214話
214話
空がわずかに明るくなり始めたときに部屋に侵入してきたイーラに起こされ、顔を洗うなどの準備をしてから屋敷を出て、集合場所にしていた村民用の門に着くと、既に全員集まっていた。
今回参加するのはクレハとユリア以外にはアリアとイーラとセリナとテンコとニア、あとはなぜかフレドパーティーの5人とローウィンスとエイシアも一緒にいた。
余計なやつがいすぎじゃねぇか?
「フレドたちとローウィンスたちはどっか出かけるところか?」
「いえ、私たちも一緒に訓練させていただければと思い、こちらでお待ちしておりました。」
そういったローウィンスは動きやすいパンツスタイルの服装の上から要所だけを防げるようになっている革鎧を着て、左腕には手盾付きの小手、腰のベルトには剣とロッドとポーチという訓練する気満々の格好だった。
「僕たちも参加させてはもらえませんか?」
フレドたちもそれぞれが革鎧の防具を着ていて、準備万端といった格好だな。
「いっとくが、クレハとユリアの訓練は約束だから第一優先だ。だからローウィンスに教えてやる時間があるかわからねぇし、フレドたちに関しては俺が教えてやれることなんてもうないと思うぞ?」
「余裕ができましたときに少しでも見ていただけたら幸いですが、お忙しいのは存じておりますので、出来る限り邪魔せぬようエイシアと訓練するつもりです。なので、ご一緒させていただくことを許してはいただけませんか?」
「僕たちもリキ様に教わりたいです!お手伝いでもなんでもするので、少しでも指導してもらえませんか?」
こいつらは俺に期待しすぎだ。
今回は実績のあるアリア式訓練をするつもりだったから俺は飾りのようなものだし、たぶん暇はある。だが、こいつらに教えてやれる自信はねぇ。
「余裕ができても教えるかは俺の気分次第になるが、それでもいいなら勝手についてこい。」
「「「「「「はい!」」」」」」
フレドたちとローウィンスが嬉しそうに返事をした。
なんでそんなに喜ぶのか意味わかんねぇ。ローウィンスに付き合わされるエイシアもかわいそうだな。
「エイシアも大変だな。」
「いえ、私は自分の意思でローウィンス様にお仕えしていますので、全く苦ではありません。それにリキ様の戦う姿には興味がありましたので、むしろ楽しみにしております。」
「今回の訓練で俺は戦う気はねぇし、かりに戦ったとしても楽しませられるとは思わねぇが、嫌々付き合ってるわけじゃねぇなら俺からいうことはなんもねぇわ。」
ここで話して時間を潰すのももったいないから、俺はいいたいだけいって門を出た。
今日は授業のために森の中の一部の木々を取り払って作った広場で訓練をする予定だから、さっさとそこまで移動した。
なかなか広いな。
予定していた広場は俺が通っていた高校の校庭の倍くらいはありそうだ。正式なサイズを知らんが野球のグラウンドを4つくらい作れそうだな。
少なくとも1クラスが戦闘訓練する程度なら十分な広さだろう。いや、魔法があるこの世界じゃ一概に十分とはいえないのか。
でも今日は2人をメインに訓練するから魔法を使っても十分足りるだろ。
「それじゃあアリア任した。」
「「え?」」
「………はい。」
到着早々アリアに丸投げしたらクレハとユリアが驚いた顔で俺を見てきた。2人には訓練してやるようなことをいったから、勘違いしたのかもしれないが、俺が直々に教えてやるとはいってないはずだ。
珍しくアリアも予想してなかったのか、返事にいつも以上の間があった。アリアにしては珍しいな。実績としてフレドたちを上げた時点でアリアなら気づくと思ったんだが、まぁそういうときもあるわな。
「俺の訓練を受けたいのか?受けたいならやってもかまわねぇが、昨日話したBランク冒険者を育てたのはアリアだぞ。俺が訓練したのはアリアたちだけだが、こいつらは才能があったから強くなっただけだと思う。それでも俺のを受けるか?」
「リキ様との訓練は楽しいよ!」
「イーラはちょっとおかしいだけだから、やめといた方がいいと思うよ〜。」
「…強くはなれます。」
「そうにゃんだけどさ〜…あれは今でもトラウマだよ…。2人がどの程度を目指してるのかわからにゃいから好きに選べばいいと思うけど、まずはアリアに教わった方がいいんじゃにゃいかにゃ。アリアの訓練だってべつに優しくにゃいし。」
「何があったんですか?」
俺が2人に確認を取ったら、イーラがすかさずオススメしたのにたいして、セリナが止めに入った。
その後のアリアとセリナの話を聞いたユリアが興味を持ったのか、セリナに質問してきた。
「私はリキ様と出会うまで戦ったことにゃんて一度もにゃかったんだけどね。リキ様の奴隷になったら戦わにゃきゃだからってことで戦闘訓練をしてもらったんだけど、一番最初に受けた攻撃でここにリキ様の右手が食い込んだよ。この中でぐちゃぐちゃと潰れる音がしたし、背中からボキッて鈍い音が響いたから、内臓が潰れたうえに背骨も折れたんじゃにゃいかにゃ?すぐにアリアが治してくれたから本当に潰れたり折れたりしたかはわからにゃいけど…思い出しただけでも吐きそう…。」
セリナがお腹を叩いて殴られた場所を示して話していたんだが、最後にはお腹を押さえて気持ち悪そうな顔になった。
さすがに盛りすぎだろ?
あのときは素手だったからそこまでではなかったと思うが、でも指輪が何か硬いものに当たった記憶は確かにあるな。腹を殴ったのに硬いものに当たるとしたら…背骨しかないのか…。そしたらその間にある内臓が無傷なわけねぇな。…思ってた以上にやらかしてたわけか。すまん。
俺が今さらながら悪いと思っているくらいなんだから、クレハとユリアがドン引きしてるのは仕方がないだろう。
「「アリアさん、お願いします!」」
クレハとユリアが声を揃えてアリアに頭を下げた。
まぁ元からアリアに任せるつもりだったからいいんだが、この2人は素直すぎんだろ。
「…よろしくお願いします。それではまずは2人に聞きたいことがいくつかあるので、端的に答えてください。人間を殺したことはありますか?」
「はい。」
「私はまだありません…。」
クレハはあるらしいが、ユリアはないらしい。そもそもこの質問にはどういう意味があるんだ?普通は人を殺す機会なんてねぇだろ。
「…2人は魔物を殺したことはありますか?」
「「はい。」」
「…そのさいに何か不快感などはありましたか?」
「なかったです。」
「たぶんなかったと思います。」
ユリアは自信なさげだな。
「…ユリアさんが殺した魔物に二足歩行の魔物はいましたか?」
「ゴブリンとかのことですか?それなら殺したことがあります。」
「…わかりました。それなら命を奪う練習は必要なさそうなので、飛ばしたいと思います。それでは2人の使用する武器と防具を確認したいので、ユリアさんはローブを脱いでもらってもいいですか?」
「はい。」
ローブを脱いだユリアは動きやすそうな服の上から革鎧を着ていた。昨日と同じ革鎧だろう。昨日見たのと同じ綺麗な革鎧で、ユリアが持つ雰囲気と合わせると新人冒険者にしか見えない。腰のベルトには剣とやけに短い杖っぽいのがついていて、他にはポーチが右に2つと後ろに少し大きいのが1つの計3つも付けていた。
クレハは額、首、胸、腰といった要所だけを金属っぽい防具で覆っていた。
装備した雰囲気がジャンヌに似てる気がする。腰のベルトにレイピアっぽいのをつけてるし、意図的に似せてるのかもな。他には短剣が左右に1つずつとポーチか。
アリアが2人を見ながら一周し、それだけで何かわかったのか、2人から少し離れた。
「…確認は終わったので、ユリアさんはローブを着てもらって大丈夫です。」
「はい。」
ユリアはすぐにローブを羽織った。ローブを着るといい感じに革鎧が隠れるから、これなら新人ではなく普通の冒険者に見えなくないな。
「…今度は戦い方を見せてもらいたいので、クレハさんから順にイーラと戦ってください。どう頑張ってもイーラを殺すことは2人には出来ないと思うので、遠慮なく攻撃してください。イーラは全て避けてください。反撃はしなくていいです。」
「「はい。」」
「え〜避けるだけじゃつまらないよ〜。」
「…イーラはリキ様の邪魔をしに来たのですか?イーラがやる気がないならセリナさんにお願いします。」
「違うよ!わかったよ!全部避ければいいんでしょ!さぁ、こい!」
イーラがヤケクソ気味にクレハの方を向いて構えた。見た目は完全に素手だ。
「本当にいいんですか?」
クレハが俺を見て確認してきたが、殺す気でやっていいのかって意味だよな?
「殺せるもんなら殺してみろ。いっとくがロリコンですらイーラを殺しきるのは無理だろうから、遠慮はいらねぇぞ。」
「ロリコンとはなんですか?」
「…リキ様がカンツィアさんを呼ぶときの呼び名です。」
アリアの説明を受けたクレハが驚いていた。
どうやらユリアも驚いているみたいだが、2人はロリコンの強さを知ってるんだな。なら驚くのも無理はない。あいつは認めたくないがかなり強いからな。ただ、あいつは強いといっても俺と同じく近接物理攻撃が基本っぽいから、それでイーラを殺しきることはほぼ不可能だろう。あいつのスキルを知らないから正確なところはわからないが、イーラを殺しきるのはたぶん無理だ。
クレハも武器からして近距離物理タイプだろう。だからもし実力をスキルで隠しているんだとして、本気になったら5倍の力が出せるとかがあったとしてもイーラは殺せないだろう。
ユリアは魔法がメインだったとしても、まぁイーラには勝てないだろうな。観察眼で見た感じでも、ちょっと接してみた感じからしても弱そうだし。
「承知しました。それではイーラさん、よろしくお願いいたします。」
「いつでもいいよ〜。」
クレハがイーラに声をかけながらレイピアを抜いて体の前に立てた。
イーラはいつも通り気の抜けた返事をしているが、構えはちゃんととっている。気のせいだと思うが、俺の構えと似てないか?いや、素手の構えなんてみんなだいたい一緒か。
クレハはボソボソと何かを呟いているが、あれは精神統一か?いや、体が淡く光り始めたから魔法っぽいな。身体強化か?
見ただけじゃ魔法の種類はわからねぇし、この距離だと声は聞こえないし、読唇術なんか俺にできるわけがない。だから勝手に身体強化だろうと納得していたら、一瞬クレハの存在が薄くなったように感じた。その瞬間、クレハは左足で地面を強く蹴り、大きく一歩を踏み出しながら右手を前に伸ばし、右足の着地の寸前にイーラの胸を狙って1度目の突き、右足のかかとが着地する瞬間に腕を引き、右足の爪先が地面に触れたときには2度目の突きをイーラの左肩を狙って放ち、そのあとレイピアを持つ右手を引きながら右足を軸にして左足を前に出しつつ、左手で右の腰から短剣を居合い斬りのように引き抜きながらイーラに斬りかかった。
今の俺なら目で追えるが、思ってたよりクレハの動きが速いな。俺に向かってきてたらギリギリ避けられるか、下手したら2度目の突きは掠ってたかもしれねぇな。あれを完璧に避けれるのはうちのやつらだとセリナとアオイくらいだろう。だからまぁ…イーラは全部受けちまったのはしゃーねぇんだが、無傷っていうね。
当てたはずなのに無傷なことに理解の追いつかなかったクレハは咄嗟に距離を取ったようだ。
イーラは最後に斬られた首をさすりながら目を泳がせていた。たぶん避けられなかったことを怒られると思ってるのかもしれないが、今のはしゃあねぇよ。
イーラなりに避けようとしてたのは見てたし、怒るつもりはねぇ。
あれはイーラが全く油断してなくても全部は避けられなかっただろうしな。
「気にするな。ちょうどいい避けの練習だと思って気楽にやれ。」
「はい!」
イーラは怒られなかったことに安堵したのか、次は絶対に避けてやるといわんばかりの元気さで返事をして構え直した。
クレハは俺とイーラが話していた間も目を細めながらイーラを見ていた。
イーラが構え直したのを見てレイピアをしまい、両手に短剣を持って地面に両手をつくほどに低く構えた。まるで臨戦態勢の獣だ。
構えもそうだが、殺す対象を見据えるような冷たい視線になってるし、なんだかクレハの雰囲気がだいぶ変わったな。
またしてもクレハがブツブツと呟いていたと思ったら、また薄くなったような気がしたときにはイーラに向かって低い体勢のまま近づいていた。
もしかしてクレハは存在感みたいなのを操作できるのか?
俺の疑問に答えるようにクレハはイーラの目の前で一瞬だけ存在感が増し、すぐにまた薄くなったから近場でやられたイーラには消えたように見えたんだろう。そのせいで後ろに回れたことにイーラは気づいていないようで、キョロキョロと目を動かしてクレハを探している。
イーラの後ろに回ったクレハは躊躇なく両手の短剣でイーラの首を切ろうとしたが、寸前でイーラが前に飛んだからクレハの短剣が空を切った。
「…もう十分なので、終わりにしてください。」
イーラが振り返って構え直したところでアリアが終わりを告げた。まぁクレハは戦い方が途中で変わりはしたが、スピード重視の戦い方で間違いないだろう。
アリアの終わりの合図を聞いたイーラが構えを解いた瞬間、クレハが動いた。クレハにはアリアの声が聞こえてなかったのか、殺す気満々で短剣を構えて斬りかかった。
キィィィィーンと金属同士が擦れるような音が同時に2種類鳴って綺麗に重なった。
イーラがいたところには短剣を1本だけ抜いて立っているセリナがいて、その足もとには踏みつけられているクレハがいた。
俺は観察眼があるから見えたが、クレハが斬りかかった瞬間にセリナのスキルでイーラと場所を代わったようで、クレハの短剣2本の斬撃をセリナは短剣1本でいなし、足を引っ掛けて転ばせて、うつぶせに倒れたクレハの背中を踏みつけていた。
クレハも速かったが、速さ勝負じゃセリナには勝てねぇよな。
「クレハちゃん。アリアが終わりっていったら終わりだよ。わかった?」
「…取り乱してしまい申し訳ありませんでした。」
地面に伏されたクレハが苦しそうに謝罪した。
それを見て大丈夫そうだと判断したセリナが足をどかし、手を差し伸べてクレハを立たせた。
「ありがとうございます。」
「本当の戦闘だったら死ぬまで相手を殺そうとするのは正しいんだけどね。今は訓練にゃんだから、リキ様やアリアのいうことはちゃんと聞かにゃきゃダメだよ。」
「はい。」
クレハはセリナに説教をされてから、落ち込んだ様子でユリアのもとまで歩いていった。
「ユリア、今の姿で戦ったことはジャンヌさんにはいわないでください。」
「え?でもジャンヌさんに…。」
「お願いします。」
「ん〜…わかったよ。でももう約束破っちゃダメだよ?」
「善処します。」
どうやらさっきの獣みたいな戦い方はジャンヌに禁止されてたみたいで、ユリアに口止めしていた。もったいないな。
口止めが終わると今度はユリアが近づいてきた。
セリナとイーラもいつのまにかもとの位置に戻ってたようだ。
「お願いします。」
「いつでもいいよ〜。」
ペコリと頭を下げたユリアにたいして、イーラはまた気が抜けたような返事をした。
イーラはクレハの攻撃をちゃんと避けれてなかったのに全く緊張した様子がないのはどうなんだ?確かにユリアはクレハより弱いだろうけどさ。
ユリアに視線を移すと、ちょうど腰から剣を抜いて両手で持って構えた。
「力を貸して。」
ユリアが呟くと剣が一瞬だけ淡く光った。
「追い風。」
ユリアが足に力を入れて言葉を発したら、踏み出すのと同時にユリアを押すように風が発生した。その風を利用するようにイーラに一気に走って近づき、剣を振り下ろした。
普通に走るよりは速いんだろうが、それだけだ。そんな攻撃はイーラですら体を横に逸らして難なく避けれた。
「風の刃。」
ユリアがまた言葉を発しながら、剣を振り下ろした勢いを利用して後ろ回し蹴りでイーラを狙うが、イーラは余裕を持って後ろに下がって避けた。だが、イーラが下がったところに向けてイーラの死角から風の刃が迫っていることには気づいていなかったみたいで、背中に刃が直撃し、イーラの服部分が少し揺れた。
イーラは怪我はしなかったが、いきなり後ろから接触されたことに驚いて後ろを振り返ったから、今度はユリアが最初の剣の振り下ろし、そして後ろ回し蹴りと続けて回りながら遠心力を乗せた剣の切り上げをイーラはわき腹にモロに受けて吹っ飛んだ。
「土の棘。」
あれだけモロに攻撃を受けて吹っ飛んだにもかかわらず、イーラには切れ目すら入っていない。
イーラは器用に空中でバランスを取って着地しようとしたみたいだが、今度は着地予定の地面が複数の棘となってイーラを襲った。
イーラは咄嗟に腕をクロスさせて防御姿勢を取り、棘に突っ込んだ。
普通なら串刺しなんだろうが、予想通りというか、イーラと触れた棘の方が砕かれた。よく見るとイーラは腕に鱗をまとっていた。そりゃ土の棘程度じゃ貫けねぇわな。
棘に変化したせいで地面がデコボコになっていたからか、イーラは上手く着地が出来ずに一度転がり、すぐに起き上がって構えた。
ユリアは起き上がったイーラにすかさず剣で切りかかろうと近づいていて、既に振り下ろしていたが、イーラはそれを寸前で躱し、自然な流れで殴り返そうとしていた。
「向かい風!」
咄嗟にユリアが発した言葉に答えるようにイーラとユリアの間で風が発生して、ユリアを後方へと吹っ飛ばした。
ユリアはそのまま数回地面を転がり、勢いがなくなったところで飛び起きて周りを確認し始めた。剣は風に吹っ飛ばされる前に手放していたみたいで、腕を振り切った体勢のイーラの足もとに落ちていた。剣を持ったまま吹っ飛ばされていたらその剣で体を切り刻む結果になっていただろうからいい判断だ。それに自爆覚悟だろうと逃げてなければイーラのカウンターを受けることになっていただろうから、案外状況を判断する能力に長けてるのかもな。もしくは俺の観察眼みたいな目を持ってる可能性もあるか。
「…もう大丈夫です。終わりにしてください。」
「はい。」
「は〜い。」
ユリアはすぐにアリアに返事をし、イーラのところまで剣を取りに行き、腰の鞘にしまった。
ユリアは弱いと思っていたが、案外戦えるんだな。精霊術のおかげで手数が多いし、判断もいい。ただ、イーラが相手だったから、一つ一つの攻撃の威力がどの程度なのかがイマイチわからなかったな。
まぁでも、ジャンヌが訓練に自信を持ってたのも頷ける。2人とも実際に戦うのを見ると思ったよりも強かったというか、年齢から考えたら異常な強さだろう。つってもまだ改善点がけっこうあるっぽいけどな。
イーラは避けろっていわれてたのにあんま出来てなかったな。まぁ怒るほどではないが、セリナと練習させた方がいいかもな。いや、この機会にクレハの相手をさせて覚えさせるのもありか?それよりもまずはユリア相手からがいいかもな。
俺がユリアとイーラの評価を勝手にしている間、アリアは目を細めながら右手を軽く握って口もとに寄せ、何かを考えているのか黙っていた。
しばらくしたら手を下ろし、クレハとユリアを見た。
「…クレハさんはほとんど出来上がっているようなので、技術よりも魔法なしで今の速度を出せるように実戦を重ねるのがいいと思います。相手はセリナさんとアオイさんに手伝ってもらうことにします。」
「補助魔法を使わずに今の速度をですか?」
「…間違えました。魔法を使わずにニータートのベルトと靴を装備した状態で今の速度は超えてもらいたいです。」
「え?…いえ、頑張ります。」
クレハは驚いた後に何かをいいたそうにしたが、やめたみたいだ。
「…ユリアさんは精霊を使った戦い方が上手いと思うので、ユリアさん自身がさらに戦えるようになればそれだけである程度は強くなれるかと思います。なのでまずは精霊を使わずともイーラに傷をつけられるようになってもらいたいと思います。」
「はい!頑張ります!」
ユリアは精霊術の使い方を褒められたからか、無駄に元気に答えた。魔法を使わずにイーラに傷を与えることがどれだけ難しいかを知らないからこその元気だろう。
この訓練が終わるまで、その元気さが続いてればいいけどな。
「…イーラは約束を破って反撃したので、しばらくはユリアさんの相手をしてもらいます。」
「…は〜い。」
イーラは口を尖らせて嫌そうに返事をしたが、失敗を認めているからか逆らうつもりはないみたいだ。ただ単にアリアに逆らえないだけかもしれないけどな。
それぞれがやることが決まったら、今度はアリアが指示して移動を始めた。俺は邪魔にならないように端の方に歩いて向かい、訓練風景を眺めることにした。
…うん、わかっていたことだが、アリアに任せたら俺はいらねぇな。