する!
俺は世界の大混乱を避けるため〈公式裏技戦術ボス周回〉の公開を決意した!!(世界大混乱……!)