クロの戦記anotherその1:雑煮
クロの戦記anotherその1:雑煮
帝国暦四三二年一月一日朝――クロノが欠伸を噛み殺しながら食堂に入ると、ティリア、フェイ、リオ、エリル、スーの五人が席に着いて待っていた。「遅いぞ、クロノ」「ごめん。仕事がないからつい長寝しちゃって」 ティリアが責めるような声音で言い、クロノは謝罪しながら対面の席に着いた。 すると、リオがしな垂れ掛かってきた。 ティリアの片眉がぴくりと動く。「謝ることはないさ。皇女殿下と違ってクロノは仕事をしているんだからね」「……やはり、皇女殿下には感謝の念が足りていない」「ぐぬッ……」 リオが揶揄するように、エリルが溜息を吐くように言うと、ティリアは呻いた。 事務官が休暇に入っているので大した仕事はしていないのだが、口にはしない。 真面目に働いていると思われたいのだ。「ちなみにボクはちゃんと仕事をしているよ」「……私も超長距離通信用マジックアイテムの制作を頑張っている」「ぐぬぬ……」 リオとエリルが勝ち誇ったように言い、ティリアはますます口惜しそうに呻いた。 スーが口を開く。「ティリア、呻く、仕事する」「呻くくらいなら仕事をしろと言いたいのか?」「働く、大事」 ティリアが問い質すと、スーはこくこくと頷いた。「帝国、仕事する、繋がる」「なかなか深いことを言うでありますね」「本当に意味が分かっているのか?」「当然でありますよ」 ティリアが訝しげな視線を向ける。 だが、フェイは胸を張った。「じゃあ、どういう意味だ?」「スー殿は仕事をすると仲間外れにならないと言っているのであります」「本当か?」 フェイがこれでもかと胸を張って言うが、ティリアはスーに視線を向けた。「どうして、そういうことをするのでありますか?」「お前の意見が正しいか確認するのは当然じゃないか」「それはそうでありますが……」 ティリアが当然のように言い放つと、フェイは口籠もった。 当然かな? と疑問に思ったが、口にはしない。「で、どうなんだ?」「間違い、ない」「ほら! 私の意見が正しいと言っているでありますよッ!」 スーの言葉にフェイは元気を取り戻し、バシバシとティリアの二の腕を叩いた。「そうか? 今のは『間違ってはいない』くらいのニュアンスじゃないか?」「何故、そこまでして私の正しさを認めようとしないのでありますか?」「何となくだ」「何となくでありますか、そうでありますか」 そう言って、フェイは拗ねたように唇を尖らせた。 その時、重々しい音が響いた。 食堂と厨房を隔てる扉の開く音だ。 扉を見る。 すると、女将、セシリー、ヴェルナの三人が出てくる所だった。 女将は手ぶらだが、セシリーとヴェルナは料理の載ったトレイを持っている。 女将がテーブルの側面――エリルの近くの席に座り、セシリーとヴェルナが料理を並べ始める。 パンとスープ、サラダ、焼き豚の煮豆添えというメニューだ。 料理を並べ終え、セシリーがこちらに視線を向ける。「どうかしたの?」「他の仕事があるので、わたくし達は失礼いたしますわ」「うん、お仕事ご苦労様」 ふん、とセシリーは鼻を鳴らし、ヴェルナと食堂から出て行った。 ややあって、女将が口を開く。「召し上がれ」「いただきます」「「いただきます」」「いただくであります」「いただく」「……」 クロノが手を合わせて言うと、リオ、エリル、フェイ、スーが続いた。 ティリアはといえば目を閉じて神に祈りを捧げている。 祈りを終えたのだろう。 ティリアが目を開け、クロノはパンに手を伸ばした。 ふとエリルが動きを止めていることに気付く。 女将も気付いたのだろう。 エリルに声を掛ける。「エリルちゃん、どうしたんだい?」「……このスープは何か?」「クロノ様のリクエストで作ったゾーニってもんだよ」「……ゾーニ?」「そう、ゾーニ」 エリルが鸚鵡返しに呟き、女将は頷いた。 エリルはスプーンを手に取り、スープに浮かぶ白い物体を掬った。 恐る恐るという感じで口に運ぶ。「……謎の食感」「ああ、それは米粉を練って茹でたもんだよ。モチって言ったかね?」「……モチ」 エリルが神妙な面持ちで呟き、クロノはパンを皿に置いた。 スプーンを手に取り、ソーニ――雑煮を口に運ぶ。 すると、女将がこちらを見た。「どうだい?」「美味しいよ。美味しいんだけど……。雑煮じゃなくてゾーニって感じ?」「言いたいことは分かるよ。けど、ま、話を聞いただけだからね。流石に完全再現って訳にゃいかないよ。要研究って所だね」「お手数をお掛けします」「期待しないで待ってておくれ」 女将が軽く肩を竦め、クロノはスープを口に運んだ。 魚介の風味が強く、モチも餅ほどもちもちしていない。 でも、まあ、これはこれで、とクロノはゾーニを再び口に運んだ。