第629話 ダンジョン突入。タバサ先輩が褒めてきます!
第629話 ダンジョン突入。タバサ先輩が褒めてきます!
現在アイギス操縦の元、下層に向かって走行中。
「これが、例の〈ダンジョン馬車〉なのね」
タバサ先輩が流れる景色を〈シャインブレイカー号〉の中から見ながらそう呟いた。
タバサ先輩からしたら複雑だろう。
確か〈テンプルセイバー〉が〈獣王ガルタイガ〉と〈決闘戦〉をしたときに要求したのがこの〈からくり馬車〉、通称〈ダンジョン馬車〉のレシピなのだから。
最近は〈ダンジョン馬車〉と呼ばれる〈馬車〉だが、別にダンジョンでなくとも使用は可能で、ギルドバトルでもカウンターなどに重宝する。まあ俺は〈城取り〉ではあまり使わないのだが、今のランクでは使うまでも無いとも言う。
しかし、強力な機動力と運搬力を持つ〈馬車〉は魅力的で、〈テンプルセイバー〉はこれに目をつけた。だがまあ、あまりにも強力なためにお値段がとても高く、支払いを渋った〈テンプルセイバー〉が〈決闘戦〉を申し込んだというのが経緯にあたる。実際は〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスター、獣王子ガルゼが〈決闘戦〉を申し込むよう話を誘導させたと言っていたが、〈テンプルセイバー〉は多分気付いてない。
アイギスに聞けば〈テンプルセイバー〉はタバサ先輩のおかげで勝ち続け、少し驕っていたところがあったとのことだ。その勢いに冷や水を掛けるがごとくピタリと止めた〈獣王ガルタイガ〉はさすがと言える。ゲームでもよくある展開だな。
「ゼフィルスさん、よろしいでしょうか」
「いいぞ」
助手席で道案内の指示を出している俺に、御者のアイギスが話しかけてくる。
まあ、話の想像はつくな。俺は話を促した。
「タバサ先輩をどうか受け入れてはいただけないでしょうか。タバサ先輩は実力的に申し分ないですし、何より上級職です。絶対に〈エデン〉の役に立ちます。私が保証します」
やはり、タバサ先輩の推薦だった。
「それを決めるためにダンジョンに来たんだよ。だが安心しろって、悪いようにはしないから」
俺はそう励ました。実際もうほぼ決まったようなものだしな。
しかし、どっちみち実力の証明は必要だ。実績は十分だが、俺はタバサ先輩の戦闘する姿を見たことが無いからな。
タバサ先輩の境遇にも思うところはあるし、悪いようにはしない。じゃなきゃユミキ先輩に連絡もとってないし。なので安心してもらえるようアイギスに告げる。
「ゼフィルスさんがそう言うのなら安心ですね」
「アイギスはタバサ先輩と親しかったのか?」
「そうですね。とてもお世話になりました。それに〈テンプルセイバー〉唯一のヒーラーでしたから、たまに〈ホワイトセイバー〉のヒーラーと交流していましたし」
「ダンジョンとかどうしてたんだ?」
素朴な疑問。アイギスが思い出を語るところ悪いが突っ込まずにはいられなかった。
Aランクギルド40人の中で唯一のヒーラーとか。
「他のギルドからヒーラーを借りていましたね。〈助っ人〉制度もありましたし」
「ああ~。結構合理的だな」
〈エデン〉では基本、ダンジョンに行くときはギルド内からパーティメンバーを決める。
〈助っ人〉は三人雇っているが、どれも非戦闘職でサポート専門だ。
しかし〈テンプルセイバー〉は〈助っ人〉でヒーラーを所望し、ダンジョンに連れて行っていたらしい。ギルドバトル以外では他のギルドとの交流も出来るからな。
「私みたいなダンジョン攻略が進まない人にはタバサ先輩が積極的に手を伸ばしてくれて、おかげで私もカンストまで行くことが出来たんですよ」
上級職のヒーラーが入ればそりゃあ弱いダンジョンなら勝てるだろうさ。
アイギスは〈ホワイトセイバー〉に在籍していた頃は〈標準職〉の【ナイト】だったからな。タバサ先輩にはとても助けられたのだという。
タバサ先輩はあれかな? 聖女かな? いや聖女はラナだった。
さすがシスター装備を身に着けているだけあってタバサ先輩は心が広い。いや清い?
ふむ。ラナとタバサ先輩の二人に〈白の玉座〉を使わせたい。
そんなことを話していると結構あっという間に下層へと到着した。
39層の入口で下車して、ここからは歩きで最奥に向かう。
「夕食の時間までには帰れそうだな」
「すごいものね。〈ダンジョン馬車〉のレシピをあれだけ欲しがる理由も分かるわ」
俺の 独 ( ひと ) り 言 ( ごと ) に返事をしたのは近くに寄ってきていたタバサ先輩だった。
「あなたはすごいわね。〈テンプルセイバー〉が欲しがったもの、全て手に入れてる。人材も豊富で出来ることも多い。そして、みんながあなたを 慕 ( した ) ってる」
「そんな大層なことでもないぞ?」
「ふふ、これを大層なことじゃないって言えることが大層なことなのよ? やっぱり、あの人とは器が違うわね」
「なんだ、そんなに褒めても何もでないぞ? タバサ先輩疲れてないか? ジュースいる?」
「クスッ。いただくわ」
なんだかタバサ先輩がすごく持ち上げてきます。
それで採点を良くしてもらおうと思ってもらってはダメだぞ?
でもジュースくらいはご馳走しよう。
「……ゼフィルス、これからどうするの?」
「おうシエラ。……どうしたんだそんな目をして」
「別に……」
どうするのをどうしたで返してしまった。
なぜかシエラがジト目だったのだ。
「そうだな、なんの捻りもなくて悪いが、このまま最奥のボス部屋まで進むぞ。道中のモンスターを倒しながらタバサ先輩の動きを見たい。シエラはタンク、レグラムとアイギスはアタッカーを頼む。俺はタバサ先輩の隣で全体の指揮を取りつつ遊撃する」
「わかったわ」
「了解だ」
「よし、じゃあ出発だ」
方針を話してみんなが頷いたので出発する。
下層では例の〈即死〉をしてくるモンスター〈狂いの邪花〉が登場してくる。
まあ、タバサ先輩の実力を見たいだけなのでそんな戦闘回数はいらないだろうと39層まで一気に来たわけだな。
俺とシエラを先頭に歩き出したのだが、早々にタバサ先輩が横に来て聞いてきた。
「ねえゼフィルスさん、地図はないの? よければ私が書くわよ? こう見えても得意なんだから」
「地図?」
はて、地図ってなんだっけ? そんな感じに思わず聞き返してしまったらタバサ先輩が「え?」という顔をしてアイギスの方へ振り向いてしまった。
アイギスもその視線に頷いて答える。
「タバサ先輩。ゼフィルスさんが居るとき私たちは地図を使いません。ゼフィルスさんが示す場所こそ私たちが進む道なのです」
「…………へ?」
アイギスの答えにパチクリしたタバサ先輩にシエラは分かると言わんばかりに頷いた。
「まあ、そうなるわよね」
「慣れるといい、タバサ先輩よ。ゼフィルスに常識は通じない」
「おいレグラム」
タバサ先輩が困惑の色を強くし、レグラムが失礼なことを説いた。
俺はちゃんと〈ダン活〉の常識の中で動いているぞ。
ただ、道も罠も隠し部屋もボスのステータスも全部覚えているから地図が不要なだけだ。
いつも地図を使わなかったので急に言われても思い浮かばなかったのである。ほら、普通のことだろう?
「大丈夫だ。地図は俺が全部覚えてる。何も問題ない」
「……そうなの。ゼフィルスさんは勉強熱心なのね」
「ふ、まあな」
〈ダン活〉のことだったらまさに勉強熱心以上に当てはまる言葉は無いな。
ほら、タバサ先輩は良く分かってくれてるよ。
俺は少し気分がよくなった。