1-6 ★ 秋の月夜の睦言
1-6 ★ 秋の月夜の睦言
「アル。何を隠しているの?」
「な、何も」
「チャールズと同じで、嘘が下手ね」
「チャールズより俺の方が、ずっと嘘は上手だよ!」
「アル。自分で墓穴掘っているの、分かる?」
アルの背中へ手を回したけれど、彼はくるりと身を 翻 ひるがえ して逃れた。
「なんだか……とても甘い香りがするわ」
「お茶の香りだよ」
「お茶? わあっ、綺麗な夕日色。一体なんの茶葉なの?」
「め、珍しいものをいただいたから、ミミと飲もうと思って」
「そうなの。――すきあり!」
「あっ」
私は彼が隠し持っていたものをすくいとった。
「あら、かわいい。この小瓶、 蓋 ふた に 兎 うさぎ の飾りがついているわ」
試しに蓋を抜いてみた。
「お茶と同じ甘~い香りがするわ。シロップ?」
「そ、そう! シロップ! 隠し味にと思ってさ」
「そうだったの。それにしてもなんて良い香り……ん? これ、どこかで嗅いだことがある気が……」
「ありふれた香りだよ」
アルが私の手から小瓶を抜き取り、念入りに蓋を閉めた。
「さあ、冷めないうちに一緒に飲もうよ」
「そうね」
私とアルは長椅子に隣り合って座ると、夜のお茶会を始めた。
「美味しい。身体がぽかぽかしてくるわね。お茶にお酒を入れた?」
「さっきのシロップにお酒が入っていたみたいだよ」
「なるほど。お酒を入れたお茶って美味しいのよね。これなら何倍でもおかわりできちゃうわ」
「そ、そんなにたくさん飲まない方が……いいんじゃないかな」
「どうして?」
「え、えーと、ほら? 利尿作用 りにょうさよう ?」
――突然、雰囲気の欠片もないことを言うんだから、まったく。
「アル。心ここにあらずといった様子だけど、どうしたの?」
アルが 虚 うつ ろな眼差しで宙を見つめているので、彼の頬に手を添えて、注意をこちらへ促した。
「アルは酔いやすいものね。気分は悪くない?」
「いや……最高の気分だ。君が隣にいるから」
アルは私を見つめると、紅茶を置き、急にキスをした。彼の逞しい腕が私の背中にまわり、抱きしめられる。そのまま長椅子にそっと押し倒された。
「アル。ちょ、待っ……」
抵抗する間もなく、甘い香りのする口づけに酔いしれる。悪戯な彼の手が、綺麗にといた私の髪をあっという間に乱してしまった。
「アル。なんだか今日は……その……」
「どこか変?」
アルはわざと私の耳元で囁いた。
「世界で一番愛しているよ、ミミ」
――こそばゆいったら。
アルは椅子から立つと、寝そべったままの私を両腕で軽々と抱えた。
「どこに……行くの?」
「寝室。椅子の上は、君も 嫌 いや だろう」
「うん」
私は抱えられたまま、彼の胸に自らそっと頭をあずけた。
「俺は 聖職者 せいしょくしゃ で、欲望を我慢してしまう 癖 くせ があるから……」
月光に満たされた部屋の真ん中、純白のシーツの上にそっと寝かされた。
「酔ってでもいないと、不器用な愛し 方 かた しかできないんだ」
「 貴方 あなた が不器用だというなら……私はどうなの?」
私の上に 覆 おお い被さった彼の 唇 くちびる を、指先でそっとなぞった。
「私は生きることにも不器用で、首をくくろうとしたわ」
「君は賢くて、とても綺麗だ。誰よりも誰よりも」
彼は私の頭を優しく撫でた。
――この人の目に留まる花で良かった。
自ら散ろうとした私を救ってくれた彼に、生涯を通して愛を捧げたい。
「以前、欲しいものがたくさんあると話していたでしょう? 一 ひと つでも私に叶えられる?」
「 君 きみ でないと、 一 ひと つも満たされない」
アルは私の右手を絡め取り、優しく握る。
「 貴方 あなた で満たされたいわ、アルフレッド」
月明かりの部屋で、私たちは深い愛に 溺 おぼ れた。
番 つがい の 睦言 むつごと に耳を澄ましながら 微睡 まどろ みに 揺蕩 たゆた う。
永久 とわ に語り継がれる幸せな 御伽噺 おとぎばなし のように尊い夜だった。
【つづく】