151話
151話
昼食時にサラに確認をとったら、ドライアドに畑作業の引き継ぎは出来たらしいから、昼食後はドライアドたち以外全員を門の外に集めた。
ドライアドたちは昼食に顔を出さなかったから確認したところ、飯は特にいらないらしく、食費の心配は杞憂だったみたいだ。
セリナとサーシャに周囲を警戒させながら、ガキどもに防具を着せて武器を配った。
戦闘を嫌がるやつが出てくると思ったが、誰も抵抗しないどころか、逆に楽しみにしてるやつすらいる。
1番心配だったクリスですら、渡した短剣を素振りするくらいにはやる気みたいだ。
それよりもさっきから気になってることがある。
「なんでお前がここにいる?」
なぜか薬屋の女が混じっていた。
「アリアちゃんに呼ばれたのよ。」
「本当か?」
「…はい。」
アリアに確認を取ると肯定された。
「悪いが俺は奴隷以外とパーティーを組むつもりはねぇぞ?」
「…わたしのパーティーに入ってもらうつもりです。リキ様に聞かずに勝手なことをしたことは謝罪します。どうか、お願いします。」
アリアには経験値稼ぎ組に入ってもらうつもりだったが、薬屋の女にはなんだかんだで世話になってるし、アリアが面倒を見るっていってるのにうるさくいうのもなんかな…。
「わかった。好きにしろ。」
「…ありがとうございます。」
「あんたってアリアちゃんのお願いは聞くのね。」
「は?アリアはその程度の願いを聞いてやるくらいには貢献してるんだから当たり前だろ?」
「そうね。あんたはそういう人だったわね。」
薬屋の女は呆れたようないい方だったが、顔は微笑んでいた。
今まで気にもしなかったが、笑顔はわりと可愛いんだな。
「それで、どういう組み合わせにするつもりだ?」
「…フェイバーさんと子どもたちを5人ずつの6組に分け、それぞれに私たちが1人ずつ加わって6人6組のパーティーを作る予定です。」
そういってチーム分けされた名前の書かれた紙を俺に渡してきたが、まぁ読めねぇわ。
「とりあえず今分けてみろ。」
「…はい。」
アリアが全員に指示を出し、チーム分けされていく。
チームに組み込まれていないイーラとセリナとサーシャとヴェルは俺の近くに移動させられた。
どうやらカレンとアオイはセットにされてるみたいだな。その組だけ7人ってことはアオイはパーティー編成されない感じか。
あとはテンコはパーティーに組み込めないからとりあえずアリアのそばに立ってるみたいだ。
どうせ余ってるならアオイを連れて行くか。戦闘訓練組は深く潜らせるつもりはないし、カレンからアオイを外しても大丈夫だよな?
「そしたらアオイは俺らと行くぞ。アオイが抜けた分は一応テンコがカバーしてやれ。」
「「はい。」」
アオイの刀を腰にさし、それぞれにパーティー編成をさせ、俺が全体をチーム設定した。
「そしたらこれからダンジョンに向かう。初めての戦闘で緊張してるやつや興奮してるやつがいるみたいだが、調子に乗ったらすぐ死ぬからな。それぞれのパーティーリーダーの命令は俺の命令だと思ってしっかり聞けよ。」
「はい!」
俺があらためて全員に声をかけると、訓練されたかのように揃った返事が返ってきた。
それじゃあ向かうか。
ダンジョンの通路はそこそこ広い作りになっているが、さすがに30人以上が集まると狭いな。
「それじゃあ俺らは地下11階から進めて行くが、他の奴らはアリアに任せる。勝手な行動を取るやつの命の保障はしないし、アリアやパーティーリーダーのいうことを聞かないやつはしばらく飯抜きだと思え。」
「はい!」
さすがに約30人の返事が揃うとダンジョンでは響くな。
「じゃあアリア、任せたぞ。」
「…はい。」
アリアがいれば大怪我したとしても死ぬことはないだろう。
リスタートで地下11階と空間を繋げて通った。俺のあとに経験値稼ぎ組のイーラとセリナとサーシャとヴェルも通ってきた。
出口にはとくに魔物はいないようだ。
「とりあえず雑魚とは戦わない。このあともしかしたらガキどもがここまでくる可能性もあるからな。だからマップを埋めたらどんどん下に行く。魔物と出会っても最初の一体を殺してみて、弱ければその後は避けに徹しろ。強ければフロアの魔物を全て狩る。わかったか?」
「「「「「はい。」」」」」
「ヴェルにはダンジョン内では人型で戦闘してもらうが、武器はいらないのか?」
さっきアリアがヴェルには武器を配ってなかったからな。
「僕は素手で戦うよ。ヘタな武器防具より僕の鱗の方が硬いからね。」
ずいぶんな自信だな。
まぁ武器防具屋のおっさんも龍鱗は最上級の素材みたいなこといってたから間違ってもないのか。
「ならいい。イーラ、俺にガントレットをつけてくれ。素材は龍の鱗でもムカデでもいい。」
「は〜い。」
イーラが右手で俺の左手、左手で俺の右手を掴んだと思ったら飲み込まれた。そしてイーラが腕を切り離したら、俺の両手を包んでたイーラの切り離された腕が徐々にガントレットへと変形していった。
グーパーと指を動かして動作確認をするが、問題なさそうだ。
ただ、色が黒に近い紫だから見た目が気持ち悪いが、性能が悪いわけじゃなさそうだから我慢するか。
「良かったらなのだが、妾の体も作ってはくれぬか?」
アオイが念話で話しかけてきたが、イーラが首を傾げてこっちを向いたってことはイーラにも聞こえるように念話を送ったみたいだな。
「イーラの分身も動かせるのか?」
「わからぬ。だが、肉体を維持出来るのであれば、動かせるはずじゃ。」
そういやこいつは初めてあった時は死体を操ってたもんな。魔族を操ったことがあるかはわからねぇが、まぁ試してみる価値はあるか。
「イーラ。アオイが使えそうな体を作ってみてくれ。もちろん人型でだぞ。」
「は〜い。」
イーラは返事をしたあと、胸からドロっと人間を生み出した。
ベチャッと地面にうつ伏せで倒れた分身は、しばらくして、億劫そうに起き上がった。
その分身は見た目はイーラとは違うようだ。なんか見たことあるフード付きローブを羽織っていて、フードで顔を半分近く隠している。唯一ハッキリ見える口元やフードで影になってはいるが薄っすら見える目と鼻、胸の膨らみからして女だろうが、誰だこいつ?
でも不思議と見たことある気がするが……………あぁ、このローブは魔術組合の奴らが着てたのと同じじゃねぇか?そういやあんとき1人を除いてイーラが全員食ったんだったな。
「リキ様からアオイの刀を貰うんだよ。」
イーラが指示を出すと、イーラの分身は頷いてから近づいてきた。
魔法で動かしてるって感じではなさそうだが、分身ってもしかして意思があるのか?
近づいてきたイーラの分身に刀を渡すと、分身は自ら手に取り、フードの中にしまった。
「ほう。フードの中もちゃんと服を着ているのだな。それにちゃんと動かせそうだ。ありがとうイーラ。これで妾も戦える。」
どうやら既に乗っ取ったようだな。
「リキ様のお願いだからね〜。」
これで準備も良さそうだなと思ったところで長い毛をした大きめのネズミのような魔物が近づいてきた。少しこちらを警戒しているようだ。
実力差が多少でもわかるタイプなのか?それとも単に数の不利を悟っただけか?
「少しこの体を使う練習をさせてもらっても良いかのぅ?」
アオイから念話ではなく、イーラの分身の口で確認を取ってきた。声の感じではけっこう若そうだ。
「最初の一体とはもともと戦う予定だったしな。じゃあこいつはアオイに任せる。」
「感謝する。」
礼を述べたアオイは数歩前に出た。
1人だけ前に出てきたことで、警戒していたネズミの魔物は攻撃体勢に入ったようだ。
何をするかと思ったら、そのまま突進してきたようだ。
アオイはその突進を迎え撃つつもりなのか、腰を低くして待ち構えている。
手がローブの中にあるみたいだし、カウンターで居合い斬りでもするのだろう。
魔物がぶつかる寸前、アオイは右に避けながら刀を抜いた。
突進してきた魔物は方向転換をする素振りがなかったから、きっと斬られて終わりだろう。
そう思っていたら、魔物がアオイの横に並び、体を半分ほど斬られたところで突然魔物の長い毛が逆立った。
アオイはそれに気づかず、棘となった魔物の毛が何本か体を貫いた。もちろん魔物は斬られたからといって急に止まるわけではないから、アオイを毛でぶっ刺したまま進んだ。
アオイが人間なら魔物の毛に刺さったままなのだろうが、今はスライムの体だからか、魔物の移動とともに体を抉られた。
魔物はアオイのいた場所から少し進んだところで力尽きて倒れた。
一部を失ったアオイの体は崩れ、水たまりのような状態になった。その中に刀だけが形を保っていた。
「視覚を得るとそちらに頼ってしまって他の感覚が疎かになるのぅ。カレンの鬼化状態なら視覚だけでも十分補えるのだが、普通の人間ではそうはいかんのだな。恥ずかしながら不覚を取ってしまったわ。」
こんな雑魚に殺された恥ずかしさを誤魔化すためか、アオイが珍しく言い訳をしてやがる。
まぁあの長い毛が棘になるとは俺も思わなかったが、刺されたことにすら気づいてなさそうだったのはまずいだろ。
「いつまでそうしてるんだ?」
「さすがにスライムの体を変形させるのは妾には出来ぬようだ。」
死体すら操るのにそういうのは出来ないわけか。
「なら一回洗脳を解いて元のスライムに人型に戻ってもらえばいいんじゃねぇか?」
「それは無理じゃよ。こやつは先の攻撃で死におった。」
「は?なんで物理攻撃で殺されてんだ?」
「妾にはわからん。」
アオイがわからないなら、生み出した本人しかわからないかと思い、イーラに顔を向けた。
「体が欲しいっていわれただけだからスキルは何も付与してないよ?それに物理無効は1つしか持ってないからあげないよ?」
スライムは必ず物理無効ってわけじゃないのか?というよりイーラのいい方から察するに、この分身はイーラが持ってるスキルをイーラの意思で与えられるってことか。
1つしかないっていい方が気になるが、与えたことによりイーラから物理無効がなくなるんじゃマズイな。
「イーラ。悪いがもう一度アオイの体を作ってやってくれないか?」
「…は〜い。」
少し渋ったような気もするが、飛び散った分も含め、アオイの刀の周りのスライムを取り込んだ後、さっきと同じ人間を生み出した。
「打撃耐性は付けたから、もう殺さないでね。」
イーラがアオイに注意をしてから、分身に刀を拾うように指示した。
分身は刀を拾った瞬間アオイに乗っ取られたようだ。また刀を腰につけた。
「すまぬ。気をつけるとしよう。」
…まぁいろいろあったが、この階層の魔物は問題なさそうだし、次に行くとするか。
「さっきの…。」
『奴隷1がフレアバウンドを選ぼうとしています。許可しますか?』
俺が話し出したら、SPによるスキル取得の許可申請がきた。
奴隷1ってのはアリアのことだろうが、このタイミングでフレアバウンド?
まぁ理由はわからんが、べつに構わないから許可した。
「どうしたの?」
いきなり黙った俺を不思議に思ったのか、セリナが声をかけてきた。
「気にするな。アリアが『フレアバウンド』をSPで取得しようとしたから、それの許可申請がきただけだ。」
「フレアバウンドって勇者やケモーナの国旗を燃やすときにリキ様が使った魔法だよね?」
あれは国旗だったのか、よく覚えてんな。というか勇者はべつに燃やそうとしたんじゃないんだが…まぁいい。
「まぁそうだな。俺が初めて取得した攻撃魔法だからかよく使ってるかもな。」
「そうなの!?イーラも使えるよ!お揃いだ!」
アオイの件で若干元気がなくなっていたイーラが興奮気味に抱きついてきた。
魔法をお揃い云々いったら、大多数のやつらとお揃いになっちまうと思うぞ。
「ズルい!私も取る!……………あれ?にゃい?」
セリナはフレアバウンドを探したようだが、見つからなかったようだ。フレアバウンドにも取得条件があるのか?
「なら僕も取ろうかな。」
ヴェルから取得申請がきたが、ブレスがあるならいらなくねぇか?
まぁSP1なんてすぐ貯まるからいいか。
許可。
そういやヴェルには詠唱省略とかジョブ取得とかの俺が必要と思っているスキルを取らせてなかったと思い、ついでに取らせた。
「妾もたまにはSPを消費してみるかの。」
アオイからも許可申請がきたが、肉体を持たなくてもSPでスキルを取得できるんだな。
断る理由もないから許可し、アオイにも詠唱省略を取らせた。
『フレアバウンド』
さっそくヴェルが試したようで、直径1メートルくらいの炎が上がった。
『フレアバウンド』
今度はアオイが試したようだが、どうやら失敗したようだ。炎が発生しなかったうえに体が崩れて水たまりと化した。
「もう!なんでそんなすぐに殺すの!?」
イーラがアオイに対してちょっと怒ってるようだ。
「すまぬ。妾はMPもPPもないから魔法を発動させたらどうなるのかと思ったのだが、どうやら肉体側のMPを消費するようでの…肉体側にはほとんどMPもPPもなかったようで即死してしまったようじゃ。」
「ようじゃじゃないよ!せっかく作ったんだから大事にしてよ!その子を生んだ分イーラが弱くなるんだから、本当は作りたくないんだから!」
イーラが怒るのもわからなくないか。そりゃさっきの話ではイーラが分身にスキルなどを分け与えてるっぽいんだから、生み出せばその分イーラが弱くなるわな。そこまで考えてなかったが、そしたらこのガントレットも同じなのか?だとしたらイーラには申し訳ないな。
「悪いな、イーラ。次から気をつけさせるからもう一度だけ頼む。」
「むぅ。リキ様のお願いならいいけどさ。」
頰を膨らませたイーラがまたスライムを回収して同じ分身を生み出し、刀を拾わせた。
「打撃耐性のスキルとPPを少し多めに分けたから、もう殺さないでね!」
「すまぬ。感謝する。」
プリプリ怒るイーラにアオイが頭を下げた。
「あらためて、さっきの魔物を見るにこの階層は問題なさそうだ。だから魔物は極力殺すな。マップを埋めたら下に行くぞ。」
「「「「「はい。」」」」」
その後は地下20階まで来たが、隠し部屋もフロアボスもないし、魔物はたいしたことがなく、極力殺さないままマップ埋めだけした。だからたいしてレベルも上がっていない。
俺らが強くなったからってのもあるのかもだが、このダンジョンは階層ごとの魔物の強さの上がり方がかなり緩やかに感じた。
大げさにいえば地下11階と地下20階の魔物の強さがそこまで変わらないという意味だ。
いや、そんなことはさすがにねぇか。俺らがそんな些細な違いにわからなくなるくらい強くなれたんだろう。
地下21階に下りたところでアリアに連絡を取り、本日の訓練を終了として、リスタートで地上1階に戻って帰ることにした。
食堂での夕食が終わった後、何人かのガキどもが近づいてきて「頑張るから捨てないでください。」といってきたが、今日の訓練で何があったんだ?
まぁ頑張るやつは好きだからな。期待してるとだけいってガキどもの頭を撫でた。