241話
241話
いい運動したあとの飯は美味いな。
地下52階の探索途中でクレハとユリアが走れるくらいには体力が回復したらしく、セリナも魔物討伐に参戦してきた。
もしかしたらとは思っていたが、本当にこの短時間でこの魔物の討伐方法がわかったらしい。
さすがに通り抜けざまに殺せるほど完璧に核の場所がわかるわけではないみたいだが、だいたいの場所がわかるらしく、魔物の体の一部を滅多斬りにして倒してた。
本当に短い間の優越感だったよ。
まぁ、大量の魔物を倒してスッキリしてるから、べつにいいんだけどさ。
今はまだ地下53階には下りず、階段のある小部屋で遅めの朝飯を食べている。
飯の前、クレハとユリアからさっき飛び出したことについては真っ先に謝られたから、グチグチいう気もなかったし、誰も怪我してないから許した。
一応理由を聞いたら、疲れてて咄嗟に反応出来なかったらしい。
この中で1番幼いアリアですら疲れてないのになんでそんなに疲れてんの?と思ったが、どうやらこいつらはニータートの素材を使った装備、ようは重りをつけて走ってるから余計に疲れるみたいだ。
そういや訓練初日にアリアがなんか渡して説明してたな。
さっき2人を抱えたときに予想以上に重く感じたのはそのせいみたいだ。
「強いパーティーのダンジョン探索ってこんなに大変なんですね。私はジャンヌさんや幹部の方々とパーティーを組むことがほとんどなかったので知らなかったです。」
甘辛タレに絡められた何かの肉とレタスだと思われる野菜が挟まったサンドイッチにかじりついたところで、ユリアが感心したような声色で呟いた。
独り言ではなさそうだが、俺にいってんのか?
だとしたら、俺は他のやつらがどんな探索してんのかなんて知らねぇぞ。
「ウチには危険や気配を広範囲で察知出来るセリナと回復や支援に特化してるアリアという、優秀な仲間がいるから出来てるだけだ。他のパーティーに同じようなことが出来るやつが揃ってるなんてそうそうねぇだろうから、走りながら攻略はしないかもな。」
「イーラは〜?」
「イーラには素材処理や移動で助けられてるよ。」
イーラは名前をあげなかったせいでちょっと拗ねた感じですり寄ってきたのに、かるく感謝しただけで、簡単に上機嫌になりやがった。
「さすがにリキ様でもこれが普通じゃにゃいってことはわかってるんだね〜。」
「俺はレベル上げのために時間をかけるのが嫌だからやってるだけで、危ないことをするつもりはねぇからな。」
「今日のダンジョン探索は危なくないのですか?いえ、見ていて問題ないのはわかっているのですが、ダンジョンでは何が起こるかわからない部分も多いと思うので…。」
セリナが若干失礼なことをいってきたから答えたら、クレハが会話に入ってきた。
「今日は全く危なくないだろ。セリナの知覚範囲にヤバいやつが入ったら逃げることも出来るし、まだイーラもアリアも参戦してないんだから余裕もある。ステータスアップの魔法はアリアがかけてくれているが、スキルは一部しかまだ使ってないから急に多少強いやつが出てきても対処できる。もしいきなり勝てない敵が現れたとしたら、それは慎重に進めてても結果は変わらないだろうから、気にするだけ無駄だ。」
「確かにまだカンノさんとセリナさんしか戦っていませんでしたね…。それに一度に12階も下りてきたのに息も切れていませんでしたし、余計なことをいってしまい、申し訳ありません。」
「気にするな。むしろ気になったことは聞けるうちに聞いておいた方がいいと思うぞ。今回は敵も弱いし、レベル上げのためだけのダンジョン探索だから速度重視で進めているが、前にセリナがいないときに行ったダンジョンでは最短距離で進んだのに1日かけて30階ちょっとしか進まなかったし、アリアがいないときにはちょっと魔物が強いと思ったところで探索をやめたこともある。だから勘違いしないようにいっておくが、毎回このペースなわけではなくて、メンバーが揃っているときに限りだ。死にたくなければ無理はするな。」
「…はい。」
クレハは何かをいいたそうな顔をしたが、それらを飲み込むように返事をした。
聞きたいことは聞けっていったそばから聞かないのかよ。まぁいいけど。
「ダンジョンって1日でそんなに進めるんですね。」
「ユリア、ちょっと。」
ユリアが感心したように呟いたところで、クレハに引っ張られて俺らからちょっと離れた。
急に2人が距離をとったからどうしたのかと訝しんでいたら、アリアたちまで黙ってしまい、静かになった。
クレハとユリアは離れたといっても安全エリアはそこまで広くないから、静かになると2人の小声が普通に聞こえる。
「カンノさんのパーティーを“強いパーティーの普通”と捉えてはいけません。私は何度かジャンヌさんと幹部の方々のパーティーに混ぜていただき、ダンジョン探索をしたことがありますが、1日に進めるのは調子がいいときで15階程度でしたし、そもそも丸一日ダンジョンに居続けるということ自体が普通ではありません。ただ階層更新するだけでも疲労するのにわざわざマップを全部埋めるのも異常ですし、全階層で魔物を全滅させて進むのも頭おか…普通ではありません。私のもとのレベルを知っているユリアならわかると思いますが、数年かけて『戦士』70レベルです。ジョブチェンジを3回してはいますが、数年でこのレベルです。“乙女の集い”に所属して、最近は幹部の方々のパーティーに混ぜてもらえることがあるにもかかわらず。ですが、それが普通なんです。むしろ他のグループに所属するよりは早い成長といえるかもしれません。それを午前中に100レベルにすると平気でいっている方々のパーティーが普通なわけがないと考えなくてもわかるはずです。最初は見栄を張っているのかとも思いましたが、既に私のレベルが87まで上がっているので、疑いようがありません。何もしていないパーティーメンバーのレベルがここまで上がるなんて普通なわけがない。きっとジャンヌさんたちなら無理すれば同じことは出来るとは思いますが、それだけ危険が伴うのでやらないでしょう。だからこれが危険でもなんでもないといいきれるのは異常です。」
「う、うん。そうだね…。なんかごめんね?」
「わかればいいんです。これを普通と思われたら、今度ジャンヌさんとパーティーを組んでダンジョンに行くことがあったときにユリアは余計なことをいってしまいそうですから。」
「いわないよ!それに私はジャンヌさんとパーティーを組んでダンジョンに行くことなんてないから大丈夫だよ。」
「いわなくても顔に出すじゃないですか。あと、この訓練を乗り越えたら、ジャンヌさんとパーティーを組むことになる可能性は大きく上がると思います。この異常が普通と思えるくらいになれれば、たぶんどのパーティーでも通用すると思いますから。」
「そうなのかな?」
「もちろんこの訓練後も努力は必要ですけど、せっかくジャンヌさんと遠征しているのですから、強くなった姿を見せて、認めてもらえばいいんです。」
「そうだよね!まだカンノさんたちについていくことすら出来なくて悲しかったけど、やる気出てきた!」
「…私もついていけなかったので、一緒に頑張りましょう。」
なんかボロクソいわれてんなと思って口を挟もうと思ったが、2人の話が切り替わったせいでタイミングを見失った。
まぁ他人の評価なんて今さら気にしても無駄か。
俺は気にしないが、アリアたちはどうなんだろうと見てみたら、3人ともどことなく嬉しそうにしている。
褒められてないからな?
イーラが勘違いするのはわかるし、セリナもたまに馬鹿っぽいところがあるからわからなくはないが、アリアが勘違いするとは思えないし、俺がなんか聞き間違えたのか?
そんなことを考えていたら、2人は話を終えたようで戻ってきた。
まぁいいか。とっとと飯食って、レベル上げ再開だな。
あと13レベルなら魔物の量次第では地下55階くらいでカンストするだろうし、昼過ぎくらいには終わんだろ。