182話
182話
さっそく予備のガントレットを使うことになるとは思わなかったが、念のため腰につけておこうと思い、アイテムボックスから龍の鱗で出来たガントレットを取り出した。
「…リキ様。そのガントレットを貸してもらえますか?」
歩きながら腰のベルトにつけようと思ったところでアリアに声をかけられた。
「べつにいいが何かするのか?」
「…軽量の加護を付与しようと思いました。」
そういやいつもメインのガントレットを使ってたから気にしてなかったが、メインを預けちまったら軽量の加護がなくなっちまうのか。
軽量の加護がないと地味に武器とか重いからな。まぁレベルがだいぶ上がってるからなくても普通に動けるっちゃ動けるんだが、アリアが付与してくれるっていうなら頼んでおくか。
「頼んだ。」
「…はい。」
アリアにガントレットを渡すと、アリアはアイテムボックスから指輪を取り出して指にはめてから、ガントレットを装備した。
アリアがガントレットを装備すると、不思議なことにガントレットが小さくなり、アリアの手にちょうどいいサイズに変わった。ただ、なぜかナックルガードのようになっていた人差し指から小指についていた4つの指輪のようなものは大きさを変えず、組み合わせが変わったように小さいガントレットに合わせた形になった。
「…本当に武器にもなっているんですね。ここが武器部分ですか…。」
「どうした?」
「…ごめんなさい。加護を移し終えました。」
アリアが小声で呟いていたから聞いたんだが、何を勘違いしたのか謝ってガントレットを返してきた。
「ありがとな。」
あらためてガントレットを腰につけたところで、視界の隅に何かが反応した。
なんとなしに見るとアリアの指輪の1つが反応しているんだが、アリアは表情1つ変えずに隣を歩いている。
まぁ何か俺に用のある連絡なら、アリアが知らせてくるだろう。
だから今気にしても仕方がないと思って、視線を戻そうとしたときにニアの指輪にも反応があることを視界の隅でとらえた。
2人だけに何か連絡か?いや、2人で内緒話って可能性の方が高いか。
そういや中学のときにクラスの女子が授業中に秘密の手紙のやり取りなんかしてたな。
どこの世界でもそういうのは流行るものなのか…こういうことに触れるとたいてい面倒なことになるから、好きにやらせておこう。
しばらく歩くと門が見えてきた。
方角的には南門だろう。この町の壁はかなり分厚いらしく、門から町までがちょっとしたトンネルになってやがる。
普段ならちょっとテンションが上がったかもしれないが、もう既に暗くなってきているし、とっとと入って宿を探そうと思いながら、外に立っている門番に冒険者カードを提示するとアリアたちも自分の身分証を提示した。
外壁のちょうど真ん中くらいまで進んだところに部屋みたいなのがあり、そこにも人がいるのが見えたから一応カードを見せながら通り過ぎたら、部屋から門番らしき奴が出てきた。
「ちょっと待て!お前らその身分証はどこから盗んだ!?」
「…は?」
「とぼけるな!なんで奴隷が身分証なんて持ってるんだ!いいからこっちこい!」
いきなり訳のわからないことをいわれて俺は一瞬フリーズしたが、勝手に勘違いした門番はアリアの腕を強引に引いた。
アリアは奴隷紋が半分見える服を着ていたし、それで身分証なんて取り出したのだから門番としては正しいことをしたのかもしれない。
アリアも誤解しても仕方がないと思ったから無駄な抵抗をしなかったのだろう。
だけど仕方がないんだ。
条件反射で右手が動いちまったんだから…。
「あ…ぁぁ…。」
素手だったから顔が弾けるなんてことは流石になかったみたいだが、門番の頬骨を裏拳で砕いちまったかもしれない。
殴られた門番は口を開けて涎を垂らしながら両手で右頬を抑え、呻きながら蹲っている。
「悪い。」
『ハイヒール』
「お前!何をしたかわかっているのか!?」
町側にいたらしい門番2人が近づいてきて俺に槍を向けた。外の門番はこちらを警戒しながらも外の警戒を外れることが出来ないからか近づいては来なかった。
「反射で動いちまったがさすがにやったことはわかってる。」
聞かれたから一応事実を伝えたのに、何故か驚かれた。
「こ、こいつを捕らえろ!」
さっきまで蹲っていた門番は傷が治ったからか立ち上がって、俺を捕まえるように命令を出した。
さすがに門番に手を出したのはまずかったか。まぁやっちまったもんは仕方がねぇ。そもそもこっちはなんも悪いことしてないのに問答無用で連行しようとしたこいつが悪いんじゃねぇか。
そう考えたらイライラしてきた。
「お前らが勝手に勘違いして強制連行しようとしたからじゃねぇか。まぁ俺も悪いとは思ったから治してやったのに俺らを捕まえるつもりか?」
「黙れ!さっさとこいつらを捕まえろ!最悪殺してもかまわない!」
どうやらアリアの腕を掴んだやつがこの場で一番偉いやつっぽいな。
ここまでされたら穏便に済ますのはたぶん無理だろうし、あきらめるか。
一番偉いだろう門番の首を掴んで壁に叩きつけると、動きについてこれなかったのか、何が起きたのかわからないといった呆けた顔をしてから、壁にぶつけられた痛みと首を握られてる苦しみに呻き始めた。
こいつのアホづらを見たらなんかちょっとスッキリした。
「そっちがその気ならべつにかまわないんだが…。」
殺さない程度に首を握る力を調節しながら槍を持った門番の方に顔を向けた。
「お前らは上司に従ってるだけなのかもしれないが、よく考えろよ。お前らの行動が間違えだった場合、このクズは間違いなく部下が勝手にやったといって罪を被せてくるぞ?それでも俺に槍を向けるのか?」
槍を持った門番は少し怯んだが、それでも槍を下さなかった。
「門番に手をあげた者を通すわけにはいかない。」
1人が真面目なことをいってきた。
まぁそれが仕事なんだから、仕方がねぇか。
「わかった。手を出した時点で手遅れってことだな?じゃあこいつを助けても意味はなさそうだから殺そう。お前らの真面目な判断でクズがこの世から1人減るんだ、誇ればいい。べつにこの町に拘らなくても首都に行けばいいだけだから、通してくれないならそれでかまわない。ただ、その後の行動は考えて行えよ?俺はこんな知らない町より仲間の方が大事だからな。この町を消してでも仲間は護るつもりだ。」
そんな馬鹿なことをするつもりはないが、俺らを指名手配でもするつもりならこの門番たちを殺して証拠隠滅するくらいのことはするだろう。先に難癖をつけてきたのも敵意を向けてきたのも武器を向けてきたのもこいつらだ。死ぬ覚悟くらいはあるだろうしな。
「ま、待て…こいつら…を…通せ。」
俺が首を絞めてる門番が苦しそうに言葉を発している。
死にたくないからって仕事も放棄するとは本当にクズだな。
「上司はこういってるぞ?」
「しかし…。」
真面目だな。まぁこんな脅しに乗らずに仕事を全うする姿は嫌いじゃない。
「遊びはそのくらいにしとかないと痛い目を見てもらうことになるぞ?」
声が聞こえた方を見ると槍を構えている2人の門番のさらに奥に3人の男が町側の通路を塞ぐように立っていた。
「だとよ。」
「違う!お前にいっているんだ!いいからその人から手を離せ!」
まぁそうだよな。町側にいるやつが俺の味方をするわけねぇか。
門番たちは俺に槍を向けながら少しずつ後退し、3人の男と立ち位置を交代した。
どうやら門番の仲間みたいだな。
「ぐっ。」
なんとなく絞める力を強めたら、門番が呻いた。
それが戦闘の合図となったのか、3人の内の2人が駆け出してきた。その際、後ろからも音がしたから首だけ向けると、出口側にも門番とは違う2人の男がいたらしく、そいつらも走って向かってきた。
だが、俺が一歩も動くまでもなく、アリアとイーラが町側のやつらを、ウサギとヴェルが出口側のやつらを砕いていた。しかもアリアはロッドを使ったが、他3人は素手で殺しやがった。
…いや、どうやら人間ではなかったみたいだ。
転がってきた頭を見ると人形のようだが、けっこう作りが良くて人間に似せているから逆に気持ち悪いな。
「なっ…。」
唯一残っていた男が唖然としていた。
こいつは人間っぽいな。こいつがこの人形を操っていたのか?
「んで、早くこのクズを助けないのか?それとも助けようとしたのはフリだけで、こいつは本当は殺してほしいのか?」
「いや、やめろ!離してやってくれ!」
どうやら本当に今ので攻撃手段が尽きたみたいだな。もしくはこれ以上やったところで勝てないと悟ったか。弱いくせに出しゃばってくるとかなんなんだよ。
なんかもうどうでも良くなってきた。
「俺らはこの町に入りたいだけだ。だからここを通してくれて、今後俺らに一切干渉しないと約束するならべつにこいつの命なんかどうでもいい。」
「わかった。その条件を飲もう。」
「それは危険です!」
男が即答で勝手に許可を出したのを槍を持った門番が止めた。
「さっき受けた連絡が本当ならこいつらは身分証があるんだろ?ならそもそも通ることに問題はないはずだ。なにかあったら俺が責任をとる。」
「ゼノフさんがそういうなら…。」
「だから君たちも彼が問題を起こさない限りはこれ以上関わらないようにしてくれ。」
「…はい。」
どうやら話がついたみたいだ。
この男は門番に口がきくくらいには偉いやつだったのかもな。
「俺は約束は守るし、守らせる主義だ。だから破ったら殺すだけじゃ済まさねぇからな。」
「…。」
こいつらが約束を守る保証はないが、条件を飲むといわれちまったら俺も約束を守るしかねぇな。
俺がクズから手を離すと、クズはその場に座り込んでむせ始めた。
「それで、お前はどう落とし前をつけるつもりだ?」
「…え?」
俺が人形を操っていた男に向かって歩きながら声をかけたんだが、男は間の抜けた返事をした。
「門番のやつらは武器こそ向けたが攻撃はしてこなかったし、俺が先に殴っちまったということもあったから、全てなかったことにして片がついた。だけどお前は違う。俺はお前に何もしていないのにお前は攻撃をしてきたよな?」
「いや、それは…それが俺の仕事だったんだ。すまん。」
「謝って済むと思ってんのか?お前は連絡を受けて来たっていったよな?ならおかしな行動をしたのがこのクズだってわかってるのに俺に攻撃をしたってことだよな?」
実際は別に被害を受けたわけでもないからなんとも思っちゃいないが、こいつは人形を使ってた。なら人形に詳しいだろう。
つまりは使えるものは使うべきってやつだ。
「…どうしたら許してくれるんだ?」
逆ギレの可能性もあるかと思ったが、いい結果になりそうだ。
「そんなの自分で考えろっていいたいところだが、そうだな…この町で腕のいいやつが作った人形を売ってる店を値段を問わずに全部教えろ。それで許してやる。」
「…それだけでいいんだな?」
こいつは俺がハナからこの要求をしたかったことに気づいたっぽい。なんせ反省してるやつの返答ではないからな。
まぁわかったうえで条件を飲む姿勢みたいだから、むしろ都合がいい。
「あぁ、今回の件ではあとで他の要求をしたりはしねぇよ。」
「…わかった。案内は明日の昼でいいか?」
「いや、今すぐだ。」
「今?もう店はやってないぞ?」
「場所がわかればいい。何軒あるか知らねぇが、中を見ながら回ったら1日じゃ足んなくなる可能性があるからな。」
「すまないが、俺は今はここを護る仕事中だ。明日にしてくれ。」
「は?よく考えろ。交渉不成立になって一生使い物にならなくなるのと、今から俺を店に案内するせいで今日だけ仕事ができないの。どっちを選ぶ?」
こいつのことは良くも悪くもなんとも思っちゃいないからな。脅してもなんとも思わん。
ちょっと前の俺なら攻撃してきた相手は問答無用で殺してたかもしれないことを考えれば、脅す程度で許してるとか俺も心に余裕ができてきたのかもな。
…いや、なんか違う気もするが、攻撃してきたこいつが悪いんだから変に考えるのはやめよう。
「…。」
「わかったよ。サーシャとヴェルはここに残れ。俺らが戻るまでの間に門番どもが許可しないやつが無理やり通ろうとしたときだけ取り押さえろ。だが、自分の命が最優先だ。いいか?」
「「はい。」」
「これでいいだろ?お前より強い2人が残るんだ。これで文句いうなら今度はここの門そのものを壊すぞ?そしたら護る必要がそもそもなくなるからな。」
なんとなく思いついたことをいったが、そこまでするほどイラついてはいないからやるつもりはない。これはただの脅しだ。
これでダメならこいつを1発殴ってチャラにするか。
これ以上ここにいるのは時間の無駄だ。
「…わかった。少し離れるが一体だけ置いていく。すまない。」
男が俺に返事をした後に門番たちにそういうと、地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、俺と同じくらいの大きさの人形が現れた。
人形は特に指示をされたわけではないのに壁側まで歩いて振り返り、壁に背を向けて腰の剣の柄に右手を当てて静止した。
「じゃあ行こうか。腕がいいというだけであれば俺が知ってるのは8軒だ。ただ、作ってるやつの人格や人形の値段を考慮してないがいいか?」
「あぁ、出来のいい人形さえ手に入ればそのあたりはどうでもいい。」
俺は歩き出した男について町へと入っていった。