108話
108話
目を開けると、顔のすぐ近くに木や岩があった。
かろうじて首を巡らせることは出来るが、身動き出来ない…生き埋め状態だ。
少し気を失っていたようだが、生きているということはなんとか直撃は避けられたのだろう。
生きているっていっても、これじゃあ死ぬのを待つだけって感じだな。
まぁいざとなったら自爆覚悟で魔法か水爆玉でも使えばいいか。身代わりの加護があるからなんとかなるだろうし。
…。
…身代わりの加護があるんだから魔術組合の魔法を避ける必要なかったんじゃねぇか?
いや、直撃してたら防具を失ってた可能性があるし、本当に身代わりの加護があれば死んでも平気かなんてわからねぇしな。だから俺の判断は間違ってなかったはずだ。
そもそもあんな一瞬でそこまで考えられるわけねぇだろ。
…そんなことより、あいつらは大丈夫だろうか?
どの程度の威力かはわからないが、アリアのMPは足りたのだろうか?
最悪3人の仲間を失ってる可能性があるのか…もし1人でも死んでいたら、魔術組合のやつらは殺すだけじゃ許さねぇ。
早く無事を確認しに行きたいが、どうしたものか。
むしろ俺が助けて欲しい状態だからな。
どこまで飛ばされたかもわからねえし。
身体中痛えし。
まずは自分の状態を確認しとくか。
頭を持ち上げても木や岩が視界の邪魔をしてて全身を見ることは出来なかったから、手足を動かして無事を確認する…ヤバい。右手の感覚がねぇ。
正確には右肩から先が全く動かせない。
それを意識したら、激痛が走った。
今まで死にかけることは多々あったけれど、だいたいは興奮状態にあったからか痛みを我慢出来ていたが、これはヤバい。
ヤバいしか思えないくらいヤバい。
右手を動かそうとするのをやめると少し痛みが引いた気がする。
このまま動かさずに無心になれ。
無心に…。
右手を一切動かさなければ我慢出来るくらいの痛みにまで治った。
だが、意識するとピクッと右手に力が入り激痛に襲われる。
とりあえず他のことを考えよう。
そういや武術クラブの代表は大丈夫だったのか?
俺が全力で飛び退いたときに視界の隅にチラッと見えたが、あいつは避ける素振りもなく、むしろなんか体を光らせて構えてたしな。
受け止める自信でもあったのかね。
まぁ龍と素手で戦うようなやつだ。そんな簡単には死ななそうだな。
あとは魔術組合のやつらか。
いくら龍を討伐するためとはいえ、俺らごと魔法で攻撃しやがったことを簡単に許すわけにはいかねぇな。
確かに魔法を放つまでの時間稼ぎだってことを忘れて、本気で龍を殺しにいってたせいで魔法に気づくのが遅れた俺らにも責任がないとはいわねぇけど、被害が出てる以上何かしらの償いはさせねぇとな。
あくまでアリアたちが無事だったらだがな。
俺以外に1人でも怪我人が出てれば、皆殺しだ。
いや、そもそも合図なく魔法をぶっ放すとか裏切り行為なんじゃねぇか?
あれ?いつもなら問答無用で殺すだろうになんで別の償わせ方なんて考えてんだ?
まぁいいか。俺も大人になったということだろう。
全員無事なら金でも払わせて終わりでいいや。
さて、時計を確認出来ないからどのくらいの時間が経ったかわからないが、助けが来る気配がねぇな。
自力で脱出するしかねぇか。
でも、いくら身代わりの加護があるからって自爆覚悟で魔法を使うのは怖いものがあるな。
まだ一度も使ってないから身代わりの加護が本当に発動するのかが不安だからだろうか。
…そういや今は右手の感覚がねぇけど、右手に付けてたブレスレットの身代わりの加護はちゃんと機能してるのか?
自分のステータス画面を見ると、右手に装備してた物に付いていた加護が全て消えていた。
嘘だろ…。
もしかして、肩から先の感覚がねぇのは千切れてなくなってるからなのか?
考えただけでゾッとする。
二の腕を潰してる岩のおかげでそれ以上先が見えてないのがせめてもの救いだ。
アクセサリーが全て壊れただけかもしれないという可能性に縋ることが出来るからな。
ただ、アクセサリーが壊れたんだとしても、違うにしても、身代わりの加護がないんじゃ自爆覚悟の脱出は出来ねえ。
これって詰んでるんじゃねぇか?
死にかけることは多々あったけど、まさかこんな最後になるとはな。
餓死か失血死か…死にたくねぇな…。
そんなことを考えていたら、木や岩の隙間から水が滴ってきた。
溺死の可能性が浮上するとはな。自然マジ半端ねぇわ。
これは一か八かで上級魔法の風でも使ってみるか?
うまくいけば木や岩を吹っ飛ばせるかもしれねぇし。
まぁ失敗したらせっかく安定してる状態の木や岩が崩れて潰されるかもしれないが、窒息するよりはいいだろ。
「リキ様見〜っけ。」
最後の賭けに出ようとしたところで、頭にイーラの声が響いた。
そういや以心伝心の…いや、右手に付けてたアクセサリー類の加護は全てなくなってたから、以心伝心の加護ではないはずだ。
じゃあ幻聴?
「いろいろ潰れてるね〜。あれ?右腕がないけど、痛くないの?」
「痛ぇに決まってんだろ!せっかく意識しないようにしてんのに現実を突きつけんじゃねぇよ!」
幻聴に対して怒鳴りつけてしまった。
しかもそのせいで体に力が入って激痛が走った。
どんだけ馬鹿なんだよ俺は。
「じゃあイーラが痛くなくしてあげるね〜。」
これは本当に幻聴なのだろうか?
体から痛みが引いたぞ?
「イーラ、いるのか?」
「いるよ〜。ここだよ〜。」
感覚の鈍くなった胸元で何かが動いている気がして、頭を持ち上げて確認すると俺の首から下をジェルのような何かが包んでいて、胸元だけ盛り上がりプルプルと揺れていた。
「スライム形態で喋れるようになったのか?」
もしかして骨伝導的な会話方法か?
というかさっき滴ってきた水はイーラだったんだな。
「念話だよ〜。それよりもう痛くない〜?」
「あぁ、おかげでだいぶ楽になった。」
どうやら麻痺状態にしてくれたようだ。
痛みはなくなったが、首から下がほとんど動かなくなった。
まぁもともとほとんど動かせなかったから変わんねえか。
「それなら良かった〜。」
スライム形態だから顔なんてないが、笑っているように見えた。
「イーラが無事ってことはみんな無事なのか?」
「みんな?ん〜…仲間は無事だよ〜。」
なんか含みのありそうないい方だな。
「アリアとサーシャも無事なのか?」
「無事だよ〜。」
それならいいか。
他のやつらは危険な場所にはいなかったから大丈夫だろう。
仲間が無事なら他の確認は後でいいや。
「もうすぐアリアとセリナが来ると思うから、邪魔な物はどかしちゃうね〜。」
俺の返事を聞く前にイーラは俺を生き埋めにしていた木や岩を消した。
体内に収納したのだろうが、一瞬だったから消えたように見えた。
二の腕を潰してる岩が消えたせいで見えてしまったが、やっぱり右手がなくなってた。
これって魔法で生やせるのか?
いや、ウザギはいまだに片腕がないことから考えて無理なのか?でも俺はまだ傷が塞がってないから可能性はあるはずだ。
「リキ様の右腕見つけた!アリアが来るまで収納しておくね。」
「お、おう。大事に扱ってくれよ?」
「もちろん!」
それにしても仲間が1人いるだけで気持ちがだいぶ楽になった。
痛みがなくなったおかげもあるかもだけど、さっきまで死ぬ可能性の高い賭けに出ようとしてたのがバカバカしく感じるほどに。
しばらくして、アリアを抱えたセリナが走ってきた。
そういやなんでこいつらは俺の居場所がわかるんだ?
セリナは嗅覚とかが優れてるからっていわれれば納得いかなくもないが、イーラが最初に見つけてくれたのが今さらながら疑問だ。
でもおかげで助かった。
「イーラ。ありがとな。」
「えへへ〜」
イーラはアリアが魔法を使いやすいようにかはわからないが、俺を包むのをやめて人型に戻った。
人型に戻ったのに仰向けの俺の上から降りる素振りがない。
まぁ今日は文句はいわないでやる。
セリナがアリアを地面に下ろすとアリアは俺に近づき、そのまま抱きついてきた。
え?治癒してくれんじゃねぇの?
「お…。」
アリアに声をかけようとしたら、アリアがしゃくりあげながら泣いていたせいでセリフが止まってしまった。
「リギザマ〜生きてて良かったよ〜。」
アリアが泣いてるのにつられたのか、セリナまでもが泣きながら抱きついてきた。
えーと…俺は今、重傷なんだが…。
でもここで余計なことをいうのは無粋だろう。
心配してくれてたのは素直に嬉しいしな。
黙って2人の頭を撫でようかと思ったら右手がなかったことを思い出し、麻痺で動きづらくなった左手を無理やり持ち上げて、3人を抱くように下ろした。
「心配かけて悪かったな。」