220話
220話
翌朝、正直俺が行く必要があるのか疑問でならない朝の訓練に向かうため、門で待ち合わせしてから外に出た。
今日もローウィンスとフレドたちは参加するみたいで、門のところにいやがった。まぁこいつらは邪魔しないし、秘密を知られても問題ないからいいんだけどさ。
「おはようございます!」
門を出た瞬間に声をかけられ、声の方を見ると見たことあるような女が立っていた。
年齢は14、5歳ってところか?
水色に近い青の短髪で、目も透き通ったように青い。あまり外見を気にしてないのか髪はところどころはねているが、それが要所を護るようにつけた革鎧という冒険者らしい格好と合わせると似合っている。
腰のベルトにはガントレットと短剣、中身はわからないがポーチがついていた。
あぁ、思い出した。
確かカミエルとかいう名前の俺を尊敬してるとか意味わかんねぇことをいってた女か。
村で売ってた、トップにうちの教会マークがついてるネックレスまでしてやがるし、頭のおかしさに拍車がかかってるみたいだ。
「あぁ、おはよう。というか、なんでカミエルがここにいるんだ?」
「僕のこと覚えててくれたんですか!?嬉しい…。あ!ごめんなさい!実は昨日ドラくんからカンノさんと戦闘訓練をしたって話を聞いたので、ここで待っていたら僕、わ、私も参加させてもらえるかなと思って待っていました。」
ドラの名前が出たからドラを見てみたら、フレドの陰に隠れやがった。
隠れたってことはなにか余計なことをしたってことだよな?
「カミエルさんは僕たちの先輩なんです。冒険者の仕事を始めたばかりの頃にすごくお世話になって、今でも仲良くしてもらってます。それで、昨日カミエルさんに会ったときにドラが自慢して、そのとき僕もいましたが、カミエルさんなら問題ないと思って止めませんでした。なので、僕にも責任があるので、ドラだけを怒らないでください!お願いします!」
べつに怒ってたわけではねぇが、なぜかフレドが頭を下げてきた。それを見たドラもフレドの陰から出てきて頭を下げてきたからか、思いのほか大事になってしまったと焦るようにカミエルがわたわたとし始めた。
「あ、あの、秘密だったのならごめんなさい!すぐに帰るので、ドラくんのことはあまり怒らないであげてください!ぼ、わ、私が勝手に来てしまっただけなので、ごめんなさい!」
なんだこれ?
俺はカミエルがここにいる理由を聞いただけなのに、なんかこいつらは勝手に勘違いして慌て始めやがった。
「べつに怒ってねぇよ。フレドが平気だと判断するってことは仲間みたいな相手ってことだろ。それならべつに話しても大丈夫だろ。カミエルもフレドたちの面倒を見てくれてたみたいだし、見学くらいならしてもいいんじゃねぇか?だが、他のやつに情報を流すようなことをしたら敵と判断するがな。」
「そんなことしません!わ、私はカンノさんと一度手合わせしてみたいと思っているだけです!それ以上でも以下でもないです!秘密にしろといわれたら、拷問されても吐かない自信があります!」
「そうか。だが、手合わせする気はねぇぞ。」
「なんでですか!?わ、私が女だからですか!?」
カミエルはグイグイくるなと思ってたら、いきなり絶望したような表情になった。
俺と手合わせ出来ないくらいでそんな顔すんなよ。
「性別は関係ねぇよ。女だろうと関係なく俺は殴るからな。ただ、面倒なだけだ。」
「そ、そういうことですか…無理強いはしたくないので諦めます……。でも、見学してもいいなら、見学したいです。」
案外すんなり引いたな。
というか、さっき俺から見学くらいならっていっちまったが、アリアがどんな訓練するつもりかわからないってのに、勝手に決めたらまずかったか?
今更だが確認しようとアリアを見ると、言葉を発する前に頷かれた。
今日は見られて困るような訓練はしないってことか。つまりは昨日と同じような訓練ってことだよな。やっぱり俺がいる意味なくね?
「まぁ今日だけならかまわないが、見てて面白いもんじゃねぇよ?あと、さっきもいったが、どんなに普通な訓練内容だったとしても他の誰かに話したらわかってるな?」
「はい!誰にもいいませんからお願いします!見るだけでも絶対学べることがありますから!」
なんか眩しいやつだな。
毎日来られたら鬱陶しそうだから、最初から今日だけならと限定したが、既にちょっと鬱陶しい。まぁフレドたちの知り合いならフレドたちが相手するだろうし、悪いやつではなさそうだから、今日一日くらいは我慢するか。
「なら好きにしろ。」
「はい!」
昨日のメンバーにカミエルが加わり、揃って昨日の訓練場所へと向かうことになった。
やっぱりというべきか、暇だ。
しばらくはユリアとクレハの訓練風景を眺めたり、ローウィンスの訓練風景を眺めたりとしていたが、飽きた。
周りを見ると、ニアもフレドたちもクレハの訓練を真剣に観察してるみたいだ。
そんな真剣に見るほどの訓練内容でもないと思うんだがな。クレハの訓練に視線を戻してみるが、今日もセリナの攻撃を避けるので精一杯で反撃に移るどころか、回避の姿勢すら綺麗とはいい難い。
まぁ1日でいきなり上手くなるわけないのはわかってるが、このペースで間に合うのか?確か10日間とかいう話だった気がするが。
ん?いや、よく見たら昨日と全く同じじゃねぇな。クレハがセリナの攻撃を受け流すのが昨日よりわずかにマシになってるってのもあるが、セリナの攻撃速度が昨日より少し速い。
昨日はそんなにゆっくりで回避の練習になんのかと思っていたが、今日は少し遅い程度だ。まぁセリナの本来の速度からしたら昨日も今日もだいぶ遅いし、そもそも俺の勘違いな可能性もあるけどな。
チラリとユリアの訓練を見たが…うん、もうちょい頑張れ。
ふと視線を感じて横を見たら、カミエルが俺を見ていた。
「どうした?」
「い、いえ!あの、カンノさんは参加しないんですか?」
「俺は気が向いたときしか参加しねぇよ。」
本当は今日は来ないで精霊樹の森とやらにでも行ってこようと思ってたくらいだ。どうせ俺がここにいる意味はないだろうってことは昨日のうちからわかってたからな。
ただ、イーラもセリナもユリアたちの訓練に使われてるから、この時間に移動はできない。だから、暇で参加したけど、参加したのに暇だ。
ならフレドたちとまた戦闘訓練すりゃいいと思われるかもしれねぇが、なんかそんな気分じゃねぇんだよな。
精霊樹の森にいつ行くかも考えなきゃならねぇし…でも、テンコの能力での強化練習もしたいから、俺も戦闘訓練に加わるべきなんだろうが、フレドたちと戦うと疲れるから、朝一からはやりたくねぇんだよな。
肉体的な疲れならいいんだが、複数相手だと考えて戦わなきゃだから頭が疲れるし、武器を持ってる相手だと下手にダメージを負えば死ぬって思うと変に疲れるから、朝からは地味にキツい。
相手が魔物ならだいたいのやつが動きが単純だし、経験値になるってわかってるから苦ではないんだがな。
まぁなんだかんだとそれっぽい言い訳を自分にしてるが、正直いえばガキどもに負けるわけにはいかないってプレッシャーが一番疲れるから嫌なんだがな。
もともと喧嘩が好きな俺にとって戦うことが楽しくないはずがない。命がけの訓練は嫌だが、強いやつと手合わせするのは楽しいと思う。ただ、アリアたちやガキどもの前だと余計なことを考えちまうから、純粋に楽しめない気がしてやる気が起きないんだよな。
久しぶりに素手で本気の殴り合いがしてぇな。それなら怪我はするだろうが死ぬ心配はあまりねぇから、俺も何も考えずに楽しめるだろうし。
まぁこの世界で素手で戦うやつはほとんど見たことねぇし、前に見たやつは龍にすら素手で挑むくらいのやつだったから、ステゴロでも死ぬ可能性はあるんだがな…。
「そうなんですか…。」
どうやらカミエルは俺が戦うのを期待してたみたいだな。あからさまに落ち込んでやがる。
「リキ様はめったに戦わないよ!だから僕たちとやろうよ!」
空気を読んだのか、ドラが落ち込んでるカミエルを誘ったが、カミエルは少し困った顔をした。
「ドラくんってメインが槍だからなぁ。ちょっと身代わりの加護なしでやるのは怖いかな。」
カミエルは遠回しにドラの誘いを断った。
俺と戦闘訓練をやりたがったわりには戦闘狂ってわけではないんだな。
というか、ドラとやるのは怖いのに俺と戦いたがるってのは俺の方がドラより弱いと思ってるのか?
たしかにドラはその歳であれだけ戦えたら十分強いとは思う。だが、俺はドラと一対一なら10回やって10回とも勝つ自信があるぞ。
戦いを拒否っといてなんだが、さすがに気にいらねぇな。
俺はアイテムボックスから以前宝石屋で買って使わずに放置していた身代わりの加護付きブレスレットを取り出し、カミエルに放り投げた。
カミエルは急に投げられたせいで慌ててキャッチした後、手にしたブレスレットを見てから首を傾げて俺を見た。
「それは身代わりの加護付きのブレスレットだ。それをやるからドラと戦ってみろよ。」
どの程度の実力なのか見させてもらおうじゃねぇか。
「え?…消費してしまうかもしれないのに借りれません!あとで請求されても払えませんし…。」
「それはやるから消費してもかまわねぇよ。だからドラと戦ってみろ。こいつは歳のわりに強いから、いい練習になるんじゃねぇか。」
「ドラくんが強いのは知ってます。もうランクも追いつかれちゃいましたし…。それに私は槍使い相手は苦手なので、いい勉強になるのもわかってるんですが、本当にもらっていいんですか?」
「あぁ、だから本気で戦えばいい。ドラも手を抜くなよ。」
「はい!」
「あ、ありがとうございます。」
ドラが元気よく返事をして槍を構え、カミエルが俺に頭を下げてきた。
「待て、ここだと邪魔になるからあっちに行くぞ。」
「「はい。」」
ドラとカミエルが返事をし、俺とともに移動を始めると、テンコはもちろんさっきまでクレハを見ていたはずのニアやフレドたちまでついてきた。
フレドは途中からクレハよりも俺らのやり取りを見てたからわからなくないが、他のやつらはしれっとついてきたな。まぁいいけど。
昨日と同じとこまで移動してから、ドラとカミエルは少し距離を開けてそれぞれが構えた。
ドラは槍で戦うつもりみたいだな。左手を前に出し、槍を持った右手側を後ろに下げ、半身で構えている。
右手で槍の真ん中あたりを持ち、穂を下に向け、肘と脇腹で柄を挟むように固定している。
俺は槍の正しい使い方なんて知らんけど、槍は両手で使うものなイメージがあった。サラも基本は両手で使ってるしな。だが、ドラは片手で槍を使うつもりみたいだ。
前にオークと戦ってたときはドラも両手持ちだった気がするが、今の片手の構えもなんかそれっぽく見える気がするから大丈夫そうだな。
対するカミエルは………俺と同じガントレットスタイルだと!?
腰の短剣は使うつもりがないのか、カミエルはガントレットだけを装備して既に構えている。
カミエルの構えはさすがに俺みたいに喧嘩で身についたような構えではなさそうだ。
右足を引いた半身の構えで、右手は軽く握って拳を作り、肘を曲げて腰に当て、左手は少し開いた状態で前に出している。
踵は少し浮いているようだが、全くブレることなく、その空間だけ時間が止まっているかのような錯覚を覚えた。
構えを見た感じ的に俺が思ってるよりももしかしたらカミエルは強いのかもしれないと思っていたら、カミエルの全身を淡い光の膜のような何かが包み込むように覆った。なにかのスキルか?
それ以上の変化はなさそうかなと思っていたら、ドラがチラチラと俺を見てきた。たぶん準備が整ったから合図をしてくれってことだろうな。
カミエルは微動だにせず、こちらを見もしないから準備が整ってるのかの確認を取れてないが、まぁいいか。
「始め。」
俺の合図の直後、ドラが飛びかかるように間合いを詰め、体をひねりながら槍を回し、石突でカミエルを狙った。
だが、カミエルが構えはそのままにいつのまにかドラの間合いの外まで距離を取っていたらしく、石突がカミエルの手前で空振った。
カミエルは目の前を石突が通り過ぎるのと同時にドラの懐に入ろうと距離を詰めようとしたみたいだが、ドラが左手で槍の回転を加速させて穂で斬りつけようとしてることに気づいて間合いを詰めるのをやめたようだ。
ドラもカミエルが近づいてこないことに気づき、槍の回転を止めて穂を前に構え、そのまま突きを繰り出した。
けっこう速い突きではあったがカミエルが前に出している左手に軌道をズラされ、カミエルの顔の横をスレスレで通り過ぎた。
ドラはすぐに槍を引き戻そうとしたが、その時には既にカミエルがドラの懐に入っていて、間合いを詰めたときの勢いと腰のひねりをフルに使った右拳をドラの鳩尾にめり込ませていた。
めり込ませたのは一瞬で、カミエルはすぐに拳を引き戻し、もとの構えになっていた。
俺みたいに力の限り殴りつけるのとは違って、カミエルのパンチは“技”って感じだな。
カミエルはもう終わりと判断したのか、体をドラに向けて足を肩幅に開き、両手を握って拳を作り、両腕を下げながら外に広げて深く息を吐いた。
それに応えるようにドラが膝から崩れ落ちた。
槍使いと戦うのは苦手とかいってたが、圧勝じゃねぇか。
ドラもそこまで雑魚なわけではないはずなんたがな。
「どうやらまだ僕は先輩の威厳を保てそうだね。」
「おえっ。」
鳩尾を殴られたのだから仕方がないとは思うが、ドラがうつ伏せに倒れた状態で吐きやがった。
そのせいで若干ドヤ顔だったカミエルがオロオロし始めた。
『ハイヒール』
吐いたってことは心臓が破裂したとかではないだろうから、ハイヒールを使ってみた。
ハイヒールでダメならアリアを呼ぶしかないかと思ったが、ドラがゆっくりと起き上がり始めたから大丈夫そうだな。
ドラはアイテムボックスから水を取り出し、それで軽くうがいをしてから吐き捨てた。
『フレアバウンド』
ドラが魔法を使うのは初めてみた気がするが、自分の嘔吐物を魔法で燃やしながら口を開いた。
「…もう勝てると思ったのに。」
「ドラくんは攻撃がわかりやすすぎるんだよ。素直なのはいいことだけど、相手の先を読んでフェイントとかも使わないといつまでも僕には勝てないよ。」
なんかちゃんと先輩後輩やってんだな。
というか、カミエルの評価は改めるべきだろう。こいつは純粋に強い。本気で勝負すれば俺が勝つだろうが、殴り合いを楽しめそうなくらいには強そうだ。
そんなことを思った瞬間、目の前のカミエルがブルっと震えた。
「どうしたの?」
「なんか急に寒気がしたんだけど…気のせいかな?」
ドラとカミエルの会話はまだ続いているが、カミエルはキョロキョロと周りを確認し始め、俺と目が合うとまた肩をビクッと跳ねさせて顔を引きつらせた。
人の顔を見てその反応は失礼だろ。
まぁいい。
「カミエルは俺と戦闘訓練がしたいんだったな?」
「っ!?は、はい!」
「なら素手での殴り合いなら付き合ってやるよ。スキルもガントレットもなしの完全な素手での戦闘だ。さっきの戦闘スタイルを見るにその条件で問題ないだろ?」
「はい!お願いします!」
カミエルが笑顔に戻り、勢いよく頭を下げてきた。
久しぶりのステゴロ。楽しみじゃねぇか。