6-3 ★ 裁判所の使者
6-3 ★ 裁判所の使者
「さあ、逃げられませんよ、お姫様」
アルは私を壁に押し付けると、両手の自由を奪って口付けした。
ぎゅっと目を閉じたその時、玄関の呼び鈴が鳴った。
瞼 まぶた を開けると、アルが不満そうに 眉 まゆ を寄せている。
「ちょうどの時に、 一体誰 いったいだれ だ!」
「ほんとよ! ここからだったのに!」
「えっ、ミミ今なんて?」
「あ、いや、その」
――つい本音が。
一階で玄関扉の開く音と「どちらさまでしょうか」と訊ねるナンシーの声が聞こえた。
「やれやれ。着替えるか」
「そ、そうね」
アルは寝台を下り、 衣装箪笥 いしょうだんす から仕事着を取り出す。
私は 衝立 ついたて の裏に回り、てきぱきと着替えを済ませた。
しばらくすると、コンコンッと寝室の扉が 控 ひか えめに鳴らされた。
「旦那様、奥様。よろしいでしょうか」
アルが「構わないよ」と言って扉を開けた。
「シモン・コスネキンという方がいらっしゃってますが」
「シモン、ですって?」
その名を聞いた 途端 とたん 、全身に鳥肌が立った。
「王子の元秘書だね?」
「知っていたの、アル? あれっ、元秘書って言った?」
「ああ。彼は秘書を 辞 や めたらしいよ」
「シモンが秘書を 辞 や めたですって?」
俄 にわか には信じられない。いつも王子にぴったりついていた男なのに。
「シモンは何の用でうちに来たのかしら?」
「分かりません。奥様に御用がある、とだけ」
嫌な予感がするけど会わないわけにはいかない。私、アル、ナンシーは一階へ下りた。玄関を開けると、シモンは「おはようございます」と挨拶した。
「お久し振りですね、シモン」
「ご 無沙汰 ぶさた しています。本日は王立裁判所の仕事でうかがいました」
「王立裁判所ですって?」
「ええ。私は今、執行官として勤めております」
シモンは、王冠と 天秤 てんびん の真新しい 襟章 えりしょう を指差した。
「チャールズ殿下のそばでお仕えしておりました時、法律関係の書類、手続きに多く携わりました。王宮ではなく現場で法律に関わる仕事がしたいとチャールズ殿下に願い出たところ、 便宜 べんぎ を 図 はか ってくださったというわけです」
―― 便宜 べんぎ をねぇ? 物 もの は 言 い い 様 よう とはこのことかしら。相変わらず、要領が良いんだから、この男は。
「急を要する確認事項があり、私が直参致しました」
シモンはコホンッと一つ 咳払 せきばら いした。
「王立裁判所にて執り行われる、ミミ・キャベンディッシュ様の裁判の件です」
――私の……裁判?
目の前が真っ暗になった。
「ミミ!」
よろめいた私をアルが支えてくれた。
【つづく】