第806話 ハンナのスラリポマラソンは上級へと進化する!
第806話 ハンナのスラリポマラソンは上級へと進化する!
〈嵐ダン〉7層で〈上級錬金釜〉をゲットした俺たちはそのまま10層へと進み、10層フィールドボスの3メートル級エリマキトカゲっぽいボス。〈グレートリザード〉を撃破し、転移陣で帰還した。
俺はその足でギルドハウスにいたハンナの下へ、テンション高めに突撃した。
「ハンナ! 良い物が手に入ったぞ! これで上級ポーションが山ほど手に入ること間違いなしだ! ――これを見よ!」
「え? えええ? いきなりどうしたのゼフィルス君って、何これ!?」
「ふっふっふ、その名も〈上級錬金セット3点〉、そしてこれが〈上級錬金釜〉だ!」
「じょ、〈上級錬金釜〉!?」
俺のセリフを復唱したハンナが上級という言葉で飛び上がるほど驚いた。とてもいいリアクションだ。
うむうむ。俺はそのリアクションが見たかった!
しかし、それだけでは終わらない。
「まだあるぜ! ハンナにこれをプレゼントしよう!」
「え? え? これって〈スライムゼリー〉? でも大きくて形も少し違うような?」
「ふっふっふ、これはただの〈スライムゼリー〉じゃない。〈上スライムゼリー〉だ! これを使って〈上級錬金釜〉で 大失敗 ( デザートファンブル ) すると、上級の〈ハイスライム〉がリポップする。そしてそのドロップは、なんと〈魔石(中)〉だ!」
「〈魔石(中)〉!?」
ハンナが目を丸くして両手を胸の位置にぎゅっとして驚いていた。
素晴らしいリアクションだ。超楽しい。やめられない。
俺はハンナのリアクションに大満足だ。
「というわけで、早速試してみるぞハンナ!」
「ちょ、ちょっと待ってゼフィルス君、落ち着かせて、もう強引だよー!」
ふっふっふ、あまり落ち着かせすぎるとリアクションタイムが終わってしまうからな。
ハンナが良い驚きっぷりをしているうちにどんどん進めるぞ! 落ち着かせてなるものか!
ハンナの錬金工房へ〈上級錬金釜〉を素早く設置すると、俺はそこに〈上スライムゼリー〉と〈泥水〉を注ぐ。こんなときでも〈泥水〉安定。
奇麗な〈上スライムゼリー〉と汚れの〈泥水〉は反発し、 大失敗 ( デザートファンブル ) を引き起こすのだ。
「待って待ってゼフィルス君、こっちの最高級錬金工房の設備じゃダメなの!?」
「そっちは性能が良すぎる。〈上級錬金釜〉の方がハイスラリポマラソン向きなんだ!」
伊達に最高級と名が付いていない。そっちでやるとただの 失敗 ( ファンブル ) になってしまうことがあるんだ。
そのために俺は〈上級錬金釜〉を取りに行ったのだよ。
さて、準備万端だ!
「さあハンナ! 『上級錬金』だ! やれー!」
「な、なんか昔もこんなことあった気がするよ!? 『上級錬金』!」
ビックリ驚きつつもハンナはしっかり〈上級錬金釜〉に向かって『上級錬金』を発動する。
瞬間ピカッと一瞬光ると「ポンッ」という音が聞こえた。そしてヌルっと出てくるスライムたち4匹。この辺、普通のスラリポマラソンとまったく同じだな。
そしてこの生まれたばかりのスライムは、全て〈ハイスライム〉だ。
上級モンスターが誕生。そう聞くとやべえ、と思うかもしれないが安心せよ。スライムは、たとえ上級になっても スライム ( 最弱種 ) なのだから。
「これが上級のスライム、その名も〈ハイスライム〉だ。よし、ハンナ、やってみろ!」
「うん! 『オールドスイング』!」
ハンナが持つのはメイちゃん四世。実はこれ、無駄にドロップしてしまった 中級上位 ( チュウジョウ ) ランク10のレアボス、〈闇角獣・ブレンモール〉の〈金箱〉産装備である。無駄に強いぞ。
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・両手メイス〈 剛打倒華 ( ごうだとうか ) ・メイハナ〉(メイちゃん四世)
〈攻撃力168〉
〈『オールドスイングLV5』『パワースイングLV6』『強連打LV5』〉
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まさかのエステルの〈マテンロウ〉と攻撃力同じ。悪魔的な強さだ。
これがスイングされるとき、野に華が咲くと言われているがなぜかは不明だ。
片手メイスならシエラ行きだが、両手メイスは〈エデン〉で装備しているのはハンナしかいないので、ハンナ行きになった武器である。
新しいメイちゃん四世から放たれたスキル『オールドスイング』が奇麗に4匹をいっぺんに薙ぐ。
ハンナのSTRはまったく育っていないはずだが、武器はなぜか上級武器だ。
そして〈ハイスライム〉は生まれたばかりにして最弱モンスター。
そのHPは低く4匹いっぺんに攻撃したのにもかかわらず全ての〈ハイスライム〉が光に還ってしまう。
そしてその後には、〈上スライムゼリー〉が二つ、〈魔石(中)〉が二つドロップしていたのだった。
「わ、わわわ! すっごい! 本当に〈魔石(中)〉だよ!?」
ドロップを手に取り驚嘆していた。頬ずりしそうな勢いでキラキラした瞳で見ている。
これには理由があり、〈魔石(中)〉は作るのが少々面倒なのだ。〈魔石(極小)〉からだと魔石を8個も使うし、つまり普段のスライム16匹分だ。それを難なくゲット出来るようになったのだからハンナの驚きも分かるな。
そんな貴重な〈魔石(中)〉がなんとスラリポマラソンでゲットできると知ったハンナは、もう次の瞬間にはキャーキャー叫んで魔石を両手で一つずつ持ってぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「すごい! すごいすごいすごい! これすごいよゼフィルス君!」
すごいを連発するハンナ。これがどれほど画期的で素晴らしいか、おそらく俺よりもハンナのほうが深く理解しているっぽいな。
ちなみに〈上スライムゼリー〉の方はすでに〈上級錬金釜〉の中だ。やる気だなハンナよ。
「『上級錬金』!」
俺が何か言う前に、もう流れるようにスラリポが始まった。さすがハンナだぜ。
しかし、今度の 大失敗 ( デザートファンブル ) はさっきと少し違った。なんと現れたスライムの中に凄く青いスライムが1匹紛れ込んでいたのだ。
「こ、これは! 〈ハイブルースライム〉だ!」
「レアの上級スライム!? 『パワースイング』!」
「あ」
瞬間、それはもう一瞬でハンナのメイちゃんが振られスライムが華になった。いやエフェクトに還った。
そして〈ハイブルースライム〉の後にはなんと、〈魔石(大)〉が残されていたのである。
「わ! わわわわわ! 見てゼフィルス君! 大だよ!? 〈魔石(大)〉だよ!」
「やったなハンナ!」
はわわするハンナとハイタッチ。
そう、〈ハイスライム〉の上位種、〈ハイブルースライム〉からは〈魔石(大)〉が落ちるのだ。
え? なぜ〈ハイスライム〉じゃなく〈ハイブルースライム〉が生まれたのかって?
その秘密はハンナが装備しているアクセサリーにある。
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・アクセサリー②〈錬金術師の心得書〉
〈防御力0、魔防力0〉
〈『錬金効率上昇LV10』『錬金の大失敗を恐れるなLV10』〉
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これのスキル、『錬金効率上昇』の効果はそのまんまだが、注目すべきは『錬金の大失敗を恐れるな』の方にある。
これの効果は、「大失敗した時、低確率で上位種が生み出されてしまう」だ。
これにより〈スライム〉の場合〈ブルースライム〉が生まれ、〈ハイスライム〉の場合はなんと〈ハイブルースライム〉が生まれてしまうという効果なのである。
上位種なのだから当然〈ブルースライム〉からは〈魔石(小)〉が、〈ハイブルースライム〉からは〈魔石(大)〉がドロップする。
これにより、低確率ではあるが〈魔石(大)〉まで楽にゲット出来るようになったのだ。
これは非常に大きなことだった。だって〈魔石(大)〉となると〈魔石(極小)〉を20個も使う上、〈中和剤〉も使用しなくてはいけない。
それを省けるメリットは超大きい。
「すごい! すごいすごいすごいよゼフィルス君!」
「ああ! むっちゃすごいだろ!?」
すごいすごい言いながらハンナが目を輝かせて〈ハイスライム〉と〈ハイブルースライム〉を生み出しては光に還す。こっちもすごいんだぜ。
しかし、浮かれるハンナには一つ言っておかなくちゃいけないことがある。
「だがハンナ、一つだけ注意点がある。こいつらはこれでもスライムの上位種だ。生まれたばかりだから弱っちいが、もし野生化して力をつけたら大変だ。即倒してくれよ。下手をすれば反撃にあってハンナが負ける可能性だってあるんだ。気をつけてくれ」
「任せてよ! 私はスラリポマラソンの上級者だよ? 1匹も逃がさないし反撃も受けたりしないもん」
なんて頼もしい発言。ハンナはいつの間にかスラリポマラソンの上級者を自称するほどになっていたとは! 成長したなぁ。一時は本当にこっち方向に成長しちゃって大丈夫かと思ったこともあるが、多分良かったんだとこの時の俺は思った。
〈ハイスライム〉や〈ハイブルースライム〉は生まれてから数日は本当に弱いので、色々初期値なハンナでも武器がメイちゃん四世なら倒せるし、やられることも無いだろう。
あまりに弱すぎるせいで経験値も少ないのだが、そっちはダンジョンに行けばいいので問題ない。元々スラリポのレベル上げは初心者ダンジョンの条件である下級職LV5まで上げるためのマラソンだ。育ってしまえばダンジョンの方がレベルが上がりやすい。
それが終わった後、俺は上級素材の一部をハンナに納品した。
これでようやくラナとエステルの装備の素材が揃った形だ。
上級装備を作るには、ハンナが素材を昇華させ、マリー先輩とアルルが作製する必要があり、今まで上級素材の採取が遅くなってしまって作れていなかった。
ハンナは早速取り掛かってくれたよ。ありがたい。
しかし、それが上級スラリポマラソンをしたいがために早く仕上げようとしているように見えたのは、きっと気のせいだろう。
ハンナの錬金工房を後にし、その日のうちにマリー先輩のところとアルルのところにも寄って、今まで足りてなかった上級素材を納品した。これで後は生産組に任せておけばラナとエステルの上級装備は完成するだろう。そうすれば上級ダンジョンの攻略が開始できる。
ようやくか~。いや、ゲーム時代と比べればむっちゃ最速で走っているけど。
うむ、感慨深い。
おっとその前に、ユーリ先輩と学園長との契約を果たしに行こうか。
翌日、日曜日。
その日俺はハンナにあるものを作ってもらい、学園長の下へ訪ねていた。
いつもの学園長室には俺、学園長、そしてユーリ先輩が集まっている。
そしてユーリ先輩が突如として深く頭を下げて万感の思いでこう言った。
「ゼフィルス君、ありがとう。君のおかげで〈キングアブソリュート〉は無事、〈嵐後の倒森ダンジョン〉を攻略することが出来たよ」
それは〈キングアブソリュート〉が上級下位ダンジョンの一つを攻略したという報告だった。