229話
229話
「さ〜て、やって参りました精霊樹の森!精霊が喜ぶという噂の森ですが、テンコさんは何か感じることはありますか?」
セリナは1人だけしっかり寝ていたからか無駄に元気だ。
テヘペロで許されようとふざけてやがったから、悪いと思うなら精霊樹の森の探索で役に立てといったらこの有様だ。
フォーリンミリヤの武闘大会の司会を真似てんのか?
テンコはこのテンションについていけないのか、もしくはただただまだ何も感じないだけなのか、首を傾げている。
「も〜。みんにゃ元気にゃいにゃ〜。」
「俺らは寝てねぇからな。」
「にゃはははは…。でも!イーラとテンコは寝る必要にゃいじゃん!もっと元気出そうよ!」
「イーラは元気だよ?」
「テンコも、元気。」
「何が出てくるかわかんねぇんだから、デカい声出すなよ。もっと慎重に進め。」
「ごめんにゃさ〜い。でもリキ様に慎重にっていわれても…。」
「なんだよ?」
「にゃんでもにゃ〜い。」
1人だけ異常にテンションが高いセリナを先頭に俺たちは精霊樹の森を歩いていた。
訓練が終わって昼飯を食い、ガルナからメンテナンスを終えた装備類を預かってすぐに『超級魔法:扉』で来たからまだ太陽はほぼ真上にあるはずなんだが、巨大な木々が密集しすぎていて光があまり入ってこない。そのせいか少しジメジメと空気が湿っていて、土から剥き出しになっている木の根とかには苔が生えている。
こんな場所でも雑草はたくましく生い茂っている。その草たちが地面の水分を吸い上げてくれているからか、そこまでぬかるんではいなくて、いきなり戦闘になっても問題はなさそうだ。ただ、苔むしているところは滑るだろうから、動きには気をつけないと足をすくわれることになりそうではあるがな。
光はあまり届いてこないが、全く照らされないというわけではない。
木々の隙間から差し込んでいる光が葉に溜まった水滴や幹や根に生えた苔を輝かせ、なかなか幻想的な空間を作り出している。
ほとんどが影となっているから、なおのこと光が当たる部分が一枚の絵画のように人を惹きつける風景となっているのかもな。
芸術的なことは俺には全くわからんが、そんな俺でも数秒見惚れてしまうくらいには綺麗な景色だった。
まさにファンタジーといった雰囲気だが、このくらいなら地球にも探せばあったかもしれない。ただ、地球に同じような場所があったら虫だらけで気持ち悪さが上回りそうなイメージだけど。
この世界は虫系の人間サイズの魔物はいても小さな虫は見たことないから、こういう場所でもすんなりと自然の綺麗さを受け止められるんだろうな。
べつに虫はそこまで苦手なわけじゃねぇけど、毒虫がウジャウジャといるのは普通に気持ち悪いと思う。
まぁ気持ち悪いっつっても靴で踏み潰せる程度の気持ち悪さだが。
だからセリナがテンション上がる気持ちもわからなくはないが、今回はテンコのために来たような感じなのにテンコはいつも通りだ。
イーラも自然の綺麗さには特に思うところはなさそうだしな。
足もとに気をつけながら、周りを眺めつつセリナが先に歩いた道を進んでいたら、セリナが立ち止まって振り向いた。
「そういえば、アリアは来れなかったの?」
「あぁ、最近忙しいみたいだから、俺の都合で付き合わせるのは悪いと思って誘わなかったな。」
「え?」
「ん?」
セリナが驚いた顔で固まったから、俺も立ち止まった。
「いや!リキ様はにゃにもわかってにゃい!」
「急になんだよ。」
「たしかにアリアは忙しいよ。でも、誘ってあげて!誘って断られたなら本当に譲れない用事があるのかもしれないけど、誘わないのは可哀想だよ!」
そういうもんなのか?
俺が誘ったら立場上断りづらくなるだろうから、思いつきで始めたようなことに誘うのも悪いかなって思ったんだけどな。
まぁでも魔物が出るかもしれないところにアリアを誘わないのは失敗したかもな。
今日で探索終わらなそうなら、明日は誘ってみるか。
「明日も来るようなら誘ってみるよ。」
「もっとリキ様からアリアに………いや、これ以上は私がいうとアリアに余計にゃお世話だって怒られちゃうね。でも、思ったことはちゃんと伝えた方がいいと思うよ。」
「思ったこと?」
「セリナ、愛してるよ。とかね!」
いいこといってるような雰囲気だったのに台無しだな。
まぁたぶん感謝の気持ちは言葉にして伝えろってことだよな。
それなりに伝えてるつもりだったんだが、伝わってなかったか。まぁたしかにアリアの頑張りに比べたら俺の感謝の言葉は少なすぎるよな。
帰ったらその辺の話もちょっとしてみるか。
アリアなら伝わってるだろうなんてただの甘えだしな。
「え?無視!?」
俺が返事をせずに歩き始めたらセリナが驚いた顔で見てきた。
べつに無視しようとしたんじゃなくて、歩きながら話せばいいかと思っただけなんだが。
「べつに愛しちゃいねぇが、そういうことをハッキリと教えてくれることには感謝してるよ。ありがとな。」
「え?」
「それに仲間としては信頼してるし、調子に乗ってないときのセリナはけっこう好きだぞ。」
「イーラは?」
隣を歩くイーラが腕に抱きついてきて、見上げるように確認してきた。
「もちろん好きだぞ。ただ、イーラはもっと外にも興味を向けてほしいとは思うが。」
「んふふ〜。」
イーラは顔を腕に押し付けてきた。これは後半を聞いてねぇな。
俺や仲間以外に興味がなさすぎるのはちょっと危ういと思うが、魔族が人間に興味を持てないのは仕方がないのか?でも仲間とは仲良くなってきてるし、時間をかければ不可能じゃないはずだし、気長に待つしかねぇか。
「テンコは?」
イーラと逆隣をふよふよと浮きながら進んでいたテンコが首を傾げながら聞いてきた。
「好きだぞ。今回だってテンコへのお礼みたいなもんだしな。」
「テンコも、リキ様、好き。」
「そうか、ありがとな。」
テンコのモフモフな頭を撫でると、テンコは気持ちよさそうに首を捩った。
べつに俺はケモナーじゃないが、モフモフはいいよな。普段なら触るだけでちょっと癒される。ただ、今はガントレットをしてるから柔らかさを感じられないんだがな。
歩きながらイーラやテンコと話していたら、セリナに追いついちまった。
こいつは自分から聞いといてストレートに返されて照れてんのか?顔が少し赤いし、俺が見たらちょっと顔を逸らした。
セリナらしくねぇな。
まぁ好意をハッキリと伝えるのは俺らしくねぇだろうから、反応に困るのもわからなくはねぇけどな。でも、いつも通りで伝らねぇなら、たまにはハッキリいってやるべきだろ。もちろん毎回いうつもりはねぇが。
「照れるくらいならそんなこと聞くなよ。」
「照れてにゃいし!嬉しかっただけだし!」
「そうかい。まぁいいから早く進んでくれ。セリナは朝練サボって寝てた分働け。」
「は〜い。」
なんか文句をいってくるかと思ったら素直に従って俺らより少し前を進んでいった。
口もとがにやけてたから嬉しかったってのは本当かもな。
アリアにもこんな感じでいってやればいいってことか。
「リキ様!魔物が近づいてくる!」
俺らより少し先を歩いていたセリナが戦闘体勢をとって声をかけてきた。
周りを見るが俺が知覚できる範囲にはまだ何もいない。といっても木々が邪魔で遠くは見えねぇってだけなんだけどな。
スキルの『気配察知』を使って確認しても何も引っかからない。
俺は立ち止まり、意識をスキルに集中して遠くまで感じようと感覚を研ぎ澄ませていくと、けっこう遠くから何かが近づいてくるのがわかった。
セリナはこの距離を話しながら歩いて感知できるのかよ。凄えな。
数は2体。
なかなかのスピードで向かってくるな。
数秒後に姿を表したのは狼っぽい魔物だ。
そして姿を現して3秒後には首と胴体がサヨナラしていた。
「あんにゃ遠くからこっちに気づいたから強いのかと思ったら、雑魚だったね。」
セリナは全く血が付いていない短剣を二本とも鞘にしまって、魔物の死骸はそのままにして先に進んでいった。
イーラは自分の役目を理解しているみたいで、魔物たちの方にテケテケと走っていって、捕食してから戻ってきた。
ユリアが強くないと難しいみたいなことをいってたからイーラとセリナを連れてきたけど、過剰戦力だったな。これなら訓練がてらに俺とテンコだけで来ても良かった気がする。
まぁそれだとテンコが満喫する余裕がないだろうから、楽に進める分にはいいかと考え直し、俺はセリナの10メートルほど後ろを歩いてついていった。