第2176話 変装して学園祭でラナとデート。
第2176話 変装して学園祭でラナとデート。
「『お、お待たせいたしました。ゼフィルス班は休憩をお取りくださいませ……!』」
「了解。それじゃあゼフィルス班は休憩に入りまーす」
オペレーターから通信を受け、ようやく休憩時間。
もう何人もオペレーターの人にバトンが渡されながらも、たぶんこれで6人目?
今回の人はやたら緊張していたな。まあ、王女と勇者の組み合わせだもんな。
つい先ほどラナが「ねぇ、休憩はまだなの?」と聞いたのはきっと関係ないはずだ。
「やった! ついに休憩ね! ゼフィルス、お茶にしましょう!」
「だな。こっちに来る途中、美味しそうなジュースやお菓子を売っている店がいくつもあったし、ちょっと戻りつつ寄ってみるか」
「良いわね!」
ちなみに今、俺とラナは仲睦まじい姿で手を繋いでいる。
傍から見ればデートしているように見えることだろう。
ちなみにエステルは2メートルほど後ろから護衛の仕事を全うしているが、ラナは欠片も気にしていないようだ。俺も気にしないようにしよう。
「あれね! アワアワオレンジジュース、ですって!」
「あっちはアワアワシャーベットだな。う~ん実にファンタスティック!」
その屋台で売っているのは、どう見てもシャボン玉。
しかし、中にオレンジジュースやシャーベットが入っていて、ストローでシャボン玉の中を吸ったり、スプーンをシャボン玉に突き刺し、中のシャーベットを掬い取って食べたりできる、万能入れ物、みたいな役割を果たしている。
「ってあれ!? ゼフィルス君にラナ殿下!?」
「ってミリアス先輩の屋台かよ!」
「あ、やっばバレた!?」
大好評な大型屋台に近づいてみると、俺と同じ遮光眼鏡、ついでにマスクと 割烹着 ( かっぽうぎ ) と 割烹帽 ( かっぽうぼう ) 姿で完璧に変装したミリアス先輩が居たんだ。近づきすぎたからか向こうも一発で変装中の俺たちが分かった模様。
ちなみに今のラナは王女から、商家のお嬢様風コーデになっている。
白をベースとした縦にフリルがついた服に、下はラナの目の色をした青系のスカート。スカートは前から見ると膝くらいまでしかないが、後ろは 脹脛 ( ふくらはぎ ) まで長いアンバランス。お腹には白と水色の縞々模様が入った帯がウェストをキュッと支えている。ちなみに頭には俺とお揃いの作家帽子を被っていて〈銀のティアラ〉が見えない。
休憩時間専用の衣装だな。今さっき〈マイセット早着替え〉で着替えた。
でも眼鏡もマスクもしていないので、知り合いが見れば即分かる感じだ。
ミリアス先輩も同様。
「あ、ちなみに私がここで働いているってことは内緒ね!」
「そうなのか?」
「うん。むしろ学生に混ざって働くことで勧誘の目を欺いているところだから」
「あ~」
ミリアス先輩も大変な様子だ。
〈トップマリー〉の従業員は、大企業からの 引き抜き ( ヘッドハンティング ) の声が多いのだという。特にこういう一般客が多く入る時は接触のチャンスなのだとか。
でもこんなファンタスティックな屋台、他にないから目立ちまくってるんだけどそれは良いのかな?
「堂々としていればバレないもんだよ。割烹帽で髪型誤魔化せば大概分からないみたいだしね」
「……私もウィッグを付けてみようかしら?」
「いいと思いますよ! この学園祭の雰囲気に合わせ、普段とは一風変わったおしゃれでギャップ萌えを狙う。ありですよね」
「うん! うん! いいわ! 早速やってみるわね!」
ここでミリアス先輩が「あ、ハンナちゃんのライバルに、つい助言しちゃった……!」と何かにハッと気が付いたようにつぶやいていた気がしたのだが、俺たちには聞こえなかったんだ。
「えっと、それじゃあこれは私からのおすそ分け! はいジュースとシャーベット3つずつね!」
「いいのか?」
「これ以上ないくらいお世話になってるからね! もちろん料金なんて受け取れませんって!」
「ありがたくいただくわね!」
結局3つずつ受け取って店を離れる。
シャボン玉は、まるで宇宙空間にでもあるかのように重力無視でふわふわ飛んでいて、触っても割れないので手がふさがらないのがすごくすごい。体のどこかにもペタッとくっつけることすら可能だった。
「さすがはミリアスね! 良いものを作ってるわ!」
「だな。早速いただいてみよう」
「エステルも来なさい!」
「では僭越ながら、いただかせてもらいます」
みんなでまずはストローをシャボン玉に突き刺して、中のオレンジジュースを吸い出してみる。
「「「んん!!」」」
瞬間、例の最上級リンゴジュースにも匹敵する美味さが口の中に広がったんだ。
最高の3種ブレンドリンゴジュースには及ばないものの、最上級の〈食ダン〉で手に入れて来た蜜柑を生で絞った、あの味だ。さらにそこから何か手を加えてあるのだろう。ものすごく幸せな味が口の中を支配したんだ。
「うんま!」
「これ美味しいわね!」
「……道理で、これを飲んだ人がさっきから動かなくなっていたはずです」
エステルの言葉に辺りを見渡せば、一口飲んでチーンと意識を飛ばしている人が多数。意識が吹っ飛ぶ美味さか。俺たちには耐性があるが、上級ダンジョン産の食べ物も経験せず、いきなり最上級を味わってしまった来園者は、一撃で幸せの彼方に意識を打ち上げてしまったらしい。ん?
「ここか! 意識が飛ぶほど美味いシャボンジュース店はーーー!!」
「絶対にLV60以上の方が居るだろ! というかミリアス殿だろ!」
「ミリアス殿! どうか我が食卓へお越し下され!」
「「「…………」」」
まったりしていたら貴族風の方々が大挙として押し寄せた。
大企業だけじゃない。大貴族も交じってるらしいぞ! なんかシエラのお父さん見えた気がしたもん!
あ、〈秩序風紀委員会〉の方々が来た。それと、俺たちの通信機にも反応あり。
「『こちらオペレーターです! そのぅ、ラナ殿下におかれましては大変無礼を承知でお願い仕りますが、A-22-2で貴族の方々がもめ事を起こしておりまして……!』」
あ~うん。それってここだな。
緊急出動がかかっちゃった。
「バレた! さいなら!」
「あ、いたぞ! ミリアス女史ー!」
「どうか、どうか我が家の料理長にー!」
「ごめんなさい! 私は〈トップマリー〉の従業員なのでー!」
あ、ミリアス先輩が逃げた。貴族は追いかけた。
なお、俺とラナとエステルは、それをシャーベットを堪能しながら見物した。
オペレーター? ちょっと現場に駆け付けるまでに時間が掛かるってことにしたのでセーフだよ。
「不思議なシャボン玉ね~」
「そうですね~」
「あ~、こちらゼフィルス班。現場に到着しましたがすでに貴族様のお姿はなく」
「『こちらオペレーターです。い、いえ。ありがとうございました。もう大丈夫です。このまま休憩を継続してください』」
「ありがとうございます」
駆けつけたらもう現場は空だった。
そういうことになったんだ。
これはサボりではない。俺たちが関わらなくても問題ないと判断したんだ。
本当だぞ? 少なくとも、休憩を返上するような緊急案件ではなかったのだ。
「とりあえず、シエラのお父さんを捕まえることにならなくてよかったわね」
「はい。時には間に合わないことも必要です」
そういうことなのだ。
ラナとの食べ歩きはさらに進んだ。
ちなみにオレンジジュースとシャーベットは食べ終えたらシャボンはハジけて消えてしまったのでゴミ箱要らずである。エコの極致だ。
「!! 見てみてゼフィルス! 〈幸猫様〉のバルーンよ!」
「なぬ!? どこだラナ!?」
時には〈幸猫様〉がご降臨されたりして、一緒にお祈り、じゃなかった。鑑賞したりして楽しみつつ学園祭を回る。
「あ、イメチェンコーナー」
ふとラナが見つけたのは、学園祭の雰囲気を楽しむための着せかえが楽しめる施設だった。
服のレンタルはもちろん、ウィッグを含めたコーデなんかも整えてくれるのだ。
「ん? あ、さっきミリアス先輩が言ってたやつか」
「うん。髪をちょっと長くしてみようと思ってね」
「髪が長いラナか~」
ボブ寄りのショートであるラナは髪が短めだ。
それがより小顔を強調するというか、ラナの豊かな表情の変化をより強調するというか、俺はラナの短い髪が結構好みだった。
しかし、それはそれ、これはこれ。ラナの長い髪姿を見たいですか? と聞かれたら。そりゃ見たいと答えるさ!
「ねぇ、ゼフィルスは長い髪の私を見てみたいかしら?」
「見てみたい!」
「即答!? しかもそんな言葉強く……。も、もう、仕方ないわねゼフィルスったら。そんなに私の長い髪の姿がみたいみたいだから、ちょっと行ってくるわ」
「では、私もご一緒に」
ラナ素直。こんな素直なラナが好きです。
ちょっと照れ照れしながら髪をいじっていたラナは、一度横目で俺を見ると、繋いでいた手を名残惜しそうに放してイメチェンコーナーに入っていった。エステルも付いていったので、俺は1人取り残された。
なんとなく、待っている間ドキドキするな。
そして体感で約10分後。
バサッとイメチェンコーナーの暖簾をかき上げて、美少女が出てきたんだ。
「お、お待たせゼフィルス」
「お、おお、おおおお??」
俺にはそれが一瞬分からなかったよ。
コーデはさっきと変わらない。お嬢様コーデのままだ。
それを着ている上にさっきの声、俺の中で間違いないと告げている。
しかし、なんだろう。なんと言えばいいのだろう。そう、俺はものすごい衝撃を受けていた。
ウィッグを付け、髪を背中まで流したラナ。その姿に、俺は目が釘付けになったんだ。
「美しい」
「ふわぁ!?」
「ラナか?」
「そ、そうよ! でもちょっと待って、さっきのもう一回! もう一回言って!」
「美しい……」
「ふわぁ!?」
ズキューンとなにかにやられたようなリアクション。このリアクションと豊かな表情は間違いない。ラナだ。
ラナが髪が長くなって、とても美しかったんだ。
「それに綺麗だ」
「と、当然でしょ? も、もう。ゼフィルスがそんな反応するんだったら、もっと早くこうしておけばよかったわ」
顔を赤くしながらもフフンと胸を張ってラナが態度に表す。でもそのあと小声で言った言葉は聞き取れなかったんだ。
「ラナ、手を取っても良いか?」
「うん」
やばいな。なんだろう、ラナがすごく良いところのお嬢様っぽく見える。
実際今までもそうだったのに、なんかダントツで今回そう見えるんだ。
これがギャップ萌え……。
俺はラナの手を取ると、そのまま喧騒の中へと歩き出す。