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1-6 ★ 君を助けたい

【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’S Salvation — novelba.com · All chapters

1-6 ★ 君を助けたい

「不謹慎かもしれないけど、笑った」

「はい? 笑った?」

司祭の言葉に耳を疑った。

「以前から、うつけと噂のあった王子様が、振った女にここまでこき下ろしにされるとは。男はね、嫌いな男が馬鹿だと罵られていると、自尊心が高ぶる醜い動物なんだよ」

「司祭……様ですよね、あなた?」

「まあね、一応。男の司祭です」

「腹黒そう。全然見えないんですけど?」

「これでも真人間だよ。王子から断罪された君のように、公衆の面前で恥をかかされたことは無いけれど、死にたいくらいには……人間関係の揉め事があった。昔から本が友達でさ」

「本が友達。案外寂しい人だったんですね」

「ひどい人だ。本は生きているんだよ。立派な友達さ。おかげでね、論文と弁論は得意になった」

司祭アルフレッドは鼻をならすと、椅子に腰掛けたまま足を組んだ。まあ、お行儀の悪いこと。

「先日だって、王立の書庫にしか無い宗教書があるというからわざわざ来たのにさ。まさか首吊り令嬢に遭遇するとは思わなかった」

「入ってきたのが、あなたの運のツキです」

「鍵をかけていない君も悪い。邪魔されたくなかったら鍵をかけようよ?」

「あの書庫には鍵が無いんです」

「じゃあ内側から物で塞げば良かったのに。あそこでない鍵付きの部屋もあっただろう?」

「そういえばそうですね」

「ツメが甘いよ。死ぬにしては。きみ、天然って言われない?」

「言われたことはありまっせん!」

「そんな悪魔のような顔をして~。眉間のしわがとれなくなるよ」

私は自分の顔を両手でむにむにと撫でた。表情筋のすみずみに怒りが浸透している。

「そんなに顔に出やすくて、分かりやすい性格で、大丈夫かなぁ。俺は不安だよ」

「別に、あなたに心配されなくても」

何も困ることはないから、ほっといてくれやい。

「君は、これから苦しい立場になると思う」

「王家への不敬罪の件で?」

「まぁ……そういうこと」

「いいです。自分で撒いたタネですもの。処刑されるよりは、自分で首をくくります」

「待て、待て。――すきあり!」

「ちょっ」

司祭は私の布団をめくった。私は慌てて寝台を飛び出す。

「最低! 女子の布団をめくるなんて!」

「これ、なーんだ?」

司祭は作りかけの縄を、左右にぶらぶらと揺らした。

「とりあえず、君の周りから首吊りに使えそうなものは全て取り払わないとね」

「どうせ私は、絞首刑ですよ!」

私は思わず大きな声で叫んでいた。

「王国中に王子の毒を吐いた私は死に損なった。あんな馬鹿への不敬罪で首を吊されたら、たまったものではないわ。天国しか行き場所がないのなら、自分で行く。私なりの尊厳死です!」

「死んではダメだ」

「いえ、死にたいんです」

「ダメ、ダメ、ダーメ」

「ダメな理由は何ですか? 生きていれば良いことがあるとでも言うんですか!」

「あるよ」

「嘘つき」

目頭が熱くなる。情けないことに、私は人前で泣いていた。

「希望論で物を語らないで。王子に婚約を破棄されて、大衆の面前で、あることないこと言いふらされた私ですよ? 好色だのお金に汚いだのと。そんな私にこれから良い縁談があるとでも思います? 女好きの貴族か、自分よりはるかに年上のおじいさんくらいですよ」

「女性の幸せは結婚だけなのかい?」

司祭の言葉に、ドキリとした。

「そう……ですね。この世界では」

生まれ変わる前の世界では、女性には結婚以外の幸せが多く用意されていた。結婚が必ずしも幸せではないという社会概念が浸透していたが、この世界では、貴族の女性は結婚こそが最良の選択で、それ以外の人生を歩むなど想像がつかない。人生を自ら喪に服し、修道女となったところで、私の事情を知る仲間に陰口を叩かれ、院の中で居場所を失う未来が目に見えた。

「結婚も出来ず、自分の悪い噂が王国中に流れ、暴露文を自ら公表し、自殺未遂をした令嬢なんて、誰も手を差し伸べませんよ。自業自得も良いところ。あなたは私を笑いに来たの?」

就寝着の袖で涙を拭う。着替えも化粧もしていない姿を男性に見られたのは初めてだ。その上、大泣きして、なんと情けない。死にたいという気持ちを強める為に、この司祭が部屋にやってきたというなら、とんだ悪魔だ。

「俺のせいで、ますます君を死にたい気持ちにさせてしまったね」

そうよ、あなたのせいよ、という言葉は口から出なかった。心を見透かされたことの驚きの方が強かった。

「誰もいないわけじゃない! 目を覚ませ!」

司祭は縄を置くと、窓際に立つ私へ、どっしりとした足取りで近付いてきた。

「きみを助けたい、ミミ・キャベンディッシュ」

司祭は私へ右手を差し出した。

「助けるったって……どうやって?」

「汚名を着せられた君に、凄い提案があるんだけど、聞いてみたい?」

「はい……期待はしませんが」

「聞く前から、話の腰を折らない」

司祭は苦笑いすると、急に私の足元に跪いた。

「ミミ。俺と婚約するってのは、どうかな?」

私の手の甲にキスを落とした。