第648話 〈獣王ガルタイガ〉訪問! これで交渉成立だ!
第648話 〈獣王ガルタイガ〉訪問! これで交渉成立だ!
ダンジョンから帰還後、俺はその足でAランクギルド、〈獣王ガルタイガ〉のギルドハウスへと向かった。
突然の訪問だったが、獣王子ガルゼは居るということでミミナ先輩が案内してくれた。
「獣王子ガルゼ、約束の〈放蕩獣鉄剣〉、確かに渡したぞ!」
「おお! これはまさしく〈放蕩獣鉄剣〉! いやまさか1ヶ月程度で持ってくるとは思わなかったぞ!」
広間にドカリと座っている巨漢の猫人。赤毛がたてがみのような形をしていて、見た目ライオンのようだ、カルアたちのようなちょっとロリ気味な女性猫人と比べ、がたいが良く筋肉がすごい。「猫人」は小さい猫型と大きいライオン型、その他いくつかのメイキングバリエーションから選ぶことが可能だった。彼はまんまライオン型だな。
お察しかもしれないが、この男こそが〈獣王ガルタイガ〉のギルドマスターであり、俺の交渉相手、獣王子その人だ。ちなみに獣王子とはこのギルドの創設者の実子だからそう呼ばれているだけで、本物の王子では無い。
獣王子ガルゼは俺が手渡した〈放蕩獣鉄剣〉を片手で持ち上げ、その姿を眩しそうに見つめていた。
「ガル、これ『鑑定LV7』の付いた〈解るクン〉よ」
「おう、ミミナは準備が良いな。本当は使うまでも無いが、これは規則でな。『鑑定』させてもらうぜ」
「もちろん問題無い」
「――確かに間違いない。確認したぜ。こいつは本物の〈放蕩獣鉄剣〉だ!」
後ろに控えるのはカルアの同郷のミミナ先輩だ。以前カルアがやらかしたときに〈獣王ガルタイガ〉の調整役として会って以来の知り合いだ。
そのミミナ先輩からスキルを強化したルーペ型鑑定アイテム〈解るクン〉を手渡され、獣王子ガルゼが剣を鑑定して宣言する。
「これで〈白の玉座〉の所有権は〈エデン〉の物、ということでいいか?」
「もちろんだ。傭兵は信用が命、約束事は守る。これは絶対の規律だからな。〈白の玉座〉は今から〈エデン〉の物だ」
獣王子ガルゼの口端が上がり頷いた。これで交渉は完了。〈白の玉座〉は正式に〈エデン〉の物になった。
この世界での傭兵はダンジョン探索のプロフェッショナルだ。攻略ではなく探索というのがミソ。
外のダンジョンでの〈救護委員会〉の位置づけ、とでも言えば傭兵の重要さが分かるだろうか?
ダンジョン探索中に戦闘不能になった時、迅速に救助に向かい地上へと帰還する。
探索のプロであり救助のプロでもあるわけだ。護衛の仕事をしていたりダンジョンの見回りをしたりと、この世界の傭兵もダンジョンが中心の仕事をしている。
だからこそ、傭兵同士が交流を持ち、良い部分をしっかり吸収して活かすためにこのギルドは創られたらしい。
獣王子ガルゼの父は立派な人だ。
「よし、この話はこれで終わりだ。それでゼフィルスよ、準備はどうなってんだ?」
どうやら【怠惰】については聞けないみたいだ。まあそうだろうな。
とはいえ、交渉の条件「俺の卒業までに」というところから汲み取るに、来年以降の新入生に使う可能性が高い。俺はしっかり覚えておくからな?
しかし獣王子ガルゼはそれよりも明日の〈テンプルセイバー〉との〈決闘戦〉の方が気になるみたいだ。
「当日アリーナに来てもらえば分かるだろう?」
「もったいぶるなぁ。おっと、いけね、ミミナ、ゼフィルスに茶を出してくれ、一番良いやつをだ」
「そう言うかと思って準備していましたよ」
「さすがミミナは気が利くな」
「そこまで長居するつもりはなかったから別にいいぞ?」
「おいおいゼフィルス遠慮するなよ。何しろ非常に価値のある上級装備を取引したんだ。茶も出さないなんて〈獣王ガルタイガ〉の名が泣いちまう」
「その茶を今の今まで忘れていたのはガルだった気がしますけど?」
「そういうのは他の者に任せてる」
「便利な言葉ね?」
「これが長の特権よ。がはははは!」
〈獣王ガルタイガ〉の仲は良好なようだ。
腕を組んで胸を反らす獣王子にミミナ先輩はちょっとジト目だ。うむ、いいサブマスターだな。
実はさっき知ったのだが、ミミナ先輩は〈獣王ガルタイガ〉のサブマスターだったそうだ。そういえばカルアがやらかした時など、重要な案件には常に彼女が対応していた気がするなと思い到る。
それから少し世間話をしたところで時間も遅くなり、使用した〈笛〉の回復もしなくちゃいけないので帰ることを告げると、獣王子が最後に言う。
「ゼフィルスよ、礼を言うぞ。よくあの剣を見つけてきてくれた」
振り返ると、終始機嫌が良いように笑顔だった獣王子が真剣な表情をしていた。
「いいって事よ。こっちも良い物が手に入ったからな。ギブアンドテイクだ」
どうやらあれは〈獣王ガルタイガ〉にとってはとても重要なものだったらしい。
おそらくずっと探し続けていたのだろう。
だが〈白の玉座〉と交換というのは、価値的にはこっちが結構得をしている。
〈決闘戦〉の賭けにも出させてもらったのだ。
こっちこそお礼を言いたいくらいである。
「それと、来年もしかしたら面倒を掛けるかもしれん、その時はまた一つ頼む」
「――ああ。また何か欲しい物でもあれば言ってくれ。可能であればまた取引しよう獣王子ガルゼ」
来年か。獣王子ガルゼやミミナ先輩は卒業している。〈獣王ガルタイガ〉は貴重な人材がいなくなっているのだ。そのことについてなのか、はたまた別のことなのか。
しかし、覚えておくとしよう。
なんで他のギルドではなく俺に頼むのか、その辺も含めてな。
「それと、ゼフィルス、いい加減俺のことはガルゼと呼べ」
「いや、なんだか呼ぶタイミング逃しちゃってな」
ほんとそれ。獣王子ガルゼの名前、なんだか最初にそう呼んでから、今までなんかタイミング逃しちゃって、ずっと獣王子ガルゼって呼んでたからな。
なんとなく獣王子と呼ぶのに慣れてしまったのでそのままにしておいたが、ちょっと気にしていたみたいだ。
「わかったよ、ガルゼ先輩でいいか? またなんかあったらよろしくな」
「おう、何もなくてもまた来い。ゼフィルスならいつでも歓迎する」
そう言って送り出してくれたので俺は帰還した。
これで準備は整ったな。
いよいよ明日はギルドバトルだ。
今日は早めに寝て英気を養うぞ!