第772話 この中で最年長エリサ! お姉様モードの鼓舞。
第772話 この中で最年長エリサ! お姉様モードの鼓舞。
「き、緊張するね」
「分かる分かる。なんて言うか、私たちが前なの!? って感じ」
「お、落ち着いて2人とも、この中では私たちが一番LVが高いんだよ。私たちがしっかりしないと……」
少し時間は巻き戻り、会場に入場する前。
ここは〈アークアルカディア〉の選手たちがいる控え室。
そこでゼフィルスから仲良し3人娘と呼ばれているサチ、エミ、ユウカは緊張で身を寄せ合っていた。
実は彼女たち、このDランク昇格試験の最中は〈アークアルカディア〉のリーダー的ポジションに収まってしまっていた。
それもこれも、レベルがこの中で一番高いからである。
先日、ついにサチ、エミ、ユウカのLVはカンストへ届いた。
これには3人とも大歓喜したのは記憶に新しい。
学園に入学して半年、こんな短期間でレベルカンストまで行くなんて十分エリートの枠組みに入るレベルである。
なお、上には上がいるもので、常識を覆すレベルでLVをカンスト、それどころか上級職まで登りまくっている人が身近にいるのだが、普通なら仲良し3人娘だってスーパーエリートと言っても過言ではない成長速度なのだ。
しかし、そんな普通ならスーパーエリートで、他の同級生を引っ張っていく存在というべき3人は、あまりに常識外のギルドに加入したことにより、自分たちは引っ張られていく存在だという認識を強く持っていた。
これは、まあ、仕方ない面もあるだろう。誰かさんが周りを導きながらズンズン前に進むのが原因である。
そうしてやってきたDランク昇格試験。
味方のメンバーを見渡して初めてその事実に気づく。
自分たちが周りを引っ張っていく存在なのだと。
「私!? 私がリーダーやるの!?」
「いやいやいや、サチっちじゃダメでしょ。無理でしょ!」
「エミちゃんの断言に物申したいけど、悔しいけど同意しちゃう! 私じゃ無理だよ!?」
「だ、大丈夫。1人に負担は掛けない、私たち3人でリーダーをやろう」
3人が縋るように見たトモヨは「私はタンクだから。前に出ちゃうしリーダーは無理だよ」と断り、他のメンバーは全員自分たちよりLV15以上も下の者ばかり。
そんなこんなで、一応リーダーはサチ、補佐でエミとユウカが支える事で決まる。
まさかこんなことになるなんてと、3人はドキドキしていた。
周りが大物すぎて、ちゃんと引っ張っていけるのか、とても不安と緊張でいっぱいだった。
このままでは、せっかくゼフィルスからアドバイスしてもらった方法も活かしきれないかもしれない。
この状況は3人にはまだ早かった。荷が勝ちすぎたのだ。
しかし、そんな3人に活を入れる者が現れる。
「もう、あなたたち古参組がしっかりしないでどうするのよ」
エリサだ。
悪魔っ娘のコスプレをしたエリサが両手を腰に当て、不安と緊張に震える仲良し3人娘の前に現れたのだ。
「エ、エリサ先輩」
「エリサっち~、だってー」
「だってもあさってもないわ。あなたたちだって〈エデン〉に加入したのだからいずれこういう日が来ることは分かっていたはずでしょ? いつまでも導かれる存在でいいの? 育ててもらった〈エデン〉の名に泥を塗ってもいいの? 〈エデン〉の名を背負い、〈エデン〉の役に立たなくて本当にいいの?」
エリサがお姉さんモードで後輩に諭す。
それを双子の妹であるフィナリナがやや後ろで傍観していた。
その普段のノリ溢れるエリサの言動とのギャップに困惑したユウカがフィナリナに理由を聞いていた。
「フィナ先輩、あのエリサ先輩はいったい?」
「お姉様モードですね。普段はしっかりしていないように見えるかもしれませんが、あれでも私の姉さまなんです。ここぞというときは頼れますし、結構かっこいいんですよ?」
「!」
フィナリナの普段とは180度違うエリサの評価にユウカは目を白黒させて驚く。
「フィナちゃんはシャラップ!」
「はいはい姉さま」
少し顔を赤くしたエリサがフィナリナを口止めし、気を取り直して3人と向かい合う。
先に先ほどの質問に答えたのはサチだった。
「えっと、私たちだってゼフィルス君やみんなの役に立ちたいと思っているけど、でも……」
「その心があれば大丈夫よ」
「!」
「いい? 別に緊張するのが悪いことじゃないわ、むしろ自然の事だと思うわよ。でもそれに惑わされてギルドに迷惑を掛けたら、あなたたちはとても後悔するわよ」
サチが目を見開いて衝撃を受けたように固まる中、エミがエリサにさらに質問する。
「後悔、後悔しないようにするには、どうすればいいの?」
「そんなの簡単よ。さっき言ったように心の問題だもの。緊張する度に思い出すの、絶対後悔したくない、こうなったら絶対後悔するってね。後は身体が勝手に動くわよ」
「――!」
エリサの言葉を受けてエミも感銘を受けたように固まった。
エリサの言う言葉には確かな重みがあった。年長者としての重みが。
たとえ見た目は10歳くらいでもこの中では一番の年長者なのであった。
「エリサ先輩。私たちにリーダーが務まるでしょうか?」
「別に務まらなくていいわ」
「……へ?」
「後悔しないように動きなさい。こうなったら絶対後悔すると思って動きなさい。最初だもの、誰だって初めては完璧には出来ないわ。だから心だけしっかり構えて臨めばいいのよ」
「え、エリサ先輩――」
ユウカも、エリサの言う意味、覚悟の類いを聞いて気持ちが晴れたかのような心地になった。
後悔しないように動くだけ。最初はそれだけで良いと言われて少し気が楽になったのだ。
「どう? まだ萎縮しちゃっているかしら? それとも私がリーダーを代わった方が良い?」
エリサが助け船を出す。いや、それは挑発だった。
もちろん3人がやっぱり無理と言えばエリサはリーダーを代わることも考えていたが、サチ、エミ、ユウカの今の表情を見てそれが無用だと分かった。
「いえ、エリサ先輩。私たち、やってみます! やらせてください!」
「私たちだって〈エデン〉の一員ですから。今までの〈エデン〉のやり方をこの中で一番知っているのは私たちですし」
「エミの言うとおりです。まだまだ若輩ではありますが、〈エデン〉のやり方を一番身近で見て知っているのは私たちです。やってみせます」
「ふふ、3人とも良い表情になったじゃない。任せるからね?」
気がつけば3人から先ほどの震えるほどの緊張はほとんど消えさっていた。
むしろ心が決まり、決意すら滲んでいそうな表情に変化していた。
エリサはそれににっこりと笑って頷く。
「――久しぶりにお姉様モードの姉さまが見られました。今日は良い日ですね」
そんな小さな声がフィナリナから呟かれたが、それは誰の耳にも入らずすぐに消える。
普段は姉に厳しい姿を見せるフィナリナだが、エリサを一番信頼し、尊敬しているのもまたフィナリナだった。
そうして覚悟が備わったサチは、選手の挨拶で上級生であり上級職である相手のギルドマスターとの握手もしっかりこなし、本拠地で試合開始の合図を待つのだった。