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第X話:クロノ様の優雅な日々【中編】

クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです — novelup.plus · All chapters

第X話:クロノ様の優雅な日々【中編】

【セシリー・ハマル】※ 早朝、セシリーはクロノの部屋に向かった。 いつもはメイド長のアリッサと一緒なのだが、今日は一人だ。 嫌な予感がした。 いや、クロノが帰ってきた時から嫌な予感はしていたので、予感が確信に変わったと言うべきかも知れない。 アリッサだってセシリーがクロノに何をされているのか気付いているはずだが、今まで救いの手を差し伸べてくれたことはない。 そもそも、助けようという発想がない可能性がある。 腹立たしいことにクロノは使用人からの評判が良いのだ。 仮に助けを求めたとしてもセシリーが悪いことにされそうな雰囲気がある。 実家に助けを求められない以上、打つ手なしである。「……さっさと仕事を終わらせれば大丈夫ですわ」 セシリーはそう自分に言い聞かせ、クロノの部屋の前で立ち止まった。 ドアノブに手を伸ばすと同時に扉が開いた。 扉を開けたのはツインテールの生意気そうな女だ。 記憶が確かならば経理を任されている奴隷だ。 部屋を覗き込むと、眠っているのか、クロノはベッドに横たわっていた。「ちょっと退いてくれない?」「そちらこそ退いて下さらない?」 カチンときて言い返す。 早朝、クロノの部屋から出てきたことから夜伽を務めていたと分かるが、所詮は奴隷だ。 メイドに身を窶しているとは言え、セシリーはハマル家の一員だ。 貧民未満の存在に道を譲ることはできない。「退きなさいよ」「奴隷である貴方が道を譲るのが筋ではなくて?」 ツインテールの女は悔しそうに唇を噛んだ。 どうやら、彼女は自分が奴隷である自覚がないらしい。 一体、どんな教育を受けてますの? とセシリーは奴隷を睨み付けた。「二人とも朝っぱらから喧嘩をしないでよ」 声の主はクロノだ。 彼は億劫そうにベッドから下ると近づいてきた。「どうして、喧嘩してたの?」「こいつが道を譲らないからよ!」「この奴隷が道を譲らないからですわ!」 セシリーと奴隷が同時に言うと、クロノは面倒臭そうに溜息を吐いた。「……セシリーが悪い」「なっ!」「ほら、さっさと退きなさいよ」 奴隷は勝ち誇ったように言った。「嫌ですわ!」「……セシリー」 低く押し殺したような声で名前を呼ばれて体が強張る。「セシリー、退くんだ」「わ、分かりましたわ」 セシリーは唇を噛み締め、道を譲った。 ふふん、と奴隷は小馬鹿にするようにセシリーを流し見ながら部屋を出て行った。「……わたくしは悪くありませんわ」「成長したと思ってたのに残念だよ」 セシリーは俯いた。 悔しかったからではなく、クロノに見つめられることに耐えられなかったからだ。 自覚しているかは分からないが、彼は稀にゾッとするほど凍てついた目をする。 その目で見られると自分には石ころほどの価値もないという気にさせられるのだ。「……お仕置きだ」「わ、分かりましたわ」 顔を上げると、クロノはベッドに向かっていた。 セシリーは部屋に入って扉を閉め、彼の後を追った。「久しぶりだけど、やり方は忘れてないよね?」「お、おぼ覚えてますわ」 クロノはベッドに腰を下ろして嘲笑するかのような表情を浮かべたが、セシリーは安堵していた。 あの凍てついた目で見られるくらいならば嘲笑された方がマシだ。 少なくとも嘲笑される価値があるということなのだから。 セシリーは跪き、パンツに手を掛ける。 ツンとした臭いが鼻を突き、息を漏らす。 卑しい奴隷の体液がこびりついたものを口に含むのは躊躇われたが、あの目で見つめられるよりマシだと自分に言い聞かせて舌を伸ばす。 舌が触れるか、触れないかの所でクロノは口を開いた。「……エレナは処女なんだよ」「突然、何を仰いますの?」 セシリーはクロノを見上げた。 エレナとは先程の奴隷のことだろう。 つまり、彼女は自分と同じように奉仕だけをさせられているということだろうか。「でも、入れてはいるんだよ」「……?」 ますます意味が分からない。 入れているのならば処女であるはずがない。「分からない?」「分かりませんわ」 セシリーが素直に答えると、クロノは口の端を吊り上げた。「もう一つ穴があるよね?」「ま、まさか、不浄の……しょ、正気じゃありません!」 セシリーは予想外の答えに震え上がった。 そんな所に入れたものを口に含むなんて耐えられない。「ヴェルナがどうなっても良いのかな?」「くっ、この外道!」「ありがとう。最高の誉め言葉だ」 さあ、どうする? とクロノは脚を開いた。 唇を噛み締めて睨み付けるが、友人を守るためには我が身を犠牲にするしかないのだ。 セシリーはおぞましいそれに触れ、怖ず怖ずと舌を伸ばした。 どうして、わたくしがこんなことを、と内心毒づきながらクロノを睨み付ける。「はぁ、セシリーは下手だなぁ」「集中できないから黙って下さらない」 先程よりも大胆に舌を使うが、クロノの態度は変わらない。「全然ダメだよ。アリッサは上手いのにな~」「わたしくと平民を一緒になさらないで!」 アリッサには世話になっているし、敬意も抱いているが、年増より劣っていると言われて平静でいられる訳がない。 ましてや相手は平民なのだ。「あ~、セシリーは使えないな」「お黙りなさい!」 クロノを怒鳴りつけ、奉仕に集中する。 硬くなっているのだから下手すぎるなんてことはないはずだ。 きっと、侮蔑して愉しんでいるのだ。 だが、クロノの意図を読めてもその言葉はセシリーの心に突き刺さる。「う~ん、いつまで経っても終わりそうにないから一人でするよ」「だったら、初めから一人ですれば良いじゃありませんの!」「……動いちゃダメだよ」 セシリーが立ち上がろうとすると、クロノが制止するように肩に触れた。 すぐに何をしようとしているか分かった。「ふ、服に掛かってしまいますわ!」「うん、掛かるね」 クロノの悪辣さに歯噛みする。 一着しかないメイド服を汚される訳にはいかない。 それを回避するにはどうすれば良いのか。「わ、分かりましたわ」「じゃ、よろしく」 セシリーは膝立ちになった。 熱を帯びた臭気が押し寄せてくる。 ゴクリと唾を呑み込み、ゆっくりと上下運動を繰り返す。 喉の奥が突かれてえずきそうになる。「刺激が弱いな~。手伝ってあげるよ」「んんーっ!」 クロノは立ち上がると激しく動き始めた。 頭を掴まれているせいで自由に動けない。 ふと違和感を覚える。 強く喉の奥を突かれ、熱い液体が断続的に迸る。「抜くよ?」 服が汚れてしまいますわ、とセシリーは唇を窄めた。 引き抜かれた後、零れ落ちないように 頤 ( おとがい ) を反らす。 胃がチク、チクと痛み、強烈な吐き気に襲われる。 服のことなんてどうでも良い。 吐き出して楽になりたい。 そんな気持ちを抑えつけ、何とか呑み込む。 それでも、胃は痛み、そのたびに吐き気を催してしまう。「あ~あ、残念」 そう言って、クロノは立ち上がった。※ 朝から最悪ですわ、とセシリーは心の中で吐き捨て、箒で庭園を掃き清める。 胃がムカムカする。「……うっ」 突然、吐き気に襲われて口を押さえる。 胃の内容物を吐き出しこそしなかったが、少量の空気を排出……ゲップをしてしまった。 青臭い吐息だ。 クロノに飲まされた液体の臭いが空気に染み込んでいるのだ。 まるで胃の中を犯されているような気分になって溜息を吐く。「……セシリー、セシリー」 名前を呼ばれて振り返ると、ヴェルナが門の陰から手招きをしていた。 ふ~、と鼻で息を吐き、ヴェルナに歩み寄る。 ヴェルナは一般兵を示す黒い軍服を着ていた。 どの兵科に就いたのか、肘まである籠手と膝まである脚甲を身に着けている。「よ、よう、元気だったか?」「今頃、会いに来るなんて薄情過ぎですわ」「い、いや、あたしにも色々あったんだよ」 ヴェルナはバツが悪そうに頭を掻いた。「わたくしだって元近衛騎士ですもの、配属直後の忙しさは心得てますわ」「そうなんだよ。あたしはクロノ様に付いてきたから色々と大変でさ」「……」 セシリーは黙ってヴェルナを見つめた。「どうしたんだよ?」「ヴェルナさんと一緒に働いた日々を思い出してましたの」 最初の頃は色々あったが、今となっては良い思い出だ。「もう立派な兵士ですわね」「そ、そうか?」 ヴェルナは照れ臭そうに鼻を擦った。「ところで、今日は何の用ですの?」「何の用って……顔を見に来たんだよ」 取って付けたような理由だが、そんなものなのかも知れない。「で、調子はどうよ?」「見ての通りですわ」 体調を崩して実家に帰りたい所だが、この体はちょっとやそっとじゃ調子が悪くならないらしい。「その、クロノ様とはどうだ?」「どうもこうもありませんわ」 セシリーはヴェルナから顔を背けた。「あ、あのさ、セシリーってクロノ様を好きだったりする?」「は? 嫌いに決まってますわ、あんな男」 セシリーが吐き捨てると、ヴェルナは蹌踉めいた。 まるで見えない鈍器でぶん殴られたかのようだ。「それがどうかしました……っ!」 再び吐き気が込み上げ、両手で口を押さえる。「せ、セシリー?」「ちょっと吐き気がしただけですわ」 大丈夫、とヴェルナを手で制した。 近づかれたら、臭いで何をされたか悟られるかも知れない。 折角、夢を叶えたのに……ヴェルナには辛い目に遭って欲しくない。「もう仕事に戻りますわ。ご機嫌よう」「ああ、ご機嫌よう」 ヴェルナは軽く手を上げ、セシリーに背を向けた。【スノウ、スー、エリル】※「お帰り、早かったね」 エリルが研究室に戻ると、スノウが声を掛けてきた。 研究室を出た時にはいなかったので、留守にしている間に遊びに来たらしい。 本棚の方を見ると、スーが座って本の挿絵を睨んでいた。 どうやら、二人とも暇を持て余しているようだ。 研究室には関係者以外立ち入り禁止の貼り紙をしているのだが、この二人には効果がなかったらしい。「何処に行ってたの?」「……エラキス侯爵に呼び出された」 エリルは手紙を机の上に置き、チョコンとイスに座る。 視線を感じて隣を見ると、スノウが心配そうにこちらを見ていた。「やっぱり、クロノ様に怒られたの?」「……違う」 エリルは首を横に振った。 エラキス侯爵に呼び出されたのは事実だが、どうして、スノウは怒られたと考えるのだろう。「……帝都から手紙が来た」 エリルが手紙を差し出すと、スノウは遠慮がちに受け取った。 手紙を広げ、難しそうに眉根を寄せる。 そこで彼女が文盲である可能性に思い当たる。「……読めないのなら口頭で伝える」「お母さんに教えて貰ったから少しは読めるよ」 スノウは拗ねたように唇を尖らせた。「えっと、近衛騎士団長をクビになった……で良いの?」「……概ね間違いではない」 手紙には近衛騎士団長及びティリア皇女監視の任を解くと書かれている。「軍人は失業しないと思ってたのに」「……狡兎死して走狗烹らるという諺がある」「どういう意味?」「……兎がいなくなれば猟犬は用済みになって食べられてしまう。同じように戦争がなくなれば軍事に尽くした功臣は不要の存在になり」「食べられちゃうの?」 スノウは驚いたように目を見開いた。 どうして、食べるという結論になるのだろう。 人間が共食いするのは飢饉の時だけだ。「……殺される」「何だ。てっきり食べられちゃうのかと思ったよ」 スノウは胸を撫で下ろし、憐れむような目でエリルを見た。「そっか、エリルは失業したんだ」「……私は失業していない」 思わず言い返す。「失業してないの?」「……近衛騎士団長の職は失ったが、マジック・アイテムの研究開発という仕事が残っている」 スノウはポカンと口を開けている。 もしかして、エリルがマジック・アイテムの研究開発をしていることに気付いていなかったのだろうか。 頻繁に遊びに来ているから仕事の内容を理解しているとばかり思っていたのだが、そうではなかったようだ。「エリルの趣味だと思ってた」「……違う。エラキス侯爵から正式に依頼を受けている」「そうなんだ」「……私とスノウには認識の違いがあるように思う」「だって、エリルって何をしてるのか分からないんだもん」 そう言って、スノウは周囲を見回した。 本棚には本が詰め込まれ、床には本の山と木箱が置かれている。 さらに壁際には動物の骨格標本、棚には鉱石と薬草が保管されている。 研究をしているのは明白なのにどうして分からないのだろう。「……とにかく仕事はしている」「よく分からないけど、失業してないなら良いや」 どうやら、スノウは考えることを放棄したようだ。「ん~、でも、二つあった仕事の一つがなくなっちゃったんでしょ?」「……問題ない」 研究費は全てエラキス侯爵持ち出し、食事は無料で食べられるので、飢え死にするようなことはないはずだ。「それにしても、いきなりクビって酷いよね」「……仕方がない」 エリルが近衛騎士団長でいられたのはラマル五世の後ろ盾があったからだ。 それを失えば近衛騎士団長の任を解かれるのは時間の問題だった。 とは言え、何もかも納得している訳ではない。 たとえばエリルではなく、エラキス侯爵宛に手紙を届けたことだ。 実際に封を開けたのはティリア皇女だが、真面目に監視役を務めていたら殺されていたかも知れない。 逆に言えば手紙の主はエリルが殺されても構わないと考えていたのだ。「今の仕事はずっと続けられるの?」「……しばらくは問題ない」 帝都ならばいざ知らず、近隣でマジック・アイテムの研究開発をできるのはエリルだけのはずだ。 そのはずだが、少し不安だ。 近衛騎士団長としては無能だったが、研究者としてはそれなりに国に貢献してきたつもりだ。 それなのに帝国はあっさりと自分を切り捨てたのだ。 それも煮るなり焼くなり好きにしろと言わんばかりの方法で。 それを考えると、エラキス侯爵が自分を切り捨てないと断言はできない。「エリルってクロノ様と仲良かったっけ?」「……それなりの信頼関係を構築していると自負している」「そうかな?」 スノウは懐疑的だ。「……どうして、不安を煽るようなことを言うのか分からない。何か伝えたいことがあるのならば端的に言って欲しい」「接待?」「……接待は単語だが、言いたいことは分かった」 要するに接待を行い、信頼関係の醸成に努めろと言いたいのだろう。「どう?」「……良いアイディアだと思う」「良かった! エリルならそう言ってくれると思ってたんだ!」 スノウは嬉しそうに手を打ち合わせた。「もうどんな接待にするか決めてあるんだよ」「……仕事が早いのは良いこと」「スー! エリルが賛成してくれたよ!」 スノウが呼びかけると、スーは本を本棚に戻してこちらに近づいてきた。『オレ、森、行ク』「ボクは服の準備かな? ああ、宿も手配しておくね」「……私は女将に料理を作って貰う」 正直に言えばあまりお金を使いたくないのだが、これで信頼関係を醸成できるのならと自分に言い聞かせる。※ 時間は矢のように過ぎ、接待の日がやって来た。 エリル、スノウ、スーの三人は丈の短いメイド服に身を包み、食堂兼宿屋の二階でクロノを待っていた。 テーブルの上には料理が所狭しと並んでいる。 料理は女将が作ったが、食材はスーが森で採ってきた。「そろそろかな?」『薬草、焚ク』 スノウが小首を傾げると、スーは土器の上に草を重ね、その上に小さな石ころのような物を置いた。 しばらくすると煙が上がり、甘ったるい匂いが漂い始める。 毒ではないのだろうが、どんな効能を持つのか気になる。「わ~、良い匂い」『薬草、特別』 スノウが陶然と呟くと、スーは自慢気に胸を張った。 エリルの好みではないが、二人の頑張りを思うと口にするのは憚られる。「特別な薬草なんだ?」『オレ、頑張ッタ』 確かに頑張っていた。 前回はエリルとスノウに従っていた感じだったが、今回は率先して動いていた。 スーは変わったのだ。 変わったと言えばスノウも変わった。 帝都に行く前と戻ってからでは雰囲気が異なる。 何処が変わったのか。 風貌は変わらず、人懐っこい性格にも変化はない。 強いて言えば目が違う。「……何処かで見た」「どうかしたの?」 スノウは小首を傾げ、こちらに近づいてきた。 頬が仄かに紅潮しているのは露出度の高い服を着ている恥ずかしさからだろう。 エリルはブルリと身を震わせた。 悪寒が背筋を這い上がったのだ。 もしかしたら、風邪を引いたのかも知れない。「どうかしたの?」 スノウは再び問い掛けてきた。 やはり、何処かで見た目をしているが、それを他人に尋ねても意味はない。 なので、益体のない質問をすることにする。「……スノウとスーが接待に付き合ってくれる理由を考えていた」「ボク達は友達でしょ?」「……」 エリルは無言でスノウを見つめた。 しばらくすると、スノウは耐えきれなくなったかのように顔を背けた。「……本当の理由は?」「実は帝都でクロノ様に酷いことをしちゃって」 スノウは申し訳なさそうに肩を落とした。「……普通に謝れば良い」「謝ったけど、それだけじゃダメだと思うんだ」 許してくれたのならそれで良いと思うのだが……。 恐らく、スノウは自分の心に一区切り付けたいのだろう。「……スーは?」「スーはクロノ様の子どもが欲しいんだって」「……意味が理解できない」 どうして、子どもが欲しいのに接待をするのだろう。「エリルも賛成してくれて良かったよ」「……どういう意味?」 エリルが問い掛けた直後、トントンという音が聞こえた。「は~い、今開けます!」 スノウは嬉しそうに走り寄り、扉を開けた。 廊下に立っていたのはエラキス侯爵だ。「今日はどうもありがとう。ところで、この煙は?」「良いから入って入って!」「分かった分かった」 スノウが背後に回り込んで背中を押すと、エラキス侯爵は仕方がないなと言わんばかりの表情を浮かべて部屋に入ってきた。「こっちだよ」「前回よりも豪華だね」 スノウはエラキス侯爵をイスに座らせる。 その間にスーは扉を閉じた。 その時、再び悪寒がエリルの背筋を這い上がった。「……やはり、風邪を引いたのかも知れない」 熱っぽいような気がするし、息苦しく感じる。 それに衣服が纏わり付いてくるような不快感がある。「クロノ様、今日は沢山食べてね」『食ベル、元気、ナル』 二人はエラキス侯爵の隣に立ち、料理を小皿に取り分けた。 エラキス侯爵は最初に山菜を炒めた物を口にした。「どう? 美味しい?」「少しクセはあるけど、美味しいね」 クロノは料理を呑み込んでから答えた。『コレ、食エ』「トカゲ?」『元気、ナル』 スーが差し出したのは黒焦げのトカゲらしき物だ。 まあ、真っ黒になっているので、本当にトカゲか分からないが。 女将はあんな物を作っていただろうか? とエリルは首を傾げた。「まあ、折角だし」 エラキス侯爵はトカゲらしき物を丸ごと口に入れて咀嚼した。 みるみるうちに顔が歪んでいく。「クロノ様、これを飲んで」 エラキス侯爵はスノウからカップを受け取り、一気に煽った。「苦っ! どっちも凄く苦いんだけど!」 タンッとカップをテーブルに置き、そんな感想を口にする。「苦いけど、元気になるんだって」「良薬は口に苦しって言うけど、流石に苦すぎだよ」『次、コレ、食ウ』 仕方がないな、とエラキス侯爵はスーに差し出された料理を食べ始めた。 苦っ、辛っなどと言いながら順調に食べ続け、異変は料理が半分なくなった頃に起きた。 ただし、異変が起きたのはエラキス侯爵ではなく、エリルだ。 突然、全身が熱くなり、汗が噴き出てきたのだ。 さらに感覚が鋭敏になった。 特に鋭敏になったのは触覚……皮膚の感覚だ。 わずかに身動ぎしただけで肌が痛んだ。 我慢していると不思議な感覚が太股の内側で生じた。 不思議な感覚は太股を摺り合わせても消えない。 俯いて感覚に耐えていると、スノウの声が聞こえてきた。「えへへ、元気になった?」「何を食べさせたの?」 顔を上げると、スノウがエラキス侯爵の太股に座っていた。 ただ座っているのではなく、太股に跨がって向かい合っている。「元気になる食べ物だよ」「もしかして、この煙も?」「スーが最初に作ったのは効きがイマイチだったから一緒に試行錯誤したんだ」 どうやら、この異変はスノウとスーの仕業らしい。 もしかしたら、二人はエリルの本棚から薬草の知識を仕入れていたのかも知れない。「……はぅっ」 突然、目の前が真っ暗になり、エリルは前のめりに倒れた。 そして、スノウと同じ目をした人物のことを思い出した。 前サルドメリク子爵だ。 スノウは命を絶つ前夜の彼と同じ目をしているのだ。「……失敗した」 その一言を最後にエリルの意識は途絶した。※ エリルが目を覚ますと、二匹の獣が獲物を貪っていた。 いや、スノウとスーがエラキス侯爵に顔を埋めていた。 エラキス侯爵の四肢はベッドの支柱から伸びた縄で拘束されていた。「……気絶していた」 体を起こそうとしたが、腕に全くと言って良いほど力が入らない。 わずかに身動ぎしただけで視界がチカチカした。「もう良いかな?」「二人とも止めるんだ」 スノウとスーは顔を見合わせた。「ボク達、そんなに強く縛ってないよ?」『クロノ、面倒』 二人は呆れたように言った。 見ればエラキス侯爵の四肢を縛る縄は緩んでいる。 その気になれば簡単に引き抜けそうだ。「じゃあ、ボクから」『オレ、先』 スーはエラキス侯爵に跨がろうとしたスノウを突き飛ばした。「え~、ボクも欲しいんだけど?」『オレ、嫁』 自分は嫁だから優先権があると言いたいらしい。「しょうがないなぁ。ところで、やり方は分かる?」『勉強、シタ』 一体、何処で勉強したのだろう。 本棚には東方の魔術について書かれた本もあったので、それかも知れない。 確か房中術と言ったはずだ。 スーは立ち上がるとエラキス侯爵を跨ぎ、スカートをたくし上げた。 そして、ゆっくりとエラキス侯爵目掛けて腰を下ろしていく。 わざわざ立ち上がる必要はないのではないかと思ったが、スーには彼女なりのこだわりがあるのかも知れない。 スーは中腰になり、さらに腰を落としていく。「ちょっと待って、位置を調整しないと」 エラキス侯爵がスーの太股に触れるか触れないかの所でスノウが位置を調整する。「良いよ? 最初はゆっく……」『……っ!』 スーは忠告を無視して一気に腰を落とした。 痛みからか、仰け反ってビクビクと体を震わせている。 しばらく体を震わせていたが、糸が切れたようにエラキス侯爵の胸に倒れ込んだ。「だから、ゆっくりって言おうとしたのに」『オレ、頭、真ッ白』「煙で敏感になってるのかな?」「いや、僕に聞かれても」「クロノ様は?」「まだだよ」 スノウは無邪気な笑みを浮かべると、スーを跨ぎ、腰の辺りを掴んだ。 そのまま体を持ち上げ、抜けるか抜けないかの所で押し下げた。『……っ!』 スーの口から獣のような唸り声が発せられる。「順番を譲ってあげたんだから最後までしないとダメだよ」『……っ! ……っ!』 スノウが上げ下げを繰り返すたびにスーは獣のような唸り声を発した。「補助は良いから」「は~い」 見過ごせなくなったのか、エラキス侯爵が制止した。 すると、スノウはパッと手を放した。 微妙に悪意を感じるのは気のせいではないだろう。「スー、大丈夫?」 エラキス侯爵は縄から手を抜き、体を起こした。『お、オレ、嬉シイ!』 そう言って、スーはエラキス侯爵にしがみついた。『オレ、役目、果タス』「辛かったら言うんだよ?」 エラキス侯爵はスーの尻を掴むと上下させた。 そこから先は肉食獣が獲物を貪っているようだった。 肉食獣と異なるのは獲物が歓喜に噎び泣いていることだ。 おぞましい光景だったが、目を離すことができなかった。 しばらくしてエラキス侯爵の体がブルリと震え、わずかに間を開けてスーの体が同じように震えた。 いや、体を震わせている時間はスーの方がずっと長い。 エラキス侯爵は震えが収まるのを待ち、スーを持ち上げてベッドに横たわらせた。『モット、スル』「スー、順番は守らなきゃダメだよ」 スーはすぐに体を起こしたが、スノウに止められた。『分カッタ』「じゃあ、僕は元の位置に戻るんで」 エラキス侯爵はベッドに横たわり、縄の輪になっている部分に手を通した。「次はボクの……」「……っ!」 目が合い、顔を伏せる。 見逃して欲しいと心の底から思ったが、軽やかな足音が少しずつ近づいてくる。「エリル?」「……断る」 エリルは顔を上げて睨み付けたが、スノウは何の痛痒も感じていないようだ。「好きな人がいるの?」「……いない」 答えてから失敗を悟る。「三人で接待なんだからエリルも参加しないとダメだよ」「……意味が分からない」「意味が分からなくても良いよ」 スノウが襲い掛かってきた。 抵抗しようにも体に力が入らない。 だが、ここで抵抗しなければエラキス侯爵と交わる羽目になる。「仮想人格起動、術式目録展開、術式選択『雷掌』、起動」「うわっ、ビックリした!」 エリルは雷を纏った拳を突き出したが、スノウにあっさりと受け止められてしまった。「有り得ない!」 驚きの余り目を見開く。 雷掌は雷の力で敵を気絶させる魔術だ。 命を奪うほどの力はないが、触れれば気絶、気絶しなくても動けなくなる。 それなのにスノウは雷掌を素手で受け止めたのだ。「……神威術? 刻印術?」「どっちでもないよ。よく分からないけど、人間を超越するための術らしいよ?」「……仙術」 エリルは呻いた。 東方の本に記載されている超越者となるための秘法……仙術の使い手がこんな近くにいるなんて夢にも思わなかった。「仙術って言うんだ? まあ、名前なんてどうでも良いや」 スノウはあっと言う間にエリルからショーツを剥ぎ取った。「ぐしょぐしょだよ?」 スノウは濡れている面積の多いショーツを投げ捨てると、エリルを抱きかかえた。 単に抱きかかえたのではなく、母親が子どもにおしっこをさせるような抱き方だ。「最初はちょっと痛いかもだけど、すぐに気持ちよくなるよ」 スノウはエリルを抱きかかえたまま、エラキス侯爵を跨いだ。 このままエリルとエラキス侯爵を交わらせようとしているのだろう。「……止めて欲しい」「どうして? 好きな人はいないんでしょ? それにクロノ様に抱かれたら失業しなくて済むよ?」「……」 エリルは咄嗟に言い返せなかった。 今の生活……三食昼寝付きの上、研究費はエラキス侯爵持ちを維持できるのならばそれも良いかなと思ったのだ。「抱かれたら失業しないってことはないよ? まあ、ちゃんと結果を出してくれれば多少の問題があっても庇ってあげるけどさ」「……止めて欲しい」 エリルは暴れたが、スノウは小揺るぎもしない。 細腕で体重を支えていることもさることながら、前傾になっているのに落ちないことが恐ろしい。「ダメだよ。クロノ様もその気だし」 視線を傾けると、元気を取り戻したエラキス侯爵の姿があった。「……それをすぐに縮めて欲しい」「うわー、残念だな。この手が縛られていなければ抵抗できるのに」「不許可! 認められない! すぐに止めて欲しい!」 エリルは叫んだが、スノウはゆっくりと膝を屈める。 やがて、ヌメヌメとした感触が太股に当たった。 煙の影響か、それだけで背筋がゾクゾクした。 さらにエラキス侯爵がエリルに触れると頭の中で白い光が閃いた。 スノウはクスクスと笑いながらエリルを揺すった。 エラキス侯爵が触れるたびに未知の感覚が背筋を這い上がってくる。 これが入ってきたらどうなるのか、とエリルは喉を鳴らした。「あれ? 抵抗しないの?」「……やるならやれば良い」「そんな態度を取るんならやーめた」「え?」 思わず声を漏らした次の瞬間、浮遊感を覚えた。 そして、衝撃が全身を貫いた。「……っ!」 頭の中が真っ白になった。 空中に投げ出されたような恐怖とこれまで味わったことのない快楽に翻弄される。 怖い、怖い、とエリルは体を強張らせ、エラキス侯爵にしがみついた。 どれくらい恐怖と快感が続いただろうか。 不意に全身から力が抜ける。 特に下半身はまるで溶けてしまったかのようだ。 溶けた下半身が流れ出していく。 流出を止めようとしたが、不可能だった。 太股が生温かい。「お漏らし」「……っ!」 エラキス侯爵の一言で我に返った。「見てはいけない! 不許可!」 何度も殴りつけるが、何の痛痒も与えられていないようだ。 殴っている内に疼きが広がってきて、手を休める。「ごめんね、手を放しちゃった」「……」 エリルはスノウを無視して体を揺すった。 すると、先程とは比べようもないくらい微弱な快感が下腹部から生じた。 唇を噛み締め、体を揺する。 そのたびに快感が生じ、強さを増していく。 これを繰り返していれば先程と同じ快楽を味わえるかも知れないと大きく体を揺すった。「不許可なんじゃなかったの?」「……これは実験」 スノウは呆れたように言ったが、エリルにとってこれは実験だ。 研究者は未知を既知とするために努力を重ねなければならない。「次はボクだからね」「……」 エリルは無言で快感を貪ったが、しばらくしてもどかしさを感じるようになった。 下半身に力が入らないせいで思うように体を動かせないためだ。「……エラキス侯爵、スーと同じことをして欲しい」「痛くないの?」 そう言いながら、エラキス侯爵は縄から手を抜いた。 痛いと言っても止めてくれない、と確信させる態度だった。「……痛みはない」「なら良いんだけど」 クロノは体を起こすとエリルの尻を掴んで持ち上げた。「良い?」「……早くやって欲しい」 不意にクロノの腕から力が抜け、エリルは落下した。 少なくとも落下したと感じた次の瞬間、衝撃が下腹部を襲った。「……っ!」 白い光が炸裂するが、一回目には及ばない。 これならば同じ快感を味わえると確信し、催促しようとした時にはエラキス侯爵は動いていた。「……っ!」 再び持ち上げられ、落とされる。 恐怖が込み上げてくるが、唇を噛み締めて耐える。「……っ! ……っ!」 三度、四度と光が炸裂する。 エリルは恐怖に耐えきれなくなり、エラキス侯爵の首に手を回した。「……っ! ……っ! ……っ!」 回数を重ね、ふと違和感を覚えた。「そろそろ、行くよ?」「……っ!」 エラキス侯爵は今までよりもエリルを高く上げた。 落下時の衝撃は一回目を除けば最大のものだったが、あと一歩の所で達することができなかった。 わずかながら失望を感じたその時、エラキス侯爵から熱が吹き出した。 完全に不意打ちだった。 エリルは心の準備をする間もなく恐怖と快楽の渦に呑み込まれた。 断続的に生じる熱は更なる深みへエリルを導く。 再び下半身が溶けてしまったかのような感覚に襲われる。 幸いと言うべきか、今回は失禁しなかった。 ようやく恐怖と快楽の渦から脱したエリルはエラキス侯爵にしがみつき、荒々しい呼吸を繰り返した。「……もっと」「次はボクの番だからダメだよ」 スノウはエリルの脇に手を入れ、エラキス侯爵から引き剥がした。 彼女はエラキス侯爵の背後に回り込むと座った。 エラキス侯爵のことを考えてか、脚を大きく開いている。「えへへ、ようやくボクの番だ」「……煙と料理は大丈夫だよね?」 エラキス侯爵はスノウに向き直るとそんな言葉を口にした。「大丈夫だよ」「初体験で薬物って、大きな禍根を残しそう」「きっと、そんなに大事にはならないと思うよ」 スノウはあっけらかんとした口調で言った。「クロノ様、早くしよ? ボク、ずっと待ってたんだから」「スノウがこんな子だとは思わなかったよ」「ん~、ボクはずっとこんな感じだよ」「そうかな?」 エラキス侯爵は首を傾げつつ、スノウに覆い被さった。「……ボクは二人みたいに初めてじゃないけど気持ちよくしてあげるから」「そういうことは言わなくてもよろしい」「は~い」 エリルは目を大きく見開き、エラキス侯爵がスノウに入っていく様子を見つめた。 まるで肉食獣が獲物を貪っているようだ。 しかし、しばらく見ている内にそれが間違いであることに気付いた。 スノウは貪られているのではない。 その証拠にスノウは恍惚とした表情を浮かべている。 エラキス侯爵に貪られているように見えるが、互いに貪り合っているのだ。 二人を見ている内に体の芯が疼き始めた。 ふと隣を見ると、スーは食い入るように二人を見つめていた。 エリルは二人を見つめ、ゴクリと喉を鳴らした。※ エリルは体を起こし、周囲を見回した。 すぐ隣ではエラキス侯爵が一仕事終えた後のような表情を浮かべて眠っていた。 スーはエラキス侯爵の右で、スノウは上に乗って眠っている。 二人のメイド服はグシャグシャになっている。「……痛い」 煙の影響か、頭痛がする。 加えて、疲労感が酷い。 ダイエットしていた時でさえ、こんなに疲労を感じなかった。「……窓を開ける」 エリルはベッドから下り、その場にへたり込んだ。 ドロリとした液体が零れ落ちる。 正体は分かっているので、確認しない。 這って床を進み、窓を開ける。 すぐ隣は壁になっているが、換気をするだけだから十分だ。 床を張ってベッドに戻る。 エラキス侯爵は先程と同じように一仕事終えた後のような表情を浮かべている。 その表情があまりに幸せそうで……イラッとした。 ここまでして自分の立場が保証されないのだから尚更だ。「……接待はしばらくお預け」 次は絶対に薬草を使わせない、とエリルは固く誓った。